117:お婆ちゃんのお店は化粧品屋さん?
誤字脱字報告ありがとうございます。
その後、出雲大社で用意してもらった聖水を掛けたら、無事に動物から人間に戻りました。
お婆ちゃんが言うには、出雲の神様の力で変化の魔法が打ち消されたのでは無いかという事です。ただ、幸いにして明らかに無害そうな動物はやはり職員の方達でした。
「そして、残ったのがアライグマ2匹、イタチかフェレットっぽいの2匹、ハクビシン3匹、チベットスナギツネ1匹、キツネ2匹・・・・・・多くない?」
グリーンさんが今残っている動物達を見ながら感想を述べますが、みんなの意見ではハクビシンとアライグマで確定では無いかという意見が多いです。特に、ハクビシンとアライグマは日ノ本の生き物じゃ無いからとの事ですが、それを言ったらフェレットやチベットスナギツネも思いっきり日ノ本じゃないですよね?
「タヌキは悩みどころだったよね」
「でも、狸って愛され系だよ?」
「それだったらフェレットだってイタチ科だったよね? イタチとなると印象がねぇ」
ただ、誰からもアライグマとハクビシンを擁護する意見は出て来ません。
「チベットスナギツネは?」
「う~~~ん、どうなんだろう? そもそもあの表情だし、ねぇ」
私の質問に対し、ブルーさんはそのまんまグリーンさんに話を振ります。ただ、日ノ本ではキツネも結構悪いイメージがあるので残されているんですよね。
「それにしても、この動物に変化する魔法がその人の本質を表すとしたら、怖い魔法よね」
レッドさんがそう言う通りですね、私もそう思うのです。
「この魔法は最初はゴブリンとかオークとかに変化したりもしたそうなのです。ただ、それでは可愛くないのと、魔物だとあっさりと討伐されちゃったりするので魔法を改造したって言われてます。本当かどうかは知りませんけど」
「魔法を改造できる技術にも驚きだけど、ひよりちゃんはそもそも何処でこの魔法を覚えたのか興味があるわ」
流石に付き合いの長いレッドさんだからこそ、純粋な好奇心で尋ねて来ているのが判ります。ただ、この時もやっぱりお婆ちゃんと視線が合いました。
「えっと、秘密です」
「そっか、いつか話してくれると嬉しいな」
そう言ってレッドさんは動物から人に戻った人達を会議室へと案内していきました。
ある意味、皆さんの記憶はあの襲撃時点で止まっていたのです。その為、姿が戻った瞬間、一時的にパニックを起こされるのです。
「あのパニックって動物になっていた時のせいじゃないわよね?」
「違うと思うのです。だって皆さん記憶に無いですよ?」
もっとも、深層心理までは知りませんけど、特に掘り下げても誰も得しないのですよきっと。
「あと不明な職員の名簿と、どういった人物なのかのプロフィールが欲しいわね。そうすれば若しかしたらどの動物か特定できるでしょう」
「・・・・・・イタチみたいなやつだったとか言われたらそれはそれで嫌ね」
「そもそも、ハクビシンみたいなとか、そもそもどんな人よ?」
ある意味、みんな首を傾げる形容詞ではあるよね?
ただ、チベットスナギツネみたいな人かぁ、そんな感じの職員っていたっけ?
結局の所、ここから先はいつジョーカーを引いても良い様に厳重警戒の中で行う事になりました。その為、とりあえずはトパーズさん達待ちです。それまでは、アライグマとハクビシン、キツネコンビ、イタチフェレット組の3組に分けて檻に入れる事になりました。いつ魔法が解けるか判らないので仕方が無いのですが、妥協するのは仕方が無いですね。
私達が漸く会議室に戻っ時にお爺ちゃん達から待ちに待った連絡が来ました。
「ほう、賢徳達も意地を見せたさね」
お婆ちゃんがそう褒めるのも、お爺ちゃん達は継続して大陸系の術者狩りを続けていたのです。
そして、やはり鳳凰学院からの細い糸を辿って、経済界で上位に入る企業が隠れ蓑になっていた事を特定し、その企業の保養地に逃げ込んでいた術者のうち11名を殺害したみたいです。
「その企業はテロ支援企業として捜査が入ったさね」
お婆ちゃんの言葉通り、テレビではその企業の本社ビルに続々と警察官達が入っていくところが流れています。テレビのアナウンサーは企業が武器を融通していた疑いが濃厚など、警察発表の詳細を説明していました。
「まだ地に潜った者はいるとは思うけど、ここまでダメージを受けたら組織存続にも影響が出るわね。恐らく今は日ノ本からの脱出方法を必死に模索しているんじゃないかしら?」
テレビをみんなで見ている時、戻って来たトパーズさんが流れる報道を見ながらそうコメントします。
あくまでも推定ではあるのですが、投入されたであろう術者の内半数以上を殺害、捕縛していると思われるそうです。ちなみに、捕縛は例の動物さん達の事で、それ以外の捕縛者は結局は0人だったそうです。
「まあ、まだ油断は出来ないさね。大陸系は何を考えているか読めないさね」
近年において此処までの消耗戦は発生していなかったそうです。
ましてや、日ノ本は連合軍、戦力的にも大きな差がある状況で此処まで強固に攻撃を続けるとは、お婆ちゃん達も考えていなかったそうで、どこかで調停が入ると考えていました。
「てっきり十字教あたりが調停に出てくると思ったさね。今回の争いにおいても十字教は中立を貫いていたさね」
これは決して悪い事ではないそうです。中立な組織がないと、それこそ戦闘の停止が遅れ多大の犠牲を出す事も過去にはあったみたいですから。
「賢徳お爺さんの所では、これで一応作戦終了と考えているみたいね。例のマジックアイテムの生産拠点も抑えたようだし、でも本当に狙いが判らないわ。捕えた一般人で何処まで情報がとれるかしら?」
トパーズさんもすっきりした様子は無いのです。ただ、一つの区切りである事は間違いが無いみたいです。
「うわ、まあ仕方が無いとは思うけど、師匠、これどうします?」
トパーズさんは送られてきた資料に目を通していましたが、その中に何か問題が有ったのか一枚をお婆ちゃんに手渡します。
「まあそうさね。こうなるのは仕方がないさね。問題は・・・・・・」
資料を渡されたお婆ちゃんも目を通し、その内容には同意しているみたいですが何か問題があるみたいですね。そして視線を上げて私を見て、次に佳奈お姉ちゃんを見ますが、溜息を吐いた後に見るのはグリーンさんです。
「エメラルド、ポーション作成の時間を増やせるかい?」
「え? あの、今からですか? 流石に材料も道具もありませんが」
「馬鹿を言うでないさね。もどってからの話さね」
お婆ちゃんの言葉に、グリーンさんは暫く考えた後に首を横に振ります。
「姉弟子達が確保する薬草の数を考えると今の数が限界だと思います。そもそも、姉弟子達の取り分を減らすなんて怖くて出来ません。師匠が材料を用意してくださるなら出来なくは無いですが」
グリーンさんの回答を予測していたのだと思いますが、お婆ちゃんは大きな溜息を吐きます。
そして、改めて私の方へと視線を向けますが、ようは薬草をいくらか譲って欲しいという事でしょうか?
「うちの庭で好きに採集される分には構わないのです。ただ、私達が用意するのは嫌です」
「そうね、ひよりの言う通りね。というか、あそこの草を刈ってくれるなら大歓迎です。ただ、私達でも最近はちょっと腰が引けるというか、腐海のような様相をしはじめてますので」
お姉ちゃんも私と同様の意見みたいです。
私が作業に使っている薬草は、人面さん達が差し出してくる上納金ならぬ上納薬草なのです。ハッキリ言って私が自由に採集できるような場所では既に無いのです。
「ふむ、自力採集なら構わない・・・・・・エメラルド、どうさね?」
「み、見てから考えさせてください。小春ちゃんやひよりちゃんが躊躇うなんて余程ですよ?」
はい、余程なんです。気のせいかもしれませんが、庭の広さが有り得ないくらいに広い気がするのです。それこそ、奥が見通せないのですが、本来は一般家庭の庭ですよ?
「強化されたポーションの効果が再確認されましたから。瀕死の者ですら数秒で回復したそうです」
「外傷特化だからね。これが呪いとか、病気とかだったら違ったと思うから、今回の相手との相性が良かったとも言えるね」
トパーズさんの言葉に、私は今回魔女さん達が提供した強化ポーションの効果を思い浮かべます。
今、魔女さん達の所で生産しているのは、我が家から提供している真ん丸ダイヤの粉を使った薬草から更に進化した、魔力を含ませた水を使用した水耕栽培の薬草です。効果は1.5倍近い数値らしいです。
ただ、なぜか現在我が家の庭で自然に? 不思議に? 生えている薬草は魔女さんの薬草と遜色ない効果が出るみたいなのです。
「優先順位をつけて割り振るしかないさね。そもそも、私らは化粧品屋さね!」
うん、お婆ちゃんが思いっきり開き直った瞬間を見ました。
確かにお婆ちゃんのお店は、美容に特化したお店ですもんね。