100:貴重品はロッカーに入れますが・・・・・・
誤字脱字報告ありがとうございます。
お姉ちゃんの帰宅を待つ間に、私は召喚魔術の事を神主さんに確認していました。
この召喚魔術と言う物は比較的メジャーな物だと交霊術などもその区分けになるそうで、生き物を呼び出したり、精霊を呼び出したりするものとは限らないそうです。
「今回のケースでは、明らかに下級霊などを呼び出す術に近いと思います。もっとも、数を多く呼び出せば下級とはいえ侮れるものではありませんが」
「前に教わった時に、こういった術は贄がいるって教わった覚えがあるのです。今回くらいの術だとどうなんですか?」
私の言葉に神主さんは少し首を傾げます。
「はっきりとは言えませんが、今回の術はこの場で行われています。その為、手近にいるものから召喚による代償を得ようとした。その為にお二人に何らかの攻撃をしようとした。そのように私は推測しています」
「え? それって、相手は丸儲け?」
「そうとも言えますね」
私の質問に、思わず表情を崩して苦笑を浮かべる神主さんですが、これって結構怖い事ですよね。
「まあ術を起動するのに使用した魔力分くらいは相手にも何らかの反動はあるかもしれませんが、その魔力すら自前ではない可能性もあります。そう考えると、この術は相当悪辣ですね」
マジックアイテムを使用した魔法は、前世でも色々ありましたし私自身も作成していました。
今回のケースで言えば、どちらかというと私達の世界の考え方に近いのかもしれません。
「そもそも、マジックアイテムってどんな種類があるのですか?」
よく考えたら、私が作るお守りだってマジックアイテムです。アミュレットも、薬だってマジックアイテムですよね。
「そうですね、符、これは紙製、木製問いませんが、あと仏具、神具と呼ばれる儀式系の物、聖遺物と呼ばれる物もマジックアイテムですね。妖刀や神剣などもそうですね。こう考えると色々ありますね」
神主さんの言葉に頷く私ですが、マジックアイテムがこの世界で成り立つには、大気中に存在する魔力が圧倒的に少ない気がします。ただ、制御を考えなければ、ましてや誰かを傷つけたり、殺めたりするのが目的であれば悪意で十分に効果はあるのです。
「相手は何方かと言えば付与師みたいな存在なのかもしれませんね」
様々な物に魔術的な付与を行う事は珍しい事ではないと思います。
「付与師ですか、あまり聞きなれない職業ですね。付与自体は比較的メジャーではあるのですが、その術者は非常に有用になるので他人に話をする際には十二分にご注意を願います」
「お姉ちゃんにも注意しておくけど、それってすっごく面倒だね。そもそも、何に注意したら良いのか判んないもんね」
結局の所、良い解決策が思いつかないのです。その為、やっぱり相手から攻撃させる為にも相手の資金源を潰すためにも学校の浄化を推し進めるしか今の所は方法が無いですね。
「でも、伊集院さんがくれたっていうストラップが本当にマジックアイテムだったのかな?」
「そのストラップを本人が作ったとは限りません。一概に渡した相手が犯人とは限りませんよ」
確かにそうなんですよね。
で、無事にお姉ちゃんと佳奈お姉ちゃんが我が家に帰ってきました。その為、さっそくストラップを見せて貰ったのですが、魔術の欠片も感じ取れませんね。
「この中に何かを仕込めるとも思えませんね」
神主さんもストラップを見て、当初の予想が大きく外れたみたいです。
「ぬう、此れじゃなかったよ。こうなると仮定が振り出しに戻っちゃう」
思わずそう思った時、お姉ちゃんがちょっと考え込んで、私の目の前に置いたのは私が作っているお守りでした。
「お守りがどうかしたの?」
「ひより、私も考えていたんだけど、ストラップにはもう一つ小さな真ん丸ダイヤをボンドで接着して作ったものも付けてたの。でもね、あの浄化の後には頭部分の真ん丸ダイヤさんが無くなっていたわ」
そういえば、神主さんの所のお守りの他に、アクセサリーな感じでいくつか作っていた気がします。
「あの時溢れ出て来た悪意に曝されて、浄化能力を超えて消えたんじゃない?」
あの時の悪意の濃度を考えれば、恐らく数分持つか持たないかだと思います。
「うん、私もそう思ったんだけど、佳奈と会って、どこで携帯を紛失したかの話になってね、そう考えると学校のロッカーしか思いつかなかったの」
「学校を出るときにはあったんだけどさ、そっからいつ無くなったのかが全然判んないんだよね。ずっと鞄に入れてたんだよ?」
「え? え? お姉ちゃんごめん、話が飛びすぎて何が言いたいのか全然判んない」
今回の一つの鍵である佳奈お姉ちゃんの携帯、それがいつなくなったのか。盗まれたんだと思うけど、そもそもどこで盗まれたのかっていうのが問題なんだよね?
「そうね、順を追って説明するわ。まず、佳奈の携帯は学校のロッカーから取り出したのは確かなの。そこは私も一緒にいたから知ってるわ。そこで紛失してたら大騒ぎしてたもの」
「携帯の紛失に気が付いたのはお祖母ちゃんの事務所に付いた時だよ、無事到着したことを連絡しようとして、鞄に入っていないことに気が付いたのよね。思いっきり焦ったわ、入口の結界を開けて貰わないと入れないもん」
そこはレッドさん達が丁度来たために何とかなったらしいけど、慌てて鞄の中を探したり、どっかに落とした可能性を考えたりしていたそうです。
「ロッカーでは有ったんだよね。小春も見てるし、で、鞄に入れたんだけど、そこまでは覚えてるんだよね。なのに鞄に入ってない。おかしいなって思った時に、そういえば私の携帯に小春から貰ったストラップが無かったような気がするの」
「ん~~~と、ストラップが盗まれた?」
「そうじゃなくって、その時すでに携帯は盗まれていたんじゃないかな? で、私は携帯だと思った別の物を鞄に入れたの。たとえば、こんな物だね」
そう言って佳奈お姉ちゃんが取り出したのは、携帯サイズの真っ白な紙です。
「こんなの鞄に入れた覚えが無いんだけど、いつの間にか入っていたんだよね。ね? 変でしょ?」
そう言って佳奈お姉ちゃんが差し出した紙を、神主さんが慎重に手に取りました。
「成程、これで疑問のいくつかに回答が出ましたね。敵は間違いなく陰陽師です」
「え~~~、また?」
思わず私はそんな言葉が零れます。
まあ呪いの専門職ではあるんですが、前の金田とか思いっきり良い印象が無いんです。
「あと、佳奈嬢のストラップに付いていたお守りと小春嬢のストラップのお守りを利用されたかもしれません。恐らくそこに何らかの経路を作られたのかと思われます。これは比較的良くある手法ですね」
「え? そうしたら、あの携帯から流れて来た呪は?」
「恐らくですが、目くらましです。実際にはストラップか、または携帯自体に何らかの仕込みがされていたと思われます。思いっきり騙されましたね。科学と呪術の融合、ありそうだから質が悪いですね」
神主さんが思いっきり顔を顰めていますが、どうやら相手の方が一枚上手だったようです。
「ただ、この紙は恐らく符術に使用した為に魔術的な痕跡を辿りやすくなっているはずですが、こうなってくると怪しいですね。術の終了時に燃やすことも可能だったでしょう。それなのにこうして手掛かりを残すとは」
「あ、それはね、たぶんお祖母ちゃんの御蔭かも? 実は私はぜんぜんこの紙に疑問持たなくって、でもお祖母ちゃんが違和感を感じて何か綺麗にしてくれたの」
うん、鞄に白い紙が入っていても、普段の佳奈お姉ちゃんなら何だろこれで済んじゃうよね? 自分の興味のない物とかには思いっきり無関心になるもんね。
「ああ、そういう事ですか。ただ、そうなると痕跡すら綺麗に消されている可能性が高いですね。これはお預かりしても良いですか?」
「いいですよ、私が持ってても役に立たないと思いますから」
という事で、神主さんが紙を持ち帰って調査することになりました。
ちなみに持ち帰って何を調べるのかと尋ねたのですが、呪術的な痕跡は勿論の事、紙の材質や製法、作られたであろう日付などヒントとなる物を少しでも搔き集めるそうです。
「それにしても、女子のロッカーを開けたって事は、最低一人女性がいるわね」
「そうよね。女子ロッカー室の前に男子がうろついていたら目立つからね」
「そもそも、よくあのロッカー開けられたわよね?」
「個人ロッカーの鍵って特殊な作りだったっけ?」
お姉ちゃん達の話によると、高等部には各個人のロッカーが用意されているそうです。
それこそ、貴重品を収納するための物で、盗難に対しては十分対策されているそうなのです。
「防犯カメラも設置されているけど、見せてはもらえないよね?」
「「「それだ!」」」
佳奈お姉ちゃんの言葉に、皆が一斉に佳奈お姉ちゃんを見るのでした。
思いっきり迷走していますね!
ここでまさかの防犯カメラが出てくるとか・・・・・・