118:神主さんの提案
誤字脱字報告ありがとうございます。
魔力切れで3日も寝ていた為、魔力自体は回復している感じではあるのですが今一つ体に力が入らない感じがします。
まあ魔法を使う者達の体は、筋肉にしろ、臓器にしろ、普段から魔力によって強化されている所があります。その為、一度でも完全に魔力切れを起こしてしまうと、体に掛かる負荷は通常以上に大きいのです。
「う~~~、治癒魔法で一気に治しちゃいたいかも」
この怠さは勿論治癒魔法で一気に回復させる事が出来ます。
ただ、自然治癒に任せた場合に多少ですが身体が魔力切れになる前に比べると強化されると言われています。実際の所は前世でも実証されている訳では無いのですが、それでも期待を込めて自然治癒に任せます。
「実際の成長と、魔力切れを起こしての成長の比較では誤差の範囲じゃないかって言われてたんだけどね」
まったく同じ個体が用意できる訳でもなく、また平均値を出す為には膨大な検査対象が必要になる為に実証されなかったんです。
起き上がるのも億劫になる程に疲れている気がするのは、本当に魔力がすっからかんになったのかな。
実際にそこまですると命にも係わると言われているので、家族には言えませんが結構危険な状態だったのかもしれません。
「勢いって怖いよね」
あの時は結構頭に来てたから、あれ以外に有効な魔法が思いつかなかったというのもあったしね。
体が疲れていてもなぜか意識はハッキリしているせいで、色々な事が頭に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す為に精神的にも疲れるのだけど、それでも眠気が来ない不思議。
「流石に3日も眠ってたからかな?」
そんな事を思った時に、部屋の扉がノックされた。
「は~い、どうぞ~」
ノックする人は珍しいですねと思いながら返事をすると、なんとお爺ちゃんが部屋に入って来ました。
「おお、大事無いかの? 倒れたと聞いて急いで向かおうとしたのじゃが、馬鹿者共のせいで叶わなんだ」
そう言ってベットの横まで来ると、私の表情を見て安堵した様子が伺えます。
「魔力切れしただけですよ。まだちょっと怠いですけど、数日もすれば元に戻ると思う。お爺ちゃん達も無事で良かった、大変だったって聞いたから」
思いっきり情報が漏れていたみたいで、敵の拠点では準備万端で大歓迎されたそうです。その為、お爺ちゃんも無傷とはいかず、結構な怪我を負ってポーションが無ければ結構危うかったみたいです。
お婆ちゃん情報だから間違いないと思います。
「ほ、ほ、ほ、なんのなんの、まだまだ若いもんには後れを取らんわい」
そう言って笑うお爺ちゃんは、どこからどう見てもいつものお爺ちゃんなのです。
私はお爺ちゃんに撫でられている内に、張り詰めていた何かが解れた様な、そんな感じで知らず知らずに眠ってしまっていました。
そして目が覚めると・・・
「知らない天井です」
見上げると、そこにはビルなどののっぺりした白い天井では無く、日本家屋です! といった主張の板張りの天井がありました。
「あ、ひより! 起きた? 体調はどう?」
私が起きた事に気が付いたお姉ちゃんが、ズリズリと私の方へとにじり寄って来ました。
「おお、ベッドじゃ無くてお布団だったのです」
そうです。私が寝ているのはベッドではなくお布団だったのです! などと奥様は魔女っ娘風に言ってみますが誰からも反応が無いですね。もっとも、わたしもCMでそれっぽいのを見て知ってるだけで実物の番組を見た事はありませんが。
「うん、ここは出雲大社の敷地内にある施設だからね。ひよりが寝ている間に移動したの」
どうやら、お爺ちゃん達が合流した段階で一斉に移動したそうです。
神主さんも戻ってきていたので、移動自体はすごくスムーズに出来たそうですが、まあ建物が思いっきり和風なのは当たり前として、私達がいる部屋も和風で、しかも間仕切りを動かせばお隣と繋がっているそうです。
「ひよりちゃん目が覚めたの?」
お姉ちゃんの動きに気が付いた人達が、ワイワイと此方へと集まって来ます。ただ、ベッドで寝ている場合にはあまり気にしませんでしたが、お布団で寝たままだと何となく気恥ずかしいので起きる事にしました。
「お母さん達は?」
上半身を起こして周りを見ると、部屋に居るのは私、お姉ちゃん、佳奈お姉ちゃん、グリーンさん達3人と合計6人です。普通だと家族ごとに分けられそうですし、奥の間仕切りが無いから二部屋は繋げられているので、私達だけ残っていると考えた方が良いですね。
「お母さん達はお風呂に行ったわよ。夕飯も終わっちゃってるから、何か貰って来るわ。しばらく食べて無いからお粥とかおじやが良いかしら?」
お姉ちゃんがそう言って立ち上がると、レッドさんも立ち上がってお姉ちゃんについて行きました。
その様子を私が不思議そうに見ていると、お姉ちゃんが理由を教えてくれます。
「宮内庁の方に結構な人数で他勢力の浸透が発覚したの。さすがに出雲大社は問題無いと思うけど、一応は単独行動は禁止されているわ」
出雲大社は大丈夫と言いながら、全然信用している感じが無い所が笑えてきます。
ただ、神主さんの信用で他より少しマシといった所かな?
「それで、体調はどうなの?」
「うん、さっき起きた時はまだ怠かったけど、今はもう大丈夫。それより、トイレ行きたい」
「またなのね。まあしょうがないけど」
そう言って佳奈お姉ちゃんに連れられて、ついでにグリーンさんもご一緒してトイレに行って来ました。
で、お姉ちゃんが持って来てくれたおじやをモソモソとスプーンで食べています。
「あと数日はここで様子見らしいわ。それにしても、日ノ本中が大騒ぎになっているみたいよ」
残念ながらここにはテレビが置かれていないので、報道番組などを見ることは出来ません。
それでも、食堂などには用意されているそうで、今や日ノ本はテロへの対策などで政府も警察も、ついでにマスコミも大騒ぎなんだそうです。
「そもそも、あれだけの武器を日ノ本に持ち込めること自体が問題なのよね」
「拳銃どころの話じゃなかったものね」
食事している横では正にそのワイドショーでやっていた話題で大盛り上がりですが、よく考えたらそう言った武器より術の方が危険と言えば危険なのです。それを言った所で仕方が無いのですが。
「おや、漸くお目覚めさね」
そう言ってお婆ちゃんが部屋へと入って来ました。お母さん達がまだなので、多分早めにお風呂から出て来たのかな? そもそものお国柄で長湯の習慣が無さそうですしね。
「もう体調も回復したのです。あとは普通に頑張るよ?」
もっとも、今の状況が判らないので何をどう頑張れば良いのかすら判りませんが。
その後、長く寝たきりだった為に強制的にお風呂へと連れていかれて洗われましたよ。お姉ちゃんとか嬉々とした表情だったのです。お風呂から帰って来たばかりのお母さんがまた一緒に行こうとしたのには吃驚です。
お風呂から出た私は、漸く会議室へと案内されました。ちなみに、流石に会議室はテーブルと椅子でしたよ。あと、私が寝かされていた場所は女性専用の宿舎で、お父さんやお爺ちゃん達男の人は立ち入り禁止でした。
「さて、ひより嬢も復帰した事ですし、今日までの状況説明を行いたいと思います」
出雲の管轄だからでしょうか神主さんが司会進行を務めるみたいです。ついでに、出雲の神主さんや巫女さんにもご挨拶されました。
「問題は、宮内庁内部において予想以上に一般職員が買収、脅迫などを受けて情報を漏らしていた事です」
まあそんな所だろうなとは思ったのですが、やっぱり情報が駄々洩れだったみたいです。
その関連で結構上の人とかも責任を取らされたりとすったもんだあったそうですが、そこは割愛するとして問題の大陸系術者の一部が国外へと脱出した事が確認されたそうです。
「そのおかげで新たに大陸と繋がりの有る企業が浮かび上がりました。もっとも、関係すると思われる役員はすでに日ノ本を脱出していますが」
ただ、今回の事で国際的に指名手配が掛かるそうですが、それがどの程度意味の有る事なのかは私には解りません。
「ひより嬢によって確保されていた者達は無事に無力化し尋問中です。新たな情報が得られる可能性は低いですが、何か出ましたら全員にご連絡させていただきます」
この場の全員と言っても、佳奈お姉ちゃんの所の家族はこの会議には出席していませんけどね。
ある意味一般市民代表的な立ち位置と言えますし、余計な事を聞いても何の得もありませんからね。
「本日、警察組織によって新たに発覚した支援企業に捜査のメスが入りました。資金面などに対する支援ですが、例のアイテムに関する材料支援を行っていた可能性があり、現在慎重に取引内容を確認しています」
「ほう、それで肝心のアイテムは手に入ったかのう?」
「鳳凰学院、支援企業を含め、多数のアイテムと思われる物を確保していますが、その影響を調査中です」
うん、まあ茶道部にも結構あったし、アイテム自体は簡単に確保できたんじゃないかな? もっとも、あのアイテムが精神に与える影響を考えると怖いんだけど、浄化した時に悲鳴をあげた人もいたからね。
「どれくらいで私達は学校へ戻れるのでしょうか?」
「あ、小春ちゃん達だけじゃなく私達も!」
お姉ちゃんにブルーさんが神主さんに尋ねるのですが、今の所は未定としか言えないそうです。
「不明な術者もそうですが、こちらの組織の立て直しもあります。幸いにして今回は被害が最小限に止まりましたが、次も同様になどという保証は何処にもありません」
むぅ、何か困った事になって来ました。終わりが見えないのです。相手が組織だとこういう所が厄介なんですよね。魔物とかだとボスを倒して終わりなので判りやすいのに。
「そこで、出雲から提案なのですが・・・・・・」
そこで神主さんが珍しくお姉ちゃんと私を見て何か躊躇するような雰囲気を漂わせます。
その事で、お爺ちゃんやお婆ちゃん達が一気に表情を厳しくするのが判りました。
「良ければですが、出雲の神託の儀を取り行ってみませんか? 勿論強制は致しません」
神主さんの言葉に、私とお姉ちゃんは当たり前ですが首を傾げる事となりました。ただ、お爺ちゃん達は雰囲気を一変させた為に、安易に頷いてよい事では無さそうです。
ひより:「神託って言うからには神様にお伺いを立てるの?」
小 春:「まあ言葉からはそうなのでしょうね。ただ、頭に出雲のって付くから神道の儀式かしら?」
ひより:「ふむふむ、でも、どの神様に聞くんだろうね」
小 春:「えっと、出雲だから大黒様?」
ひより:「あ、そうなんだ。でもお姉ちゃん、やるとしたら私達だよ?」
小 春:「・・・・・・もしかして感想で指摘される前に書いておきたかったとか?」
ひより:「・・・・・・てへ」
小 春:「どんな神様と繋がるのか怖くて仕方が無いわ・・・・・・」