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19:魔導士も歩けば〇〇に当たる・・・・・・

「お母さん、敷地にあるお庭に行こ。病室で話しているよりは安心できると思う」


「そうね、盗聴器が無いとは限らないものね」


 お母さんと手を繋いで、病室を出る。そして、病室の窓から見えた中庭のような処へと向かう。


「うわ、外は暑いね。病院の中だから全然気が付かなかった」


 そういえば、今は夏真っ盛りだったんだよね。頭の中から消えてたよ。日陰にあるベンチを探してお母さんとキョロキョロしながらお散歩です。


「あ、あそこ良さそう。あそこに行こ」


 お母さんの手を引いて、中庭に設置されているベンチへと向かう。そこは、傍らにある樹木の御蔭で陽が遮られている。


「ひよりちゃんは何をしているの?」


 ベンチにお母さんを座らせて、私はベンチの下を屈んで覗き込んでいる。


「うん、盗聴器っぽい物は無かった」


 ここは敵地、油断したせいで色々と情報を相手に渡してしまったから、これからは少しでも警戒して損する事は無いと思う。


「あ、そうね。気をつけないとね」


 お母さんも頷いて、周りに人がいないか確認をする。


「大丈夫そう。でも、何か話が変な方向に行っちゃったね。お母さんは、どうしたら良いと思う?」


「そうねえ、でもちょっと情報が少なすぎるのよね。一人の人から与えられた情報でしょ? どれだけその情報が正しいのか判断するのは難しいわ」


「う~~~ん、でも、それだったら他の人が接触してくるのを待つの?」


「それはそれで怖いのよね。あの金田って人みたいなのが来ても困るでしょ?」


「うん、それはすっごく嫌」


 その後も、色々とお母さんと話はするけど、結論は出ないんだよね。そもそも、霊って何さ、見た事ないよの世界なんですよね。魔物とは全然違うんだろうし、テレビ何かで見た事あるけど、すっごい嘘っぽい。

 どうしても前世の常識に囚われてしまうけど、果たしてそれが間違いかと言うと、そうは思わないし。


「お姉ちゃん、美月もそこに座っていい?」


「んんん?」


「あら、どうぞ、ひより、もう少しこっちに来なさい」


「え?あ、うん」


 気が付けば目の前に、小学校に上がるか上がらないかくらいの女の子がいた。

 考え事をしていて気が付かなかったっていうのもあるけど、それ以上に悪意が感じられなかったからと言うのもある。それでも、ちょっと反省しよう。


「う~んと、美月ちゃんかな? 大丈夫かな、自分で座れる?」


「うん、座れるよ。いつも座ってるの」


 美月ちゃんはそう言うけど、お母さんが立ち上がって座らせてあげる。


「おばちゃん、ありがとう」


「ちゃんとお礼を言えるなんて偉いわね」


 お母さんがそう言って、美月ちゃんの頭を撫でてあげると嬉しそうに目を細めた。


「美月ちゃんは一人?」


「うん、お母さんはお昼過ぎにならないと来れないの」


 パジャマを着ている事から、恐らく入院患者なのかな? いくら病院の敷地と言っても、こんなに幼い子が一人では不用心だなと周りを見ると、少し離れた所で看護師さんと思われる女性が此方を見ている。


「美月ね、いい子にしてるの。いい子にしてないと病気が治らないんだって」


 誰がそう言うのか判らないけど、残酷な事を言うものだと私は思う。ただ、当事者でない私が口を挟んで良い問題ではないと思うから。


 しばらく美月ちゃんとお話をしていたら、遠くにいた看護師さんが此方へとゆっくりと歩いて来た。


「美月ちゃん、そろそろお部屋に戻りましょうか」


「うん、お姉ちゃん、おばちゃんバイバイ」


 そう言うと手を振って、病院の中へと入っていった。


「あんな小さい子も入院しているんだね」


「そうね、そう言うひよりもまだ小さい子の範囲よ?」


 そう言ってお母さんは笑う。でも、言われてみると、私もまだ10歳なら、それは当然なのかと納得します。でも、そんな小さい子を脅してきた金田や警察はちょっとありえないね。


「そういえば、あの金田ってどうなったの? 意識不明って言ってたけど」


「さあ、テレビの報道でしかお母さんも知らないから」


「そっか、このまんま目が覚めないと良いのにね」


 本当に、これ以上こちらに関わって来て欲しくない。ただ、それもこのままだと難しいのかな。


「結局、このままだと神原さんの所になっちゃうのかなあ、二択だと厳しいね」


「そうねえ、あ、そうだわ。退院したら一度、お祓いをして貰った神社の神主さんの所に行ってみましょう。もしかしたら同じ所属なのかもしれないけど、別の人の話を聞く事が出来るかもよ?」


「うん、そっか、すっかり忘れてた」


 そう言えば、あの神主さんも、きっちりお祓いが出来ていたよねやっぱり霊能者とかいう種類になるのかな? そういえば神社ばっかりだけどお寺ってどうなんだろう?


「お母さん、神社じゃなくってお寺はどうなんだろう? 神原さんの話にお寺は出てこなかったし、あ、あと陰陽師って管轄はお寺?」


 この国の古来から伝統的な霊能力者と言えば陰陽師でしょう。どうせなら式神を覚えたい、うん、あれなら所属するだけの意味はあるかもしれない。


「え? 陰陽師? えっと、どうなのかしら? えっと、密教? でも違うわね」


「式神って使えたらかっこよいよね。そっか、式神かあ」


 前世では思いもしない、研究すらした事の無い式神に、私の心は思いっきり傾いていました。


 昼食をお母さんと病院にあるお店で食べ、お母さんは一先ず家に戻って行きました。

 お姉ちゃんの事もあるし、お父さんだって一人で放置は可哀そうだもんね。もっとも、夜にお父さんもお見舞いに来てくれるって言うから楽しみです。


 お昼からの検診では、MRIやらエコーやら、何でこんな検査がいるのかなと思う程に検査を受けさせられてヘトヘトです。血もいっぱい抜かれたし、絶対これ必要のない検査まで受けていると思う。


「プンプン、プンプン」


 怒りを口に出して、ほっぺたを思いっきり膨らませて診察室から病室へと向かいます。

 そんな私に、子供の泣き声が聞こえてきました。


「ん? 女の子の泣き声だ」


 思わずその泣き声に誘われるように、声の聞こえる方へと歩いていきます。


「お母さん、お母さん」


「うるさい、美月黙れ! だからお母さんはお仕事で今日は来れないって言ってるだろ! 良い子にしてないとずっとお母さんはこないぞ!」


「う、う、み、みつ、きは、いいこ、だもん」


「良い子は我儘なんて言わない!」


「わ、わがまま、なんか、じゃない、もん」


 中学生くらいの男の子が、美月ちゃんに怒鳴ってます。うん、どうやら、この子が良い子じゃないと発言の犯人ですね。たぶん美月ちゃんのお兄さんでしょうか?


「塾があるから、もう行くからな!」


 男の子はそう言って、さっさと病室の扉を閉めて走って行っちゃいました。病室からはわんわんと泣き出す、美月ちゃんの泣き声が聞こえてきます。


「う~ん、これは放置できませんね」


 知り合ったのも何かの縁ですし、ここで巡り合ったのもまた運命かもしれません。もっとも、狭い病院の中でのこと、確率は高いと思いますけどね。


 私は扉をそっと開けて、病室を覗き込みます。すると、美月ちゃんはベットのお布団に包まって泣いています。


「美月ちゃん、どうしたの?」


 こういう時に小さな子供にどう接すれば良いのやら、ちょっと悩みながら美月ちゃんの背中を撫でながら声を掛けます。


「だ、だれ?」


 突然背中を撫でられて、ビクッとした美月ちゃんが、お布団から顔を出します。


「お庭で会ったお姉ちゃんだよ、覚えているかな?」


「う、うん、おぼえてる」


 一気に幼くなったような、たどたどしい話し方ではあるけど、美月ちゃんは返事をしてくれました。


「おお、覚えてくれててお姉ちゃん嬉しいな。でも、美月ちゃんが泣いてるとお姉ちゃんも悲しくなっちゃうよ。美月ちゃんはどうして泣いているのかな?」


 その後、美月ちゃんの話を聞くと、どうやらお母さんがお仕事で来れなくなったらしい。あの男の子はやっぱりお兄ちゃんで、美月ちゃん曰く意地悪だそうです。お兄ちゃんがお母さんを来れなくしたんだって怒っていますが、まあ、そんな事は無いんでしょうけどね。


 でも、こんなに小さくて病院暮らしは厳しいよね。でも、一か月以上も入院って何の病気なんだろ?


 恐らく美月ちゃんに尋ねても知らないだろうから、美月ちゃんの手を持たせてもらう。


「美月ちゃん、ちょっと手を持たせてね」


 そう告げて、美月ちゃんの体に魔力を通す。そして、体の異常を確認する。


「ん? あれ?」


 どうやら美月ちゃんは、体を通る魔力が何となく判るみたい。やっぱり年齢が低い子ほど判るのかな?


「あ、これかな」


 美月ちゃんのお腹の辺りに違和感がある。幸いな事に、前世でも幾度となく治療してきた病状と同じだ。これくらいであれば、神官でなくても私でも治す事が出来る。これ以上成長されるとちょっと厳しかったかもしれない。


 もっとも、今の魔力量では心許ないので、真ん丸ダイヤが必要だけど、この感じでは2個あればいけるかな?


 その後、美月ちゃんはお話している間に落ち着いてきたので、また遊びに来ることを約束して病室を後にした。その後、自分の病室に戻った私は、お母さんに渡して貰った真ん丸ダイヤの入った袋を取り出して数を確認する。


「4個かあ、2個使っちゃうと数が心許ないかな。でも、お母さんに炭を持って来て貰うのもなあ」


 いつ退院出来るのかが判らないので、真ん丸ダイヤの数は多い程良いと思う。ただ、敵地と思しき場所で量産するのも怖い。


「まあ足りなくなったら、その時かな。何とかなるでしょう」


 その後、戻って来たお母さんと夕飯を食べ、今日あった美月ちゃんの出来事を話す。


「ひよりちゃんだったら治せるの?」


「うん、大丈夫だと思う」


「それなら、ひよりちゃんの好きにしなさい」


 そう言ってお母さんは私の頭を撫でてくれる。目を細めて撫でられながら、美月ちゃんが早くお母さんに会えると良いなと思いました。


 そして、夜10時頃に私は病室を出る。


「まあ見られていると思うし、気分の問題だけどね」


 ナースさんのいる部屋の前をどうどうと通過し、美月ちゃんの部屋へと向かう。


「起きてるかな?」


 扉をそっと開けると、美月ちゃんの静かな寝息が聞こえてくる。部屋の電気が小さく点いているのは、真っ暗が怖いからかな?


「うん、しっかり寝てるね」


 私より寝相が良いかもと思いながら、そっと美月ちゃんの布団を剥がし、お腹の部分に手を当てる。


「悪しき物、蝕む物を浄化し、癒し給え」


 普段使う治癒より一段階上の魔法、真ん丸ダイヤが手の中で粉になって行くのを感じる。そして、体の中から魔力が半分くらい減ったところで、魔法は発動が終わる。


「うん、良しだね」


 布団を再度掛け直してあげて、そっと美月ちゃんの部屋を出る。すると、その先には案の定、神原さんが立っていた。

 

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