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18:前世の神と、この世界の神の違い

誤字脱字報告ありがとうございます。

 看護師のお姉さんは、笑顔のまま部屋の中へと入ってきた。でも、お母さんと私は、思いっきり警戒しているのは仕方がないと思う。


「本当にごめんなさい。でも、一つ忠告をするとしたら、見ず知らずの場所で、安易に重要な会話はしちゃだめよ」


 そう言うと、お姉さんはわざとらしく、テレビの後ろから小さな黒い物を取り出した。


「もしかして、盗聴器でしょうか?」


 お母さんはそれを見て、その黒い物が何であるか気が付いたみたい。

 私は、お母さんの言葉で漸くそれが何であるか思いついた。


「ええ、その通り。ひよりちゃんというより、伊藤家はずっと見張られていたの、国によってね。あ、ごめんなさい、自己紹介するわ。伊勢神宮所属の特任巫女、神原洋子よ、ついでに、防衛医科大学で内科医もしてるわ」


 そう言って一枚の名刺を差し出した。その名刺には、防衛医科大学の方の肩書が書かれている。


「でも、何で看護師の格好をしているんですか?」


 医師であれば、それこそ白衣でも着ていれば良いと思う。それなのに、わざわざ看護師の格好をしている意味が判らない。ましてや、伊勢神宮とか、巫女とか、それに盗聴器だ。まったく一欠けらも安心できる要素がない。


「う~~ん、これは急に上司から言われたため、この病院で借りたのよね。だから私の趣味じゃないわよ?」


 その言葉に更に怪しさがプラスされる。


「う~~ん、警戒されちゃうのは仕方がないとして、愛知県警の暴走を止めるために来たの。一足遅かったけどね」


 県警の暴走という言葉で、あの気持ち悪い金田の姿が思い出されて思わず身震いした。


「所属が違うから何とも言えないけど、金田警部の事は大変だったわね。どうも県警内部にある特殊犯罪部が手柄欲しさに情報とかも集めていたみたいなの。それでひよりちゃんに目をつけたみたい」


「簡単に言ってくれますね。それに勝手にちゃん付けで呼ばないでください!」


「あら、ごめんなさい。どうも小さい子と話すときの癖が抜けなくて。担当が内科と小児内科なの」


 ぜんぜん悪びれた様子もなく、その表情から笑顔が消える事は無い。あと、良く言う目が笑っていないという事もなく、全体の印象も親しみやすさ以外に感じ取れない。


「手柄欲しさって、何のことなんでしょう?」


 ここでお母さんが質問をする。ただ、その目からは非常に警戒心が溢れている。


「世間では知られていないけれど、科学では判断が出来ない事件って結構あるのよ? 私達に一番馴染みがあるのは悪魔化ね。別に姿かたちが変わる訳じゃないけど、思考も性格も、以前とまったく変化してしまう。キリスト教の影響で悪魔化って言われるようになったけど、日本でも古来から狐憑きとか言われてた。聞いたことがあるでしょ?」


 お母さんと私は揃って頷く。こっちへ来てから調べた本の中には、実際の事例なども載っていたし。


「当たり前だけど、そう言った事を研究する組織を国は昔から持ってるわ。そして、防衛庁と警察、それぞれが独自の組織を持っていて、その一つが県警の捜査課第六係、あの金田の所属先ね。でも、あそこは特に実績が無いの、だって、愛知には熱田神宮があるし、伊勢神宮にも近い。どうしても手柄はそっちに偏るのよね。そもそも金田は霊感も何も持っていないから」


 神原さんの説明は納得出来るような気はする。でも、霊能力者って神官みたいな物なのだろうか? そもそも霊の存在が、私にとっては非常に疑わしいから何処か納得が出来ない。


「伊勢神宮所属ってどういう事なんですか?」


「え? そのまんまよ。家がもともと神社の宮司の家系で、伊勢神宮の神学校も卒業してるし、あとこれでも一応霊能力者よ」


「怪しさ120パーセントなのです」


「そうね、お母さんもそう思うわ。今どき霊能力者なんて」


 お母さんは、この相手をじっと観察していた。でも、やはり掴みどころが無いみたい。


「あら、気が付いているでしょ? この病院周辺は浄化されているって。それは私達がやってるのよ」


 その言葉にお母さんと私は顔を見合わせる。盗聴していたから話を合わせている可能性も否定は出来ない。それでも実際にこの病院は浄化されているし、結界で守られていると思う。


「それとね、もう一つ私達が関わるケースがあるの、ひよりちゃんは判るかな?」


「ちゃん付けはいりません。多分ですが、遊びでの召喚とかでしょうか?」


 以前、小学校の時にあった事件を思い出して答える。しかし、その回答は神原さんには否定された。


「残念、正解は呪いよ。これは本当に昔から存在するし、今でも良く起きているの。もっとも、表沙汰にはならないけどね」


 呪いかあ、実はこれも前世ではなかったんだよね。そんな悠長な事をするくらいなら、毒やら何やらで暗殺する。

 強いて言えば嫉妬や妬みなんかが具現化したものかな。ただ、それは容易に気が付かれるから浄化されて終わりだし、嫉妬や妬みがある人は、どうしても悪意を溢れさせるから、周りの人に勧められて自分で教会に来るしね。


「確かに呪いはメジャーね。でも、本当に効果なんか」


 お母さんにとっては、やっぱり呪いはメジャーみたい。でも、魔力は本人から離れれば離れるほど力は弱まる。だから、悪意だってその本人から離れれば離れるだけ弱まるし薄まる。そんな物に何の脅威があるのだろうか?


 思わず首を傾げた私に、神原さんは初めてちょっと困ったような顔をする。


「ひよりさんには、人の嫉妬とか、妬みとかはまだ早そうね。もっとも、小学生で大きく頷かれても困っちゃうんだけどね」


「うん、全然判んない。嫉妬とかで他人を殺せたら、それこそ殺人ばっかり起きるよ?」


 自分の魔力だけを使う訳ではないだろうこの世界の魔法、もしかするとすっごく恐ろしい物かもしれない。自分の力の数倍、数十倍の力を振るう事が出来るとしたら、確かに簡単に他人を殺せるだろう。ただ、そんな事が可能であるとは思わないし、可能であって欲しくないな。


「それに、死んでから怨霊になる人だっているわ、それも私達の管轄ね」


 その言葉に、どことなく感じていた違和感の原因が判った。


「あの、神様は何をしているんですか? 神様はいるんでしょ?」


 私だって自分の力の数倍の魔法を使う事が出来る。ただし、それはユーステリア様の御力を借りての事。

 御力を希う時に、私は確かにユーステリア様の存在を知覚する。それはとても幸せな事だし、ユーステリア様が良いと思う事にしか御力は借りる事が出来ない。それは、悪い事には御力は使えない事なんだ。


「えっと、神様かあ。伊勢神宮は天照大御神を祭ってるの。他にも、それこそ膨大な、八百万の神様がこの日本にはいるのよね。でもね、巫女をしてるけど、私はその存在を感じた事は無いわね」


「え? 自分の信じている神様なんですよね? その神様を感じないのですか?」


 それは私にとって、非常に恐ろしい告白だった。


「それだったら、神原さんに力を貸してくれているのは誰なんですか?」


「う~ん、天照大御神様かな? でも、もしかしたら違うかもしれないし、確認のしようがないわね」


「では、もしもですよ? それが悪魔だったらどうするんですか?」


 この世界では悪魔という存在も信じられている。本当に存在するのかは判らない。でも、自分の信じる神を感じられないのなら。


 私は、その意味と危うさに思わず身震いをした。

 何故なら、この世界がなぜ此処まで悪意に満ち溢れているのか、その答えの一つは間違いなくこの事だと判ったからだった。


「さあ、神様ってね、味方からは神様だけど、敵からは悪魔になるの。自分の信仰していない神様は邪神と呼ばれたりするの。この日本にも祟り神とか怨霊が神格化した神様もいるのよ? 有名な処では菅原道真ね。良い悪いは表裏一体ってところかしら?」


 ああ、神は神だ、魔物とは決して相容れない。なぜなら、その本質が違うからだ。神は決してその本質が変わる訳では無いし、ましてや私達の善悪に捕らわれる事は無い。だからこそ、私達は善なる神を身近に感じる事によって善なる存在に寄り添う事を第一とする。


 でも、この世界ではそうではないんだね。だから、これ程に世界は悪意に満ち溢れてしまったんだね。人の判断が、神の善悪を計る世界、なんて恐ろしい世界なんだろう。


「私には、貴方達が理解できません」


「う~ん、小学生には難しかったかな? でも、お母さんにはお話しておきますね。このままだと貴方達は大変危険です。貴方方の家は異常です。判る者が一目見れば、それだけで異常が判るくらいに」


「異常ですか? 意味が解らないのですが」


「そうですね、すっかり汚れた池があります。でも、その一部分のみなぜか汚れていない、綺麗な清水が汚水と交わる事が無く存在している。この例えでイメージできますか?」


 神原さんの言葉で、何が異常なのか私も、お母さんも気が付いた。


「神原さんと呼ばせて頂いて宜しいかしら? 神原さんの言いたい事は理解出来ました。それで我が家にどうしろと?」


 何を言いたいのか、それはとっくに理解している。

 その問いにお母さんはどう答えるつもりなんだろうか?


「もう、理解していると思いますが、伊勢神宮の管轄に所属されませんか? ひよりさん、巫女さんに憧れないかな?」


「憧れません」


 私は、一刀両断にします。そもそも、私は前世でも神職ではない。ただ魔法において神の御力を借りる事があるくらいであり、住民の生活に密着して生きている魔導士だ。もっとも、多少は自分の研究などに労力を使うが、全身全霊神に捧げる者達とは明らかに一線を引いている。


「う~ん、お母さんはどうですか?」


「私は、娘の意志を尊重します」


「あ~~~、それでは困るんですよね。今、結構世の中に問題が色々起き始めていて、どこの組織も霊能力者の確保に懸命なの。それこそあの金田のいる警察も一緒よ? だから此の侭では生活も大変になると思うの」


「それって、脅しでしょうか?」


「違うわ、現実よ?」


 先程までの笑顔を消して、真剣な眼差しで私達を見る神原さん。確かに嘘を言っている様子はありません。


「少しお時間を頂いても? 即答するような問題では無いと思いますから」


「判りました。本当は即答頂きたいくらいなんですが、出来るだけ早くご回答が頂ければと、では失礼します。あ、あと、もうこの部屋には盗聴器はありませんから安心してくださいね」


「信じられません」


「ふふ、あ、病院の敷地内は安全ですから、敷地内であれば自由に散策していただいて構いません」


 私の言葉に苦笑を浮かべながら、神原さんは病室を出て行きました。


何か思いっきり説明回になってしまいました。

次はテンポ良く進む・・・・・・といいなあ。


次回は、病院、病院と言えば・・・・・・

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― 新着の感想 ―
[一言] ひよりさんや。 あんたが今するべき事は、お母さんに前世と信仰について話す事じゃないのかね。 今までのように自分の情報を隠したまま、何となく親の手を借りるなんて方法はもう使えんし、だいいち、こ…
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