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15:悪意とはなんだろう

誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 お姉ちゃんが塾から帰って来た。

 夏休みの夏期集中講習の為、朝10時から夜の8時まで集中授業。まだ小学生なのに大変だなって思う。

 夕飯をみんなから遅れて一人でお姉ちゃんは食べる。私は基本一緒のテーブルでお姉ちゃんの今日の話を聞いている。


「でね、今日ね、模試の結果が出てね、それでね鳳凰学院は今回も合格圏内だった」


 お姉ちゃんが嬉しそうに笑う。やっぱり、努力の結果が目に見えて判るのは嬉しいみたい。


「あとね、2学期から塾に新しく生徒が増えるって。今回の夏期講習に参加していた子が入塾するって」


「ふ~~ん、でも、今から参加しても間に合うものなの?」


「どうなのかな? でも、基本的には本人の頑張り次第なんだと思うよ。先生もそう言ってるから」


 お姉ちゃんはこういう所は素直なんだよね。特に自分に結果が伴っているから。でもさ、世の中の皆が皆努力が報われるわけじゃない事を私は知っている。


 恐らくだけど教室はピリピリしてるんだろうなあ。


「塾のクラスの雰囲気はどう? やっぱりピリピリしてるの?」


「う~ん、以前程ではないかな。うちのクラスは比較的落ち着いてるって先生が言ってたし、夏期講習って学校がお休みだから集中できるって言ってる子もいるよ」


 お姉ちゃんのクラスは成績上位者20名のクラスだ。塾だって商売だから、受験合格率がそのまんま入塾生の数に関わってくる。だから成績の良い子達はあからさまに贔屓されるみたい。


「お姉ちゃんも贔屓されてるの?」


「う~ん、何を贔屓って言うかかな? 塾でもやっぱりグループみたいな物は出来るし、虐めみたいなのもあったよ。他のクラスではまだそういう事もあるみたいだけど、うちのクラスは全体的に成績が上がってるから落ち着いているかな」


「やっぱり結果が見えないとなのかな」


「うん、そうでないと不安になるし、どうしても意識が悪い方向に向いちゃうからね」


 お姉ちゃんはのんびりしているようで、客観的に物を見るのが得意だ。小学6年生とは思えない程に冷静で、反抗期もまだ来てないっていうか来るのかな? 来るイメージが湧かないよ。


「ところでさあ、ひよりは何を企んでいるのかな?」


 食事が終わったところでお姉ちゃんがニヤニヤ笑いながら私の顔を覗き込んできた。


「あ、バレちゃった。何で判ったの?」


「いつものひよりなら、もっと今日あった出来事を話すもん。だけど今日は話さないから何かあるかなって」


「う、そうかな? そんなに判りやすかったかな」


「うん」


 お姉ちゃんが無情にも、そう断言する。

 そこで凹んでは話が進まないので、お姉ちゃんに魔法の質の違いについて説明し、検証の協力を依頼した。


「うん、いいよ。面白そうだし、息抜きにもなるから」


「お姉ちゃんありがと~、それなら早くお部屋へ行こ」


 ご飯を食べ終わっているお姉ちゃんを急かし、部屋へと向かう。そして、今日まず気になっているお姉ちゃんの魔力について調べた。


「浄化!」


 お姉ちゃんが普段から一番良く使用している魔法、そのおかげで発動は非常にスムーズだ。部屋の中には悪意が存在しない為に効果は見えないけど、本来であれば周囲の悪意を綺麗に浄化している事だろう。


「どう? 何か違いがある?」


「発動した浄化自体には、違いが有るようには見えないかな」


 一応、目に魔力を纏わせて、浄化の効果を見てみようとしてみた。

 ただ、残念ながら目に魔力を纏わせても特に何かが見えたような感じはしなかった。


「お姉ちゃんはどう? 自分で見てて私との違いとかある? ほら、たとえば色とか」


「特には無い・・・・・・かな? 別に色は見えないし、何かキラキラしたものが見えるのは一緒だよ。ひよりは魔法の光は見えた?」


「ぜんぜん見えなかった」


 ちょっと残念だけど、これは事前に予想していた事。そこで、次の検証に進む。


「次をお願いします。今度はこのサングラスを掛けて見てみる」


 これは、お父さんが持っていたサングラス。このサングラスに魔力感知の魔法を付与してみた。これは前世でもあった魔法だから効果は把握できている。


「うん、じゃあいくね。浄化!」


 再度お姉ちゃんが浄化の魔法を発動する。

 すると、想定内ではあるけど、思わぬ状況が見て取れた。


「ほうほう、やっぱりお姉ちゃんの浄化は、魔力使用量が少ないね」


 魔力感知は周囲の魔力を察知し、魔物の存在を把握し奇襲を防ぐのが主な使用方法となる。その為、魔力量を計るものではないけれど、使用された魔法に込めた魔力は色で識別できる。


「私が思ってたより少ない魔力でお姉ちゃんは浄化を使ってる。でも、そうすると何をもって不足分の魔力を補っているかという所がまずは問題だね」


「他にも問題はあるの?」


「うん、というかそっちが問題なんだけど、その不足分を補っている何かを見つけたいの」


「ひよりはその何かって何だと思ってるの?」


「えっと、妖精とか精霊?」


「おおおお、妖精! 精霊! すごいね、ひより、見たいよ!すっごい見てみたい!」


 あ、お姉ちゃんのテンションが可笑しな方向に振り切れちゃった。


「むぅ、目に力を入れれば見えるのかな? じ~~~、妖精さん出ておいで~~~」


「お姉ちゃん、その、妖精とか精霊って言ったのは属性を考えたからで、実際には、えっと」


「精霊さんはどんな姿かなあ、妖精さんは小さいのかなあ」


 駄目です。私の声が聞こえていません。


「むぅぅ、ひより、見えないよ~、やっぱり牛乳とか甘いお菓子とか用意した方が良い?」


 目を開きすぎて乾燥しちゃったのか、目元を指でムニムニしながらお姉ちゃんが話しかけてきました。


「お姉ちゃん、紛らわしい言い方をしてごめんね。その、実際にファンタジーな妖精とか精霊がいるとは思ってないの。そうではなくって火や水とかいった属性の事を言いたかったの」


「え? 妖精さんとか精霊さんはいないの?」


「う~~~ん、それは判んない。でも、私は見た事無いけど、お姉ちゃんは魔力が見れるから、どうなのかなって思ったの」


「さっきのサングラスで見れないの?」


「空気中に漂ってたりするんだったら、何もしなくてもキラキラしていないと可笑しいよね? でもそんな風には見えないから、たぶん駄目だと思う」


「そっかあ、あ、そしたらさ、ひよりが言う悪意って見えるかな?」


 お姉ちゃんは私と違って悪意が見えない。何でなのかは今の所は判っていない。


「サングラスして外出てみる? 悪意だったら多分見れると思う」


 サングラスに付与している魔法は前世の物、だからこそ悪意を見る事は可能だと思う。前世では、これで高濃度の悪意を見つけたりもしていた。


「そしたら、明日の朝に試してみよう。今日は遅いからね」


「うん、じゃあ早く寝よっか」


 そう言って早々とベッドのお布団の中に飛び込みました。


 そして翌日の朝、いつも学校へ行く時くらいに自然と目が覚めた。


「ひより、おはよ~、早いね」


 ベッドから起きだして、パジャマから着替えていたらお姉ちゃんも起きだしてきた。


「うん、早く試してみたい。もしかすると妖精や精霊が見れるかもなんだよ!」


 何か昨日のお姉ちゃん以上に、私の方がワクワクしている。

 お姉ちゃんと庭に出て、外の様子を窺う。朝ののどかな景色なんだろうけど、私の目には相変わらず煙が薄っすらと立ち込めたような景色に見える。もっとも、これは我が家周辺の話であって、街中などではもっと濃い煙に見える。


「どう? 煙が立ち込めたように見えるでしょ?」


 私は、いつもの見慣れた景色を見ながら声を掛けた。すると、お姉ちゃんから思わぬ返事が来た。


「おおお、すごいね、なにこれ、もしかしてこれが妖精? そうだったら泣くよ?」


「ほえ? 妖精? 妖精が見えるの?」


 お姉ちゃんの言葉に、私は目に魔力を込めて必死に周囲を探る。ただ、どこを見ても妖精の姿など欠片も見えない。


「うぅ、もしかしてこの煙が邪魔してるの? 悪意は邪魔! 浄化!」


 多少の苛立ちと共に、周囲に向けて浄化の魔法を発動する。


「あああ~~~、消えちゃった。すごいよ、あっという間だよ」


 周囲の景色は悪意が消えてすっきりした。ただ、そうやらお姉ちゃんが見ていた妖精っぽい何かも消えてなくなってしまったみたい。


「うう、そんな、妖精を見たかったよ」


 前世ではそんな存在は概念ですら存在しなかった。

 こちらの世界の情報を集める中において、様々なファンタジーで出てくる可愛らしい妖精は、いるならぜひ見てみたい、お友達になりたい存在だったのに。


「ひより、たぶんだけど、あれは見ない方が良かったと思うよ。例えるなら邪妖精? はっきり言って気持ち悪かった!」


 身震いするお姉ちゃん。だけど、もしかすると悪意をそんな風に視認した?


「いっぱい、いたの?その邪妖精って」


「うん、空に溢れてた。あんな中を歩きたくないよ」


 お姉ちゃんは、今はサングラスを外している。でも、そうか。認識の違いで、もしかすると見え方が変わったりするのかも。


「あれって、ひよりが言ってた悪意?」


「うん、見え方が違うみたいだけど、浄化で消えたならたぶんそう。でも、私には黒い煙のように見える」


「え、いいなあ、私もそんな風に見えたい」


 まさか黒い煙に見えると言って羨ましがられるとは思わなかった。いったいどんな風に見えたんだろう。


「もしかすると、この世界って悪意を利用して魔法を使ってる?」


 あれがお姉ちゃんの言う様に形を持った邪妖精だとしたら、そして意思疎通をする事が可能なら、使役したり言う事を聞かせる事も可能なのかも?


「意思疎通出来そうだった?」


「うん、無理! もう絶対に見たくない」


 う~ん、これはお姉ちゃんに頼むのは無理かな? でも一度この悪意をビー玉に集めて見たら、何か判るかな?


「お姉ちゃん、ちょっと悪意集めに行ってみる」


 今、家の周りに立ち込めていた悪意は浄化してしまった。しばらくすれば悪意がまた漂って来るだろうけど、それには時間が掛かるから、ちょっと集めに行ってみようと思う。


「え~~~、あれって危険な気がするよ。あんまり関わらない方がいいよ」


「うん、でも、悪意ってよく考えたら研究したことが無いの。だから色々と調べてみようかなって」


 前世の知識が、恐らく邪魔をしているんだと思う。その為、似たような物を私は悪意と同じものと思い、それが目の前に現れている。多分そんな感じなんだろうな。


「ひより、お姉ちゃんも一緒に行ってあげる」


「え? でも、これから塾でしょ?」


「ひより一人だと危ないよ」


「大丈夫、一人で行かない。お母さんとお買い物へ行く時に集めるから」


 お姉ちゃんは、それでも心配そうな表情で私を見る。うん、信用がないね、なんでだろう?


 その後、お姉ちゃんは渋りながらも塾へと出かけ、私はお母さんと買い物へと行く前に悪意を閉じ込める為のアクセサリーを作る。


「ひより、お買い物へ行くわよ」


「は~い」


 お母さんと玄関で警備開始スイッチを入れて、急いで外へ出て扉をしめる。


「中々慣れないわね」


「うん、急いで外に出ないとって慌てるよね~」


 お母さんと顔を見合わせて笑う。

 そして、お店へと向かいながらアイテムの様子を見る。


「どう? 上手く集まってる?」


 お姉ちゃんが、私がしようとしている事をお母さんに話ていたので、お母さんも此方を気にしながら歩く。


「まだ家の周りは悪意が少ないから今一つ? スーパーへ行けば集められると思うよ」


「そう、気を付けてね。良い物じゃないんでしょ?」


「うん、気を付ける」


 手を繋いで道を歩く。すると、また何処かからか視線を感じるけど、あえてお母さんには教えない。心配するからね。


 夕飯の話をしながら一緒に歩いていると、少しずつ悪意の濃度が濃くなって来ているのが見える。その為、ちょこちょことポケットに入れているアイテムへと視線を向けると、順調にビー玉の色が変化していくのが見えた。


「あれ? 不思議、てっきり黒色に染まると思ってたけど、赤色になっていくね」


 お母さんにアクセサリーに付けた薄っすらと赤色になったビー玉を見せる。


「あら、本当ね。ひよりちゃんが黒い煙、黒い煙って言うから、お母さんも黒色になると思ってたわ」


「もう少し色が濃くなったらビー玉を換える。だからちょっと止まってね」


 お母さんにそう告げると、手を繋いだ反対の手にアクセサリーを持って、次第に濃くなっていくビー玉を見ていた。


 ちょっと魔力を目に付与してみたらどうなるかな? お姉ちゃんみたいに邪妖精が見れるかな?


 私はそんな事を思いながら、目に纏う魔力を薄めたり、濃くしたりと変化させながら、何か上手な遣り方はないかと試行錯誤していた。


 その時、私の意識はアクセサリーと、そこに集まっていく悪意へと向かっていて、いつもなら普通に行っている周囲への警戒はまったくしていなかった。お母さんも同様に、色が変わるビー玉へと意識を向けていた。この為、正面から歩いて来る男に気が付いたのは、男が手にした刃渡り30センチくらいの包丁を私へと振り下ろそうとした時だった。


「・・・・・・え?」


 視線の先に自分へと迫って来る包丁を見ながら、咄嗟に何かする事も出来ずに私は立ち尽くしていた。ただ、私より一瞬早く男に気が付いたお母さんが、私を庇おうと繋いだ手に力を入れて引っ張るのを感じる。


「ひより!」


 私の体がお母さんの方に傾くけど、包丁が私に届く方が明らかに早い。


 これは不味いな、失敗しちゃった。また見られちゃう。


 そんな事が頭を過った。包丁は私の頭の寸前で、まるで何か硬い壁にぶつかったかのように撓んで折れ、弾け飛んだ。ついでに、その襲撃犯も空高く吹き飛んだのだった。


「えっと、た~~まや~~?」


 私は思わず、小さくそう呟きながら現実逃避をしていた。

中々アイテム作成までいかないわ・・・なぜ?


ブックマーク、評価、ありがとうございます。


面白いな、続きを読みたいなと思っていただけた方は、ぜひ宜しくお願いします。

m(_ _)m


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[良い点] >>お姉ちゃんは、それでも心配そうな表情で私を見る。うん、信用がないね、なんでだろう? そりゃあ……ねえ。 うん。 (思わず笑いそうになった) [一言] 先生、以下はたぶん × 魔力使…
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