131:魔女っ娘佳奈ちゃん大活躍
誤字脱字報告ありがとうございます。
覆いかぶさったお姉ちゃんはギュッと目を閉じて恐らく衝撃に備えたのだと思う。
ただ、予想された衝撃は訪れず、背後では佳奈お姉ちゃんの勇ましい声と、シルバの鳴き声が聞こえて来るのみです。
「助かったの?」
起き上がり自分の背後へと視線を向けたお姉ちゃん。でも、そのお陰で私も何が起きたのかがようやく把握する事が出来ました。
「あたしの親友に何してくれとるんじゃ~~~」
何時の間にか関西の方の方になったのか、変な関西弁で怒鳴る佳奈お姉ちゃんが全身ボロボロにして立っていました。
そもそも、魔女っ娘は魔女であって肉弾戦が得意な訳が無いのです。一部例外は存在するのかも知れませんが、佳奈お姉ちゃんは武道の武の字も知りません。
それでも、先程から目の前にいる黄泉醜女さんに対し思いっきり杖で殴り掛かっています。
ただ、当たり前ですがその攻撃によるダメージはほぼゼロの様子で、振り回される腕に弾き飛ばされ、時には自身でドロップキックみたいな事をして自爆して、本来は魔法で保護され丈夫なはずの魔女っ娘の衣装すらボロボロになっています。
「か、佳奈!」
「小春、早くひよりちゃんを避難させて! 悪いけどそんなに持たないわ」
思いっきり肩で息をしている佳奈お姉ちゃん。そもそも体力的にも結構限界だったと思います。
火事場の馬鹿力的な何かでブーストしている状況だと思うのですが、すでに限界はとっくに過ぎているんだと思います。
「ひより、立てる?」
「が、頑張る」
相変わらずプルプルする足を何とか叱咤しながら、私は立ち上がろうとします。
お姉ちゃんはそんな私を自分の肩で支えながら、何とか場所を移動しようと必死です。
「入り口は塞げたのかな?」
神主さん達が参戦するだけでも時間は稼げると思うのです。
お爺ちゃん達には連絡が取れているのです、きっと駆けつけてくれると思うのです。
「まだみたい。でも、日坂さんが何とか接近を阻んでる感じかしら」
ただ、4人掛かりで押さえていた岩を3人で押さえるのに不安はあります。それでも、接近してくる黄泉醜女さんを牽制しない事には岩に封印を掛ける事すら出来ないのでしょう。
「ひよりは、ここで休んでて。私は佳奈の援護に行ってくる」
樹の根元でありながら日差しがしっかり当たる場所に私を座らせて、お姉ちゃんは走って佳奈お姉ちゃんの援護へと向かいました。
佳奈お姉ちゃんは先程以上に服はボロボロになり、土に汚れ、とても魔女っ娘とは呼べない恰好になりながらも、必死に私達を守ろうとしてくれているのです。
「こ、こういうのって、無理ゲーとか、言うんだよね」
荒い息継ぎをする佳奈お姉ちゃん。黄泉醜女さんは体格からして武闘派でしょう。まだまだ元気が有り余っているように思えます。ただ、幸いにして一つ一つの挙動が大きく、左程速くない為に何とかなっている状態ですが、お姉ちゃんが参戦したのですが注意を分散する事も出来ていません。
「佳奈、ごめん。ぜんぜん脅威と思われてないみたいで」
そもそも佳奈お姉ちゃん自体もダメージを与えられていないのですが、その佳奈お姉ちゃんの攻撃以上にお姉ちゃんの攻撃は弱いのです。
「小春は魔力を、まず、回復、させて」
「わかった!」
小春お姉ちゃんは少し離れた場所で正座をして呼吸を整えています。
出来るだけ回復しやすい姿勢を取っているのでしょう。それが正座なのは少々腑に落ちませんが、私も漸く少しだけですが魔力が回復して来た感じがします。
「治癒」
自分の体に治癒魔法を掛け、今の状態を何とかしようとしました。ただ、私が魔法を使用した瞬間、黄泉醜女さんのターゲットは私へと替わったようです。
「あ、ひよりちゃん、逃げて!」
佳奈お姉ちゃんに対して一切の注意を払う事無く私へとターゲットを変えた黄泉醜女さんに対し、佳奈お姉ちゃんが再度自分へと意識が向くように後ろからステッキで幾度も殴っています。
「くぅ、全然相手にされてない」
真正面に立ち進路を遮断する事は出来ない為、どんどんと黄泉醜女さんは近付いて来ます。
「一応自分で治癒したから、お姉ちゃんは佳奈お姉ちゃんをお願いなのです!」
そう言って立ち上がるのですが、ギリギリの治癒の為かまだ両膝が笑っています。
「お前達なんかユーステリア様に比べたら全然怖くないんだからね!」
思いっきり黄泉醜女さんに指を突き付けて宣言をします。
実在する神様に驚きなど皆無なのです。ユーステリア様だって、しっかり実在されていたのですから。
ヨレヨレであっても、私と佳奈お姉ちゃんの2人でちょこまかと黄泉醜女さんの周りを的を絞らせないように動き回ります。そして、この段階でシルバが黄泉醜女さん以外の住人や兵士を狩りつくしてくれました。
「ヴォン!」
「シルバも手伝って!」
ある意味、私や佳奈お姉ちゃんよりはシルバの噛みつきなどの方が圧倒的に威力は高いです。
その為、動きをシルバの支援に変更しますが、黄泉醜女さんは未だに私が第一目標の様なのです。
それでも、あとはこの二柱を排除すれば今回の騒動は一段落するのだと思うのです。そしてここで漸く神主さんも参戦です。無事に岩を使った再封印が終わったみたいです。
「お待たせしました」
神主さんは私達にそう言うと、今までの鬱憤を晴らすかの如く太刀を引き抜き黄泉醜女さんへ切りかかりました。
ザザザザ
神主さんが持つ太刀が黄泉醜女さんの腕を滑る異様な音が響きます。
とても何かを切断しているような音ではなく、何かを擦り付けるような音に聞こえました。
「硬いですね、流石は太古の神という所でしょうか?」
黄泉醜女さんは神様の一柱なんですよね。
ただ幸いな事に信仰者の数は左程増えていないようなのですが、それでこれだけの力なのです。
神主さんも明らかに決定打となる攻撃が出来ていません。
「物理的な攻撃に対して耐性が凄いです。魔法か何かで対処できますか? 私達はもう魔力がすっからかんなんです」
お姉ちゃんが神主さんへと声を飛ばしますが、神主さんも中々有効な手段が見つからないようです。
「やはり黄泉の国の神ですから浄化が有効だと思いますが、大祓をするにも中々」
神主さんはそう言いながらも日坂さんに何か指示をしています。
ただ、そろそろ体力的に佳奈お姉ちゃんがヤバそうなのです。
「お待たせ! 治癒!」
魔力回復を行っていたお姉ちゃんが佳奈お姉ちゃんへと魔法を飛ばしました。恐らく良くて数回分の魔力しか回復していないと思うのですが、佳奈お姉ちゃんの状態を見て拙いと思ったのかな。
「小春、ありがとう! そっちへヘイトが行くから注意して!」
佳奈お姉ちゃんの指摘通りにお姉ちゃんへと狙いが替わります。
それでも、明らかに佳奈お姉ちゃんの動きが回復していたのです。この回復は大きなアドバンテージなのです。
「う~~~ん、魔女っ娘の服は戻らないんだね。魔法で作られてるのに回復しないんだね」
「別の意味でヤバいわね。レーティングが替わりそう」
「うるさい!」
「ヴォン!」
お姉ちゃんが右回りで黄泉醜女さんを躱します。それを追いかける様に向きを変えた黄泉醜女さんの頭に佳奈お姉ちゃんが全力でステッキを振り下ろしますが、まったくダメージを受けた様子が無いです。
更に回り込むお姉ちゃんを追いかけて向きを変える黄泉醜女さん、その際に完全に歩みを止めた為、私はその軸となっている側の膝の裏に佳奈お姉ちゃん直伝のドロップキックをお見舞いしました。
「おおお、魔女っ娘じゃないけどドロップキーーーック!」
うん、これだけ大声を出しても此方を見ない黄泉醜女さん。ただし、それは思いっきり悪手なのです。
なぜなら、ドロップキックが着弾した瞬間に今可能な魔力を注ぎ込んだ浄化魔法を送り込んであげたからです。
「ヴォオオオオオオ~~~~~!!!」
あ、着弾した左足がすっごい煙を発しています。
そして、ドロップキックの反動で引っ繰り返っている私をギロリと睨みつけます。
「あわわわ、ヤバいのです。退避ですよ」
四つん這いになって、急いで黄泉醜女さんから距離を取ります。
そして振り返ると、黄泉醜女さんは少し離れた所で引っ繰り返っているアメリゴ軍の兵士の方へと向かい始めました。
「拙いわ、武器を手にするつもりよ!」
さっきアメリゴ軍の兵士を思いっきりぶつけられましたよね。恐らくその時の事をしっかり覚えていて、同じことをしようと思っているのだと思います。
「さっきの、頭同士がぶつかってたら私死んでたかもなのです」
そして、慌てて黄泉醜女さんを挑発する様に視線の先で動くのですが、一向に此方へは向かってきません。
「うわ、一度こうだと決めたら絶対に変えないわ」
「そうね、でもやっぱり効果があるのは浄化なのね。それ! 浄化!」
背後から近づいたお姉ちゃんが、恐らく人であれば心臓があるだろう場所に背中から手を当てて浄化魔法を送り込みます。
「グゥオオオオオオ!!!」
背中どころか、体全体から一気に煙を発し始める黄泉醜女さん。腕をブンブンと振り回して私達を牽制します。
「今のでまた魔力が空になったわ」
「同じく空なのです」
申告をする私達ですが、動き回りながらでは魔力の回復速度は激減なのです。
この為、回復する為の行動をどちらが行うかに必要な事、次のターゲットにどちらがなるのか慎重に見極めようとしました。
黄泉醜女さんは全身から煙を発しながら、じっと私達を見ました。
今までと明らかに違う行動に戸惑いを感じながら、ただ煙が邪魔をして視線の先が良く判りません。
「何か今までと違うわ。注意して」
お姉ちゃんも違いを感じたようで、同様に少し距離を置くように下がります。
「グルルルル」
シルバがゆっくりと黄泉醜女さんの背後へと回り込みます。
ただ、シルバの今までの攻撃は一切ダメージを与えていません。しかし、恐らくシルバはダメージを受けている左膝を狙っているような気がします。
「ヴォオオオオオオ!」
「シルバ!」
雄たけびを上げて黄泉醜女さんが想定外にシルバへと覆いかぶさるようにして掴みかかります。
ただ、私達で言えば移動速度は最速のシルバは咄嗟に飛び下がる様にしてその攻撃を躱しますが、それすらも陽動だったのです。そのまま転がる様に動いた黄泉醜女さんは、離れた場所に転がっていたアメリゴ軍の兵士へと辿り着いていました。
「ヴォオオオオオオ!」
再度雄たけびを上げた黄泉醜女さんは、両手で兵士の足を持ちブンブンと振り回し始めました。
「あの人、生きてたとしてもヤバいよね」
私のいる場所からは兵士の生死は判断が出来ません。ただ、その生死を気にしている余裕もありませんが。もし黄泉醜女さんが棍棒でも装備していたら、私達はあっという間に蹴散らされていたかもしれません。そんな思いが過るほどに、鈍器を装備した黄泉醜女さんから感じるプレッシャーは数倍に膨らんだのでした。
小 春:「う~ん、魔女っ娘の衣装もダメージ受けるのね。あれって魔法じゃないの?」
ひより:「魔法で保護されてるけど、素材はあるんじゃないの?」
小 春:「どうなのかしら?」
ひより:「それより、問題はジャンルだよ!」
小 春:「ジャンル? どういう事?」
ひより:「全年齢型じゃなかったら色々とピンチなの!」
小 春:「大丈夫、佳奈に主人公をお願いして、私達はモブでいきましょう」