13:一応の収束?
誤字の指摘ありがとうございます。
翌日、お父さんは市役所へと向かい、私達はお母さんのお友達の絵美さんが来るのを待って移動です。
ちなみに、お父さんはこのホテルに明日まで連泊、だからフロント清算もしない。これもロビーに恐らく待ち構えているだろうマスコミ対策です。私達は絵美さんと連れ立って二組の家族の振りをして出かけます。
「すごいね、ぜんぜん気付かれてないね」
「そもそも顔写真が何処まで出回っているかでしょ?」
成程です。お母さんの装いも、私達の服装も、絵美さんが持ってきてくれた服で何時もとは大きく印象が違います。恐らく学校の友達が見ても気付かれない自信があるよ。
「それにしても助かったわ。ごめんなさいね、有給までとってもらって」
「別に良いわよ、何か理由でもないと有給なんか取らないもの」
絵美さんは態々お仕事をお休みして来てくれたそうです。今日は金曜日なので3連休、何処か本当に遊びに行こうかという話になって、なんとこれから映画を見に行きます。目の前のモールに映画館が付随してるので丁度良いのですよね。
で、私達が映画を見終わった頃にお父さんから連絡が入りました。
「そう、それで? うん、わかった、お願いね」
お母さんが電話でお父さんと話をしています。
「そっか、良かったわ、うん、今日は絵美の家に泊めてもらうから、うん、じゃあね」
「お父さんなんだって?」
電話を切ったお母さんにお姉ちゃんが尋ねます。
「市役所で紹介してもらった団体から弁護士さんも紹介して貰ったって。それで弁護士さんにアポイントが取れたから今から向かうそうよ。一応マスコミとかの対応にも慣れている弁護士さんらしいから期待できそうだって」
お母さんの表情にも安堵の色が見えます。
「良かったわね小百合、小春ちゃんもひよりちゃんもこれで安心できるわね」
絵美さんがそう言ってくれます。
本当にこれで落ち着いてくれたら良いなと思います。
「でもさ、その県警の刑事だっけ、そっちは気をつけてね。何となく胡散臭いから」
「そうね、それこそ映画の世界じゃないけど超能力者なんかいるのかしら?」
「そうねえ、まあ、ひよりちゃんみたいな子供もいるんだから居てもおかしくはないんじゃない?」
絵美さんはお母さんの親友で、私のことも知ってます。それこそ乳児の頃からお母さんの代わりにお世話をしてもらったりもしてたので、第二のお母さんと言っても可笑しくない存在なのです。
ただ、絵美お姉さんといわないと怒られます。ほっぺたを引っ張られます。うん、児童虐待ですねって前に言ったら言葉の暴力に対する報復よって言われました。理不尽な!
その後、お昼をそのままモールで食べて、夕飯の買い物をして絵美さんの家で、すき焼きを食べます。
「何かここ最近ご飯がすっごい豪華だね」
「その分苦労してるけどね」
うん、ごめんなさい。すき焼きが嬉しくて思わず感想を述べたら、お姉ちゃんから容赦ない突込みが来ました。
「美味しいものでも食べないと気がまぎれないわよ?」
お母さんもそう言って笑いました。
夜にホテルに戻ったお父さんから電話が来て、弁護士さんと無事に契約が出来たそうです。
ただ、子供の私には教えてもらえなかったのですが、結構なお金が掛かるそうで心配です。我が家だってそんなに裕福じゃないですもんね。なんせお母さん曰く小金持ちらしいですから。
翌日、みんなで朝から動物園に行って、3時頃に久しぶりの自宅へと帰りました。ちなみに、絵美さんとは動物園で別れます。絵美さんの存在を、今はばれない方が良いとの判断です。絵美さんが居ると楽しいのでお別れがちょっと残念ですが仕方がないですね。
「さあ、もうじき自宅が見えるけど心構えが出来てるかな?」
「うん、大丈夫」
「お返事しないでお家に駆け込むの」
お母さんがちょっとおどけた様子で私達に声を掛け、私達も返事をします。
「さあ、行きましょう」
そう言って道を曲がり、家の前が視界に入ると・・・・・・おお、誰も居ない。
「あれ? 誰も居ないよ?」
「マスコミの人がいるんだとおもってた」
思わずそう呟く私とお姉ちゃん。これって弁護士さんの効果なのでしょうか?すごいですね。
3人で首を傾げながら家に向かうと、お隣の南出さんが庭にいて、私達に気がつくと外に出てきました。
「伊藤さん、良かったわ。ひよりちゃんも大丈夫だった? 怪我はなかった?」
「あ、南出のおばちゃん、うん、怖かったけど大丈夫!」
私はおばちゃんにそう言って笑顔を見せる。このおばちゃんはあの時ずっと心配してくれてたし、今も私の姿を見てあきらかに、ホッとしている様子がわかる。
「南出さん、この度は色々とご迷惑をお掛けして」
「良いのよ、本当に災難だったね。でも、ひよりちゃんが無事で本当に良かったわ。今日、伊藤さんのお家は警備会社の工事してたでしょ? うちも工事が終わってから来てもらって警備会社と契約したの。あれ見ちゃうと怖くてねえ」
その後も南出さんと話をしていると、どうやら町内会のおばちゃん達が集まって我が家の前に居るマスコミの人に文句を言ってくれたらしい。被害者を精神的に追い込んでどうするんだって、それでも引き下がらない人には、その目の前で迷惑だって警察に通報してくれたらしい。
「おお、おばちゃん軍団強しだね」
南出のおばちゃんに聞こえない小さな声でお姉ちゃんがそんな事を言ってた。
うん、私もそう思う。
でも、そのおかげでマスコミの人は撤退したみたい。
で、家に入るとお父さんが苦笑を浮かべながら待ち構えていた。どうも南出のおばちゃんと話しているのに気がついていたけど家で大人しく待ってたみたい。お父さん南出のおばちゃん苦手だもんね。
「まあ南出さんの御蔭もあるが、弁護士の先生からも各マスコミに自粛要請が行ったからな。併せて被害者の会の人も同様に抗議文を送ってくれたみたいだ」
「そうなんだ、てっきりおばちゃんパワーかと思ってた」
「おばちゃんパワーの効果もゼロとは言えないがな。お父さんも家の中で聞いてたと言うか聞こえたんだが、それはもうおばちゃんたちの抗議はすごかったからな」
お父さんの表情からしてやっぱり凄かったんだね。今、ブルって身震いしたもの。
その後、落ち着いたので家の庭の確認をしたら、見事に結界は壊れてた。真ん丸ダイヤの結界ですら持たなかったみたいだね。
「ひより、どう?」
「うん、やっぱり結界壊れてる。あの犯人からの負担もあったし、人の出入りも多かったみたいだし」
「そっか、そしたら張り直しだね」
「うん、真ん丸ダイヤさん持ってくる」
未使用の真ん丸ダイヤモンドをおもちゃ箱の中から8個取り出して、そこに浄化の魔法を込めて持って降りる。これは、まさか泥棒さんもおもちゃ箱にビー玉と一緒にダイヤモンドがあるとは思うまい作戦なのです。もしこのダイヤモンドに気がつく人がいたら凄いですよね、それこそ鑑定とかの魔法を持ってそう。
「うん、これで結界は張りなおせた。でも、今回みたいなのは防げないんだよね」
今回の事では色々と考えさせられました。
「でもさ、こないだみんなで話し合ったけど、あまり変な事すると余計に目をつけられちゃうよね」
「うん、長時間展開の物理結界なんて以ての外だよね。もっとも、張れって言われても無理だけどね」
消費される魔力量がぜんぜん違うので、一瞬とかであればともかく、常時展開の物理結界なんかは無理です。
「そうすると、何かのトラップとかかなあ?」
「トラップ? 落とし穴とか?」
「うん、でもさひより、庭に落とし穴のある生活って嫌じゃない?」
「うん、嫌!」
そう言って顔を見合わせます。
「警備会社も頼んだし、とりあえず様子見しよ」
「うん、わかった」
対処方法としては、警備会社の人が駆けつけるまでどうやって耐えるかを考える方が良さそうですね。
ともかく、ここしばらく続いた騒動は、これで一応の解決を迎えたらいいなあ。
そんな事を思っていたその夜の夕飯の時、お父さんが我が家の警備について思わぬ提案をしてきました。
「それでな、警備会社の人との雑談で閃いたんだが、我が家で大型犬を飼うのはどうかと思ってな」
「え? 犬! 飼う! 飼いたい!」
お姉ちゃん大興奮です。もう目がハートの形をしていると言っても過言ではありません。
「その大型犬って誰が世話をするのかしら?」
うん、対極の位置にお母さんですね、ブリザードが噴出してますよ?前からお父さんは犬を飼いたいって言ってたけど、お母さんの許可が降りなかったんですよね。だから此処で何とかと言う所でしょうか?
「大型犬がいる家には警戒して泥棒や空き巣が入らないらしい。ほら、いくら警備を入れていても警備会社が駆けつけるまでには時間がかかる。大型犬に吠えられたら、襲われるかもと泥棒も躊躇するだろ?」
「あ、ひよりもそこは気になってたよ。どうやって時間を稼げば良いのかなって」
思わず私も同意しちゃいました。
前のお犬様騒動(お姉ちゃんが友達の家の犬を見て、誕生日プレゼントに犬が良いと大騒ぎ)でお父さんを味方につけ、更に私を味方に付けようと動いたお姉ちゃんに対し、あくまでも中立を貫いた私の思わぬ参戦に今日はお母さんも動揺する。
「でも、散歩とか大変なのよ? ましてや大型犬なんて」
「あたしも手伝うよ、もうじき中学生になるんだもん」
「ひよりも手伝う!」
我が家の子供は比較的有言実行なので、どこの家庭でもあるような言うだけで手伝わないなどは発生しない。それでも、前回認められなかったのは、子供だけでは危険との判断だった。それも、中学生ともなれば変わってくる。
「少し時間を掛けて考えましょう。一つの命を預かる事になるんですからね」
その後の攻勢に抗し切れず、お母さんはとにかく今は先延ばしを図ったようです。ただ、これはお母さんの負けが見えましたね。
漸く事件は一段落? ただあの警察官はまだ出てこないのでどうでしょう?
家に犬が来ることになりそう?
あと、犬以外にも家の外での防犯は?
ひよりの思考錯誤がはじまる・・・・・・かな?