130:援軍はまだですか?
誤字脱字報告ありがとうございます。
「撃て!撃て!撃て!」
アメリゴ軍の人達は大混乱です。
銀の銃弾の御蔭なのか、黄泉醜女以外の死者達には銃弾は効果を発揮しているように見えます。
ただ、未だに入り口前に立ちふさがっている黄泉醜女の存在が非常に不気味なのです。
「ねぇ、気のせいかもしれないけど、今出て来た死者ってさっき銃で撃たれた死者と同じに見えるんだけど」
そう言ってお姉ちゃんが指さす先には、薄緑色の狩衣を着た比較的形状を留めた死者が太刀を振りかぶって前に進んで行くのが見えます。
「死者が死んだら何処に行くの?」
「・・・・・・まさか黄泉の国?」
「最悪なのです。無限ループに突入なのです」
どこら辺で復活するのかは判りませんが、再出撃してくる時間を考えるとそれ程遠くでは無さそうなのです。
「これは拙いですね。少々甘く見ていたかもしれません」
ただ、神主さん達はまだ切羽詰まったといった様子は感じられません。
「式はお爺ちゃん達に届いたのです?」
「はい、今頃は此方へと急いでいると思います」
よく考えたら黄泉比良坂の入口から出てまだ15分くらいしか経っていませんね。
その短時間の間に此処まで状況が悪化するのはある意味凄いのかもしれません。ただ、アメリゴ軍の方達はそろそろ限界じゃ無いでしょうか?
「銃声が散発的になってきたけど、アメリゴの連中弾切れ?」
佳奈お姉ちゃんの言う様に、まだ辛うじて陣形を崩すことなく戦っているアメリゴ軍ではありますが、どうやら銀の銃弾が無くなり始めているようです。
手に矛を持つ黄泉の国の兵士達は、ついにアメリゴ軍へと辿り着き始めます。
単発となった発砲音、そして、単発の銃弾では倒れることの無い黄泉の国の兵士達、ここで勝敗は決したと言えます。そして、ついに黄泉醜女が入口の前から動きました。
「うわ、最悪。そういえば黄泉の国の神社でも思いっきりバレてたんだよね」
佳奈お姉ちゃんの言う通りに、黄泉醜女の内の一体が私達の方へと向かってきます。
「この神様、多分だけど私達を見つけた人と同一だと思う」
「しつこいわねぇ、浄化!」
お姉ちゃんが向かって来る黄泉醜女へと浄化を叩き込みます。そして、一切の回避行動を取る事無く、黄泉醜女は浄化魔法を突破してきました。
「浄化結界!」
これだけ時間を掛ければ浄化結界だって張れるのです。もっとも、それでどれだけ効果があるかは相手次第なんですが。
「ヴォオオオオオオ!」
お姉ちゃんの浄化と私の浄化結界、その相乗効果は流石の黄泉醜女さんも耐えきれなかったのか膝を付きます。追従するかのように後ろからやって来ていた兵士達は一気に消滅します。
ただ、この消滅がどれ程時間を稼げるかは不明なのですが、この状況を利用できなければ押し切られると思います。
「浄化!」
「浄化!」
私とお姉ちゃんの魔法がほぼ同時に黄泉醜女へと叩き込まれ、まるで発火したかのように全身から白煙を立ち登らせてそのまま消滅していく黄泉醜女を見ながら、それでも油断せずにその挙動を監視します。
「うわ! 最後もろ視線が合っちゃった。思いっきり笑顔だったよ」
「すぐ戻って来るよね、あの感じだと」
強敵を倒したと言った手応えなんか欠片も感じられませんよ。むしろタイムアタックしているかのような焦りの感情しか湧いてきません。アメリゴ軍へと突撃した黄泉醜女3柱はまさに無双状態でアメリゴ軍を蹴散らしていますが、黄泉比良坂の入口を塞ぐには今が最大のチャンスかもしれません。
「神主さん!」
黄泉比良坂の入口には、すでに神主さん達4人が蓋となる岩を動かそうと待機していました。
ただ、次から次へと湧き出て来る黄泉の国の住人や兵士達に阻まれ、蓋をするまでには至っていません。
「お姉ちゃん、浄化で、浄化!」
「わかったわ! 浄化!」
黄泉比良坂の入口に向けお姉ちゃんと二人で浄化魔法を叩き込みます。
浄化魔法で消えていく住人達、その一瞬の空白で神主さん達が岩を動かします。
「あああ!」
蓋が閉まるかと思った瞬間、その岩を内側から突き出された手ががっしりと掴み、4人で押し込もうとする神主さん達の力を凌駕するのでしょう、じわじわとこじ開けていきます。
「もう戻って来たよ!」
突き出された手の大きさ、サイズはともかく明らかに女性と思われるしなやかな指、さっき倒した黄泉醜女の腕に間違いがない気がするのです。
「そういえば、確か全部で8柱だから更に4柱いるのよね?」
「怖い事を言わないで!」
思わずお姉ちゃんを怒った私は悪くないと思います。
更には、アメリゴ軍へと向かっていた黄泉醜女の一柱が此方へと視線を向けるのを感じました。
「うみゅ~~~、ピンチなのです!」
思わずそう叫ぶ私ですが、今この場を凌ぐには蓋を閉めるしか無いのです。
「ファイアーボール!」
私の突き出した手からドッジボール大の炎の塊が、じわじわと広がる黄泉比良坂と岩の蓋との隙間へと吸い込まれるように飛んでいきます。
ここぞという時に、どうしても前世で最も使用していた魔法を使用してしまう。人とはそんなものです。
ただ、これが思わぬ効果を生み出しました。
隙間から奥へと飛んだファイアーボールは、たまたま抉じ開けた隙間へ体を押し込もうとした黄泉醜女の頭部へと見事に着弾したのです。その状況はひより達からは見えていません。それでも、着弾の爆発で吹き飛ばされた黄泉醜女の腕が岩から外れたのは判りました。
「よし、畏きも・・・・・・」
岩を入り口に設置した神主さん達が祝詞を唱え始めました。
その表情は真剣そのもの、必死に岩を抑えながらの詠唱ですが、傍から見ると何だかなぁといった感じなのです。
「祝詞・・・・・・長すぎなのです」
「そうね、まさかここに来て祝詞がいるなんて」
「ちょっと、二人ともそれよりもあれ不味いわよ!」
実は地味に花を降らせて黄泉の国の住人達を混乱させていた佳奈お姉ちゃんですが、その佳奈お姉ちゃんの指さす先には壊滅し倒れ伏したアメリゴ軍の兵士達と、それを振り回して明らかに遊んでいる黄泉醜女二柱。まあそちらは放っておいても良いとして、問題は先程の黄泉比良坂の入口へと視線を向けた一柱です。
「足止めするのです!」
何としても祝詞が唱え終わるまで守り切らないとなのです。
手持ち最後の真ん丸ダイヤさんに浄化魔法を込めて放り投げました。
「けっかいぃぃ?」
私が下手投げで投げた真ん丸ダイヤさん。それは放物線を描いて黄泉醜女さんへと向かっていたのですが、何を勘違いしたのか黄泉醜女さんは真ん丸ダイヤさんの大きな口を開いて飲み込んじゃいました。
「グゥオオオオオオ」
お腹を抱えて七転八倒する黄泉醜女さん。サイズはともかくぱっと見はそこそこの美人さんだけに、脂汗を流して苦しむ黄泉醜女さんの姿は同情を・・・・・・欠片も感じませんね。
「そっか、飲み込ませれば節約できたんだ。考えもしなかったよ」
併せて、祝詞が進むためか、入り口が塞がれたためか、空の様子が次第に通常へと戻って行きます。
空から陽光が降り注ぎ、その光に黄泉の住人達は次々と消滅していきます。
「あれって食中りになるんでしょうか?」
体力があるが故に消滅できずに苦しんでいる黄泉醜女さん。お腹を押さえてゴロゴロ転がる姿を見ながら私とお姉ちゃんはバシバシと浄化魔法をぶつけます。
「叩けるときに思いっきり叩くのです。そうしないと後悔するのです」
「何かすっごく罪悪感を感じるわ」
「「ヴォオオオオオオ!」」
そんな私達の耳に、重低音の何処かで聞いた叫び声が聞こえました。
「あ、気付かれました」
アメリゴ軍で遊んでいた黄泉醜女さん二柱が、お腹を抱えて蹲る黄泉醜女さんに気が付きました。
もう全身から煙を上げていて満身創痍の状態だと思うのですが、未だにしぶとく消滅しないのは流石です。ただ、回復力が未定なので復活されたら報復が怖いのですが。
「あっちの足止めまで手が回らないわよ! というか魔力もそろそろ危ない感じなんだけど!」
流石にここまで連続して魔法を使用していたのでお姉ちゃんはそろそろ魔力切れっぽいです。
まあ普段以上に魔力を注いでましたから、仕方が無いのではありますが。そういう私だってそこまで余裕がある訳ではないのですけどね。
「動きが思いの外ゆっくりなのです。だから回避重視でまずは目の前の黄泉醜女さんに止めを刺すのです」
体が大きい為なのか、動作は比較的ゆっくりなのです。併せて、なぜか神主さん達ではなく私達へと向かって来るのでこれを利用しない手はありませんというか、利用しないと後が無いのです。
「援軍まだなの~~~?」
お姉ちゃんがそう叫びますが、その思いはすっごく判るのです。
ちなみに、佳奈お姉ちゃんの名誉のために言っておきますと、フラワーシャワーの御蔭で黄泉の住人達は思いっきりフラフラしてて戦力になっていません。これは凄い事なのです。そもそも、効果のある攻撃呪文を佳奈お姉ちゃんは覚えていないですし、魔力量も少ないのですから。
そしてその佳奈お姉ちゃんを守る様にシルバは住人を相手に頑張っています。一度黄泉醜女へと体当たりして思いっきり跳ね飛ばされてからは黄泉の国の住人と兵士相手に頑張っているのです。
「ううう~~~、魔力尽きたよ!」
「佳奈お姉ちゃん、褒めた傍から何やってるのですか!」
「ふぇぇぇ、何で怒られるの! 頑張ってたよね! 出来る事頑張ってたよね!」
必死に自己弁護する佳奈お姉ちゃんですが、まあ幸いにしてもう黄泉の国の住人も、兵士も残りわずかです。だからと言ってそちらの対応を出来るほどに余裕は無いのですが。
「佳奈お姉ちゃんは必死に逃げ切ってくださいなのです! シルバは頑張って減らすのですよ!」
「ヴォン!」
うん、何か言葉が可笑しかった気もしますが、今はそれどころではありません。
漸く地面に倒れていた黄泉醜女さんにお帰り頂けたのですが、私の魔力も尽きちゃいました。
「早く大人になりたい~~~~のです!」
体が成長すればもっと魔力は増えるのです。でも、今は無い物ねだりをしても意味がありません。
ついでに、真ん丸ダイヤさんもすでに尽きているのですよね。
「ひより、何か方法とか無いの!」
「無いのです! あるとすればお日様なのです」
そう、いまや最大の武器は天から注がれる陽光。それこそ天照大御神のお力の象徴。
ただ、今ひとつ効果がショボいのは何故なのでしょうか? 頑張りが足りないと思うのです。
「うわ、怖いよこれ! 間近で見るとゾンビ怖い! 夢に出るよ絶対!」
佳奈お姉ちゃんが大騒ぎしていますが、昼間に戻った為でしょうか残っている住人さん達の動きも悪いので助かっているようです。油の切れたブリキ人形?
「そろそろ体力的にもキツイわね。ひよりは大丈夫?」
お姉ちゃんが声を掛けてくれるのですが、実はもうさっきから話をする体力も無いのです。
そもそも、私はすでに体力と言う面では黄泉比良坂を登る段階で結構限界だったのですよ。
「ひより、右!」
「え?」
目の前に迫る黄泉醜女さんへと意識を向けていたところ、視界の右側から何かがぶつかって来ました。
まったく視認も予想していない一撃に、私はそのまま吹き飛ばされ、飛んできた何かを巻き込んで2度、3度と跳ねながら転がります。
「かはっ、ゴホゴホ」
一瞬で息が切れ、そのまま地面に叩きつけられます。そして、手足は動こうとする意志に反乱を起こしてプルプルするだけで動いてくれません。動かせない四肢に代わり目だけを動かして何が起きたのか確認すると、私の横に気絶したアメリゴ軍の兵士が転がっていました。
「ひより! 無事なの! 治癒!」
お姉ちゃんが慌てて駆けつけてきますが、どうやら黄泉醜女が手近に転がっていたアメリゴ軍の兵士を私目掛けて投げつけたみたいです。
「お、お姉ちゃん、後ろ」
魔力が尽きているお姉ちゃんは治癒を唱えてくれましたが、相変わらず体には力が入らず魔法が発動した感じがしません。お姉ちゃんが私を抱き起そうとしますが、その間に黄泉醜女の一柱は私達へと接近していました。
「きゃぁああああ!!!」
黄泉醜女の振り上げられた腕にお姉ちゃんの悲鳴が周囲へと響き渡ります。
咄嗟にお姉ちゃんを突き飛ばそうとするのですが、起き上がる事も出来ない私に逆にお姉ちゃんが覆いかぶさって来ました。
「お、お姉ちゃん!」
「スーパーウルトラ魔女っ娘キーーーック!」
覆いかぶさって来たお姉ちゃんに咄嗟に何かを言おうとしたその時、佳奈お姉ちゃんの声が高らかに聞こえて来たのでした。
小 春:「シリアスさんの逆襲?」
ひより:「うん、頑張ってる感はすっごいあるのです」
小 春:「ただ、最後の部分でちょっとね」
ひより:「うん、コメディーさんの介入が酷いのです」