125:偉い人には判らないのです?
誤字脱字報告ありがとうございます。
「とにかく、まずは今供給されている魔力を遮断してみるのです。神主さんのと違って自立していないっぽいので、これだけで術が解ける気がするかも?」
という事で、魔力結界をもう一つ部屋全体に広げて設置してみる事にしました。
これは短時間の起動で良いので、そこまで魔力を消費しないようにします。
「結界」
既に張り慣れた結界です。今やイメージと単語で種類変更も何のそのなのです。
「な、何をするん・・・・・・」
会話の途中で魔力が切れて、空間に滲むようにグリーンさんの姿は霞んで消えていきました。
そして、予想通りに紙で作られた人型が床に落ちています。
「予想以上に呆気なかったわね。最後に何かするとか警戒していたのに何もなかったわね」
「そこまで強い式じゃ無かったのです。探知の魔法で何ともならなかったから、それで対応を変えてみたんだと思う」
「あれも探知魔法と言えば探知魔法なんだ」
佳奈お姉ちゃんの言葉に私は頷きます。
違和感を持たなければ、言われるがままに結界を解除したかもしれないですし、そう考えればソコソコ有効な魔法かもしれません。
「無線ではなく、有線のラジコンだったのが敗因なのです!」
「何か合ってるんだけど、違うって言いたくなるような例えはやめて」
お姉ちゃんから理不尽な要求がありました。ただ、地面に落ちた人型は再度使用できるのか判りませんが、一応燃やしておきました。
「お爺ちゃん達もこっちの異変に気が付いたと思うのです。だけど、あちらはどうなっているのでしょうか? 此方でも状況が判る様にしておくべきでした」
「そうね。携帯を繋いで会話だけでも聞こえる様にしておけば良かったわね」
「う~ん、それはそれで危険があるみたいな事を前に姉弟子の誰かが言ってた」
なんでも、電波を使った魔法というか、魔術と言いますか、何かそういったものが生まれているそうです。まあ時代に合わせて色々と変化をしていくのは、魔法の世界だって同じですよね。
「映像で催眠術とか出来たら怖いわね。テレビでやったら大変な事になりそうだわ」
「その魔力は何処から来るのです?」
「催眠術に魔力はいらない・・・・・・と思うんだけど、自信が無くなって来た」
技術とかで行われる手品とかも、魔法に見えますからね。
私は結構手品を見るのが好きです。どう考えても魔法にしか見えないのに、あれを技術でやっている人って尊敬しちゃいます。カードとかコインを消したりできても戦いとかに役には立たないと思いますが、あれこそ平和の中に合ってこその娯楽なんだと思います。
「手品師に魔法使いとかいそうだけど、どうなの?」
「あれだけ繊細な操作を魔法で出来たら凄いのです。私だったらカードとか一斉に燃やしちゃいますよ?」
「ひよりって手先は不器用だものね」
「風評被害です! 昔は手が小さかったのです!」
お爺ちゃん達が来ないので、私達は雑談しかする事がないのですよね。
そんな時、お姉ちゃんの所に寝そべっていたシルバーウルフが体を起こして扉の方へと向きました。
「シルバ? どうしたの?」
「ヴォン!」
お姉ちゃんがシルバーウルフの挙動に気が付いて膝の上に抱き上げようとした時、シルバーウルフが扉に向かって鳴き声を上げます。その声には明らかな警戒の色が含まれているのです。
「何かいるの?」
「ヴォン!」 ビリビリビリ!
私が魔力探知の魔法を発動しようとすると、その前にシルバーウルフが再度吠えます。
その瞬間、結界の外全体が帯電したかのように稲妻が走りました。そして、結界の外には二人の人間が床に引っ繰り返って感電していました。
「まだピクピクしているのは電気のせい? 生きてるのよね?」
お姉ちゃんが倒れている二人を見ながら私に尋ねますが、わたしも多分としか言えません。
部屋に電気が流れたせいだと思うのですが、未だ自分自身がバチバチと帯電しているみたいな気になります。産毛が逆立つようなゾワゾワするみたいな感じなのです。
「でも、この人達いつの間にいたの? 全然気が付かなかった」
「そうね。ひよりも気が付いていなかったくらいだから、相当な術者だわ」
佳奈お姉ちゃんとお姉ちゃんが話している通り、私はまったくこれっぽっちも気が付かなかったのです。
「これって大陸系の術者の時と同じ気がするのです。仙術でしたっけ?」
「シルバが気が付いてよかったわ。偉かったね、凄いよ~」
お姉ちゃんがシルバーウルフをワシャワシャと褒めながら撫でています。シルバーウルフも嬉しいのか尻尾をブンブン振っていますが、これって結構不味い状況ですよね。
「安易に結界の外に出れ無くないです? 暗殺とか怖すぎなのです」
実際には防御系のアクセサリーを装備しているのでそう簡単には殺されないと思うのですが、それでも実際にここまで侵入されちゃうと断言出来なくなりますよね。
「そうね。護身のアイテムを常時身につけているとはいえ、流石にお風呂の時とかは外すわ。それ以前にお風呂に忍び込まれたら・・・・・・羞恥心で狂うわ」
「真顔で言わないで欲しいのです」
思わず突っ込みを入れるほどにお姉ちゃんの纏う空気がヤバヤバでした。ただ、それ以上にこの仙術という物が厄介なのが問題です。
「魔力を外に漏らすとかそう言う事以前の問題ですよね? 仙術は仙骨の有無とかで決まるのですよね?」
「ひより、此処にいるメンバーに聞いて答えが出ると思う?」
「・・・・・・後でお爺ちゃん達に聞いてみます」
ちょっぴりやる気が削がれてショボンとしてしまいます。
ただ、流石にこのシルバーウルフの雷攻撃は音だけでなく周囲にも感知出来たようです。慌てた様子でお爺ちゃん達が部屋へと駆け込んできました。
「なんじゃの、この者共は?」
床に倒れてピクピクしている二人を見つけ顔を顰めたお爺ちゃんですが、部屋の結界が壊れていない事に安心したみたいです。
「賢徳僧正、まだ話は・・・・・・何だねこの者達は」
お爺ちゃん達に続いて知らない男達が入って来ました。ただ、その話し方からして招かれざる客っぽいですね。認識阻害の結界でこちらに気が付いていないようなのが幸いです。
「侵入者ですの。それにしても、どうやってこの出雲大社の幾重も張られている結界を通過したのか非常に興味がありますのう」
「ふん、出雲大社とてその程度なのだろう。それ故にこそ早く伊藤家の者達を我々に引き渡したまえ。これは政府の決断だ、一宗教がどうこう言う話ではない。私の我慢にも限界があるぞ!」
うん、この偉そうにしている人はダメダメさんっぽいですね。お爺ちゃんの嫌味に気が付いてすらいません。そして、後ろにいる人達は思いっきり青褪めてますよ?
「政府は事の深刻さを判っておらんようじゃのう」
「問題の質はここに来て大きく質が変わったさね。この者達は大陸系の術者じゃろうし、それをあんた達はわざと招き入れた、出ないと出雲の奥の院へ侵入者が入るなど有り得ない事さね」
お婆ちゃんの表情は一切の感情を伺えません。ただ、恐らくですが相当お怒りだと思います。
「ふん、言いがかりは止めてもらおうか。それに我々の決断は非常に高度な政治案件なのだよ。今後の日ノ本の利益にも国防にも大きく関わって来る」
明らかにお爺ちゃん達を小馬鹿にした表情で見下していますね。あのなけなしの頭髪を燃やしてはダメかな?
そんな事を思っていると、そういえば見当たらなかった神主さんが部屋へと入って来ます。
「多田次官補、貴方が連呼している政府から貴方の逮捕状がでました。罪名は国家反逆罪だそうです。心当たりはありますか? ちなみに、貴方の上司である平田国防副大臣も更迭されたそうです。お仲間の公安が来ますのでしばらくは別室で待機願います」
神主さんの後ろに、体格の良い男性たちが複数居たのはこの為だったみたいです。
「馬鹿な事を、私が国家反逆罪だと! そんな事は有り得ん! 日ノ本の為に私ほど尽力している者などおらん!」
「貴方達も、この下で倒れている者達も捨て駒ですよ。恐らくですがこの者達は此処出雲大社で伊藤家の人達を人質に立て籠もる予定だったのでしょうが」
ただ、多田次官補? この人の後ろにいた人達は顔色が真っ白になっています。頼みの綱の政府から見捨てられてしまったから? ただ、さっきから訳が判らない展開です。
「この倒れている者達も拘束しなさい。術者用の拘束具を忘れない様に」
「私が政府に確認をする! それまで待て!」
「待っている時間がありません。早く連れて行きなさい」
あ、今指示を出したのは出雲の事務のおじさんです。影が薄いので居たのに気がつきませんでした。
ただ、それこそ色んな人の発言が重なって訳が判りません。
「ところで、事務次官補って偉いの?」
「偉いんじゃないの? あれだけえばってたんだから」
佳奈お姉ちゃんの言葉では今一つ信用がなのです。
目の前で強引に外へ連れ出されて行く人達を見ながら、首を傾げるのです。
「それにしても、あの人達って何をしたかったのでしょう?」
「時間稼ぎじゃないか?」
お父さんを見ると、お父さんはちょっと困ったような表情を浮かべています。
「時間稼ぎってどういう事?」
「間違っているかもしれないが、私達をここに留めておくための時間稼ぎだよ。現に私達はここで身動きが取れていないからね」
「良く判らないのだけど、お父さんはこの後どういう反応があると思うの?」
「軍事大国アメリゴが出てくるんじゃないか? あと、恐らくだけどテロ鎮圧のお題目でここに日ノ本軍とアメリゴ軍の部隊が強襲してくる? もっとも、あの事務次官補は大義名分の為のその生贄かな」
お父さんの頭の中でどういったストーリーが出来ているのか判らないのです。
そんな中、神主さん達が漸く合図をしてくれたので結界を解除しました。
そして私達にこれから急いで移動する事になった旨を伝えてくれます。
「急ぎ移動する事になりました。お疲れの所を申し訳ありませんが準備をお願いいたします」
「移動ですか? 何処へ向かうのです?」
ここに来ての緊急避難だと思うのですが、それなら最初からそこへと行けばよかったと思います。
「黄泉比良坂へ向かいます。そこで、神々の御力をお借りする事にしました」
「あの、私の記憶違いでなければ黄泉比良坂って伊弉諾尊の黄泉比良坂ですよね? 黄泉の国に行くのですか?」
お姉ちゃんが心配そうな表情で神主さんに尋ねますが、黄泉って死んだあとの世界の事ですよね?
「政府が出雲大社を軽んじるならば、それ相応の代償を払っていただきましょう。出雲は黄泉比良坂の蓋でもあるのですよ?」
そう言って笑う神主さんは、すっごく悪い表情を浮かべていました。
ひより:「話が進んでないのですよ!」
小 春:「・・・・・・」
ひより:「お姉ちゃん、大丈夫?」
小 春:「う~ん、大丈夫じゃ無いかも?」
ひより:「え! 何かあったの?」
小 春:「佳奈の魔女っ娘とか、ぜんぜん意味がないのね?」
ひより:「作者に意味を求めちゃ駄目だよ?」
南 辺:「当たっているだけに言い返せない・・・」