133:敵は来るけど味方は来ない
誤字脱字報告ありがとうございます。
神主さん達が黄泉醜女さんを引き付けてくれているので、漸くですが休むことが出来ます。
ハッキリ言って手足はガタガタです。ぷるぷるしています。命が掛かっていたからの火事場の馬鹿力的な何かで、限界以上の力を出し切った気がします。
「はぁ、はぁ、はぁ、スー、ハー、はぁ、はぁ」
さっきから呼吸を整えようとしているのですが、まったく整う様子がありません。心臓だって物凄い速さで鼓動しているのが判ります。
「ひよりはゆっくり休んでなさい。時間さえあれば私がやれるわ」
お姉ちゃんはそう言って瞑想しています。恐らく私の息遣いを耳にして声を掛けてくれたんだと思います。
そして、私の横では私以上に悲惨な格好をした佳奈お姉ちゃんが樹に凭れ掛かって休んでいます。魔女っ娘のマの字すらないボロボロな様子ですが、必死になって私達から意識を逸らそうと頑張ってくれたのです。魔女っ娘ステッキも途中でポッキリ折れちゃってますし、佳奈お姉ちゃんじゃなければ怖くて向かっていくなんて出来なかったですよね。
「フー、フー、フー」
何とか呼吸が整ってきたので急いで瞑想へと入ります。
神主さん達への信頼がなければ、怖くて目を瞑るなんて出来ません。もっとも、神主さん達が張った結界を感じ取る事が出来るからこそ、それが有る限りは大丈夫だと思えるのですが。
「よし、2回くらいはいけるかしら? あ、佳奈はそのまま休んでて。神主さん達もいるから大丈夫よ」
「うい、ごめん。任せるわ」
お姉ちゃんが早くも瞑想を解いて立ち上がります。
それに合わせて佳奈お姉ちゃんもロボットか何かの様に立ち上がろうとしますが、お姉ちゃんはそれを止めたようです。
私の中の魔力はまだ浄化一回分強くらいしか回復していないですね。体力が落ちすぎて回復速度が低下しているのを感じます。その為、お姉ちゃんに何か声を掛けたかったのですが、今は瞑想を続ける事にしました。
「距離に気をつけなさい、焦らず、あとは時間さえかければ勝てます!」
神主さんの声が聞こえて来ます。うん、お姉ちゃんに続いて私が復帰すればまず負けは無いと思うのです。ただ、未だに黄泉醜女さんは頑張っているみたいですが、もし黄泉醜女さんの動きがもっと早かったら私達はとっくに全滅していたかもしれませんね。
「はぁ、体中が痛いわ。か弱い乙女に何って無茶させるのよ」
横でぶつぶつと呟いている佳奈お姉ちゃんですが、どうやら起き上がって参戦するみたいです。
「杖折れちゃったから発動効率がすっごい悪いのよね」
そんな事を言いながら、どうやら身体強化の魔法を纏ったみたいです。
肉弾少女と命名しましょう。どう考えても魔女っ娘の戦い方じゃないですし、特にドロップキックは無いと思いますよ。そんな事を考えている内に、私の魔力も何とか浄化2回分くらいは溜まりました。
「はぁ、佳奈お姉ちゃんじゃ無いけど、このまま寝たい。もしくはお風呂に入りたい」
そう言って目を開けると、目の前には・・・・・・倒れ伏した黄泉醜女さんがいました。
「・・・・・・あれ? 叫び声とか聞こえなかったよ?」
薄っすらと滲む様に消えていく黄泉醜女さんを見ながら、そういえば神主さん達の結界以降、戦う音とかが一切なかったのに今更ながらに気が付きました。
「えっと、出遅れました?」
最後のクライマックスにただ瞑想して座っていたのです。
浄化だって1回くらいは使えたので、最後の留め! とか出来たはずなのです。
それなのに、目を開ければすべてが終わった瞬間と言う何とも間抜けな状況? いえ、恙なく無事に終わったのですから歓迎すべき事なのですけどね。
「よかった、また魔力が無くなっちゃったわ」
そう言ってお姉ちゃんは腰に手を当てて大きく深呼吸します。
神主さんは再度岩の状態を確認しに向かい、他の人達は倒れているアメリゴ軍達の状況を確認していますが、やはり生存者の数は厳しそうです。
「こちらの日ノ本軍の者達は幸いにして重傷、重体ではありますが息はあります。魔力が戻り次第治療をお願いできますか?」
日坂さんが日ノ本軍と言う後から来た人達を怪我などの度合い毎に並べて私達に頼んできます。
「う~んと、治す意味はあるのですか?」
この人達がどういう立場で、何のためにやって来たのかは判りません。ただ、人を殺傷できるだけの武器を持っていた事は確かです。もっとも、黄泉醜女さんには通じませんでしたけどね。
「武装解除は致しました。見た所基本装備ですから、隠し武器も無いでしょうし一応は日ノ本の者ですのでお願いできればと思います」
そう言って深々と頭を下げる日坂さんですが、まあどちらも公務員という点では同じですしね。
「治癒!」
今できるのは2名が良い所なので、重体で命が危なそうな人から二人を選んで治療魔法を掛けます。
ただ、私の治癒魔法はお姉ちゃん程には強くないので一命は取り留めても再度治療が必要だとは思います。
「さて、どうやら賢徳僧正達もようやく麓まで辿り着いたようです。ここで少し待ちましょう」
死体や病人がいる所で休憩と言うのも落ち着かないのですが、これ以上移動するのも体力的にも厳しいのです。私達は集まって瞑想に入るのですが、本来は所持していた荷物が無い為に喉の渇きすら癒す事が出来ないのです。
「あそこの神社に荷物置いて来たけど、よく考えたらリュックの中の食べ物をばら撒きながら逃げた方が楽だったんじゃない?」
「そうよね、とくにあの黄泉の人達ってすっごく食い意地張ってたわよね。絶対に撤退の仕方ミスしてるわよね」
お姉ちゃん達の会話に頷きながらも私は黙って魔力回復をしています。
魔力さえ回復すれば一応お水だって出せますから。今はすっごく喉が渇いてるのです。口の中がカラカラじゃなくネトネトなのです。
疲れたよ~、喉が渇いたよ~、お風呂入りたいよ~
雑念ばかりが頭を過るので、中々魔力が回復していかないのですが、ここまで疲れてしまっていると仕方がないと思います。ただ、それでも怪我人もいるので魔力は回復させないとですし、恐らく私達の守りも剝れているので早急に何とか対処しないとですよね。
瞑想どころかウトウトし始めた所で、この場所へと来る道の方から人の声が聞こえて来ました。
「うにぃ、お爺ちゃん達?」
ハッキリ言って頭が働いていないのです。
視線を声のした方向へと向けると、どやどやと人がやって来るのが見えます。恰好からしてお爺ちゃんの所の人っぽいのです。ちなみに、魔力の波長すら見えて無いので敵味方判別が作動していませんが。
「なるほど、このタイミングで来ますか。下手すると挟撃されますよ?」
神主さんの声が子守唄の様に・・・・・・あれ? 何か変じゃないかな? そう思って目を開けると、なるほど、どうやら追加の厄介事の様です。
「伊藤家の姉妹をお渡し頂ければ良いのです。既に反撃するだけの力も残っていないでしょ?」
うん、お坊さん何ですよね。頭がつるつるですし、袈裟まで着ています。ただ、どうやら厄介事が次から次へとやってくるのですが、今年は厄年だったでしょうか?
「この人達は敵なのですか?」
「厳密には彼らも日ノ本の能力者で仲間なはずなんですがね」
ただ、相手は10名以上ですか、ちょっと不利ですね。ただ、お爺ちゃん達が此方へと向かっているんですよね? ぜんぜん間に合ってないのですが。
ふらふらする頭で、横に置かれている物を手にします。
魔力なんてぜんぜん回復してないですし、神様はともかくとして、人相手には果たしてどうなのでしょう? という事で、私は起き上がれないので片膝立ちをして引き金を引きましたよ。
パパパン パパパン
「およ? 連射じゃ無いのですね。数発発射したら自然と止まるのです」
武装解除した兵士の方達の銃が横に置かれていたのです。で、魔力がないなら物理でいいんじゃない? の精神なのです。ちなみに、某映画の制服を着た女の子の様に撃ちまくる予定が崩れましたが。
「ば、ばかな、術者が、銃を使う、なんて」
素人の私がヘッドショットなんて無理ですから思いっきり的の大きな胴体を狙いました。
ただ、命中したら後ろへ吹っ飛ぶのかと思ったのですが、前の人を貫通して後ろの人にも命中したみたいなのです。
「佳奈、銃よ! 銃が効くわ!」
傍らで相手を睨みつけていたお姉ちゃんが佳奈お姉ちゃんへT声を掛けます。
地面に並べられた武器に一番近い位置に居るのは私達ですからね。ただ、指揮官っぽいお姉言葉で話す人はお腹を抱えて、ついでに咳込んで口から血を零しています。
「無力化しろ! ただし殺すな!」
誰かが叫ぶのが聞こえましたが、とにかく私は引き金を引きます。
カチッ、カチッ
「およ? 弾が出ませんね・・・・・・ひよりちゃんピンチなのです?」
兵士さん達は黄泉醜女さんに思いっきり撃ちまくってましたもんね。ある意味、よくさっき弾が残っていたと言うべきでしょうか?
「これ引き金硬くて引けないんだけど!」
「弾が出ないんだけど、何よこれ」
佳奈お姉ちゃんが拳銃を手に構えていますが、どうやら引き金が引けないみたいです。
で、お姉ちゃんはお姉ちゃんで私と同じ銃を手にして引き金を引いたみたいですが、弾が出ないみたいです。ただ、それで文句を言われても困っちゃいますよね。
「佳奈、武器よ」
「小春、弾が無いとしても銃口をこっちに向けないでくれる? 真面目に怖いから!」
そう言って弾の入っていない銃を逆手に佳奈お姉ちゃんに渡すお姉ちゃんですが、佳奈お姉ちゃんにこれで殴れという事でしょうか? 佳奈お姉ちゃんも素直に受け取るので、何だかなという気にはなります。
「銃弾など打ち払ってくれるわ!」
何か暑苦しい、どこぞのボディービルダーしてたら太っちゃいましたみたいなお坊さんがこっちへと突っ込んできます。ただ、神主さん達も何か人では絶対できないような動きで戦ってるのですが、さっきもこんな感じだったのでしょうか?
「うっさい! 邪魔なの! どっかいって!」
ブンブンと銃を逆手に振り回している佳奈お姉ちゃんです。ただ、ボロボロの衣装が結構際どい感じですよ? ちょっとセンシティブに引っかからないですか? ただ、突っ込んでくる人達って全然佳奈お姉ちゃんのそんな姿に気を取られる様子が感じられませんね。
「シチュエーションはともかく、魅了するには色気が無さすぎたのです?」
「何か悪口言われた~~~~!」
佳奈お姉ちゃんは今までで一番のスイングで肉達磨さんを強打します。ただ、その視線は怖いのであっち向いてください。
で、私はと言うと、並べられている武器の中から見た事のある物を手に立ち上がりました。
「ぬふふふふ、これは見た事があるのです。このピンを抜いて投げるのです」
良く映画とかでも見た事があるのですよね。
「1,2,3 ポイッ」
ピンを抜いて3秒数えて投げます。
「な!、ちょっと待て小娘!」
佳奈お姉ちゃん達とは違う方へ投げたのですが、肉達磨さんが私の行動に気が付いて叫び声を上げます。
併せて、転がって来た物に気が付いた人達が大慌てで落下地点から逃げ出しました。
「・・・・・・何も起きないですね?」
みんながジッと私が投げた手榴弾へと視線を向けますが、一向に爆発する気配がありません。
「ん? あの手榴弾、安全レバーが解放されていない?」
「安全レバー?」
手榴弾に詳しい人が居たのか、何か理由に気が付いたみたいですが、どうやら転がった手榴弾は何やら爆発しないみたいです。
「これは判るもん!」
佳奈お姉ちゃんが手にして撃てなかった拳銃へと私は慌てて飛びつきます。
そもそも、結界を張る事の出来ない現状では、近寄られたら絶体絶命なのです。
「ここをこうして、これで・・・・あっ」
「ガキが舐めおってからに!」
振り向いた先には拳を振り上げたお坊さんが居ました。
その拳が振り下ろされるのを見ながら、私は引き金を引きます。
パン! ゴキッ
「うぎゃーーー」
拳銃を相手に向けるだけの余裕が無かった私は、銃口がまだ斜め下を向いた中途半端な状況で引き金を引きました。
その為、銃の反動を逃がす事が出来ず、まじてや抑え込むことも出来ずに後ろへと引っ繰り返ります。そのお陰で振り上げられた拳は回避できたのですが、私は両肩に走る痛みで転げまわります。
「あ、あ、あ」
両肩が外れたのが判りました。そして、倒れた衝撃と激痛で呼吸が上手く出来ません。それでも必死に相手を見ると、相手もどうやら泡を吹いて内股になり蹲って気絶しているようでした。
小 春:「ちょっと酷すぎないかな? 敵ばっかりだよ?」
ひより:「世の中なんてそんなものだよ?」
小 春:「もう少し味方がいても良いんじゃないの?」
ひより:「だって、本来の予定では数日は黄泉の国に居たはずだし、予定が狂いまくってるんだよ?」
小 春:「ううう、否定が出来ないけど納得が出来ない」
ひより:「それにね、作者が戦闘シーンを試行錯誤して試しているんだよ?」
小 春:「ぜんぜん進歩してないわよね?」
南 辺:(;~;)