114:これ以上は我慢できません
誤字脱字報告ありがとうございます。
魔女さん達がワイワイと話をしている途中で、出雲の職員と思しき人が会議室に入って来ました。
そして、お婆ちゃんに何かを告げると、お婆ちゃんの表情が大きく歪みます。
「はあ、仕方がないさね。みんな、どうやらお客さんの団体が出雲に入ったようさね。出雲の術者も半数が出払ってるで、協力して欲しいそうさね」
お婆ちゃんの言葉に、魔女さん達は一斉に表情を引き締めます。
「ルビー達はこのまま此処で伊藤家、辻本家の護衛につきなさい。他は出るわよ、急いで用意してロビーに集合!」
「やれやれ、ただ不思議さね。どうやってこんな短時間でこっちに・・・・・・」
お婆ちゃんが小さな声で何かを言ってますが、私は家族のいる部屋へと戻ります。
本来だともう就寝が近い時間になってきたのですが、本当に時間を考えて欲しいですね。
「ひより、先にお風呂入っちゃったよ? 最上階で見晴らしも良くってすっごく良かったから、急いで入ってきたら?」
部屋に入ると、お姉ちゃんもお母さんも備え付けの浴衣を身につけています。もちろんお父さんもですね。どうやら佳奈お姉ちゃん達と一緒に行ったみたいで、すでに就寝準備に入っているみたいです。
「うう、言い辛いのだけど、危ないお客さんが向かって来ているみたいで着替えて欲しいのです」
「真面目に?」
「うん」
私の言葉にお姉ちゃんはガックリと肩を落とします。
「はぁ、仕方が無いよね。お父さん、お母さん、また服を着替えて!」
私達の話を聞いていた両親は早々と鞄を開けて着替えを取り出しています。
「それで? 避難しないといけないのかしら?」
お母さんが尋ねてきますが、今の所はそのような指示は出ていないので判らないと返事をします。
みんなが着替えて、荷物もまとめた所でレッドさん達が駆け込んできましたが、何やら先程とは様子がおかしい?
「ヤバいわ~~~、まじですか」
「貴方は黙ってなさい。とにかくサファイアは辻本家の人達を此方へと連れて来て」
「判ったわ。そこからは臨機応変で行かないと」
入り口で話していたレッドさんが漸く部屋の中へと入って来ました。
ただ驚いたことに、既に変身済みで思いっきり戦場の雰囲気を纏っていました。
「どうやら師匠たちは上手く嵌められたみたいで、現在連絡が取れないの。決して油断が出来るような状況では無くなっててね」
「建物の敷地を廻る余裕はありそうですか?」
「判らないわ。でも、多分だけど無いわね」
私達が話をしている間に、佳奈お姉ちゃん達が慌てて荷物を持って此方へとやって来ました。
「ヤバそうなんだよね? 何をすればいい?」
「まずは変身しておきなさい」
「・・・・・・真面目に?」
佳奈お姉ちゃんが悲壮な表情でグリーンさんを見ますが、残念ながらグリーンさんの表情は厳しいままです。
「わかりました・・・・・・うぅ、親がいるのにぃ」
とぼとぼと部屋に入ると、佳奈お姉ちゃんも変身します。
「え、えっと、み、ミラクルジュエリーファンシートランスフォーム!」
「おお、新しい呪文ですね。前よりは少し、ほんの少しですが改善されたのです?」
「うるさい!」
思いっきり魔女っ娘の杖を頭上に掲げ呪文を唱える佳奈お姉ちゃんですが、ご両親は何を始めたんだとポカ~ンと口を開けて自分達の娘を見ています。
佳奈お姉ちゃんは絶対に自分の両親へと視線を向けませんね。どうせこの後も一緒なのですから無駄な努力だと思います。
「おおお、スパッツにヒラヒラのミニスカートです! ここは撮影タイムが必要だと具申します」
絶対領域を捨てて新路線で攻めて来ました。可愛い路線では無く、活発少女系ですね。ただ、佳奈お姉ちゃんはインドア派じゃなかったでしょうか?
「ひよりちゃん、それは後にして、真面目に時間が無いから」
「うぅぅ、精神的ダメージがキツイわ」
予想以上に余裕のないレッドさん、変身した途端に乙る佳奈お姉ちゃんですが、どうやら本当にそちらに構っている余裕すら無さそうです。
「何かが接近してきます。でも、悪意が判らないのが不思議なのです」
この建物へと向かって来る複数の気配を感じます。
今回の敵は悪意察知が出来ない為、純粋に魔力を探る方法に変えた所どうやら探知に成功したみたいです。
「どこかに籠城するとしたら一つしかないんだけど、あそこが燃えたり壊れたりしたら怒られるだろうなぁ」
レッドさんが何処の事を言っているのかすぐに気が付きますが、まあ非常事態なのです。そもそも、そこまで辿り着くのが大変だと思うのですが。
「皆さん、置いていける荷物はここに置いて行ってください。裏口から出雲大社へと向かいますが、決して逸れない様に!」
グリーンさんを先頭に、二列になって移動開始です。
ただ、私とお姉ちゃんは殿を担当します。何と言っても防御力には定評があります。
そして、階段を下りていくとロビーでは警備を任されている人達が武器を手に籠城の構えをしていました。
「今外へと向かうなど危険です! ここで籠城しましょう。このビルも生半可な防御力ではありません!」
恐らく警備責任者と思われるおじさんが私達の前に立ちふさがります。
そういえば、この人はあの会議室に来た3人のうちの一人でした。
「防御結界を張れる人はいますか?」
グリーンさんの問いに4名ほどの人が手を上げます。
その人達の魔力量を見てみると、大体下の上から中の下といった所でしょうか?
「この建物全体に結界を張り巡らせるだけの魔力が持ちますか?」
恐らくですが、ロビー中央にあるモザイクのタペストリー、そこに何気なさを装って嵌め込まれている水晶が結界の要石を兼ねているのかな? ただ、この人が言っている事も一概に間違いでは無いのですよね。持ちこたえられればですが。
「どうする? 今から移動するのも危険だよ?」
ブルーさんが迷う素振りをしますが、グリーンさんの決断は変わらないようです。
「非戦闘員が多すぎます。結界を突破されたときに守らなければならない人が多い事は望むべき状況ではありません」
「し、しかし、結界が突破されるとは限らないと」
私達を留めようとする職員さんをレッドさんが前に出て押しのけました。
「私達は貴方方の管轄ではありません。私達は私達で独自に行動させていただきます」
「それは、しかし伊藤さんのご家族などは」
「何かあった時に貴方は責任が取れるのですか! 今も無駄に時間を浪費しているのです!」
レッドさんの言葉に、顔色を蒼くする職員さんです。
ただ、レッドさんには悪いですけど、どうやらタイムオーバーだと思います。
「あと数分で接敵しますよ? 今からの避難は難しいと思う」
予想以上に相手の移動速度が速いですね。車での移動だと思うのですが、警察の警備とかは無かったのでしょか? まあ、ここが襲われるなんて欠片も思っていなかったんだと思いますが。
「伊藤家、辻本家の皆さんは此方で固まってください!」
うん、レッドさんはどうやら個々の結界を信じていないみたいです。
何となく理由は判りますけど、そもそもこの結界は稼働しているのかな?
「此方へ、この部屋に、急いで!」
「ひよりちゃん、結界の準備をお願い!」
「貴方達邪魔! 急いで迎撃態勢を取りなさい!」
レッドさん達がロビー横のスタッフルームへ私達を案内して、籠城の準備をする。
ただ、この建物の従業員の人達は関係者以外立ち入り禁止の場所の為、それを阻もうとするのですが、そんな事より迎撃の準備をしないといけないと思うのです。
ブルーさんが珍しく緊張感漂う表情で、職員の人達へと指示を飛ばします。
「非戦闘員は食堂なり、どこか安全な場所に避難しなさい! ここは戦場になりますよ!」
グリーンさんの言葉を受けても、まだどうすれば良いのか他の人達の様子を窺っている人達が多数いますが、魔女っ娘さん達の危機感を感じた人達は慌てて何処かへと駆け出していきます。
そして、私の探知ではすでに接敵したと判断したのですが、一向に結界で阻まれている様子がありません。
「あ、駄目だ。これ内通者が居るよ。やっぱり結界が作動していない」
私の言葉と同時に、建物の入り口から堂々と入って来たのは、銃などの武器を手にした危なそうな人達です。思いっきり迷彩服を着ていますが、あれって街中で着用する意味はあるのでしょうか?
「最悪~~~! 結界の稼働装置が作動しないなんて、何やってんのよ出雲の連中は!」
ブルーさんが叫びますが、その間にも私達のいる部屋はお姉ちゃんが展開する多重結界に覆われました。
「ここ裏口ないね。スタッフルームなら裏口くらい作りなさいよ!」
レッドさんも部屋の中で叫んでいますが、ロビーは突然の乱入者で右往左往しています。
「動くな! 動くと射殺するぞ!」
入って来るなり天井に向けて銃を発砲する乱入者。どうせなら魔法で行って欲しかったけど、この地では土地の関係で威力が減衰するのでしたっけ? もっとも、このままだと色々と面倒な事に成りそうなので、私も腹をくくる必要が出てきましたね。
「我らに仇名す者達に、精霊の・・・ファイヤーアロー!」
レッドさんから火の攻撃が銃を持った男へと向かいます。
もっとも、相手もそれなりの対抗策を用意していたようで、その攻撃は何かに阻まれるように届くことなく霧散しました。
パパパン!
レッドさんの攻撃を受け、銃を所持した男は無造作にレッドさんでは無く近くにいた職員へと発砲しました。
「ウギャーーーー!!!」
胴体や頭では無く、両足を狙ったのは明らかに意図的なものです。
恐らくですが人質的な要素を多分に含むつもりなのでと思います。
「今のはあくまで威嚇だ。お前達が何かする度に今後は一人ずつ此処にいる者達を射殺する!」
その男の言葉と共に、押し入って来た者達は一塊になる事無く、ロビー全体に広がる様に立ち逃げ遅れた者達へと銃を向ける。
「まずはそこの結界を解除してもらおう。そうしなければ、判るな?」
「そんな事出来る訳が」
パパパン!
「ウギャーーー!!!」
レッドさんの言葉に、男達は又もや無造作に銃を発砲しました。
新たに撃たれた人は、今度も両足を撃たれ出血が床の上にじわじわと広がっていきます。
「さあ、どうする? これ以上犠牲を出すか?」
その男の言葉にレッドさんが歯噛みするように押し黙ります。
「聞こえているのだろう! どうする! 貴様らのせいで犠牲者が増えるぞ! いつまでも足なんざ狙わねぇぞ」
パパパン!
「ギャアアアアーーー」
今度も足を狙っての発砲ですが、それもいつまで続くか判らない状況で、ロビーにはすすり泣きが聞こえ始めました。
「ひ、ひより? だ、大丈夫?」
お姉ちゃんは私を見ますが、それでも結界を解除しようとはしません。
家族で既に話し合っているのです。私達にとって大事な物を見誤る事など有り得ません。
「お前達、絶対に地獄へと落としてやる!」
レッドさんがそう言って男達を睨みつけます。
そんなレッドさんに男は銃を向け発砲しますが、銃弾はお姉ちゃんが展開している結界に阻まれ床へパラパラと落ちました。
「どうするよ? ここの連中を見捨てるのか? え? 正義の味方さん」
明らかに馬鹿にした表情で此方を見る男達。その男達の向こうでは、数か所に固まって座っている職員たちが懇願するかのように此方へと視線を向けています。
「私達は、え? ひよりちゃん、駄目!」
何かを言いかけたレッドさんを押しのける様にして、私は前に進み出ました。
そんな私を慌てて押しとどめようとするレッドさん、その手を抑え前に出た私は、今まで下を向いていた顔を上げた。
「おっと、俺達に魔法は効かない。それなりの」
「我が神は述べる、モフモフは至高成り!」
長い呪文の最後のキーワードを唱えると、体から今までにないくらいの魔力がごっそりと引き出されるのを感じた。予備で持っていた真ん丸ダイヤも次々と粉になって消えていく。この世界に生まれ、ここまでの魔法を使うのは初めてであり、今の私自身に蓄えられている魔力で何処まで拡大できるか、これは前世においてもユーステリア様ではない、別の神が司った魔法。それ故に神による補助は望めず、負荷はそのまま私へと跳ね返ってくる。
「コンコン!」
「キューキュー」
魔法発動と共に広がった眩しいばかりの輝きが収まった先には、至る所にキツネや狸、猫や子犬などの生き物が至る所で腰を抜かしたかのように座り込んでいた。
小 春 :「・・・シリアスさん、シリアスさん、生きてますか~~?」
シリアス:「・・・・・・」
小 春 :「返事が無いわ、ただの屍の様ね」
ひより :「この作者の定番ネタだけど、歪みを感じるのです・・・」
南 辺 :「否定できない!」