115:心配かけてごめんなさい
誤字脱字報告ありがとうございます。
薄っすらと意識が戻って来ます。温かい何かに包まれていて、すごく幸せな気分なのです。
それでも、何となく全身に気怠さを感じるので、このまま目覚める事無く布団へと潜っていようと目を瞑ったまま手を動かすと、思いのほか柔らかい何かに当たって跳ね返されました。
ふにょん、ふみょん
「ふにゅ?」
お布団の感触ではありません。予想外の感触に薄っすらと目を開けると、目の前には目を閉じたままのお母さんの顔のドアップが広がっていました。
「およ?」
今一つ何が起きているのか判らないのですが、どうやら私はベットで寝ていて、その状況で何故かお母さんに膝枕をされているみたいです。お母さん、足がしびれませんか? で、見る限りお母さんもどうやら寝ているようなのは、スースーと聞こえる寝息からも判りました。
「むぅ、動けません」
恐らく私が動かない様に、落っこちない様にとお母さんが抱き留めてくれているのだと思います。ただ、そのお陰でお母さんを起こさずに脱出が出来ませんね。
左の手が動かせないので、先程動かした右手でお母さんの膝を揺すると、漸くお母さんが目を覚ましてくれます。
「おはようございます?」
何となく目が合ったので挨拶をしたのですが、なぜか疑問形になってしまいました。
「ひよりちゃん! よかった、目が覚めたのね!」
お母さんは私の顔を見た途端、涙をポロポロと流し始めたので私は驚いてしまいました。
予想外のお母さんの反応に、私は思いっきり焦りました。
「えっと、お母さん、どうしたのです?」
「え? 覚えていない? ひよりちゃんは魔法を使って倒れたのよ? 多分」
疑問形がいっぱいです。多分ですか、ただ、そう言われて何が有ったのか、気を失う前の状況がどうだったのか記憶を探りました。
そこで、魔法を発動した時に、予定以上の魔力がごっそりと体から引き出されたのを思い出しました。
「えっと、魔力切れなのです。病気じゃ無いですし、魔力が回復すれば問題無いですよ」
「でも、気絶したのよ? 長い間意識を失っていたのよ? このまま死んじゃうんじゃないかと思ったのよ?」
お母さんとの会話は、心配するお母さんをどうやって宥めるのかが主になってしまいます。
そんな話をしている間にも、お母さんの声が聞こえたのでしょうか、部屋の扉が開いて魔女っ娘さん達のみならず、お婆ちゃん達もが部屋に雪崩れ込んできました。
「よかった! ひよりちゃんの意識が回復してる!」
「魔力切れって判ってたけど、焦ったわ」
真っ先に飛び込んできたレッドさんやグリーンさん達が大きな声で叫びます。その後ろから来たお婆ちゃんもホッとした様子で、私の傍らまで来てクシャリと頭を撫でてくれます。
「ご迷惑をおかけしました? あと、どれくらい意識を失っていたのでしょう?」
MP切れは通常では一晩も眠れば回復しますが、よく考えると成長してからは魔力が完全に0になった事は無かったですね。そう考えると一日くらいは寝てたのかもしれません。
「あの襲撃から今日で3日目よ。意識が戻るのか心配になったわ」
「え? 3日も気絶してたのです?」
予想以上に回復に長い時間が掛かった事に驚きを感じます。
それに、何となくですが体内魔力はまだ半分くらいしか回復している感じがありません。
「ひよりちゃんが真っ青な顔で倒れた時はすっごい焦ったわ」
「あと、あの部屋全体に広がった光もすごかったし、そのあとも」
皆が口々に何か話をしてくれるのですが、未だにお母さんの膝枕から脱していない私は何となく締まりのない状態でみんなを見上げています。
ただ、みんなの話を聞く以上に重要な事が、気絶して三日目と聞いて途端に自然が私を呼ぶ声が聞こえます?
「えっと・・・、お母さん、トイレに行きたい」
私の言葉に、部屋に集まった人達が一斉に爆笑しますが、それよりも尿意を認識した途端に一気に危険領域へと達した私は笑い事ではありませんよ!
「あら? 足が痺れて感覚が無いわ。ひよりちゃんちょっとまってね」
「ふみゃ~~~~~~!!!」
その後、よく考えれば別にお母さんにホールドを外して貰い、自力でトイレへ行けばよかったわけです。未だかつてない絶体絶命の状況を、乙女の危機を無事に乗り越えた私は、みんなで揃って見覚えのある会議室へと案内されましたというか、ここはまだあの襲撃の有った出雲の建物ですか。
「あれ? お姉ちゃんが居ません!」
見渡すとお姉ちゃんの姿がありません。
よく考えると、あのお姉ちゃんが先程の騒ぎの中に居ないなど非常事態です。
もしかすると気を失って、まさかお姉ちゃんが捕らわれたり、犠牲に! そう思って周りを見ると、お姉ちゃんだけでなく、佳奈お姉ちゃんも、お父さんだっていません。
状況的に有り得る最悪の事態に、思わずお母さんへと視線を向けると、想像していた悲壮感を漂わせたような表情のお母さんではなく、何というか、諦めたような、良く判らない表情のお母さんが居ました。
「大丈夫、ひよりちょんの御蔭であの最悪な連中はたぶん退治できたわ」
「え? あ、うん。よかった・・・たぶん?」
そう返事を返す私ですが、何だろう? すっごい違和感を感じて、あの時の状況を思い浮かべて漸くどんな魔法を使用したのか思い出しました。
「今、この建物で動ける人が激減しているのよ。無力の人を呼んでもいざという時の事を考えると、だからみんなで協力しているわ。あ、すでに建物全体に小春ちゃんが結界を張ってくれたから一応安全よ」
「ここの結界が思いっきり役に立たなかったし、信じられるのは仲間だけって困った物ね。あと、何かワンワンニャーニャー大変なのよ」
レッドさん、グリーンさんがそう言って溜息を吐きます。
「・・・・・・えっと、もしかしたらだけど、動物のお世話?」
あの魔法で起きたであろう事象を思い浮かべて尋ねると、お母さんは無言で頷きます。
そして、わたしとお母さんの遣り取りを見ていたお婆ちゃんが、ここに来て初めて口を開きました。
「一応確認なんじゃが動物になった者達は元に戻るのさね?」
お婆ちゃんの質問に、私はどうだったかなと首を傾げる。
そもそも、私が使える広範囲魔法は殆ど無い。その理由は、使用できる魔法が強力であり、魔物を殲滅する事を目的としているから。それ故に逆に使用勝手が良いと言えるか微妙な所がある。要はフレンドリーファイヤー必須という事なのです。
「今回使用した魔法は、あれは攻撃魔法じゃ無いのです。攻撃魔法は跳ね返されるのか、消滅させられるのか判らないですけど無効化されていたのです。それで、攻撃魔法じゃない魔法を考えて試してみたのです」
これは、半分本当で半分が嘘なのです。
攻撃魔法では無い事は本当です。ただ、この魔法は前世において実際に存在する魔法で、その魔法が付与されたマジックアイテムを偶然入手して研究した成果なのです。ただ、前世においてまさか人を使って試す訳にもいかず、理論や呪文のみ把握していました。そして、先にも述べたように、この魔法は実は神聖魔法などに分類できる付与魔法なのです。
「という事は、時間経過で元の姿に戻る事もあるの? そうだとするとちょっと厄介ね。今は全部一纏めにして閉じ込めているの、襲撃して来た者の区別がつかないのよ。でもそれだと不味いわね」
レッドさんが顔を顰めますが、詳しく聞くとどの動物が敵で、どの動物が味方なのかが判らないそうです。
「怪我をしていた子は職員だと判ったから何とかなったんだけど、全部じゃ無いのよ。あ、あと、足を怪我していた動物は小春ちゃんが治療してくれたわ」
「今は交代で世話をしているんだけど、そもそもあの動物達って変身前の記憶はあるの?」
「見る限りでは知恵が有るようには思えないけどね」
「トイレ砂でトイレとか、意識が有ったら出来ないわよね。私だったら絶対に無理」
「それはともかく、ひよりちゃん、どうなの? 記憶はあるの? 無いの?」
レッドさんに続いてグリーンさんが尋ねてくる。ただ、見渡すとブルーさんが居ないのでお姉ちゃん達の方にいるの? 何か不安を感じさせる組み合わせな気がするのですが、そもそも私に今の質問に対する答えは持っていません。
「う~んと、判んない。そもそも、この魔法を使ったの初めてだから」
「真面目に?」
「うん、真面目に」
その後、一応はこの魔法に関しての情報を開示します。ただ、そもそも効果時間があるのか無いのかすら判りませんし、この魔法はどちらかと言えば魔法と言うよりも、神様にお願いして行う神術というか、奇跡と言うか、とにかくそういった部類のものなのです。
「神罰とかでは無いんだよね?」
「厳密には違うと思うのです。では何かとか、なんでこんな魔法があるのかと言われても判りません」
私の説明を、特に質問することなく聞いていたお婆ちゃんが、ここで私に対して核心てきな質問をしてきます。それは、私がある意味ずっと触れずに黙っていた事でした。
「ひより嬢と呼んでもいいのか判らないさね。ただ、ひより嬢はいったいその魔法をどこで覚えたのさね。その知識をどこで得たのさね」
私がゆっくりとした動作でお婆ちゃんを見ると、お婆ちゃんは今まで見た事も無い眼差しで私の事を見ていました。
ひよりちゃんの事に疑問を覚えたお婆ちゃんが・・・
まあ、それ以前から疑問はあったんだろうけど、今回の魔法は規格外ですからね。
これで、物語は一気に核心に・・・・・・入るっ訳が無いのよねぇ(ぁ