110:魔女さん達は強いです
誤字脱字報告ありがとうございます。
完全に停車したバスと、前に並んだ5人の風体の怪しいおじさん達、ただその姿からして5人共に術者の様です。間に合ったのか間に合っていないのかは不明ですが、結局の所この場で対峙する結果となったのは不本意なのです。
「さてさて、どうするかね、面倒じゃが出るかね」
お婆ちゃんがバスのドアを開けさせ、トパーズさん達を連れて外へと足を運びました。
その際に、神主さんのお弟子さん達に周囲の警戒を指示したのは流石ですね。この前の人達が囮では無いとは言い切れません。
「さてさて、道に突っ立ってあんた達邪魔さね。退いてくれんかね」
「日ノ本の魔女か。お前達には用は無い。火炎使いを呼べ。術者同士の術比べよ、まさか逃げはせんな!」
相手の言葉にお婆ちゃん達のみならず、私達も何の事と首を傾げる事となりました。
「我らの術を悉く火炎にて焼き払った術者だ。残念ながら特定までは出来なかったが、伊藤小春、ひより、辻本佳奈、このどれかだという事までは特定が出来ている」
「火炎って事は火よね? 佳奈、あなた火炎なんて術を身につけたの?」
お姉ちゃんが不思議そうな表情で佳奈お姉ちゃんを見ますが、佳奈お姉ちゃんは慌てて首を横に振ります。
「ば、馬鹿な事言わないでよ! 私まだ修業初めて一年も経ってないんだからね!」
まあお姉ちゃんと違って幼少の頃から私に感化されて自然と魔術を身につけたりしてないですからね。
流石に一年で魔法の発動までは辿り着いていないと思います。メインはどちらかと言うと薬草系と聞いていますし。そして、お姉ちゃんは思いっきり浄化と治癒に特化されちゃっているから、火炎のイメージはあまりありません。
「消去法で行くとひよりなんだと思うけど、ひよりって火炎何か使えたの?」
お姉ちゃんが改めて尋ねてきますが、そういえば木人兵を焼いた記憶が有るような無い様な?
「火炎と言えば何となくレッドお姉ちゃんのイメージがありますよ?」
まあ素直に認めるより、ここはレッドお姉ちゃんにそっと押し付けてみましょう。
私の思いが通じたのか、車外のレッドさん達も同様に言葉を挟みます。
「まあ炎って言えば私だけど、木人兵なんて戦った事無い? 姉さん達は?」
「木人兵でしょ? あんな骨とう品使ってるのが驚きよね?」
「だね、あれ簡単に潰せるし」
レッドさん達による批評会が勃発していますが、変な格好の人達は顔を真っ赤にしています。恐らくわざとでしょう、皆さん判ってて煽ってますね。
「術者比べって何ですか?」
そもそもの問題として、ここまで関係が拗れて戦争状態と言っても過言じゃない段階での発言です。
恐らく術を使った力比べなのでしょうが、こんな時に何を言ってるんだって気がします。
「その言葉通りの意味なのですが、問題が大きくなる前に双方の団体代表による術を競って、その勝敗によって折り合いをつけるんです。ただ、此処まで問題が大きくなると」
神官さんの所の人が教えてくれますが、そうですよね。もうそんな段階を過ぎていると思います。
「大陸のは暢気さね。すでにそんな段階は過ぎたさね」
お婆ちゃんの声にも明らかに呆れた様子が感じられます。
ただ、どうやら相手は違うようで、まるで勝ったかのように私達が術比べを受けない事を批判し、馬鹿にしてきました。
お婆さんがどうする気なのかは判りませんが、先程お婆さんの傍から走り去ったネズミさんが何やらせっせと後方で作業を行っていますから、何かを仕込んでいるのかな?
もっとも、相手も相手で何かしているのだと思います。
話をしている中央の人以外の4人、その4人がそれぞれ呪文らしきを仕込んでいる? 唱えてる? ともかく準備しているのは初めから判っていました。
「術比べって開始前に術を仕込んでも良いの?」
「それは問題無いですね。そもそも、身につけている装備に既に術が仕込まれている物もあります。何をもって問題とするかの境界が曖昧なので、普通は開始の合図まで攻撃しないくらいしか制約はありません」
成程です。そうすると、開始前に戦いの場となる場所に予め仕掛けを施していても問題にならないという事ですか。まあ戦う前に決着がついているとか言ってみたいセリフの上位ですしね。たぶんですけど。
「さて、これ以上言いあっても仕方がないさね。そろそろ始めるさね」
お婆ちゃんの言葉で一気に場に緊張が走る。
先程まで顔全体が口になるかのように怒鳴る様に話していた男も、身構えて最後の言葉を吐き捨てる様に告げる。
「後悔するなよ」
その言葉が合図だったのか、両サイドの男達が一斉に前に走り出してきた。
魔女さん達がまさに迎え撃とうかとした瞬間、向かってきた4人が一斉に分裂する。
「おお、えっと、分身の術?」
16人に増えた男達は、それぞれに手に剣や杖などを持ち、ある者は2メートルは旅上がり、ある者は地面スレスレでと多彩な攻撃を魔女さん達へと行う。
ただその攻撃もすべて結界による障壁に阻まれて届く事は無いのですが。
「炎よ、燃やし尽くせ!」
「水よ、その身に沈めよ!」
「大地よ、穿て!」
「ほ、ほ、ほ、・・・・・弁えぬ者達さね、滅せよ!」
魔女さん達は何か思いっきり厨二病てきなといったら失礼かなというようなポーズをとって魔法を放ちます。
「・・・・・・あのポーズは意味が有るのか興味があります」
「ひより・・・・・・」
研究者としての探求心が思わず口から零れるのは仕方が無いと思うのです。
魔女さん達の攻撃は、結界に阻まれ動きの止まった相手に確実に命中し、その中でも恐らく本体に炸裂した攻撃は分身を解く効果が有るのか一気に10人の姿が消え、地面には二人の術者が倒れていた。
「屍鬼兵装術!」
中央に居た男が術をとなえ唱えると、その倒れた男達が起き上がり再度攻撃を加えてくる。
「うわ、目が真っ赤だよ、あれって生きてる?」
武器も持たずに行われる結界への攻撃、その打撃音はとても生身の人間が出せる音では無い。
その様子を見ながら私は思わず顔を引き攣らせた。
「やれやれ、まだその二人は死んじゃあいなかったさね」
そう言いながらもお婆ちゃんはその二人に向かって術では無く、液体を振りかける。
すると、今の今まで動いていた二人は、一気に力を失ったかのように地面へと倒れた。
「馬鹿さね。最近じゃあ浄化は日ノ本では常識さね。屍鬼なんざあっという間に浄化されちまうさね」
確か屍鬼は死んだ人を操る術でした? それともこっち風のゾンビさんでした? お婆ちゃんが使用したのは恐らく薬草栽培時に土に撒く為の聖水ですね。あれでも効果があるのですか、驚きですね。
「真仙術、神兵装!」
何か真ん中のおじさんが唱えました。すると、その全身が金色に光ってその光が鎧のような形へと姿を変えました。あれ、すっごく目立ちますね。現場や戦場でもし一人で使用したら、魔物やら敵兵やらの良い的になりそうです。
「飛仙の術!」
更に追加で術を発動したかと思うと、空中を駆ける様に走り、お婆ちゃん達を飛び越してバスの前に・・・・・・来ようとしてやっぱり結界に激突して跳ね返されます。
「うちの結界はドーム状になってるからねぇ」
「まあそうよね、上が開いてて筒状だったりしたら問題あるわよね」
冷静に私の呟きに返事を返してくれるお姉ちゃんですが、その様子は最初の緊張感は何処かへ旅立ってしまい、何か舞台や映画を見ているような感じかな?
「それにしても、温いのです。まだ何か罠が有るのです?」
「え? そうなの? でもさ、小説なんかで戦力の小出しって最悪な方法とか言われてない?」
「そうですね、此方の戦力を見極める為の使い捨てと考えられなくも無いです。でも、どうなのでしょう?」
そんな会話の最中にも、気が付けば中央にいた男はまるで言霊に晒されたかのように全身から炎を噴き出して消し炭のようになって地面に倒れ伏していました。
「・・・・・・あっけなさすぎないかな?」
魔女さん達が強すぎるのか、相手が弱すぎるのか、何の盛り上がりも無く地に伏している5人。
「えっと、四天王で最弱だとかやるにも5人いるし、困ったね」
佳奈お姉ちゃんが何か変な事を呟いていますが、あれは判ります現実逃避ですね。
そもそも人の生き死にを目の前で見た事は無いと思うし、お姉ちゃんを含め後でメンタルケアが必要になると思います。
ただ、その後しばらくお婆ちゃん達は周囲を警戒していましたが、結局は5人の死体を消し炭にして証拠隠滅をした後に全員揃ってバスへと戻って来ました。
「お疲れ様です」
私や他の人から労いの言葉を掛けられたのですが、お婆ちゃん達の表情がすぐれないです?
「仕留めそこなったさね、最後の最後に身代わりで逃げられたさね」
「「「ほぇ?」」」
私達は思わぬ申告に、間の抜けた返事をかえしちゃいました。
「本体にもダメージは与えておるさね。最後の最後に身代わりの人形になったさね。古臭い連中と思ったが中々油断できないさね」
「ほんと、精霊が気が付かなければ判んなかったわ」
「あの屍鬼あたりから変だったわね。油断した訳じゃ無いのだけど、どうやら施していた仕掛けは攻撃用じゃ無かったみたいだね」
お姉さん達もどうやら気が付いていたみたいです。
ただ、私には全然判らなかったので、相変わらず仙術やら陰陽術やらは興味深いのです。
「これで一つの形は出来たさね。もっとも榊や爺達が下手うってなければさね」
そう言って笑うお婆ちゃんだけど、うん、お爺ちゃん達は大丈夫なのでしょうか? ちょっと心配です。
「さて、出発さね」
「運転手さん、出発して。ようやく後続も追い付いて来たみたいだし」
トパーズさんの言葉に後方を見ると、此方へと向かって来る装甲車の姿が見えました。
・・・あれ? 山場どこ?