102:竹内さんの受難?
誤字脱字報告ありがとうございます。
有賀さんに付き添ってもらい、私達は警察署の留置場へとやってきました。
「あそこです。本人は心神耗弱状態でして、まともに会話が出来ていません」
私達を案内してくれた警察の人が状況を教えてくれるのですが、まあ場所を教えて貰わなくても判っちゃうくらいに悪意の塊が感じられます。
「どうする? 私が浄化しようか?」
「お姉ちゃんお互いに顔を知っているから、まだ顔を出さない方が良いかも。浄化して状態を見てから呼ぶね」
有賀さんと一緒に留置場の前に来て、真っ黒な塊のようになっている木村さんに浄化を掛ける。
「おお、結構抵抗があった」
「あぅぅ」
まあここまで黒い塊になってしまえば浄化と言えど結構なダメージになる。だからすかさず治癒魔法も掛けるけど、予想外に木村さんは反応しない。
「えっと、お姉さん、意識はありますか~?」
前の様に浄化の時に叫び声を上げるかと思ったんだけど、それが無いので拍子抜けしています。
もしかすると、あの悪意は木村さんからでは無く誰かに付与されたものかもしれません。
「・・・・・・誰?」
「通りすがりの霊能者です。お姉さんどうしたんですか?」
「・・・・・・霊能者?」
ゆっくりとした動作で此方を見上げる木村さん。そんな木村さんを見て、あ、これはヤバいなって思いました。
「完全に正気を失っていますね。何をすればここまで自我が破壊されるのか。これって治療に相当時間が掛かりますよ?」
お隣に居た有賀さんを見上げてそう告げます。ただ、有賀さんは留置場の空気が変わったのを感じたのか、周囲をキョロキョロと見回していました。
「淀んだ感じが無くなったな。これが浄化か、霊能力など眉唾物だと思っていたんだが」
まあ自分で体感しなければ信じられないですよね。その気持ちはすっごく良く判ります。
ただ、今はそれよりも木村さんの事ですね。
「ほぼ確定なのですが、誰かに思いっきり操られていたと思います。ただ、本来人が持っている一線を操られていたとはいえ超えちゃったので、今後は生き辛いと思います」
私が言うのもなんですが、人と言うのは集団生活の中で一定の倫理観を備え付けられるんですよね。その中で、人を傷つけるという行為は忌避される、それを超えるにはすっごくエネルギーがいるのです。ただ、一度でも超えてしまった人は、その後容易にその一線を越えてくるのです。
私ですか? まあ、前世でとっくに超えちゃってますし、そもそも集団倫理の定義が違いますからね。
「それでは、今お姉さんの頭に浮かぶ人の名前を一人ずつお聞きしても良いですか?」
それはそれは慈悲深い、聖女のような微笑みを浮かべているつもりでお姉さんに語り掛けます。
「人、名前? 誰?」
視点すら定まらず、夢遊病の様に彷徨わせている木村さんだけど、その間に四方に結界を設置していく。
おそらく木村さんを此の侭にしておくとは思えないので、一応の守りは固めないといけないかな?
「近田先生・・・怖い」
「そっか、うんうん、他に誰か浮かぶ?」
「辻本さん・・・・・・」
「他には? 他には誰か浮かぶ?」
「・・・・・・はしも・・・・・あ、あぁぁぁぁ」
突然、頭を抱えて唸り出した木村さんに、慌てずに治癒魔法を掛けました。
すると、木村さんは今の遣り取りが無かったかのように、視線が定まらない感じでボ~~~と空中を見ています。
「これ以上は今は厳しいです。脳がダメージを受けているので、絶対安静ですね。尋問とかとんでもないので注意してください。あと、木村さんに肌身離さずこれを身につけさせてね。油断すると呪い殺されるよ? あと、場所を移動するときは注意してね、必ず竹内さんと相談してね」
竹内さんは、こういったケースも経験しているでしょうし、まあ有賀さんも、一緒に居た警察官の人も思いっきり顔を引き攣らせていますから勝手な事はしないでしょう。
「お姉ちゃん、行こっか。居てもこれ以上は厳しいよ」
「治癒で何とか治らない?」
心配そうに木村さんのいる留置場へ視線を向けるお姉ちゃんだけど、あの状態を回復させるには治癒魔法でも根気がいるし時間もかかる。よくもあそこまで自我を崩壊させたものだね。
「今はとりあえず事件を解決しよう。これ以上被害者を出さない為にも」
「うん・・・・・・そうね」
「ちょっと頭に来る。この犯人、見つけたら唯じゃ置かないよ!」
佳奈お姉ちゃんも怒り心頭の様子です。
「それで、何か判ったのか?」
先程の部屋に戻ると、竹内さんが待ち構ええていました。
ただ、その様子からどうやらお爺ちゃん達と何か話をしたのかな? ちょっと疲れた感じがします。
「うん、思いっきり竹内さんの管轄だよ! おめでとう?」
気分を変える為に態と軽めに答えてあげると、残念ながら竹内さんはその配慮に気が付かなかったのか思いっきり机に突っ伏しました。
「おい、竹内、大丈夫か?」
「これが大丈夫に見えるか?」
何か有賀さんとやり取りをしているので、そちらはそちらにお任せをして、私はお爺ちゃんに連絡を入れます。
「あ、お爺ちゃん、うん、ひよりだよ。うん、あのね・・・・・・」
お爺ちゃんに今の状況を説明する。
竹内さんからのみならず、親衛隊の皆さんからも連絡は入っていたようです。ただ、残念ながらお爺ちゃんは今こっちへ来ることは出来ないみたいです。
「うん、わかった」
今の状況で木村さんを放置するとかなりの確率で命を落とす可能性が高いので、その保護をお爺ちゃんに依頼すると誰かをこっちへと廻してくれるそうです。
「ひよりちゃん、師匠がこっちにルビーさん達を向かわせたって」
「お爺ちゃんの所とは別かな?」
「うん、あくまでルビーさん達は私達の警護って言ってたから」
成程、あ、ちなみにルビーさんはレッドさんの事です。桜花さんとも言いますよ。名前が幾通りもあってやっかいですね。
「ひよりちゃん、誰と話をしているの?」
「う~~ん、あそこの人?」
私が部屋の隅っこの空中を指さすと、みんなが其処を見ます。
「何にも見えないんだけど?」
「ちょっと、止めてよね!」
お姉ちゃんと佳奈お姉ちゃんが顔を青くしていますが、きっと誰かいると思うのです。だって警察署だし、遺体安置所とかあるんですよね? 見た事無いですけど。
レッドさんが来るまでの間とりあえずここで待機となったのでなったので、お姉ちゃん達と警察署の周りを結界で覆う事にしました。
「いまあるダイヤさんで行うので、簡易的なものになっちゃうけど、やらないよりは良いと思う」
「あ、私も少し予備で持ってるわ」
最近は、お姉ちゃんも真ん丸ダイヤさんを作れるようになっています。その為、お姉ちゃんも自分で作った真ん丸ダイヤさんを持っているんですよね。
「それ便利よね。魔力を溜めておけるって、師匠から魔力回復のポーションの作り方を習っているけどすっごく苦いの」
先日、佳奈お姉ちゃんから聞いたんだけど、薬草の育成に成功したお婆ちゃん達は最近はポーション作成ブームみたい。
昔ながらの薬に薬草を混ぜるだけで効果が大きく変わるらしいので、思いっきり変な薬も作っているらしいです。ほら、若返りのとか? 364日かけて作ってた薬が、薬草を使うと300日くらいで作れそうだって喜んでたみたいです。
で、警察署に結界を張っていると、明らかに真っ黒な人がこっちに歩いて来るのが見えました。
「お姉ちゃん、真っ黒が来る」
「あ、あの人? うん、何か嫌な感じするね」
「え? どれ?」
どれとは如何にと思わないでもないけど、あの濃さの人がせっかく張った結界に触れると負担が大きそうです。
「という事で、ちゃっちゃと払っちゃうことにしましょう。浄化!」
「浄化!」
お姉ちゃんと二人で、思いっきり浄化魔法を真っ黒さんにぶつけます。
ちょっと距離が離れてるかなと思うのですが、まあそこはお姉ちゃんと二人掛なので問題ないどころか過剰攻撃かな?
「うわぁああああああ!」
今まで普通に歩いていた真っ黒さんが、叫び声をあげて道路に倒れてのたうってます。
「あ、動かなくなった。気絶したかな?」
うん、あそこまで真っ黒になるとやっぱりこうなるかな? 悪意が消えて良く見ると、まだ高校生くらいの年齢ですね。
「あ、あの男子見た事あるかも」
「そう? 私は無いわ。もしかして鳳凰?」
どうやら佳奈お姉ちゃんが見覚えあるとの事です。
で、わざわざタイミング良く此処に来たように思うので、この人も操られているのかな? もってる鞄の中身とか注意した方が良さそうですね。
まあ、警察署の前に立っていた警察官の人が、叫び声を聞いて掛けて行きましたし、恐らく意識は無いと思うので大丈夫だと思うのです。
「何事ですか!?」
まあ来るだろうなと思ってたけど、叫び声を聞きつけて竹内さんが警察署を出てこっちへと走って来ます。
「あの倒れた人も多分ヤバい人? 操られてた可能性大だよ。あ、あと持ち物注意?」
私の言葉に竹内さんは、道路に倒れている男子と、駆けつけて状態を確認している警察官を見てがっくりと項垂れました。
「とにかく、署の中へ入れても大丈夫ですか?」
「うん、何か持ってても浄化されてると思う」
私の言葉に頷くと、竹内さんは追加で出て来た警察官達に男子を署内へ入れる様に指示をして、併せて持ち物を確認するように言いました。
そして、カバンの中には思いっきりヤバい物が入っていて頭を抱えるのでした。