20:助っ人参上?
誤字脱字報告ありがとうございます。
「やっぱり見張られてました」
「嫌ねぇ、見守ってるって言って欲しいわ」
そう言って笑う神原さんですが、その目は今回は笑っていません。
何を考えているのか、それは判りませんが、これはひよりちゃんピンチです? などと馬鹿な事を考えています。
「そこの病室で、ひよりさんは何をしてたのかな?」
「う~ん、お昼に美月ちゃんが泣いてたから、気になって見に来たんです。もしかしたら寂しくて泣いてたら嫌だなって思って」
無邪気な感じを装った私の返答に、探るような視線が向けられます。
「治癒ってどこまで出来るの?」
どうやら遠回しの探りは諦めたみたいですね。お母さんとの会話で、すでに治癒の言葉は聞かれています。いつか聞かれるとは思っていました。
「え? ちゆですか? ちゆって何ですか? 血のお湯、何か怖いですね」
ちょっと惚けてみる。そうやすやす手札を見せたりしませんし、こちらは小学校3年生ですよ。幼さがまだ武器になる年齢だと思います。
「く、惚けないで欲しいわ。そこの川島美月ちゃんの明日の診察で、どの道わかるのよ」
「神原さん、何か余裕が無いですね。何かありました?」
朝に会った時にはもっと余裕綽綽の感じだったと思うのに、そんな印象が一気に崩れています。
「何も無いわ! そんな事より」
「神原さん、駄目ですよ? 子供にそんな詰問口調なんて、大人のする事ではありませんね」
「あ、神主さんだ」
神原さんの後ろから、以前に見た神社の神主さんが現れた。うん、びっくりです。
「伊藤ひよりさん、お久しぶりですね」
そう言って、神主さんは、以前に見たようにウインクをする。
「何で私の名前を知ってるの?」
「おや、お祓いの時には名前も住所も要るんだよ。祝詞の中で、どちらも唱えたけど判ってなかったかな?」
神主さんに言われて、そういえばそうだったと思い出した。何処何処に住まう何々みたいな言葉があったね、そう言えば。
「でも、何でここにいるの?」
「う~~ん、簡単に言うと、お母さんにご連絡を頂いたからかな? 今度ご相談したいとね。それで、多分早い方が良いかと思ってね。案の定だったかな」
そう言って神原さんに視線を向ける。すると、神原さんはちょっと顔を赤らめて、あれは照れてるんじゃなくて怒りかな? 神主さんを睨みつける。
「おや、怖い顔をして、ほら、ひよりさんが怖がっているよ?」
「榊さん、これは越権行為ですよ?」
ふむ、どうやら二人は仲が良くないみたいだね。私がそんな事を思いながら神主さんを見ると、神主さんは私を見て苦笑を浮かべる。
「ひよりさん、どうもおじさんは若い女性に嫌われることが多くてね、何でかなあ、妻はハンサムだって言ってくれるんだが」
「おお、妻帯されていたんですね」
「うんうん、まだ新婚7年目だよ」
7年ですか、それは新婚と言うのでしょうか?
私が首を傾げていると、神原さんがそれはもう顔を真っ赤にしています。
「いい加減にしてください。今回は伊勢が担当します、榊さんの出番はありません!」
「あちゃ、そう怒らなくても良いじゃないですか、でも伊勢の担当と言っても、まだ所属が定まった訳じゃないんですよね?」
「担当? 所属? 神主さんは伊勢神宮所属の人じゃないの」
二人の会話が良く判りませんが、何となくそんな感じがしました。
「ああ、私は出雲の所属だね」
「出雲?」
ここで又、良く判らない組織が出てきましたよ。神主さんだから、もちろんお寺じゃないんだろうけど、出雲って何?
「ああ、ひよりさんは出雲を知らないのかな、出雲大社って言って大国主命を祭っている神社だね。ちなみに、天照大御神とは別系統と思ってくれていいかな?」
「なるほどです」
うん、ぜんぜん判りません。ただ、何となく判った振りををします。
重要なのは、ここで第三の勢力が登場し、新たな情報が手に入る事です。
「とりあえず、自分の病室に戻ります。お母さんも其処にいますから」
そう言って、私は一人で勝手に歩き始めました。何か神原さんが騒ぎましたが、そこは神主さんが宥めて? くれました。うん、決して煽ってはいないよね、たぶん。
「あら、ひよりちゃん、お帰りなさい。行きと違って大人数になったわね」
目を真ん丸にして迎え入れてくれたお母さんだけど、これは演技だね。お母さんも神原さんが来ることは予想してたしね。
「これは伊藤さん、ご無沙汰しております」
「あら? まあ、出雲分院の神主さんですか? その節はありがとうございました。あと、今日は突然のお電話を申し訳ありません」
お母さんも神主さんに気が付いて頭を下げます。どうやら神主さんのお話に嘘はなさそう。お母さんはさっそく電話したみたいだね。
「いえ、テレビでも報道していましたし、気には掛けておりました。少々調べましたら伊勢神宮が動いているみたいでしたし、早い方が良いかと夜分に訪問させていただきました。お邪魔でなければ良いのですが」
うん、既に時刻は11時近く、非常識ではあるかな? 既に私達が寝てたらどうするつもりだったんだろう?
「あ、でも、8時を回ってるのに病院に入れたの?」
面会時間はとっくに過ぎています。普通なら入って来れないはずだし、そもそも美月ちゃんの部屋の前に現れるのは可笑しいような。
「ええ、外から様子を見て帰ろうと思っていたのですが、何やら知らない神力を感じたのでね」
「神力?」
「ええ、病院の外からでも十分に感じ取る事が出来ましたよ。あれは、ひよりさんかな?」
どうも治癒に使った魔法が察知されたようです。込めた力が力ですからね、うん、そっか、なるほどと納得します。
「悪しき感じはしなかったので、残滓を辿ってみたらあの病室にたどり着いたと」
そう言って笑う神主さんです。で、私達の会話の間に神原さんが何をしているかというと、病室の外で誰かと電話しています。どうも神主さんの登場は、神原さんにとって最悪っぽいです。電話の先の上司と思える人に泣きついています。
「ですが・・・いえ・・・はい。でも・・・出雲ですよ?あの榊ですよ?」
漏れ聞こえてくる声、でも、あの榊ってどういう事でしょう?
「神主さんは有名人ですか?」
「さて、まあ若い頃に少々ヤンチャしていた事も無い事も無いかと、駄目ですねえ神職に就く者が、若さゆえの過ちというやつですかね」
「なるほど」
私は素直にその言葉に納得する。でも、神主さんは何か期待した眼差しをした後、ちょっと悲しそうに苦笑を浮かべました。なんだったのでしょう?
「さて、どうやら釘を刺す事は出来たようですし、時間も時間ですから、どうでしょう、お話は明日に致しましょうか?」
神主さんがそう言うと、外で電話している神原さんが凄い勢いでこちらを見て頭をぶんぶん縦に振ります。うん、神原さんの印象があっという間に崩壊していきます。
「態々明日も来ていただくのは心苦しいのですが、そうして頂けるとありがたいです」
お母さんもそう言って頭を下げます。
「では、明日の、そうですね、10時頃にお邪魔させて頂きます。宜しいでしょうか?」
神主さんの言葉に、その場にいた私とお母さんのみならず、神原さんが凄い勢いで同意します。そして、電話口の人に明日来て欲しいと必死に頼み込んでいます。
「お母さん、私ね、神原さんのイメージが崩壊した」
「そうねえ、まあまだお若い感じだし、仕方ないわよ。たぶん計画通りに行かないと慌てるタイプね」
「あ、うん、何となく判った。そしたらアクシデント起こせば勝てるね!」
「まあ、お手柔らかに頼みます。一応、神道界では期待の新人なんです。それでは明日また」
神主さんはそう言って帰っていったけど、笑いながら言ったら説得力は全然ないですよ。
「わ、私も明日上司とお伺いします。失礼します」
神原さんは顔を真っ赤にして、勢いよく頭を下げて帰って行きました。
「なんだかなあ、でも、これで美月ちゃんの事を忘れてくれないかな」
「あ、忘れてたわ、それでどうだったの? 治せた?」
「うん、手ごたえはあったから、無事治せたと思う。でも、それこそ検査をしてみないと? あ、お母さん、小児がんってなあに?」
私の質問に、お母さんが顔を引き攣らせます。
「それ、誰に聞いたの?」
「えっとね、美月ちゃんの病室を出た所で神原さんがいたの。それでね、治癒って何? て聞かれて、その時に美月ちゃんの病気が小児がんだって」
「あちゃ~~、予想外だったわ。そっか、小児がんね、治っちゃったのね」
「治したら不味かった?」
「いいえ、美月ちゃんに喜んで欲しかったのよね? それに、あんなに良い子が苦しんだり、不幸になるのはお母さんも嫌だもの。でも、神原さんが治癒を忘れてくれる事は無くなったと思うわ」
お母さんはそう言いながら頭を撫でてくれます。
「うん、美月ちゃんが喜んでくれるといいな」
「そうね、きっと喜んでくれるわ。さあ、寝ましょうか。明日は忙しいわよ」
「はい、おやすみなさい!」
「あ、待ちなさい、まず顔を洗ってからよ」
なんやかんやで目まぐるしい一日でした。何かあの事件が、遥か昔の出来事のような気がしちゃいますね。
「お母さん、お姉ちゃん元気かな、明日は会える?」
「小春も会いたがっていたわ。でも、今は塾を頑張るって言ってたから、家に帰らないと会えないわね。寂しい?」
「うん、寂しい」
早く家に帰りたいなあ。
愛知県には出雲大社の分院はありません。
架空の分院ですので、ご注意くださいね。
神道の方が何かロマンを感じるのは変でしょうか?
ひよりは陰陽道に中二ってますが(ぇ