120:安易に神様を頼ると酷い目にあうと思うのです。
誤字脱字報告ありがとうございます。
神降しの儀について説明を聞いた私ですが、まあ神官職でも巫女職でも無いので私個人としては関係ない話かなと思います。ただ、この時に思いっきり失念していたのは、この場にユーステリア様の信徒にして、思いっきり神職ですよのお姉ちゃんが居たのです。
「ふむふむ、神様が顕現するとその神様の力が強くなるのですね。私が使う治癒や浄化の力も、ひよりが使った先程の魔法もより効果が上がると」
「あ、お姉ちゃん、モフモフの魔法は別物だからノーカウントでお願いします」
「あら? そうなの?」
勘違いしているみたいなので、一応訂正しておきます。
あの魔法は別の神様が作った魔法です。私も過去の魔法を復元したに過ぎませんから。
「そっか、でもそれに比例して相手の魔法は弱くなるのよね?」
「う~ん、そうなんだけど、今回の相手で魔法で競い合った記憶が無いよ? 銃とかの近代兵器ばっかりだったからね」
魔女さん達も同様の認識っぽいですね。銃とかに頼るってどうよと思いますが、まあそこは組織の問題なので私達が文句を言うのもおかしいのでしょう。
そもそも敵の術者の総数がどれ程いるのかは判りませんし、魔法を使っての戦闘は基本的に木人兵とかに限られてました。聞いた話では、そもそも仙術ってあとは身体能力が上がったりと、そういった魔法が多いそうです。
「腕が6本ある木人兵などは厄介であったがの。突然腕が生えおって、危うく不覚を取る所であったわい」
私達の所と違って、お爺ちゃんの所では一応は魔法での戦いがあったのでしょうか? ただ、何となくですがお爺ちゃん達の方も魔法と言うより物理が重視の戦いっだったような気はします。
「う~ん、でもせっかくだから一度ユーステリア様に顕現して頂くのも悪くは無いのではないかしら?」
「ふむ、長く生きてはおるが嬢ちゃん達の神様の聖名は今まで色々と文献を見て来たのじゃが、お聞きした事が無いさね。それなりの権能をお持ちの様に思えるのじゃが」
お婆ちゃんが首を傾げているけど、まあこの世界では馴染みが有ったら怖いと思うんだよね。何処まで出張ってるんだよって。
ただ、ひとりの魔女のお姉さんが首を傾げているよ。
「その聖名に聞き覚えがあるのですが、ただ、その、何と言いますか」
「心当たりがあるのさね?」
話す事に思いっきり躊躇っているみたいですが、私も気になりますよね。
「いえ、子供の頃に遊んでいたネットゲームにその聖名の神が、ただそのゲーム会社は既に倒産しています。ゲームがVRになった途端デスゲームになったとか、プレイヤーが行方不明になったとか、運営会社の役員が突然失踪したなど、とにかく当時は結構騒がれたのです」
「ほう、そう言えばそんな事もあったの。儂らも調査に駆り出されたわい」
お爺ちゃんもどうやら思い当たる事件があったようです。
ただ、30年近く前の出来事だそうで詳細は判らないのと、ゲーム自体はまったく判らないとの事。
「ゲームって、たまたまの可能性もありますよね。何となくありそうと言えばありそうな聖名の神様ですし。そもそもゲームで生まれた神が力を持つなら各神話の神様達が思いっきり力を持ってないとおかしくないかな?」
ブルーさんの意見も間違いでは無いと思います。ただ、私は先程の経験上この場では怖くて安易な事は言えませんけどね。お仕置き怖いのです。
ただ、今問題になっているのはユーステリア様のお力をこの世界で強化できるのならば、それを行った方が良いのではという事です。特に今は色々な意味で力があるに越したことは無いのですが、そこで私が不安視している事が問題となって来るのです。
「ユーステリア様が強化されても日ノ本の神様たちが弱体化しちゃったら、それはそれで問題なのではないでしょうか? ましてや此処は国譲りの地なのですよ」
ある意味神様に関する事であれば、何が起きてもおかしくない場所です。
まさかとは思いますが、この日ノ本でユーステリア様への神譲りなど起きたら大変な事になるのは間違いありません。
「ひよりちゃんが気にするのは国譲りの事かの。ふむ、神が遠くなった現代じゃ、確かに無いと言えんが、はてさて」
「信者の総数、信仰の強さが神々の力の根源とされていますので、その様な事になる事は無いと思うのですが」
でもそれって立証された訳じゃ無いのですよね? みんながそう思っているだけですよね?
「例えばの話なのですが、先程のネットゲームで遊んでいた人達がゲームの中で神様を崇めたりしたら、それは信仰になるのです?」
「・・・・・・どうなのでしょう?」
「はて、判らんのう」
お爺ちゃんも、神主さんも、話を聞いていたお婆ちゃん達も首を傾げます。
そもそも、信仰とは何ぞや、それによって得られる力とは何ぞやという事ですよね。
「あと、別の世界で多くの信仰の力を持っている神が、別の世界へと干渉するとなるとどうなるのでしょう? 別の世界でも蓄えられた信仰の力を使う事が出来るのでしょうか?」
「これもどうなのでしょうか?」
「実例が伴わぬでのう」
これも皆さん揃って首を傾げていますが、そもそもこの世界の神様はどのように生まれ、今はどのような状態にあるのでしょうか?
「神々は神界で暮らして居ると言う者もおる。極楽で暮らして居ると言う者もおる。中には最後の大戦に備えて眠りについておると言う者達もおるの」
「新しき神という概念が無い訳ではありませんよ。ただ、電子の神など人の想像から生まれた神ですが、実際にその神が存在するのかは実証されていません。実証されるかどうかも判りませんが」
「ゲーム世界で生まれた神が居てもおかしくは無いですよね? ほら、物欲センサーとか、あれだってもはや神ですよね、神!」
う~ん、話に乱入して来たブルーさんですが、今ひとつ良く判らない事を言っています。ただ、確かに多くの人達がその存在を信じれば、そこに神は生まれるような気もします。
「ただ、それは概念から生まれた神々の事ですが。古来から存在される神はまた別の存在かもしれません。それこそ、付喪神も神の一つの形ですし、そこに何かが生じるのは人の思いと言う概念だと言われています」
「まあ、そうさね。執着、妄執、憎悪、様々な思いを経て神は生まれるさね。荒魂などはその典型さね」
この日ノ本特有の概念なのでしょう。私もそこまで深く考えた事は無かったのですが、あちらの世界ではそういった神は居ませんでした。そもそも、道具に神が宿ると言う発想に驚いたものです。
「脱線しているようですが、どうしましょうか。ひより嬢は神降しの儀を心配しているようですが」
神主さんが見つめるのはお姉ちゃんです。お姉ちゃんがある意味今回の提案者ですから。
ただ、神降しの儀に対する他の人達の印象は、消極的な反対が多い気がします。賛成はお姉ちゃんだけ、消極的な反対は私一人なので、あとはお姉ちゃんの判断ですね。
「どうしよう。せっかくだからと思うのですが、態々神様をお招きする理由としては弱いですよね。ご不興を被る可能性もありますし、見送ります」
お姉ちゃんも周りの空気を読んで、今回の神降しの儀は見送る方向に切り替えたようです。
まあ神主さんや出雲の人達が変な事を言い出さなければ発生しなかった話ですし、私も酷い目にあわなかったような気がします。
とにかく、これで一段落かなと思った私ですが、ふとお姉ちゃんへと視線を向けて思わず硬直してしまいました。背中にまた氷を差し込まれた気分です。
「・・・・・・お、お姉ちゃん。そ、その子犬はどうしたの?」
「え? 子犬?」
そう言って不思議そうな表情を浮かべるお姉ちゃんですが、その間にも膝の上に乗せた銀色の子犬、前世で言う神獣シルバーウルフにそっくりな子犬の頭を無意識に撫でているのです。
「え? あれ? いつの間に?」
私の視線の先に気が付いたお姉ちゃんは、驚きの表情を浮かべますが決して子犬の頭を撫でるのは止めません。
「う、うそ! 全然気が付かなかったわよ!」
お姉ちゃんの横の席に座っていたグリーンさんが驚きの表情を浮かべます。
ただ、この時、私と同様にお爺ちゃんもお婆ちゃんも、神主さん達も、そして魔女の姉弟子さんなど魔力を見る事の出来る人達すべてが子犬を見て驚愕の表情を浮かべていたのです。
「普通ではないさね、まさか・・・フェンリル?」
「判らぬが、犬では無いの。神獣かの?」
「なぜ、突然に」
誰もが呆然とする中で、私は恐らくこの生き物を知っている。その為、背中はそれこそ汗まみれです。
「えええ? いつの間に! でもすっごく手触りが良いわ。フワフワ」
一人だけ状況が判っていないのか、お姉ちゃんは子犬にデレデレです。
そんな中、私は渋々ですが皆さんに答えを告げます。このタイミングで現れたという事は、恐らくそういう事なのでしょう。
「フェンリルではないです。シルバーウルフ、一応神獣ですが、ユーステリア様の眷属なのです」
「ヴォン!」
ハッキリ言ってヴォンじゃねぇよとガラが悪くても叫びたい所です。
「顕現するだけの信仰は無いので、送り込まれたアンカーみたいなものだと思います」
実際の所は判りませんが、近からず遠からずだと思うのです。
シルバーウルフを中心として、ある種の聖域のようなものを形作る。それを補助するのが私やお姉ちゃんの結界と言った所でしょうか? でも、そんな物を作ったら、それこそ顕現しやすくなりませんか? 呼ばれなくても来そうで怖いのですが。
「き、危険は無いのよね?」
「はい、あの懐きようを見てください。お姉ちゃんはユーステリア様に好かれていますから」
私は心配するトパーズさんに苦笑を浮かべながら返事をします。
「それなら安心だけど、小春ちゃんは好かれてるって言うけどひよりちゃんは?」
「・・・・・・玩具扱いかな?」
「ヴォン!」
シルバーウルフの返事に、思わず涙が出そうになったのは仕方が無い事だと思います。
ワンコ成分が足りなかったのです!
これで我々は十年は戦わされる!(酷)