111:お姉ちゃんの好きな人は?
誤字脱字報告ありがとうございます。
その後は無事に私達は出雲へと到着しました。
あの妨害は何だったのだろう、意味があったのだろうかと思うくらいにあっさりと。
「漸く到着したわね、流石に10時間近い移動はきつかったわね」
特に何をするという訳では無く、ただ座って乗っているだけなのですが疲れました。
一応、襲撃に対する警戒は外せませんし、そうなるとバスで寝ている訳にもいかないです。お父さん達も途中の襲撃以降はずっと起きていました。
佳奈お姉ちゃんの家族は混乱状態継続中ですが・・・・・・
出雲大社の前をバスで通過したので、これからみんなで参拝かなと思っていたら何故かちょっと離れた近代的なビルへと誘導されます。
「えっと・・・・・・宮内庁出雲支社?」
ビルの玄関先にそんな表示がされているので思わず首を傾げてしまいました。
「どうかしましたか?」
神主さんの所の人達は、どちらかと言うと帰って来たという感覚なのか到着してから一気に肩の荷が下りたような表情をしています。
「出雲大社は宮内庁の管轄なのですか? 神様違いな気がするのです」
そもそも祭られている神様のルーツが違いますよね?
「ああ、勘違いさせてしまいましたか。出雲大社は別に宮内庁の管轄ではありません。独立した宗教団体です」
その後、説明を聞くと宮内庁と謳っているのは一般の人に判りやすくする為だそうです。で、ここは何かというと、思いっきり日ノ本の能力者達の組織の拠点だそうです。
「日ノ本における国と結びついている能力者達は建前上は宮内庁の組織に加盟している事になります。まあ、警察や軍の組織にも一部居ますし、在野にも居ますので全員が加盟している訳ではありませんが」
「なるほど」
一応判ったようなふりをしていたら、そのまま建物の中へと案内されました。
大きな会議室へと通されて、全員が一息ついていると入り口から見たことの無い人達が入って来ます。
「皆さんお疲れさまでした。道中色々とあったようですが、ご無事でなによりです」
入室して来た人は、スーツを着ているので宮内庁の人でしょうか? ただ、見た感じ術者という訳ではなさそうですが、見るからに偉いさんっぽいです。
「潘の坊主じゃないかい。久しぶりに見たら偉っそうになってるさね」
「おや、婆さんはまだ引退していないのですか? 老体に無理はいけませんよ?」
「ほう、しばらく見ない間に口が達者になったようさね」
お婆ちゃんは知っている人みたいですが、何となく関係が判る遣り取りですね。
「で? 榊たちは成功したのさね?」
お婆ちゃんが端的に状況の説明を求めます。
ただ、バスの中でお婆ちゃんが話してくれた内容から、成果がどれ程実るのかは悲観的にならざる得ないみたいです。
「打撃は与えました。実働部隊の内、術者以外の者達はほぼ無力化に成功したと思っています」
「術者は取り逃がしたと?」
「幾重にも包囲していたつもりでしたが、最後に身代わりの人型と思われる物を使い。ただ無傷では無く、中には重傷を負っている者もおります。あのアイテムを使用したとしても然程遠くまで移動は出来ないと思われ、現在懸命の捜索を行っております」
まあ魔法を使えば逆に察知される可能性は高くなると思いますから、治療するにも現代医学が主体となるのでしょう。ただそれも、仲間に医者が居れば何とかなるのではないでしょうか?
「術者が生き延びているのは厄介さね。それこそゲリラ戦でもされたら堪ったもんじゃないさね」
お婆さんの言葉に、この場に居るみんなが揃って頷きました。
「情報が洩れてるわね。私達が今日出雲に向かう事は一応秘密事項だったんだけど、流石に経路までは漏れて無かったみたいですけれど」
「そうさね、ルートが判らなかった故の陽動と時間稼ぎだったさね」
成程、そういう物かと思いながら、そうすると術者の実働部隊はまだ他にも居たのかもしれないです。
「ここ出雲は古来から守護された地ですから、出雲に敵対する場合、生半可な術は発動すら出来なくなります。何しろ年に1回は神々が集まる地です」
そう言って笑うおじさんですが、これはこれで後で調べてみましょう。
俗に言う聖域という物かもしれません。ただ、その効果が実に興味深いですね。
「今回もそうだけど、あいつらの術を遮断しないと毎回逃げられる事になるよね」
その後、より詳しい状況説明を受けた後、レッドさんがそう疑問を呈しました。
「それは否定できません。ただ、先にも述べましたように出雲は特殊な地です。それ故に襲撃も出雲へと入る前に行われたと考えています。また、あのアイテムは調べた限りにおいて非常に貴重な物と思われます。はたして、あとどれ程残りがあるか」
出雲のおじさんの意見を聞いて納得はしたのですが、どうせならあの仙術と呼ばれる系統を知りたい、研究したいと思います。もっとも、今はそんな状況では無いのかもしれませんが、敵を知り、己を知らばなのです。
「あの、アイテムに関しては憶測にすぎませんよね? ならば余りそこに頼らない様にした方が良いと思います」
お姉ちゃんはお姉ちゃんで憶測の部分が気になったのかな? ただ、そこは多分に私達や佳奈お姉ちゃん家族向けのリップサービスだと思う。特になんやかんやで佳奈お姉ちゃんのお父さんとお母さんはちょっと精神的に不安定になっている気がします。
「まずはみんな休みたいのですが、お願いできますか?」
チラリと視線を家族に向けて私がそう言うと、出雲のおじさんも気が付いたようでお婆ちゃん達を残して私達は宿泊部屋へと案内されました。
「というか、ここ宿泊施設にもなっていたんですね。温泉まであって吃驚なのです」
「そうね、見た目はホテルとかに見えないわよね」
お姉ちゃんも同様の意見です。
私達は家族4人で一つの和室に泊まる事になりました。ちなみに、隣の部屋は佳奈お姉ちゃん達家族です。
「思ってた以上に危険な事になってたのね」
「そうだな、ちょっと安易に考えていた」
部屋に入るなり、お母さんとお父さんが今回の事を思いながら自分達の認識との違いに言及しました。
「それは仕方が無いと思う。わたしも以前のゴタゴタの延長で考えてたよ。今回はガチガチの戦争だよね」
私の言葉にみんなが頷く。
そもそも、この日ノ本でやれ迫撃砲だ、やれロケットだなどといった攻撃が起こるなんて誰も予想しないよね。それなのに、今回は装甲車まで出て来るし、何が何やらといった気持ちです。
「さて、こうなってくるとお父さんも仕事を考えないとならんな。民間企業で仕事をするなど厳しいだろう」
「そうねぇ、私も宮内庁に転職してなかったらと思うとよね」
お父さん達の言葉に、私は非常に申し訳ない気持ちが湧き出てくる。
そんな私を見て、お父さんが声を掛けてくれます。
「ひよりが気にする事は無いぞ。ひよりは巻き込まれたのだ」
「うん・・・・・・」
それでも、お父さんが今の仕事が好きなのを知っているから、その仕事から転職を強いる事の罪悪感は簡単には消えない。
「まあ、お父さんは家族みんなが笑顔で一緒に暮らせればそれで良い。それが一番大事な事だ」
「そうねぇ、もう数年もしたら小春はお嫁に出ちゃうかもしれないけど」
「ふぇ!」
「こ、小春! お前そんな相手がいるのか!」
「え、い、いないよ! いないってば!」
お母さんの爆弾発言で、一気に場が混沌として来ます。そんなお母さんは私と目が合うとニッコリと笑いウインクしました。
これ以上話をしていても意味が無いわよと言ったお母さんの優しさと意思表示なのだと思います。
「お母さん、ありがとう」
「あら? 何の事? でも、ふふふ、小春ももう高校生だし、あながち嘘じゃ無いかもしれないわね」
「・・・・・・お姉ちゃんに異性の友達がいるようには思えないよ。佳奈お姉ちゃんと結婚なら判る」
私が零した声を聴いたお姉ちゃんとお父さんが凄い勢いでこっちを見ました。
「ひより! あんた、なに変な事言い出すの!」
「こ、小春! そうだったのか! むぅ、それは、むぅ」
「無いわよ! なんでそんな話になるの! 何で私が佳奈と結婚しなきゃいけないのよ!」
お姉ちゃんの絶叫が部屋の中へと轟くのですが。
「お姉ちゃん、声が大きすぎだよ? 隣にも聞こえてるよ」
私の忠告に、思わず両手で口を押えるお姉ちゃんですが、時すでに遅しなのです。
「小春~~~!!! あんたなに変な事を絶叫してくれちゃってるのよ!」
案の定、鍵を掛けずにいた部屋のドアを凄い勢いで開けて佳奈お姉ちゃんが顔を真っ赤にして乱入してきました。
その佳奈お姉ちゃんにこれまた顔を真っ赤にしたお姉ちゃんが慌てて言い訳を始めていますが、双方がテンパってるので収拾がつかないと言いますか。
「わ、私だって普通に男の子が良いわよ!」
「え~~~、だってそんな素振り無いじゃない。誰? 誰がいいの?」
「だ、誰だっていいじゃない!」
うん、まあともかく元気なのは良い事ですね。
「小春はまだまだ子供ねぇ、ねぇひより、貴方は誰か好きな子いないの?」
「いるように見える?」
「・・・・・・はぁ、こっちは本当に駄目そうね」
心外な! ただ前世も死ぬまで独身だったし、否定できる要素が欠片も無いよ。
南 辺:「うん、何故か時々こういう話が天から湧いて出てくるのです」
小 春:「事件の解決の目途すらたってないのに・・・」
ひより:「結構不味い状況ですよね? 日常に戻れるかどうか」
南 辺:「? え? 貴方達は何か勘違いしてませんか?」
小 春:「?」
ひより:「勘違い?」
南 辺:「このお話はコメディーですよ?」
小 春:「・・・・・・」
ひより:「駄目だ、今ここで何とかしておかないと」
南 辺:「え?」
その後、南辺の姿を見た者は・・・・・・(ぇ