129:黄泉からの侵攻
誤字脱字報告ありがとうございます。
「シールドが一撃しか持たないのです」
もしこれが連続で飛んで来たら全滅も有り得るというか、全滅一直線ですよね。
ただ、倒れている4人の大人を引きずっていけるほど私達は力持ちじゃないのです。
「日坂たちは見捨ててください、ひより嬢達ははやく此方へ!」
神主さんの声が聞こえてきますが、はいそうですかと見捨てる事が出来れば苦労は無いのですよ! お姉ちゃんが出来る訳が無いじゃ無いですか!
「息はしてるわ! でも意識が回復しない!」
「小春、状態回復魔法とか無いの?」
「判んないけどやってみる!」
お姉ちゃんと佳奈お姉ちゃんが必死に日坂さん達の蘇生を試みています。ならば私がやらなければならない事はその時間を稼ぐ事です。
「という事で、シルバ、蹴散らすのです!」
「ヴォン!」
腐っても神獣なのです。それに、未完成でも無いので某巨大なドロドロさんとは違うのです。
視線の先に明らかに帯電していますといった様子の蛇? 龍? が先頭に此方へと向かって来るのが見えますが、そこに向かって走るシルバも体を発光させ、その体から稲妻のようなものを発しているのが見えます。
「そういえばユーステリア様も雷大好きだよね」
思わずそんな言葉が漏れますが、とにかくこちらも持っている真ん丸ダイヤさんを使って目の前に多重結界を展開しました。もっとも準備も材料も不足しているので多重と言っても2重にしか出来ていません。
颯爽と飛び出し、イカズチの神の前に居た黄泉の国の兵士を易々と蹴散らすシルバ、そしてその勢いのままにイカヅチの神へと飛び掛かりました。
「キャウ~~~ン!」
「うん、思いっきり弾き返されたね。何となくそんな気はしてたよ?」
黄泉の国と言う相手のホームグラウンドで、幾ら神獣と言えどこの世界では新参者も良い所のユーステリア様、相手は太古から語られる神様の一柱だもんね。これで勝てたらどんだけって思うよ?
ただ、シルバが稼いでくれた時間は決して無駄にはなっていないのです。出雲の人達の内、日坂さんともう1名の人が意識を取り戻したため、私達は何とか神主さんの言う仕掛けの後ろまで撤退することが出来ました。
「シルバ、大丈夫?」
お姉ちゃんが戻って来たシルバを気遣って撫でながら様子を見ていますが、そこは流石に神獣です。見た所まったくダメージは無さそうなのです。
「それでは起動します」
神主さんが小さなミニチュアの祠を壊します。すると、その中にはミニ薔薇かな? 小さなバラの花の植木が入っていました。
「ここからは急いで黄泉比良坂を脱出します」
そう言って此方へと走って来る神主さんの後ろでは、恐ろしい勢いでミニ薔薇が成長していきます。
私が見ている少しの時間で既に道を塞ぎかけていました。
「あれは何なのです?」
「瘴気を浄化する為に作られた植物の一種です。薔薇は西洋では邪気を払うとも言われていますし、あの蔓薔薇は瘴気を糧にして成長するのですが、黄泉の国であれば非常に成長速度も繁殖能力も高い恐ろしい植物になるかと。下手すると住人すら栄養として取り込みかねません」
何か神主さんが恐ろしい事を言っている気がします。こう言うのバイオテロって言うんじゃ無かったでしたっけ?
「お助けいただきありがとうございます」
日坂さんがお姉ちゃんに頭を下げています。その間にも残りの2名も無事に意識を取り戻したので、急いで撤退なのです。留まっていても何の益もないのです。
パリーン!
黄泉比良坂を登り始めた時に背後からガラスが割れるような音が聞こえて来ました。
「私の結界が壊れたみたいなのです。ぜんぜん持ち堪えられませんでした」
もっとも、神様が相手なので仕方がない結果なのかもしれませんが。ただ、あとは繁殖した蔓薔薇が立ち塞がるのみなので、登る速度を心持早めます。
「はぁ、はぁ、登り坂はきついのです」
そもそもインドア派の私ですから、特別何か体を鍛えたりとかはしていません。だからと言って、無事に帰ったらもう少し鍛えようかなどとは欠片も思いませんが。
「無事に帰ったらのんびりマッタリ生活したいのです」
うん、目指すはニートでしょうか? よく考えたら私ってぜんぜんマッタリした生活って送っていないですよね? 何ですかこの異能バトルとか。
「ひ、ヒーローものとか、特撮ものとかは、要らないのです。私は、別のジャンルを、希望するのです」
「ひよりだったら、悪役令嬢ものとか、かしら?」
「ざまぁなら、大歓迎、なのです」
お姉ちゃんとお互いに息を切らせながらも馬鹿な話をしています。そうでないと体力的にも、精神的にも結構厳しいのです。
「これだったら、師匠達といたほうが、楽だったかも」
「出口に、アメリゴ軍が、いたりして?」
「お姉ちゃん、それフラグだから」
いえ、本当にあり得る話じゃないですか? まさか全員で突入とか無いと思いますよ?
「前方に光が見えてきました。一応の警戒を」
神主さんがそう告げて、手から式を飛ばします。外の様子を探るのでしょう。
ただね、私の悪意探知にビシバシ反応があるのですよ?
「外に、多数の、敵対的な人が、いるのです」
息が切れてヘトヘトですが、一応みんなに防御結界の魔法を展開します。
ただこの結界、先程からあまり役に立っていないのでちょっと自信喪失してたりします。
「アメリゴ軍でしょうか、厄介ですね。急いで岩を閉めないと黄泉の住人が出てきかねないのですが、素直に閉めさせてくれるかどうか」
神主さんも状況を把握したみたいです。ただ、アメリゴ軍の方達がまだ中に居ますし、貴重な術者もいるみたいですからちょっと厳しいかもしれませんね。
背後ではまだ薔薇さんが頑張ってくれているのか、イカヅチさん達はまだやって来ません。ただ、時間の問題だとは思うのですよね。
「出ます!」
私達が洞窟を抜けた時の様に周囲の光に一瞬目がくらみました。
そして、私達を待ち構えていた人達は異様に殺気立っていて、何か私達に怒鳴っていますが英語かな? 私は興味が無い事にはとことん興味が無いので英語の成績って悪いのですが。
「お姉ちゃん、何言っているか判る?」
「英語だから何となくだけどね。ただ、向こうは私達の事を把握しているみたいね。思いっきり誰かバレてるわ」
目が光に慣れて改めて周囲を見ると、30人くらいの迷彩服を着て銃を持った外人さんが居ます。でも、この日ノ本で外国の軍隊がここまであからさまに銃を持っていて良いのでしょうか? そこら辺は良く判りません。ただ、私達を仲間だとか思っている人は一人もいないみたいです。
「神主さんって英語が喋れたんだね。すごいね」
私だって前世の言語と日ノ本語の2か国語を話せるのですよ! だから態々使いもしないだろう3か国目の言葉を覚えようと思わなかっただけなのです。
ただ、そう思いながらも神主さんが黄泉比良坂を閉じようとして、それにアメリゴ軍は反対しているのだけは判ります。
「魔力を持った人は一人もいないのです。多分この人達はここの維持を目的にしているのかも」
そうですよね。脱出して来たとして、目の前に敵が陣取っていたら大変ですよね。私達は今まさにその状態ですから。ただ、あんまりのんびりしていられる状況でも無いと思います。
「とりあえず外に出て、少しずつ入り口からズレて行きましょう。真後ろが黄泉比良坂の入口とか嫌すぎますから」
日坂さんがそう言うので、じりじりと入り口から横へと場所を移動します。
アメリゴ軍の人達は恐らく私達の意図が理解できていないようで、私達の移動に対し何の静止も掛けてない・・・・・・のかな? 何かさっきから叫んでいますが、凍れ凍れって何が言いたいのでしょうか?
「ひより嬢、ここに認識阻害の結界は展開できますか?」
「前に作ったのは無理ですよ。そもそも思いっきり見られているのです」
見られている状況から姿を消すとなると、相当な魔力と繊細な魔力操作が必要になります。また、その結界の核となる物も必要になりますから今の状況では難しいですね。
「いえ、そうではなく、黄泉比良坂の入口から出て来た黄泉の国の住人が私達に注意を払わないようには出来ますか?」
「住人ならいけるかもですが、神様は欺けませんよ?」
そもそも、思いっきり結界を無視して私達に気が付いた黄泉醜女さんとかもいます。結界を容易く越えて私の存在に気が付くと思います。
「そうすると、しないよりマシという程度ですか。幸いにして今は日中です。黄泉の国の住人達は容易く外へと出てきたり出来ないのが救いでしょうか」
「でも、さっきから段々と悪意が膨らんでいるよ? 下の薔薇は突破されちゃったと思う」
じわじわ処ではない凄いスピードで何かが登って来るのを感じます。
今更ながらにアメリゴ軍の一部の兵士がその気配を感じ取ったようですが、岩で塞ぐまでの時間を稼ぐには少々遅い判断でしたね。注意が私達から逸れた瞬間を使って、私は認識阻害魔法を使用します。流石に結界を発動するだけの余裕は無いので、本当に簡易な物ですが比礼と合わせれば何とか誤魔化せないでしょうか?
「ヴォオオオオオオ!」
黄泉比良坂の入口から真っ先に出て来たのは黄泉醜女のお姉さんです。ただ、外へ出た瞬間より全身から煙を立ち登らせています。
「陽の光は黄泉の国の住人にも、神にすら毒です。もっとも、どれ程の時間持ち堪える事が出来るのかは不明ですが」
ただ、アメリゴ軍はある意味さすがは軍隊です。身も竦む様な重低音の叫び声を聞きながらも、半数の兵士は黄泉醜女へと銃を発砲します。
パパパン! パパパン! パパパン!
銃声が響き渡る中、私達は先程より更に奥へと移動を開始します。まさかとは思いますが誤射でもされれば大変です。ただ、最後には岩で蓋をしないといけないので立ち去る事は出来ません。
「これ放置して逃げたら駄目なのです?」
「恐らくですが、陽が沈むと共に一気に黄泉からの浸食が開始されますね。下手すると明けぬ夜が此処から始まります」
「日食どころじゃないわね。天の岩戸の伝説って日食とかでなければ洒落にならないわ」
私達は口を動かしてはいますが、それ以上に手も動かしているのです。
真ん丸ダイヤさんを結構消費しているので、この後は慎重に進めないと不味いのです。
「アメリゴ軍かは判りませんが電話が妨害されていて繋がりませんね。式を飛ばします」
日坂さんが神主さんにそう告げると、式を飛ばしました。
そんな間にも、アメリゴ軍は次々と黄泉比良坂の入口へと向けて発砲を続けます。ただ、その銃弾が効果を発揮しているとはとても思えないのですが。銃弾は黄泉の住人にはある程度の効果を発揮しているように見えます。
ただ、黄泉醜女には当たってはいるのですが皮膚に阻まれ潰れた銃弾がポロポロと下へ零れ落ちているだけに見えます。
「銀の銃弾へ変更せよ!」
恐らく部隊指揮官と思われる人の声が聞こえ、一旦銃声が止まります。
「銀の銃弾って効果あるの? あれって狼男じゃなかった?」
「ああ、一応教会で聖別しているそうです。ただ、効果があるのかは不明ですが」
神主さんが答えてくれますが、神主さんは何とか隙を見て入り口を塞げないかと考えているようです。
しかし、その神主さんの目論見を打ち砕く存在が現れました。
「・・・・・・そういえば、黄泉醜女さん4人いたよね、坂の所に」
白い煙を上げながら、更に一人、更に一人と合計4人の黄泉醜女さんが入口から出て来たのです。
そして、その瞬間に周囲はまるで日の沈む寸前のように赤く彩られました。
「うわぁ、4人も神様が集えばそれこそ影響力は生半可じゃないわね。思いっきり浸食が始まったわ」
日が陰った為、今まで外へと出る事の出来なかった黄泉の国の住人達がぞろぞろと黄泉比良坂の入口から外へと溢れ出します。中にはこの夕日であっても煙を発して消えていく者達もいますが、その大半は形を保ったまま外へと攻め急ぐように溢れてくるのです。
「うわぁ、駄目だわ。もろゾンビじゃない。こっちでは取り繕えないのかしら」
「そこら中が腐ってますね。目玉が糸引いて零れてる人も・・・・・・あ、押し込んだ」
ただ、これはちょっと不味いのではないでしょうか?
ひより:「アメリゴ軍マジ邪魔なんですよ」
小 春:「そもそも、何で日ノ本軍がいないのよ! アメリゴ軍を野放し何て有り得ないわ!」
ひより:「これも政治的云々なの?」
小 春:「うわぁ、これって下手すると日ノ本ヤバいわよ?」
ひより:「でもさ、そのきっかけ作ったのって出雲大社だよね?」
小 春:「・・・・・・そうとも言えるわね」
ひより:「何を考えてこんな危険な方法を?」
南 辺:「え? また言うの? この小説はコメディーよ?」
ひより:「・・・・・・シリアスさん、頑張って!」
小 春:「ひより、シリアスさんを応援したら不味いんじゃない?」