17:お母さんはやる気に満ちています。
誤字脱字の報告ありがとうございます。m(_ _)m
目が覚めると、真っ白な天井が見えた。
「うん、知らない天井だ」
言ってみたい言葉ランキング上位でしたよね、この言葉。でも、実際に言うとなるとちょっと戸惑う事が多いです。
「多分だけど病院だねここ、でもって着てる服がいつものパジャマだから、そこまで悪い事にはなっていないかな」
あの場で気を失ったのは、魔力切れの為だった。真ん丸ダイヤに込められた魔力だけでは追い付かなかったんだろうな。あの時の自分は、ちょっとイライラし過ぎで冷静さを失っていたね。
「周りの雰囲気とか、あの犯人や金田の悪意に影響受けちゃったかなぁ」
前世でも有ると言えば有るんだよね、悪意はそれくらい扱いが難しい。
しばらく、ぼ~~~としていたらトイレに行きたくなったので、ベットから起き上がろうとした。すると、腕に点滴が繋がれているのに気が付いた。
「おおお、人生初の点滴だ。うん、嬉しくないけどね」
それだけでなく、何か腕だけでなくって胸にもペタペタ何かが貼り付けられている。
「心電図とかかな? これ外しちゃうとピーピー鳴りそう、どうしよう」
トイレには行きたい、ただこの自分に取り付けられている色々な物を勝手に外して良いのかが判らない。
途方に暮れてベットの頭の方を見ると、ボタンがぶら下がっていた。
「あ、これ見た事がある。ナースコールだね」
という事で、点滴と反対の方の手を使ってナースコールを押す。
すると、遠くでバタバタする足音が聞こえて来て、病室の扉が開いた。
「伊藤さん、よかった。目が覚めたのね」
前世の教会の治癒士達のように淡々とした反応を予想していた私は、思いのほかに感情豊かな看護師さんにちょっと戸惑った。ただ、今まずしなければいけないのはトイレに行く事なのです。
「あの、トイレに行きたいんですけど、これ外しても良いですか?」
「あ、ちょっと待ってね。機械を止めるから」
看護師さんはそう告げて、手早く機械を止め、私に付けられていた物を取り外していった。
「点滴はそのまま動くから、一緒にトイレまで行きましょうか。ゆっくり起き上がってね」
背中から介助されながら、私はようやくトイレに向かうことが出来た。
無事に用を足したあと部屋に戻るまでの間に、看護師さんから例の事件以後のことを簡単に教えて貰う。
「でも安心してね、この病院にはひよりちゃんしか運ばれていないから」
あの事件の後、私が発動した魔法によって色々な事が起きたみたい。まず、あの金田は意識不明で今現在も警察病院に入院している。あと、周囲に集まっていた人達の中にも気分が悪くなったり、一時的に意識を失ったりした人が出たらしい。
これについては、魔法で体内にある悪意を浄化した影響なんだろうな。でもこれって魔物を浄化した時の反応に似ている気がする。特に金田のなんかそっくりだよね。
その後、多くの人が病院に分散されて収容されたみたいなんだけど、私一人だけこの病院に入院したそうです。でも、なんか隔離されたような気がする?
「ひよりちゃん!ひよりちゃん!」
病室が見えてきた所で、廊下の反対側からお母さんが駆けつけてきた。
「ああ、良かった、気が付いたのね」
そのまま、私はお母さんにハグされる。
「お母さん、心配かけてごめんなさい」
「ううん、そんな事はもう良いの、よかった、ほんとうによかった」
うん、思いっきりお母さんに心配を掛けてしまった。でも、あの時はあれ以外に思いつかなかったんだよね。今でもほかの方法は思いつかないけどね。
涙をボロボロ流すお母さんを、看護師さんが宥めながら漸く病室のベットへと入った。ちなみに、お母さんはタイミング悪く、私の汚れ物を家に持って行って、代わりに着替えやら何やらを取りに行って戻ってきた所らしい。
「数日は、検査入院する事になるって」
「え、そんなに入院しないと駄目なの?」
病室に戻って、看護師さんが意識を失っていた間に使用していた機械を片付ける傍ら、私はお母さんに状況の説明をされていました。
「ええ、でも小春は絵美おばさんが引き受けてくれたから、お母さんもずっと付き添うから大丈夫よ」
そう告げるお母さんだけど、先日に続いて絵美さんに迷惑かけちゃうなあ。
「本当に夏休みで助かったわ」
「うん、学校があったら大変だったね」
そんな事を話しているうちに看護師さんが部屋を出て行ったので、漸くあの後の事を尋ねることが出来ます。
「お母さんは無事だったの? 気分悪くなったりしなかった?」
「ええ、何ともなかったわ。でも、目の前であの金田って人が倒れて、周りでも何人もの人が倒れたり、しゃがみ込んだりして、それまでと別の意味で騒然としたわね。あれは浄化を使ったの?」
「うん、ただ普通の浄化じゃなくって、簡単に言うと真ん丸ダイヤも使って思いっきり魔力を込めた浄化。あの金田ってすっごい真っ黒だったの」
「あの時、お母さんはひよりちゃんを見てたけど、それでも周辺が光に包まれたみたいだった。でもね、なぜかあの光はカメラには映ってなかったから、今も何でみんなが倒れたのかで大騒ぎしてるわ」
お母さんがちょっと苦笑を浮かべながら、病室にあるテレビのスイッチを入れる。すると、テレビのワイドショーで昨日の事件を報道してた。
「え? あの強盗って警察から逃亡していたの? でも何であんなにタイミング良く包丁持って私達の所に来たの?」
ワイドショーで騒がれている点は大きく分けて3か所。一つ目は、あの強盗がどうやって逃げ出したのか。二つ目は、またもや犯人は原因不明の突風で空に打ち上げられて大怪我をした事。最後は、なぜかその場にいた人達が、突然気を失って倒れた事。この3つについて何やら語られている。
「また何か変な専門家とかが呼ばれて、意味不明の解説をしたりするんだろうね」
「そうね、ただ今回は最後に巻き込まれた人が多い御蔭で、ひよりちゃんが特定されていない事は助かったわ。もっとも、時間の問題かもだけどね」
「そっか、特定されていないんだね。このまま気が付かれないといいなあ」
たぶん無理だろうけど、思わずそんな事を考えてしまう。
そんな希望を打ち砕くように、テレビでは前に起きた事件と、今回の事件との関連や共通性についても話している。
『まだ未確定ながらですが、この容疑者に襲われた親子が、容疑者が逮捕される切っ掛けとなった事件で家にいた子供と同一ではないかとの情報もあり・・・・・・』
「あ、駄目そうだね」
まさにピンポイントで、テレビからは私の事が流れてきた。
「そうね、起きた状況も似ているといえば似ているもの」
お母さんも諦め模様。ただ、魔法を認められないこの世界では、大きな問題にならない・・・・・・といいなあ。思わずそんな事を考えてしまう。
「あ、そういえば、また警察の人から何か聞かれるの?」
「それがね、不思議と今のところは警察から何も言ってきてないの。お母さんもちょっと覚悟してたんだけどね」
「あの金田がまだ意識不明だからかな?」
「そうなの? お母さんその事初めて知ったわ」
お母さんの言葉に、私は思わず首を傾げる。
「さっきの看護師さんがそう言ってたよ?」
お母さんにそう言いながら、私はふと疑問が芽生えてきた。
「てっきりテレビで言ってるんだと思ってたけど、あの看護師さん事件の詳細に詳しすぎるかも?」
「そうなの? 病院関係者だからっていう訳じゃないのよね?」
「うん、いま思うと変、だって普通別の病院の事なんか知らないよね?」
そう考えるとどんどん怪しく感じてくる。そして、そこで私は更なる違和感に気が付いた。
「あれ? この病院って悪意がぜんぜん見えないよ」
まるで家の中にいるかのように、漂う悪意がまったく視認できない。この世界に来て、こんな事は初めてだった。
「もしかして、魔法が使えなくなった?」
私が真っ先に疑ったのは、この部屋の異常ではなく、自分の能力の異常だった。漂っているのではなく、自分が悪意を見れなくなっているのではという事。そこで、私は慌てて窓の外を見る。
「あ、普通に見えるけど、変!」
「どうしたの?」
突然の私の行動に、お母さんは驚いて尋ねてくる。
「えっとね、悪意が見えなくなったのは私の問題かと思ったの。でもね、病院の外にはちゃんと悪意が漂ってるの。でも、病院の敷地の中には結界が張られているみたいに悪意が入ってきてない」
「あら、まるで我が家の様ね」
お母さんの言葉に、私はこくんと頷いた。
「この病院変だね、あの看護師さんもだし、気を付けた方がいいかも。あ、お母さんビー玉とか、真ん丸ダイヤとかある?」
ビー玉も真ん丸ダイヤも昨日の服の中にある。でも、私はいまパジャマを着ている。という事は、昨日の服は・・・・・・あ、洗濯物でお家かも。
「大丈夫よ、お母さんは判らないからお姉ちゃんが準備してくれたわ」
「さすがお姉ちゃん!」
お母さんは、着替えを入れたボストンバッグから、小さなキレの袋を取り出して渡してくれた。
その中にはちゃんとビー玉も、真ん丸ダイヤも入っていた。
「もう少しちゃんと考えないと駄目だなって、お母さん思ったの」
私が袋の中を確認していると、突然お母さんが話し始めました。私は、首を傾げながらお母さんを見ます。
「犯罪とか、事件なんて家族とはぜんぜん遠いところの事って思ってたの。でも立て続いてひよりちゃんは入院するし、危険があちらからやってくるし。それでね、もう少し真剣に考えてみたの」
お母さんの真剣な表情に、私は思わず頷いた。そして、お母さんの次の言葉に途方に暮れる。
「お母さんも、魔法が使えるように頑張る!」
「ほえ?」
「だって、子供の貴方達が使えるようになったんだもの、きっとお母さんにも素質はあると思うのよね!」
「え、えっと」
前世では殆どの人が魔法を使えたし、魔力という点であれば全員が魔力を持っていた。もちろん、血筋や家系で魔力の多寡が似る傾向はあったけど、この世界ではどうなんだろう?
「でね、ひよりちゃんにも協力してほしいの。お母さんもう一回真剣に頑張ってみる」
非常にやる気が溢れているお母さん。お姉ちゃんが魔法を使えるようになったから、可能性は無い訳ではないんだろうけど、そもそもこの世界の魔法と前世の魔法の違いを調べようとし始めた処だし、うん、まあ試してみるのは別に悪い事じゃないし。
「うん、わかった、お家に帰ったらだけど、私もがんばってみる」
お母さんと二人でニッコニコで顔を見合わせていたら、突然ノックもなく病室の扉が開いた。
「そのお話、ぜひ私も詳しくお聞きしたいわ」
そこには、ニコニコした笑顔で、さっきの看護師さんが立っていました。
お話は、引き続き迷走中ですね。
ストックが尽きているので、頭の中で考えながら、即文字にしている弊害で・・・・・・。
おかしいですね、ほのぼのさんが旅から帰ってきません。
それでも宜しければ、ぜひブックマークと評価がいただければ嬉しいです><