105:私は研究職ですよ?
誤字脱字報告ありがとうございます。
お婆ちゃんのお店に無事到着して、そのまま部屋へと通されました。
そして、お婆ちゃんに説明を受けているのですが、今まで頑として詳細が判らなかった鳳凰学院の騒動が、ここに来て一気に表に出て来たそうです。
「まあ追い詰められたってのもあるのさね。賢徳と榊が裏で火をつけまわったでの、思っていたよりデカい獣が燻り出されたさね」
そう告げるお婆ちゃんの表情は、どこか疲れた様子に感じられます。
まあ、世間には秘されて裏で行われている印象の戦いが、日ノ本ではありえないバイオレンスで危険な世界に突入しちゃいましたからね。
「大陸の導師と呼ばれる術者が数名関与している所までは調べが付きました。ただ、今現在も潜伏先までは判明していません」
「今回は銃は勿論として、例の木人兵が派手に使われています。すでに多くの一般人に見られていますが、何を考えているのでしょう?」
グリーンさん達は今の状況に戸惑いを覚えているようです。
ここへ来るまでの車の中で聞いたのですが、魔女っ娘さん達の戦いでは人の生き死には基本発生しないそうです。未だかつて誰かを殺してしまったなどという事も無いそうです。
「魔女っ娘は、みんなの人や生き物を愛する心を増やすのが使命なんだよ!」
レッドさんはこの様に申しておりました。
それはそれとして、相手がこの様に強硬手段に打って出たという事は此方も何らかの対応を行わなければならないという事です。ただ実際に抗争といいますか、拳銃やカーチェイスなどが事件として発生したのですから警察の管轄になるのでしょうか?
「合同での対処になるだろうさね。そもそも、日ノ本の警察官に拳銃で戦えなんざドラマの中の出来事さね」
実働部隊としては、術者を中心に敵を排除する方向ですでに幾つかの拠点を襲撃しているそうです。
某危ない集団の方々と同じで、自分達の領域を荒らされたまま放置するなんて考えられないそうですね。
「ああ、それとね、小春ちゃん達が心配していた親衛隊の人達だけど、全員無事だったから。ハンドル操作を誤って歩道に乗り上げただけだからね。ああ、あと敵の引っ繰り返った車にはちゃんと人が乗ってたよ。流石に車の運転までは木人兵では出来なかったみたいだね」
レッドさん達の姉弟子にあたる、先代魔女っ娘さんのお一人、緋色さんがそう私達に教えてくれました。ちなみに、その車に乗っていた人達はシートベルトとエアバッグで軽傷だそうです。
その後も続々と情報がお婆ちゃんの所へと入って来ます。
その中で気になるのが、どうやら鳳凰学院の中にも敵の術者が入り込んでいるみたいなのです。
「殆ど資料らしい資料は残されていなかったそうでね。ただ、例の木人兵を使う者達とは別に魔道具を専門とする者がいるらしいんだよ。ただね、大陸系の術者とは別口っぽくてね、金で雇われたのかその資金の動きが乗った紙が焼け残っていたっぽいね」
「何か思いっきりゴチャゴチャしすぎて訳が判らなくなってきました」
そもそも大陸系の術師って聞いたことが無かったです。ゲームとか小説とかでも割と西洋風なものが多いし、日ノ本で言えば陰陽師が何と言っても人気が高いです。
「まあ世界中に様々な神様がいるさね。その神様ごとに魔術士やら何やら、それこそ一般人が知らない魔術なんて無数にあるさね」
お婆ちゃんが笑いながら教えてくれますが、まあ私みたいに他の世界から転生してきた人とかもいそうなのですよね?
色々とこの世界の魔術事情を聴いていると、神主さんがお弟子さんを連れてお婆ちゃんのお店まで来ました。ただ、その表情は普段の神主さんを知っている私達からすると非常に厳しいものです。
「皆さんご無事で何よりでした」
開口一番、皆の様子を見てホッとした様子ですが、どうも予想以上に厄介な事になりそう?
「こんな事を聞くのは変ですけど、状況はあんまり良く無いのですか?」
お姉ちゃんがおずおずと神主さんへと尋ねますが、神主さんの表情からどうやら状況は私達の予想以上に厳しそうです。
「そうですね、はっきり言って良くありません。術による呪殺合戦も困ったものではあるのですが、今回の様に銃、カーチェイスなど日ノ本ではありえない攻撃です。一般の人達にとっては魔術などと言った御伽噺よりもより身近な危険です。それ故に騒動が恐ろしい勢いで拡散しています」
神主さんに言われてテレビをつけると、どのチャンネルも今回の事件、特に車から拳銃が発砲されている場面と、車同士がぶつかり合っている場面を映像で流していた。
幸いにして拳銃による人的な被害は出ていないようですが、視聴者が警察が封鎖する前に撮影した映像として、道路沿いの建物に銃弾が当たった跡が映像で拡大して映されています。
そして、道路に乗り上げた痛車も映像で大きく映されていました。
ただ、不思議なことにあの襲撃者達の車が大破する映像はテレビでは流されていません。
私が首を傾げている理由に思いついたのか、神主さんがその理由を教えてくれました。
「今回は、政府も宮内庁も動いています。国民に対して未だ魔術という物が有る事を世界中のどの国も、公式、非公式を問わず認めていません。それ故に、報道に対しても規制を掛けました」
「奴らも馬鹿やったさね。ちっと騒動を大きくし過ぎたさね」
どういう意味かとお婆ちゃんに尋ねると、主要国では超常の力が表に出る事に非常に神経を尖らせているそうです。それ故に、変な話ですが争うにしても暗黙のルールが有って、今回の相手はその暗黙のルールを逸脱したという事みたいです。
「でも、反撃で私が魔法を使ったから私が悪いって事にはならないの?」
物理には物理、魔法には魔法と定めるなら、どちらかと言うとルールを破ったのは私だとならないのでしょうか?
「それぞれの国で定められたルールを破って攻撃して来た者に、術者が反撃しても問題はありませんよ。それこそ自衛権って奴ですね」
榊さんはそう言いますが、中々に複雑そうです。
「でも、テレビはともかくネットで拡散しません? 今はどちらかと言うとネットの方が情報は早いですよ?」
「そうだよね、以前に私の映像が流れたのもネットからだったよね?」
お姉ちゃんの言葉に、私も同意します。あの事件で少しは私も勉強しました。
我が家にやってきた強盗との一幕は、ネットでの拡散の勢いは凄まじいものがあったみたいです。
「我々も学習するのです。今はしっかりと各配信企業に対しても規制が掛かる様になっています。ただ、今回はその事よりも目を向けやすい事件が発生したという点もありますが。あの映像を流したところで、CGだと思う者が殆どでしょう」
「うん、確かにそんな気はする」
「まあ各掲示板で面白おかしく言われて、どんどん現実味を失いそうだよね」
レッドさんや、佳奈お姉ちゃんも同様の意見みたいです。
ただ、問題は此処からでした。
「はっきり言って、大陸系マフィアが此処まで形振り構わず事件を起こすとは想像していませんでした。長期化すると何をするかが判らない為、短期間に各機関協力の上で対応する事となります。その間はご不便をおかけしますが、伊藤家の皆さん及び近しい方々は避難して頂く形になります」
「そうさね、それが一番安全さね。もっとも、どこへ避難するかで変わって来るがね」
お婆ちゃんもどうやら同じ意見みたいです。というか、お婆ちゃんの所にも根回しは来ていたのだと思います。
「今、ご両親にも連絡を入れていますが、一応の避難先候補は出雲になります」
「ちっと遠くないかい? あっちだって馬鹿じゃないんだ、予想ルートに敵がいても欠片も驚かんさね。ああ、あと佳奈、あんたの所も今回は対象さね」
お婆ちゃんがそう言って、榊さんと佳奈お姉ちゃんを見ます。
ただ、私達は避難先よりも両親の事が気になりますし、佳奈お姉ちゃんも同様に家族の事を気にしています。
「うちの親は会社を経営してるから、それを置いて避難って絶対にしないと思うんだよね」
佳奈お姉ちゃんが困ったように顔を顰めます。
私も以前佳奈お姉ちゃんの家に遊びに行った時にお会いしましたが、中々に頑固そうなおじさんでしたね。確かに命が危険だからと言われても、素直に避難しそうなタイプには見えませんでした。
「辻本さんの所には、私どもからもご説明に伺いますから」
神主さんはそう言いますが、佳奈お姉ちゃんの顔は思いっきり大丈夫か? と言うような表情をしています。
「うちは何とかなる? かな? 聞いてみないと判らないけど」
お姉ちゃんはそう言いますけど、うちは何とかなると思うんですよね。ある意味、こういったケースは予期してなかったけど、マスコミに追われる事を想定はしていました。その為、お父さんもお母さんもそれぞれ転職しています。すっごく迷惑を掛けているんですが、こんなの苦労じゃないよと笑ってくれるんです。
「そのお仕事、私も参加できますか? 防御も攻撃もいけますよ?」
気が付けば、思わず榊さんにそう申し出をしていました。
「いえ、ひよりさんにはぜひご家族の護衛をお願いしたいと思います。攻撃側に多くの人材を取られますから、あと敵の戦力も把握できていない段階で、決して過剰防衛など言い切れません」
「そうさね、攻撃に出て、気が付いたら家族が犠牲になっていた。そうなったら負けさね」
お婆さんも笑顔を浮かべながら、そう言って私の頭をポンポンと叩きます。
「ちなみに、魔女の方々も護衛でお願いします。貴方方もどちらかと言えば守りですから」
その言葉に、お婆ちゃんは頷きます。
レッドさん達もどこかホッとした様子ですし、戦闘慣れしていないのは本当っぽいです。姉弟子さん達は露骨にがっかりしているみたいなのは見なかったことにしましょう。
ゴールデンウィークに投稿が出来ませんでした。
申し訳ありませんm(_ _)m
投稿を開始しますので、楽しんでいただければ幸いです><