126:黄泉比良坂は薄ら明るかったです
誤字脱字報告ありがとうございます。
「やってきました黄泉への道、黄泉比良坂ですよ!」
「・・・・・・雰囲気はあるんだけど、小さな神社よ?」
神主さんに連れてこられたのは山の奥です。
途中に黄泉比良坂の看板がありましたが、そこを逸れて更に獣道を進むと小さな神社がありました。
「看板の案内とは違う所ですけど、あっちじゃ無いのですか?」
ちなみに、ここに避難? してきたのは私、お姉ちゃん、シルバ、佳奈お姉ちゃんだけです。
もちろん神主さんを含め、出雲大社の人が合計5名、あとお爺ちゃんがついてきていますが、それ以外の私達の家族や魔女さん一行は別の場所へと移動しました。
「ええ、あれでも観光地なんですよ、あそこは。実際の黄泉比良坂はしっかり管理しないと勝手に死後の国と繋がっても問題でしょう」
そう言って笑う神主さんですが、確かに言われてみるとその通りですね。何かのきっかけで入口が開いてしまうとわんさか戻って来て大変な事になりそうです。
「元々、出雲は黄泉の国、根の国など死者の国と思われる地と非常に近いのです。それ故に出雲大社はこの黄泉比良坂を管理し、日ノ本に安寧を齎す役目を担っています」
「大国主の命は有名だもんね」
「そうですね」
佳奈お姉ちゃんの言葉に、神主さんは非常に良い笑顔で答えてくれました。
そして、いざ黄泉比良坂の入口とされる小さな神社へと辿り着くと、神主さん達はさっそく何かの儀式を始めます。
「・・・・・・ねぇ、お姉ちゃん。あの連れて来た兎さんってもしかして生贄?」
「何かそんな気がするわね」
「うわぁ、出雲大社ってうさぎさんの像とかあるのにぃ」
私達3人が思いっきり引いていると、残念な事に兎さんは黄泉の国へと旅立っていかれました。
「残酷な事ではありますが、まず黄泉比良坂の入口を開かねば始まりませんから」
理由は判るのですが、こっちの世界に来てから兎は愛玩動物であるという意識が出来てしまって。
魔物のホーンラビットは良く狩りに行ったのですが、あれは魔物ですからね。
「それで、ここから私達は黄泉の国に向かうのですか?」
「その前に、皆さんには此れを首に捲いていただきます」
そう言って結構年期の入った比礼を渡されたんですが、これは何でしょうか?
「これを身につけていれば、死者を誤魔化す事が出来ます。生者と判れば襲い掛かって来ますからね」
それぞれの首に比礼を捲いて、一応の準備を行います。
「会話をするときは口元をこの比礼で覆ってください。呼気にどうしても陽気が混じりますから、場合によっては面倒になります」
「うぇ、これで口元も覆うの? なんか汚い気がする。これってちゃんと洗濯してるの?」
佳奈お姉ちゃんの質問への答えは、神主さんの無言の笑顔でした。
次に渡されたのは注連縄です。これをみんなの腰に回して前の人の注連縄を後ろの人が持って進むそうです。要は迷子防止ですね。で、最後に渡されたのが・・・・・・桃のドライフルーツ?
「桃は邪気を払います。ただ、流石に桃をそのまま所持して進めませんので効果は劣りますがドライフルーツで代用します」
思わず良いのそれでと突込みを入れたくなりました。
「ジルバはこれで平気なのかしら?」
比礼は首の周りに捲き、その上から注連縄を撒きます。そして、その端っこをお姉ちゃんの手に捲きつけました。ただ、比礼で口を塞ぐのは流石にちょっとなので塞いでいません。
「問題が起こった時にかんがえましょう。流石に神獣を連れて黄泉の国へ行った記録はありませんから」
神主さんは思いっきり苦笑を浮かべています。
「さて、この岩を動かせば道が開きます。先頭は私が、最後尾はそこの日坂が担当します。行きますよ」
その後、神主さんが祝詞とともに岩に手を掛けると、有り得ないような大きさの穴が目の前に広がりました。というか、背後に崖が現れたのですが、今までは幻影で惑わされていたのでしょうか?
「うわぁ、暗いよ。これ前の人の注連縄を手放したら絶対に詰むよ」
小さな声で佳奈お姉ちゃんが呟くのが聞こえます。
ちなみに、順番は神主さん、神社の人、お姉ちゃん、私、佳奈お姉ちゃん、神社の人3人となっています。
「これ、口元まで覆うと息が苦しいわね。あと何とも言えない匂いがするわ」
お姉ちゃんも何か言っていますが、恐らく暗闇による恐怖を紛らわせているんだと思います。
ただ、暗闇と言っても何故か真っ暗ではなくほんのり明るいのが不思議なのです。
「この明るさって何でなのです? まったく明かりは見えないのですよね?」
「ああ、俗にいう黄昏時の暗さなのです。なぜかと言われるとそう言うものとしかお答えできませんが」
前を行く神主さんは私の声が聞こえたのでしょうか? 疑問に答えてくれました。
どれくらいの時間進んだのかな? 30分くらいの気もするし、2時間くらいは歩いたような気もします。ただ、下り坂だったのが何時の間にか上り坂になったところで、神主さんがゆっくりと横へと進路を変えます。そして更に数分進んだところで立ち止まり、どこに持っていたのか松明を灯しました。
「お疲れ様です。ここで少し細工を行いますので少々お待ちください」
そう言うと、神主さん達が何か小さな祭壇のようなものを作り始めます。
その間、私達はお互いの注連縄を持ったまま座り込んで作業が終わるのを待ちました。
「何をしているのか判らないけど、もうここって黄泉の国なんだよね? その割には何にも出会わないね」
佳奈お姉ちゃんが言う通り、私はもっと死者とか鬼とかそう言ったものと出会うのだと思っていました。
「まだここは坂の途中ですから。何もない坂にわざわざやって来る死者は稀ですよ。居なくもない所が厄介なのですがね」
最後尾に居た日坂さんが私達の疑問に答えてくれますが、そんな日坂さんは絶えず周囲に気を配っているのが判ります。
「あの、神主さん達が行っている仕掛けって何なのですか? 後から来る敵に何かするのですか?」
「ああ、いえ、逆ですね。あれは私達が帰る時に使う物です。万一追われていた場合の足止めの為の細工です。黄泉の国は決して侮れる場所ではありませんから」
なるほど、追跡者よりもこの黄泉の世界にいる死者の方が怖いのですね。うん、すっごく分かります。
「お待たせしました。先に進みますのでまた先程と同じように注連縄をお持ちください」
また縦に並んだ私達は、目の前に相手から垂れている注連縄を手にします。
「間違いなく相手の腰から伸びている注連縄か確認してくださいね。中には化かされて違う物を持って行方不明になった例もありますから」
「何それ怖い」
「うみょ!」
佳奈お姉ちゃんが慌てて私の腰回りの注連縄を確認します。突然だったため変な声が出ちゃいました。
そしてまた松明を消して目が慣れたころに出発です。進むこと一時間くらいかな? 神主さんは明かりも無い状態でどうやって前方を確認して進んでいるのか判らないのですが、漸く前方が明るくなってきました。
「ここからは本格的に黄泉の国となります。不用意に言葉を発しないよう注意してください。少し先に先達が作った避難所がありますので、まずはそこへ向かいます」
神主さんの言葉に頷くのですが、前を歩いてますし見えないですよね。ただ、この時から神主さんが鈴を取り出して鳴らし始めました。
ただ、言われるがままに私達は歩いていくのですが、明るくなってきた理由が目に飛び込んできました。
「っ!」
思わず声が漏れそうになったお姉ちゃんが、必死に息を呑む様子が感じられました。
明るさの理由は轟々と燃え盛る炎でした。そして、そこで焼かれているのは明らかに人です。串と言うには太い物に貫かれ、ぐるぐると回されて焼かれている、それは明らかに食料として調理されているようです。
明らかに鬼と思われるモノ、狩衣って言うのでしたっけ? 何か昔風の衣装を身に着けた人、真っ赤な着物を身に着けた人、ただ人と言っても目も唇も真っ赤で、肌は真っ白です。絶対に生きている人では無いのが遠目にもわかりました。
その黄泉の国の住人と呼ぶべき人達から目を逸らせ、ただ前の人の背中を見ながら歩き続けます。
見れば視認できる距離を数珠つなぎに進む私達は、すごく目立つはずなのに彼らが此方を気にしたような様子はありません。
神主さん達が何かを行っているのでしょうか? もしかしてあの鈴? シャンシャンと音を立てていて、それこそ気が付かれないのが異常なのですが、一向に気にした様子はありません。
そして、次々とすれ違う死者達を尻目に、私達は一つの小さな神社へとたどり着きました。
そこで神主さんが何かを取り出すと、目の前にある神社の扉が開いていきました。
「お疲れさまでした。ここで休息を取ります。ここは大国主命の庇護下にありますので黄泉の住人は立ち入ってきません。気を楽にしてください」
神主さんの言葉に、私達はようやく肩の力を抜いて床に座り込みます。
「黄泉の住人ってみんなあんなに怖いんだね」
「そうね、最初に見た時に思わず声を上げそうになったわ」
「でも、何で私達に気が付かなかったのです?」
私の質問に、神主さん達は笑いながら首に捲いた比礼を指さしました。
「これは古来から出雲大社に伝わる神器ですね。本当かどうかは判りませんが大国主命が黄泉の国から持ち帰った衣服から作られたと言われています。この比礼は私達も死者だと誤認させる力があります」
成程、それで納得なのです。
「この場所に数日留まる事となりますが、すでに追手は黄泉比良坂に侵入したようですから滞在は短くなるかもしれませんね」
「なぜ侵入したのが判ったかお聞きしても?」
「先程、狩衣を着た死者が大勢いましたから、迷い込んできた者達を狩る準備をしていたように見受けられましたね」
その後の説明では、あの大掛かりな焚火も同様との事です。
黄泉の国に入った事のある者達の手記は多数出雲大社に残されているそうで、その中に同様の状況もあったそうです。そして、今の状態は明らかにその手記と同じだそうです。
「さてさて、どれ程の戦力をアメリゴが編成したかは分かりませんが、黄泉の国で住人に易々勝てると思わない事ですね」
「彼らも同様の装備をしている可能性は無いのです?」
「伊勢が味方をしたとしても無理でしょう。黄泉比良坂の事、黄泉の国の事、根の国の事、すべて出雲の管轄です。天照大神は素戔嗚尊とは仲が悪いですしね」
私の質問に神主さんはここ最近見慣れて来た黒い笑みを浮かべました。
まさかの黄泉の国行きです。
ただ、何故かこの126話はサクサク書けたんですよね?
黄泉の国とか黄泉比良坂とか、日本人には憧れが・・・あるぅ?
あ、一応改めてのご説明なのですが、
土日の更新はせず、お休みとさせていただいています。
その代わりと言っては何ですが、現在は一週間分はストック出来ていて、それを月~金曜日で投稿している状況です。今は6月11日までは投稿できています。
このストックが削れないように頑張ります><