104:カーチェイス?
誤字脱字報告ありがとうございます。
「警察官とはいえ一般人だぞ、こんなに大っぴらに何考えているんだ」
吐き捨てる様に呟く竹内さんとは異なり、初めての事だったのか有賀さんは唖然とした表情で燃え残った木片を見つめています。そして、座り込んだ警察官も、この騒動を見ていた他の警察官達も、彼らの常識では有り得ない出来事に、これまた呆然としているみたいです。
「恥ずかしいのを我慢して変身したんだけど、変身しただけ損?」
レッドさんがそう言いながら、フリフリ衣装でこれまた溜息を吐いています。
変身しなかったお姉ちゃんの勝利? もっとも危機感他もろもろを再教育する必要はあると思います。
「前にもこの術は見た事があります。わりとメジャーなんですか?」
とりあえず詳しそうな竹内さんへと尋ねますが、竹内さんも噂で聞いたことが有る程度で、実際に目の当たりにしたのは今回が初めてのようです。
「ただ、ひよりちゃんの結界をすり抜けて来た事が気になるわね」
「私達も気が付いたもの、相手だって何らかの対策はしたと思う」
レッドさん達が言う様に、私の警察署を囲う様に設置した結界は素通りされました。
魔力に反応するはずなのにまったく反応しなかったという事は、グリーンさんが言う様に何らかの対策を練られたと思って間違いは無いと思います。
「どうせなら浄化をぶつけてみて、効果があるかどうか試した方が良かったかな?」
「でも、拳銃の弾で自滅したと言うより、作戦失敗で証拠隠滅って感じじゃない?」
佳奈お姉ちゃんの言う事が正しいかな? それでも、どんな対策をされたのか知る為にも試したかったですね。
「その女子高生の子、このまま此処に居たら遠からず殺されるわよ?」
レッドさんが一番痛い所を突いてきました。そういえば、お爺ちゃんの所の人達がまだ到着していないのです。
「お爺ちゃんに相談してみる」
「私は師匠に状況を伝えるわ」
私はお爺ちゃんに、グリーンさんがお婆ちゃんに電話を掛けます。
その間に竹内さんが主体となって留置場の警護と他の警察官の人達へ指示を飛ばしています。
「有賀、悪いがお前も下手するとうちへ移動だわ。まあ人手が足りなくて困ってたから助かるんだが、出世からは外れるがな」
「・・・・・・」
有賀さんは天井を眺めていますが何の反応もしませんね。
まだ気持ちの整理が出来ていないのでしょうか? もっとも、どんな気持ちの整理をすれば良いのかは経験者の竹内さんに相談してください。
「あ、うん、それでね」
お爺ちゃんに今の状況を伝えると、思いっきり溜息を吐かれました。
何かみんなが挙って溜息を吐いている気がします。でも、私達は悪くないと思うのですが。
「竹内さん、まもなくお爺ちゃんの所の人が到着するそうです。それと、今から竹内さんの携帯にお爺ちゃんから電話が入ると思います」
木村さんの保護に関してお爺ちゃんが何かするみたいです。このままだと不味いですもんね。
ただ、今回の相手は今まで以上に厄介そうです。この世界にも超常の力がある事を隠す気配がまったく感じられません。これは非常に危険な事みたいです。
「一般人でも魔法を身につけようと思えば出来なくは無いからね。もっとも、暴走させて死んじゃうケースの方が多いけど、下手に何かしらの力を身につけられちゃう方が厄介」
なるほど、そう言うレッドさん達自体も魔法を使う事に魅了された人達なので説得力が今一つな気はします。ただ、確かにそういう懸念はありますよね。
「師匠からだけど、相手が結構厄介な感じみたい。どうも木人兵とかって大陸渡りみたい。まあ端的に言えば中華系マフィア?」
思いっきり嫌そうな表情で伝えてくれたグリーンさんですが、私は何が厄介なのかが今一つピンと来ません。それでも、中華系マフィアと聞いた途端に竹内さんも、有賀さんまでも顔を顰めたので相当厄介な相手なのでしょう。
「奈古屋には中華街はないぞ? なんでこっちに出張って来るんだ」
「作ろうとして失敗したからな。再度進出を開始でもしたか?」
竹内さん達は何か心当たりがあるのか不明ですが、マフィアと聞くと葉巻とワインと牡蠣を食べているイメージの某欧州の映画なのですが? 魔法の魔の字もないのですが、恐らく私の想像と全然違うのでしょう。
「竹内さん、まだ未確定なのですけど、恐らく鳳凰学院が巻き込まれていると思います。あの木村さんもそっち関係で巻き込まれた被害者だと思います」
「あ~~~、皆さんが関わっているので嫌な予感はしていたのですが、マジですか」
「竹内さんにはお爺ちゃん達から話は行ってなかったの?」
「いえ、断片的には頂いていたのですが、鳳凰学院が問題になると厄介なのでより具体的に判るまでは話されなかったのかと、あ、ああ、電話が来ましたね」
竹内さんの携帯にお爺ちゃんから連絡が入ったようです。
その様子を横目にしながら、私達はお爺ちゃんの所の人と交代で警察署を出る事にしました。
「車で来ているから、二人も家まで送ってってあげる」
とのレッドさんの申し出をありがたく頂戴して、自宅へと帰る事にしました。
それから15分くらいしたら、以前にもお会いした事のあるお爺ちゃんの所のお坊さんを含めた4人のお坊さん達が警察署にやって来ました。そして、竹内さんと挨拶を交わしたところで私達は撤退です。
「また後日お話を伺いに行くと言うか、相談に行くかもしれませんので宜しくお願いします」
うん、竹内さんの苦労が偲ばれるご挨拶をいただいて警察署を後にしたのですが、お家に帰るまでが遠足なのです。
「先に行っとくけど後ろを振り返らないでね? 付けられてるわ」
「え?」
それでも後ろを振り返りそうになるお姉ちゃんの頭を強引に抑えますが、どうやらその挙動で相手にも気づかれたみたいです。
「駄目、相手に気づかれた」
「振り切れる?」
「私の可愛い軽に無理言わないで!」
「ほら、逆に軽の小ささを活かして細い路地に入るとか」
「映画じゃ無いのよ! 出来るわけないでしょ!」
うん、グリーンさんは意外にお茶目ですね。もしかするとレッドさんの方が常識人なのかも。
ただ、気付かれたなら思いっきり振り返って相手を観察してみますか。
「黒のスモークガラスってフロントにも使って良かったのですね。びっくりです」
「それ違反だから! 使っちゃ駄目だからね!」
レッドさんから回答が来ました。
ただ、よく見たら追跡してきている車の周囲に似たような車が囲むように現れます。
「あ、追跡してきた車が囲まれた。あれって味方だよ、ごつい車だけど思いっきり痛車だもん」
「え? ほんとだ!」
私達の目の前で、追跡者を妨害するように痛車が前を塞ぎました。
「この隙に離れるよ!」
レッドさんが車を加速させ、目的地を私達の自宅からお婆ちゃんのお店に変更します。
その時、後方でパンパンという何か甲高い音が複数響き渡り、再度後方を見ると追跡者の車から明らかに銃と思われる物が突き出されているのが判りました。
「うわ! あれ銃撃してる」
追跡者の乗る車が痛車の横へと強引に並びかけ、窓から運転席へ向けて銃撃を行っているのだと思います。ただ、痛車もハンドルを切り車で体当たりを行っています。
「窓は防弾ガラスなのかな? あ、痛車さんが歩道に乗り上げた!」
運転手がハンドル操作を誤ったのか、それとも撃たれたのか、原因はこっちからでは判りませんが、障害が無くなった車は一気に此方へと迫ってきます。
その間にもグリーンさんはお婆ちゃんの所へと電話をして必死に状況を伝えています。
「駄目、車の性能が悪いし、どっかで信号に引っかかったら追い付かれる。赤信号に突っ込むなんて怖い事出来ないからね!」
レッドさんの叫び声が車内に響き渡ります。
うん、軽自動車で横から車に追突されたら終わるもんね。レッドさんの気持ちは十二分に理解できるので、ここは私が対処するしか無いでしょう。
「悠久に漂う時を刻み、幾多の者達の足跡を・・・・・・疾く立ち塞がれ、アースウォール!」
呪文と共に、迫りくる車の眼前にアスファルトを突き破って土の壁が盛り上がる。
もっとも、速度を重視したためにその高さは一メートルにも満たないものではあったが、速度を上げて近づく車にとっては正に致命的な存在だった。
ドゴーーーン!
派手な衝突音の後、どうやら車は衝突の勢いのままに前は潰れ、土の壁を起点に引っ繰り返り地面に叩きつけられたようだった。
「うわ! めっちゃ派手だね。あれ、生きてる?」
佳奈お姉ちゃんが顔を引き攣らせて後方を見ているけど、まあ人が車から飛び出した様子はないので大丈夫でしょう。
「もしかすると、また人形かもしれないし。シートベルトをしていれば大丈夫じゃないかな?」
兎にも角にもまずは襲撃を防げたと考えれば良いでしょう。
レッドさんもハンドルを持つ手にガチガチに入っていた力が抜けたようですが、まだ周囲を警戒しています。
「それにしても、今回の相手は目標を私達に変えたの? 何でこの車が狙われるんだろう?」
「私達が乗車するときに、木村さんもいると勘違いされたとか? ほら、女子高生2名いるから」
佳奈お姉ちゃんの疑問に、お姉ちゃんが答えるのです。ただ、木村さんを知っていればお姉ちゃん達と間違える事はまず無いと思うのです。
「あの追跡して来た車もさっきのと同じ人形で操作できるの? ある意味凄い技術だよね」
「あそこまで複雑な動きが出来るってすごいよね。ぜひ原理をしりたい」
私的に言うと、あの術はぜひ身につけたいところだよね。ただ、今一番に考えないといけないのは私達の最大の武器である浄化で無力化出来なかった事だよね。
他の手段を持っている私ならともかく、回復系を主とするお姉ちゃんには大きなハンデとなると思う。