112:出雲に到着しましたよ
誤字脱字報告ありがとうございます。
あの後、佳奈お姉ちゃんを追いかける様に佳奈お姉ちゃんの両親もやってきて、結局は夕飯の時間まで私達の部屋で今後の事などを相談しあっていました。もっとも、佳奈お姉ちゃんの家だと我が家以上に問題があるのです。何せお父さんが会社を経営しているのですから。
「流石に会社を辞める訳にはいかん。自分達の生活もそうだが、社員やその家族の事もある」
「そうですね。それに今廃業したら借金しか残りませんよね」
まあ普通に会社をやっていれば、こういった事になりますよね。
もっとも、無借金で経営している会社だってあるでしょうから、一概には言えないと思いますが。
「そうですなあ、私は気楽な稼業と言われるサラリーマンですが、それでも引継も無く退社など出来ません。ただ、それすら辻本さんの大変さに比べれば無いに等しいのでしょう」
「いえ、伊藤さんをどうこうなど言っている訳ではないのです。ただ、ここまで頑張って来た、育てて来た会社をと思うとですね、もっとも家族の命には代えられないのですが」
そう言いながらも未だ思いきれない様子が多々見られるのです。
我が家に関わっちゃったから巻き込まれてしまったんだよね。その事に非常に罪悪感を感じるのですが、ちょっと微妙な空気を佳奈お姉ちゃんが思いっきりぶち壊してくれます。
「お父さんも、なに落ち込んでるのよ! こんな可愛い娘の命が掛かってるのよ? それに、私お婆ちゃんに色々習ってて御蔭で悩んでたニキビはゼロ! 美肌効果やアンチエイジング効果だってあるんだから! 娘が綺麗になって嬉しいでしょ?」
うん、流石です。ここで嬉しくないなどと言える父親が居たら見てみたいです。
それだけでなく、佳奈お姉ちゃんのお母さんはアンチエイジングの単語に思いっきり反応していますよ。
この後、娘への尋問が始まる事は確定事項だと思います。
夕食の時間となり、両家揃って先程の会議室へと向かいます。
すると、そこには漆塗りの2段になったお弁当? とお味噌汁が人数分用意されています。
「外へと食事に行く事も考えましたが、まだ事態の変化が激しくこの様な食事になってしまった事をお詫びいたします」
出雲のおじさんが又もや現れて、お弁当の中身の説明をしてくれます。
お弁当といっても、見るからに豪勢ですし私的には何の問題も無いんですけどね。
「それで、状況はどうさね」
どうやら親睦も兼ねているようで、出雲のおじさん以外にも3人の人がお食事会に参加しています。
もっとも、どの人も40歳は過ぎているかな? という感じの人達で、主に魔女さん達と会話をしています。
「お知合いなのです?」
「う~ん、私達は知らないけど、姉弟子達は面識があるみたいだね」
私の横に座っていたレッドさんにお伺いすると、レッドさん達も同様に面識は無いみたいです。どちらかと言うと仲間内で集まって会話しながら食事している感じです。
「しかし今回は下手打ったね。日ノ本の面子が丸潰れなのは当然として、いいように迫撃砲だ何だとバカスカ撃たれた警察だって黙っていられないだろうに」
「テレビでまた報道管制を敷かれてるのかしら?」
グリーンさんが立ちあがって部屋の隅にあるテレビを点けに行きます。
すると、そのテレビではそれこそ大々的に各都市にある大陸街での大捕物の様子が流されていました。
「うわ! これマジなの? もろ銃撃戦してるじゃん」
佳奈お姉ちゃんが思わず叫び声を上げたくなるのが判る映像が、テレビで思いっきり流されています。
「海外のテロ組織かあ、まあ間違ってはいないけど、思いっきり撃たれた映像とか流れてるけどこれいいの?」
テレビの中で、アナウンサーは必死な様子で「この映像は映画ではありません!今実際に起こっている出来事です」と叫び続けています。
「近場に住んでいる人達は避難誘導されているんだろうけど、それに紛れて大物が逃げちゃいそう」
「そこは一応身分確認とかしているだろうけど、朝からこんな状態だったのかな? このアナウンサー声が枯れ枯れだよ」
「ほんと、避難誘導とかも案内しているけど、余子浜、境、福丘、そして帝都かあ、一度に4か所ともなると何が起きたんだって気持ちになるよね」
どのチャンネルもこの事件を報道しています。ただ、私達への襲撃は、迫撃砲などが派手に使われた割にどこも放送していません。
「今起きている現場の方が視聴率がとれるからなのかな? まさか私達への襲撃は無かったことにされてたりしないよね?」
「どうかしら? あの状況で映像を撮るほど余裕のある人なんか・・・・・・いそうね、この日ノ本の住人には」
「そうね、否定が出来ないわ。自分が死ぬかもなんて欠片も思わないで撮影していそう」
なぜなら、今見ているテレビ映像の中で明らかに戦闘エリアと思われる場所から映像を撮影している人達がいるわいるわで吃驚です。
「戦場カメラマンという訳じゃないんだろうし、一般市民で死者が出たら思いっきり警察が非難されるんだろうね」
何だかなぁという気持ちでテレビを見ます。
何となく食事のグレードが食べ始めた時より落ちちゃった気になりますね。
「未だ銃撃戦は続いては居りますが、その殆どが海外より来日している傭兵です。警察官には少々荷が重かったとしか言いようがありませんが、幸いにしてこちら側に今の所は死者は出ておりません」
「それはそれで凄いわね。ただ、トラウマ抱えちゃう人は出そうだけどね。自分の身近を銃弾が飛び交う経験なんて訓練してても耐えられないわよ。ましてや警察官ではね」
トパーズさんが机の上に肘をつきながらテレビを見ています。
恐らくお婆ちゃん達が事前に渡したポーションが活躍しているのだと思いますが、ポーションでは心の傷は治せませんから。
「で、肝心の術者とはどうなっとるさね」
「一部は取り逃がしていますが、今も例の閉鎖空間で戦闘をしている場所もあります。もっとも現在把握できている中で捕縛できている物は1名、死亡が確認できたものが6名、取り逃がした者が14名です」
「襲撃して来た5名は別口として、合わせると26名もの術者が入り込んでいたって言うの? ちょ~~いと怠慢じゃない?」
トパーズさんの視線が険しくなっています。ただ、茶わん蒸しの器とスプーンは置いておいた方が良かったと思いますよ?
私の視線に気が付いたトパーズさんは、ちょっと咳払いをして茶わん蒸しをテーブルに置きました。でも、ほんのり顔が赤い様な気がします。
「賢徳達が踏ん張っとるのだろうが、事前情報でそこまでの人数は伝えられていなかったさね。まさか確認できただけで26人・・・・・・下手すると倍の人数がいても驚かないさね」
「そうなると、いくら出雲とは言え油断は出来ませんね。それでこの食事ですか」
成程、そういう事だったのかとトパーズさんの言葉に納得をします。
ただ、お姉ちゃん達のみならずレッドさん達も今解りましたといった様子なのがねぇ。
「それで、肝心の連絡は来たのさね?」
「途中報告は幾度か、ただ、現在は閉鎖空間に入り込んでいる為連絡が取れていません」
出雲のおじさんがそう言い切りますが、という事はどちらが優勢かも、怪我人とかがいるかどうかも判っていないという事です。
SSAというシックスセンス協会という世界的な組織もあるそうですが、ここも大陸系の術者の加盟は無く、統制や圧力どころか術者の纏まりがあるのかすら不明という状況みたいです。
「さて、となると賢徳達の結果待ちになるさね。ここまで術者が絡むとすると唯の大陸マフィア案件とは違ってくると思うさね」
「何を狙っているのでしょうか?」
「今の段階で不用意な断定は危険だと思われますが? あまりにも情報が少なすぎます」
「トパーズの言う通りさね。ただ気になるのは教会系の動きが見えない事さね」
お婆ちゃん達が何か話をしていますが、会話に入れるような内容ではない為、無言で食事を進めます。
あ、この茶わん蒸し美味しいですね。トパーズさんが名残惜しそうに手放したのが良く判ります。
お父さん達も黙々と食事をしていますが、そもそも私達の家族が聞いても良い内容なのか疑問ですが、ここまで来たら思いっきり関係者なのでしょう。変に知らないで問題行動をする可能性もありますし、お外に出かけちゃうとかですね。
「今回の事で、貴方達が作られるポーションの価値が非常に高まっています。今後、安定供給をお願いする事は可能でしょうか?」
ここで、私に関係しそうな話が聞こえて来ます。もっとも、あえて関係がある素振りはしませんよ?
「私らはそもそも昔から薬作りで生計を立てて来たさね。もっとも、作れる者の数なんざ知れておるで、そうじゃの、せいぜい月に2,30本が良い所さね」
あ、そっか、ポーション=薬草とは限らないし、お婆ちゃんの所秘伝のポーションとかもありそうだものね。ただ、今お婆ちゃんの所でポーション作りをしている人達を思い浮かべると、確かに増産は厳しそうかな? みんな自分の研究と言うか、欲望に忠実な方が多いので興味が無くなれば作らないだろうし。
「そもそも、私達の主要な販売品は自然由来の化粧水などです。ポーションもその過程で生まれた物ですが、そもそも生産メインの魔女は誰一人いません。お金稼ぎに邁進する魔女など居たら驚きですね」
続くトパーズさんの発言には思いっきり納得出来ます。あくまでもお金は研究に必要な要素でしかないという事でしょう。貴重な材料や道具を買う為にお金を稼ぐはあっても、その逆は無いと言う事ですね。
「失礼ですが、伊藤さんご姉妹は如何でしょうか? 癒しのお力をお持ちと聞いておりますが」
そこで、突然予想もしていない問いかけが私達に来ます。
ただ、そこは癒しの力であってポーションでは無いのですけどね。
「私達はお医者さんでは無いですよ? そもそも、資格の無い者の医療行為は違法なのですよね?」
「そうですね、それが医療行為と判断されればですが」
むぅ、何かすっごく酷い詭弁を聞いた気がしましたよ。
ただこの件は以前に私も色々と検討したので慌てる事無く答える事が出来ます。
「医療行為と判断できない方法で、医療行為と取られる事を行うと詐欺に当たる可能性がありますよね? 国にあえて付け入る隙を与えるつもりはありませんよ?」
「それで人の命が救えるとしてもですか?」
「世界中の人を私達だけで救えると思う程、傲慢になったつもりはありませんよ?」
私の言葉に出雲のおじさんは黙り込みました。
まあお婆ちゃんは終始ニヤニヤと人の悪い笑顔を浮かべていましたけどね。
主人公達がここまで活躍しない小説ってあまり無いのではと思えてきましたw
一応、色々と巻き込まれてはいるのですが、周りが強すぎますねwww