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134/135

134:来るのが遅いですよ!

誤字脱字報告ありがとうございます。

「は、は、は、は」


 肩から激痛が断続的に襲って来て、痛みに体が勝手に動くのですが、すると更なる痛みが襲ってきます。

 特に右肩から呼吸がまともに出来ない程の痛みが襲ってきて、魔法を使用する事すら出来ません。

 涙に滲む目で、それでも敵の状況、お姉ちゃん達の状況を見定めようとするのですが、涙が次々と溢れて来て周りを見る余裕すら無いのです。


「ひより!」


 お姉ちゃんの声が聞こえます。でも、そちらを向く事も出来ずに私は体を丸めて痛みに耐える事しかできませんでした。


「その娘を確保するのだ!」


 指摘されているのが私なのか、それともお姉ちゃんなのか。

 ただ、このままでは不味い、ただそれだけは判ります。


 脱臼が此処まで痛いなんて・・・・・・


 無理な態勢で発砲した反動で肩が脱臼した事は推測がついています。ただ、その後の転倒で右肩は更に酷い状況のような気がします。今この状態で何が出来るのかという問題はありますが、それでも此処でただ倒れているなんて私の矜持が許しません。


「い、痛いよう」


 うん、矜持では痛みは何ともなりませんでしたよ。

 良くテレビとかで自分で脱臼した肩を填める人人とかいますが、馬鹿ですか? 出来る訳ないのです。

 起き上がる事すら不可能なのです。


「ヴォン!」


 私の傍からシルバの鳴き声が聞こえて来ます。もしかしたら私を守ってくれているのでしょうか?

 必死に痛みに耐えながら何とか魔法を発動しようとするのですが、集中できずに発動に漕ぎつくことが出来ません。

 その間にも、周りではシルバの鳴き声や唸り声が聞こえて来ます。

 それ以外にも、佳奈お姉ちゃんの声も聞こえてくるのですが、佳奈お姉ちゃんの声は不思議といつもより感じが違う気がします。


「ひより、ごめんね、遅くなったわ、治癒!」


 お姉ちゃんの手が肩に触れてじんわりと温かい魔法が体に溶け込んでいきます。そして、際限なく襲って来ていた痛みが一気に和らぎました。


「どう? 痛みは引いた?」


「うん、お姉ちゃんありがとう」


 涙で滲む視界の中にお姉ちゃんの顔が見えます。

 そんな私の涙をハンカチで拭いてくれたあと、ギュッと抱きしめて頭を撫でてくれました。


「ごめんね、もっと早く駆けつけたかったんだけど、シルバが頑張ってくれたおかげで何とかなって良かった」


 視線を周囲へと向けると、至る所で人が倒れているのが見えました。


 シルバはそんな倒れた人の間をトコトコと歩いてはバチバチと電気を纏った足でぺしっと叩いて回っている。叩かれた者達はそこで感電して気絶しているようだけど、あれは遊んでいるのでしょうか? それとも、怒っているのでしょうか? 良く判りません。


 痛みも治まってやっと余裕が持てたので改めて今の状況を確認すると、神主さん達が倒れている人達を何かで縛っているのが見えます。どうやらシルバは縛るまで時間を稼ぐ為に麻痺させているようです。決して今まで通じなかった電気ビリビリを楽しんでいるのでは無いと思います。


 そして、佳奈お姉ちゃんは何故かまたもや魔女っ娘ちびっ子バージョンになっていました。


「変身しなおしたらこうなっちゃったの! 仕方が無かったの! あと、なぜかこっちの方が力が強いのは何で?」


 魔女っ娘はやはり適正年齢的な外見が必要なのかもしれません。

 ただ、本当に、これで本当に一段落みたいです。道の向こうから先頭を歩いて来るのはお爺ちゃんです。

 もう少し早く来てほしかったという思いはあるのですが、それでも、これでもう大丈夫だという安堵の思いが強いのです。


「すまん、遅くなったわい!」


 お爺ちゃんが周りの状況を見て厳しい眼差しをしています。

 そして、私達に気が付くと急いで私達の所へやってきました。


「無事じゃったとはとても言えん状況みたいじゃの。儂らのミスじゃ、すまんかった」


 そう言って深々と頭を下げるお爺ちゃんですが、そんなお爺ちゃん達の恰好も明らかに戦闘を行ってきた様子が伺えました。


「お爺ちゃん達は無事ですか?」


「おお、儂らは何と言っても人数がおったからな。しかし、儂らの方にもある程度の人数が来たのじゃが、此方もこれ程の動員がされておったとは。改めて思うが、時間の流れがズレておるのは厄介じゃの」


 私達が出発してしばらくすると、アメリゴ軍が政府の許可証を持って現れたそうです。ただ、宗教分離が強い意味で残っている為、出雲大社の敷地内は自治を認められておりアメリゴ軍の立ち入りを禁止できるのですが、逆に周囲を包囲されて身動きが取れなくなったそうです。


「もっとも、その後、新たに我々寄りの役人が現れたのじゃが、押し問答で話が進まんでの」


 その後、日ノ本軍が現れアメリゴ軍の包囲を解除させたそうです。ただ、この時に問題となったのが日ノ本における政治に影響力が強い仏世会と呼ばれる仏教団体です。現在の仏教の在り方を憂いて、かつての仏教を復活させるとの思いが強い集団なのですが、問題はそこに僧兵思想が組み込まれているんだそうです。


「ここ100年で生まれた新興宗教なのじゃがの、異様に若者に取り入るのが上手いのじゃ。まあ仏教自体が若者に拒絶されておるともいえるがの。なんじゃ、線香臭いじゃったかの?」


「いえ、そこは辛気臭いだったかと、どちらかと言うと葬儀以外の活動があまり目立ちませんので」


 お爺ちゃんのお弟子さんがそう言ってフォローのような、フォローじゃないような言葉を付け加えます。


「神道はええのお、巫女などおって華やかじゃの」


 とても仏教の偉い人の発言とは思えない発言です。そもそも、お爺ちゃんの所って女人禁制じゃなかった?


「僧正、冗談はそれくらいとして、まずは皆さまを休める場所へとお連れしませんと、今回の計画は笊でした。情報が何処かから駄々洩れだったようです。そこもしっかりと確認を」


「千里眼で見つけられたのでは? てっきり追いかけて来たアメリゴ軍の仕業かと思っていたのです」


 お姉ちゃんの言う様に、わたしもてっきりそうなのだと思っていました。

 その為、アメリゴ軍は黄泉の国への入口も封鎖していたのだと、それが違うのでしょうか?


「この国は日ノ本です。いくら同盟国とはいえ此処までの勝手が出来るはずがありません。それに、日ノ本軍に仏世会ですか、呆れて溜息しか出ません」


 このお坊さん、結構若いような気がするのですが毒舌ですね。言いたいことは100%同意ですけど。


「まずは嬢ちゃん達が動けるようにさんといかんさね。あと、佳奈、がんばったの」


 お爺ちゃんの後ろからひょっこり現れたお婆ちゃんが佳奈お姉ちゃんを見て、嬉しそうに頭を撫でます。

 佳奈お姉ちゃんは思いっきり照れ臭そうですが、ちびっ子サイズなので微笑ましい光景なのです。


「ひより、肩の状態はどうなの? 脱臼って治癒で治るのか不安だったんだけど」


「うん、痛みはもう無いよ。わたしも肩を填めてからしか駄目かと思ったけど、不思議だよね」


 肩を上に動かしてみますが問題なく動きます。

 どの段階で無事に関節が嵌まったのか良く判りませんが、痛い思いをしないで済むならそれに越したことは無いのです。


「ひより嬢達には苦労をさせてしまったの。榊や日坂で押さえきれんとはのう」


 お爺ちゃんも神主さんを信頼していたみたいですが、神様が出て来てはどうしようもないと思うのです。

 ある意味、黄泉醜女さん以上の大物が出て来なくて助かったとも言えます。呪いの言葉を言われでもしたらと思うと背筋が凍ります。


「賢徳僧正、無様を晒しました。少々自分を過信していました」


 一通りの処理が終わったのでしょうか、神主さんが此方へとやって来ます。


「なに、漂っておる瘴気を見れば余程の事があった事はわかるでの。ただこの場を浄化せねば後々面倒な事になりそうじゃの」


 そう告げるお爺ちゃんですが、まだ魔力に余裕が出ていない私は瘴気を視認する事が出来ません。微妙に悪意とは違うみたいです。


「黄泉の国の気配さね、それこそ死者が集まりかねんさね」


 そう言ってお婆ちゃんも溜息を吐きます。


「私とお姉ちゃんの浄化を使うにしても今日は無理ですよ? 無理しすぎて魔力の回復速度が異様に遅いのです」


 魔力の回復って当たり前ですがその時の健康状態にも影響されるのです。体も心もボロボロの状態では回復する物もしなくなっちゃうのです。


「今は儂らの結界で閉じておくくらいしか出来んの。儂らもちと無理をしたでの」


「そうですね、まずはひより嬢達の御両親がいる場所へと向かいましょう。流石に今回は堪えました」


 神主さんも苦笑を浮かべ、私達は移動をする事になったのですが。


「すみません、まだ立てません」


 安心して力が抜けてしまった私は自力で立ち上がる事が出来なくなっていたのでした。

小 春:「これでやっと休めるのね」

ひより:「お姉ちゃん、お家に帰るまでが遠足だよ?」

小 春:「不吉な事言わないでよ!」

ひより:「だって、終わったと思ったら次が来たもん」

小 春:「否定できないけど、まずはお風呂でさっぱりしたい」

ひより:「ひよりは寝たいのです」

南 辺:「・・・・・・親に早く会いたいとかじゃ無いのね」

小春、ひより:「・・・・・・(怒)・・・・・・」


その後、作者を見た者は・・・・・・

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