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2:子供の遊びは時々危険

 翌日、私は普段通り幼稚園から帰宅した。

 今日は今の所特別何かが起きる気配は無く、庭の周りで結界が壊されることも無く、何かが悪意を向ける事も無く、昨日の事がまるで無かったかのように時間は流れていく。


「お姉ちゃんが戻ってくるのはそろそろかな」


 何かが起きるのはやはりお姉ちゃんが帰って来てから、一応予備のビー玉は用意している。

 ただ、やはりビー玉に代わる何かが欲しい。悪意は何かのきっかけによって一気に膨れ上がる事もある。かつての世界で幾度もその様な事例は見ている。もっとも、街中では浄化結界が張られている為に滅多にある出来事ではないが。それでも、こういった出来事が無くならないのは人の業のような物なのだろうか。


「あ、お姉ちゃんが帰って来た」


 家へ向かってくる姉の気配が感じられる。


「ただいま~」


 いつもと変わらずどこかのんびりした声が聞こえ、私はパタパタと玄関へと向かった。


「おかえり~」


 玄関から此方へと歩いてくるお姉ちゃんにそのまま抱き着く。そして、そのままリビングへと向かう。


「ひより、歩き辛いよ。ちょっと手を洗ってくるからまって」


 お姉ちゃんに引き剥がされ、私は仕方が無くソファーに座って戻ってくるのを大人しく待った。

 その際に姉が置いていったランドセルに付けているお守りの様子を伺うと、3個のビー玉の内1個に罅が入っている事に気が付く。


「う~ん、やっぱり今日も何かあったみたい。でも、1日で罅が入ったっていう事は悪意は昨日からって事かな」


 それ以前からであれば昨日のビー玉はすでに粉々になっていないとおかしい。ただ、今日は3個のビー玉を使用して1個に罅が入った事は問題だ。悪意の浄化を3個で行って持たなかったという事、これでもし昨日のまま1個のお守りであればビー玉は砕けて効果が無くなっていただろう。


「悪意が昨日より強くなっている。ちょっとこれは放置は出来ないね、このまま強くなっていくと危険すぎる」


 比較対象が無い為、その悪意がどれ程の物かは判らないけど、たかだか小学3年生に降りかかるには強すぎる気がする。ましてや昨日の今日だ、悪意が育つのが早すぎる。


「ひより~何か飲む?」


「う~ん、ありがとう~いらない~」


 お姉ちゃんが手を洗った後、冷蔵庫からお茶を持ってリビングに戻って来た。

 私はお姉ちゃんが一息吐くまでまって、昨日から今日にかけての出来事や一昨日との変化を尋ねていく。


「変な事を気にするんだね、う~ん、他に一昨日から今日で大きく変わった事、何かあるかな」


 首を傾げて考え込むお姉ちゃん。今まで聞いた所では、それこそ転校生が来たとか誰かが学校を休んでいる、あとお姉ちゃんが誰かから告白されたなどある意味よくある変化は無い。そうすると学校外の要因が可能性では一番高いのかもしれない。


「知らない人に声を掛けられたとか、変な人を見かけたとかもない?」


「う~~~、変な人ってどんな人?」


「えっと、お姉ちゃんをじっと見つめてる人・・・・・・とか?」


 確かに変な人って言われても困るかも、でも具体的にどういう人って言われても困る。それこそ、私から見ればこの世界の人の多くが変な人認識されてしまう。


「むむむむむ、う~~~ん、変な人、変な人」


 ぶつぶつ呟きながら考え込むお姉ちゃん。ただ、ここまで考えないと出てこないという点でお姉ちゃんからヒントを貰うのは厳しいかもしれない。

 半分諦め、とにかくお姉ちゃんの防御を固めるしか方法は無いかと私が考えていた時。


「そういえば、う~~~ん、でも」


 お姉ちゃんが何か悩み始めた。


「何でもいいよ、勘違いでもいいよ、今思い出したことを教えて」


 私がそう告げてもしばらく云々と悩んでいた。それでもじっと待っていると、ようやくお姉ちゃんが話し出した。


「昨日ね、内田くんが学校に変な物持ってきたの。で、それでみんなで遊んだんだけど、それかな? あ、それと内田君と他の子も何人か今日お休みしてた」


「え?休んだんだ、それでどんな遊びをしたの?」


 より詳しく聞くと、この世界の占いのようなものだった。文字の書かれた紙に何やら呪文を唱え、その後尋ねたい事を声に出す。すると十円玉が勝手に動いて尋ねた内容の答えを教えてくれるという。


「う~ん、変な遊び。でも、何かその遊びが怪しそうではある?」


「何が怪しいの?」


 思わず声を出してしまった私の言葉にお姉ちゃんが疑問を持ったみたいで尋ねてくる。

 私は言うべきか、言わないべきか悩む。ただ、言ったとしてもお姉ちゃん自身が何らかの対処が出来るとは思えない。言えば怯えられるかもしれない。もっとも、そんなものを見れる私を怖がったり、気味悪がったりしないことだけは断言出来るけど、変な好奇心を刺激しそうでそこは怖いかも。


「えっとね、昨日からお姉ちゃんのお守りに入れているビー玉に罅が入るの。それとね、何か悪いものがお姉ちゃんの周りにいるの」


 とりあえず簡単に状況を説明する。ただ、あまりに抽象的過ぎて更に質問が出てくるだろうと思う。その為、更に子供に判りやすく何と説明しようか考えていると、一向にその追加の質問が来ない。


「ん? お姉ちゃん?」


 訝しく思いお姉ちゃんを見ると、まるでお星さまのようにキラキラした眼差しで私を見ていた。


「ひよりちゃんは魔法少女になったの?!」


「ほへ?」


 私は、予想外の質問に思わず思考が止まり変な返事を返してしまった。


「すごい! すごい! 前からひよりちゃんってすごいなって思ってたけど、いつから魔法少女になったの?!」


 魔法少女とは何ぞや? 思わずそんな思いを抱くが、お姉ちゃんが週末に見ているテレビのアニメで何かそんなのがあった事を思い出した。


「えっと、別に魔法少女っていう訳じゃないよ?」


「うんうん、わかってる。秘密なんだもんね!」


 絶対分かっていない感じのお姉ちゃん。でも、取り敢えず今問題になっている所はそこではない。


「とにかく、その悪意がお姉ちゃんに悪い事しようとしてるの、今日休んだ子もそのせいかも?」


 悪意とは育つのだ。これは以前の世界でも同じだけど、この悪意に溢れた世界ではその成長は以前以上に無視できないと思う。以前の世界では動物の悪意は魔物として姿が変わる。しかし、人はそうはならない。ここが悪意の恐ろしい所で、悪意によってより歪んだ知恵が、悪辣に、狡猾に、更なる悪意を育て、そして気が付けば鬼にも悪魔にもなり果てる。

 ただ、以前の世界であればその悪意に対して対策が為されていた。教会は聖域を作り、そこに悪意ある者が入る事は出来ない。街や村にも聖結界が張られ、更に町や村の入口ではより検知に特化したゲートが設置されている。魔物や悪魔などとの長い戦いの末にたどり着いた世界。

 それ故に悪意に対して非常に強い世界となり、こちらの世界に比べ遥かに楽園と呼べる世界だった。そう、例え魔物などが存在しようとも。


「お姉ちゃんが言う遊びが原因かは分かんないけど、このままだと不味いと思う。でもどうしたら良いのかわかんない」


 私がその現場に行ければ違うのかもしれないけど、まさかお姉ちゃんについて一緒に学校に行くわけにもいかない。ましてや、原因が本当に学校にあるのかもわからない。


「う~~~ん、そっか、困ったね。内田君に聞けばいいのかな? でも学校を休んでるし、う~~~ん」


 お姉ちゃんもうんうんと考え込んでいる。


「あ、そうだ、その内田君のお家ってお姉ちゃんわかるの?」


「うん、判るよ? 前に他の子と遊びに行った事があるから」


 その子の家に行けば何かしらの痕跡はありそう。本当に呪いであれば必ず起点となる物がある。先程聞いた遊びが原因であればその起点となった物を内田君が持っている可能性は高い。

 ただ、問題はその呪いを今の私が浄化できるかだけどね。とりあえず今作ってあるビー玉をいっぱい持って行こう。私は部屋に置いてあるビー玉を袋に入れてお姉ちゃんと一緒に内田君の家へと向かった。


「あそこが内田君の家だよ」


 お姉ちゃんに言われるまでも無く、私は多分あそこなんだろうなって思っていた家が、やっぱり内田君の家だった。うん、真っ黒だよ、周囲の悪意が吸い寄せられるように集まって家が見え辛くなるくらい黒い霧に覆われている。その霧の中から時々塊が飛んでいくのは、誰かを呪っているのかな?


「うわぁ、真っ黒だよ真っ黒。ちょっと今持っているビー玉だけだと厳しいかも」


 多分いけるかも? という気はするけど、今ここで無理をする必要は無いと思う。浄化しようとすれば絶対に反発はあるだろうし、危険の度合いは高くなる。そう判断をしながらも周囲から吸い寄せられている悪意の量にちょっと不安にはなる。


「真っ黒かぁ、ひよりちゃんでなんとかできる? ビー玉沢山持ってきたみたいだけど」


「出来るか出来ないか判らないくらいだから、怖いから今は浄化したくない」


 心配そうにこっちを見るお姉ちゃんに私は素直に今の気持ちを答えた。もしこれでお姉ちゃんを巻き込んで何かあったら目も当てられない。ビー玉に頼らない浄化も出来るけど、まだ5歳の体では使用できる魔力にも限界がある。


「そっか、なら帰っちゃおう」


 無理を言われちゃうかなっとちょっと心配してお姉ちゃんを見上げていた私に、お姉ちゃんはにっこり笑って私の手を引いて家の方へと戻り始めた。


「お姉ちゃん、いいの?」


「うん、ひよりを危険にしてまでする事じゃないよ。内田君よりひよりの方が大切だもん」


 お姉ちゃんの言葉に嬉しくなって私はお姉ちゃんの腕に抱き着きながら家へと帰る。そして、家に帰った私達は今後どうするのかを話し合う。


「お姉ちゃんが巻き込まれてなかったら放置してたかも、でもこのままだとお姉ちゃんも危険」


「う~~~ん、危険なんだ。今一つピンと来ないけど、そしたら何とかしないとなんだよね。御寺でお祓いとかじゃダメ?」


 お寺のお祓い、どうなんだろ? 実際に見た事が無いし、経験したことが無いから判断が付かない。

 ただ、この世界で一般的に信じられている厄払いなので効果はあるのかな?


「お寺でお祓いをしたことが無いので判断が出来ません」


 素直にそう答える。


「むむむ、そしたら今度の週末にお父さんにお寺に連れてってもらおう」


 お姉ちゃんは笑顔でそう告げた。私もその言葉に疑問を持たず、素直に頷いたのだけど、まさかこの発言で両親に私の能力がバレるとは思わなかった。


「でね、今週末にお寺に連れて行って欲しいの!」


 その夜、両親共に帰宅して夕ご飯を食べ終わった団欒のひと時にお姉ちゃんが爆弾を投下した。それこそ、初っ端から魔法少女の話をし始めるので、私が必死に止めようとしたのですが、無理でした。テンションあげあげのお姉ちゃんを止めるのは5歳児には少々難易度が高かった。


「ふむ、ひよりはその何か悪い物が見えるという事か?」


「うん、信じてもらえないかもだけど」


 一通りの話を聞いたお父さんは私に話しかける。こちらの世界では大人は普通オカルト何か信じない。その為、私は恐々お父さんに答えた。もっとも、前世云々は一切省いているけど。


「信じる信じないはともかく、悪い物が小春に対して影響を及ぼすというのは嬉しくないね。わかった、この週末に神社へお祓いに行こう」


「そうね、お祓いをして悪い事は無いでしょうし、それで少しでも気が晴れるならそれでいいわね」


 お母さんも同意してくれる。そして、家族揃って週末に地元の神社にお祓いに行く事になった。


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― 新着の感想 ―
[一言] もしかして。 親バレは問題かもだけど、触媒の石の品質を上げられるワンチャンあり? 宝飾品には高いイメージあるけど、ほぼ未加工のメノウやラピスラズリ等の素材なら、大人の協力があれば、さすがに…
[一言] ボクと契約して魔法少女になってよ!?
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