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25:ユニコーンとの戦い

とても気持ち悪いユニコーンがいます。リンダによるお下品発言あります。ご注意ください。



 怒りに燃えた赤い瞳がローゼスタを射る。

 ローゼスタもまた怒りの眼差しでユニコーンを睨みつけていた。

 許せたものではなかった。憧れのお茶会に突如として侵入し、ここまで準備良く整えてくれたメイドたちに襲いかかり、大事な友人を馬鹿にしてくれたのだ。ローゼスタが許す理由はどこにもない。


「ローゼ!!」

「っ、下がれローゼ!」


 リンダが思わずといったように叫ぶと同時に翡翠がローゼスタの腕を引っ張り結界を張った。ほぼ同時にガツッと魔力がぶつかる。

 意識を取り戻したメイドたちが三人を庇おうとするのをリンダが制した。彼女たちでは太刀打ちできない、はっきりいって足手まといだ。


「みんなは結界を張って自分の身を守るのを優先しろ」

「ユニコーンは魅了を使って清らかな乙女を攫っていくのよ。気をしっかり持ってね」


 ローゼスタはさすがに博識だ。


 ユニコーン。

 深い森に棲む魔法生物の一種だ。気性が荒い反面清らかな乙女を好み、その膝では大人しく眠るといわれている。しかし乙女を攫って隠してしまうという面も持っており、隠された乙女の行方はわかっていない。おそらく乙女でなくなった瞬間に殺されているのだろう。そのため第一級危険生物に指定されていた。

 特徴は額から伸びる一本の角。個体によって黒馬であったり白馬であったりと違うものの、白馬のユニコーンは神聖視されているせいか魔力が強く、森で出会ったら逃げるしかない。


「なお、ユニコーンは角から魔力を放つので狙うなら角よ! 角は高級素材だし、折ってもまた生えてくるから遠慮はいらないわ!」


 最初から遠慮などしていなかったローゼスタが言うと説得力がある。ようは殺さなきゃOKだ。魔法生物界では一、二を争う凶暴なユニコーンを素材としか見ていない。実に逞しい少女である。


「わかった。じゃあ私が箒で翻弄するから角狙え!」

「任せて! ジェダイトは結界をお願い!」

「承知!」


 リンダが箒に跨って空を飛ぶと、予想外だったのかユニコーンの意識がローゼスタから反れた。


「喰らえっ」

「喰らいなさい!」


 翡翠が結界内にユニコーンを閉じ込めて動きを封じ、ローゼスタが魔法で角を斬り落とそうとする。

 しかしユニコーンは白い巨体を震わせて結界を跳ね返し、ローゼスタの魔法を避けた。反撃しようとするユニコーンにリンダが空中から肉薄する。たてがみを毟り取られてますます猛り狂っていた。


「リンダッ、鬣も素材よ!」

「よっしゃ! まだらハゲにしてやるっ!」


 ユニコーンに捨てる部位無し。特に鬣は繁殖期のアピールポイントとなるためユニコーンの自慢だ。リンダがびゅんびゅん飛びながら手を伸ばしてぶちぶちと毟り取っていく。ユニコーンはダンダンと蹄で地面を蹴った。


「ブヒッ、ブヒヒッ!」


 癇癪を起こした子供のように暴れているユニコーンは、まるで「せっかく女の子の匂いがしたから来てみたのにハズレだし、変な言いがかりで攻撃されるし、聞いていませんぞ!」とでも訴えているようだ。それでも空を飛ぶリンダのスカートに噛みつこうとしているあたり、性癖が透けて見える。


「い、意外と素早い……!」

「それに魔力が重くて強い。とにかく隙を見て角を狙うしかない!」


 あの体躯でリンダの空中アタックを回避している。翡翠は結界で縛るのを諦め、角に集中することにした。

 だが、迂闊に傷をつけるわけにはいかないのが魔法生物だ。ユニコーンは近年急激に数を減らしている希少種で、保護対象となっている。寿命が長いぶん滅多に繁殖を行わず、おまけにメスが極めて少ないのだ。戦時中の乱獲もあって、とある貴族が保護と繁殖に乗り出したはいいが、この気性なので成功した例がない。


「ようするに喧嘩で勝ってこっちに手出ししないようにすればいいんだな!」


 リンダ風にいえばそういうことだ。『これに勝ったらうちの生徒に手を出さないで貰う』理論。不良の間で勝手に決められるルールと同じだ。ちなみに勝敗はつかなくても手を出したらただでは済まないことをわからせればいいので、喧嘩の最中に互いのプライドに共感し理解してしまうのもわりとよくある話だ。強敵と書いて「とも」と読む。


 リンダだけに任せるわけにはいかない。翡翠はなんとかユニコーンを足止めさせようと土魔法で囲んでみたが、一蹴りで蹴散らされてしまう。


「クソッ、動きを止められれば狙いやすくなるのに!」


 この際足を切り落としてやろうか。回復魔法で治してやれば文句は言うまい。翡翠が危険な方向に舵を切りそうになった時、ユニコーンの魔力がローゼスタに命中した。


「きゃっ!」


 咄嗟に結界を張ったローゼスタだが衝撃までは抑えきれず、後ろに吹っ飛んだ。


「ローゼ!! 貴様っ」


 意識を失ったローゼスタのピンクのエプロンドレスが太股までめくれ上がり、細い足が剥き出しになった。白いハイソックスが露わになる。


「ブヒーッ! ヒヒィン!!」


 ユニコーンがその場で飛び跳ねる。その喜びようにリンダはぞわっと鳥肌を立てた。


『ちっちゃい女の子の生足、いただきましたー!』


 そんな幻聴まで聞こえてきた。


「この……っ、変態ロリコン野郎が!!」


 娘のいる父親だったリンダにとって、ロリコンは全て敵である。ロリ・マスト・ダイ(ロリコン死すべし)。そこに慈悲があってはならなかった。

 リンダの真紅の髪がざわざわと揺らめき、瑠璃色の瞳がきゅうっと深くなる。彼女に宿る魔力の密度が濃くなっていった。

 リンダはユニコーンに並走すると手を伸ばして角を摑んだ。そのまま鼻面に乗り上げる。


「フヒッ!?」


 リンダの太股に挟まれたユニコーンが変な声で鳴いた。主人を失った箒はしばらく飛び、ゆっくりと地面に降下していった。


「ブヒブヒうっせーんだよ! このドーテー野郎がっ!!」

「ブブブヒィッ、ブッヒーン!!」


 ユニコーンが首を振って抗議している。『どどど、ドーテーちゃうわ!』といったところだろう。


「大人の女に相手にされねぇからってカナシーね? おあいにくさま、キモロリは幼女だってお断りだ! その粗チンとってから出直してきなっ!! なんなら今すぐもいでやろうか!? あぁん!?」


 レディの口から出てはいけないセリフに翡翠が頭を抱える。メイドたちもあまりの口の悪さに崩れ落ちた。


「リンダ、リンダ……」

「お嬢様……」


 そこでようやく気がついたローゼスタが身じろぎし、丸い膝小僧が開いていく気配にユニコーンが目を動かす――前に、リンダが赤い瞳を肘で直撃した。


「見るな! 減る!!」

「プヒン!!」


 片目を潰された痛みに首を振って暴れるユニコーンに、振り落とされないようリンダはいよいよしがみついた。変態ロリコン馬野郎のプライドを折ってやらなくては気が済まない。

 さすがに鼻先では短すぎると、角から鬣に手を持ち替え、首に移ろうとした。なんとか折れないものかと角を揺さぶってみたが、魔力の源というだけあってびくともしない。


 おわかりだろうか。


 リンダはユニコーンの顔面にしがみついている。ユニコーンの眼前にはリンダのぺったんこな胸があった。リンダがずりずりと上に登るたびに、やわらかな感触が布越しに伝わってくる。そして両足で口を挟んでいた。

 このユニコーン、齢二百年ほど。人間の年齢でいえば三十代後半だ。おっさんの顔に少女の胸が乗っている状態、しかも腹に向かって移動している。

 ご褒美以外のなんでもなかった。

 突然動きが止まったユニコーンに不審を抱くものの、これ幸いとリンダは移動している。


「わっ?」


 ユニコーンが顔を上げ、ひょいとリンダを持ち上げた。浮き上がったスカートがひらりと揺れて、隠されていた白い聖域が一瞬だけチラッと見えた。


「ブヒン……」


 一声鳴いてユニコーンが倒れた。

 息を飲んでリンダとユニコーンの異種格闘技を見守っていた翡翠たちが、突然のことに立ち尽くす。


「え……」

「な、なにが……?」


 ユニコーンが倒れる前に地面に飛び降りていたリンダが見てみると、大量の鼻血を流し、実に幸福そうな満足そうな表情で目を閉じている。

 リンダの気配にユニコーンがうっすらと目を開ける。感動と、なぜか期待に潤んだ赤い瞳に、爪先から頭のてっぺんまでぞわっと寒気が走った。


「うわ、きっも!」


 心の底からの叫びと共に角を蹴飛ばすと、あんなに固かった角があっさりと折れた。

 ユニコーンの角は魔力の源、存在そのものといっていい。角がないユニコーンはただの馬だ。


「ゆ、ユニコーンはとにかく角を折って屈服させろっていうけど、あんなんでいいわけ!?」


 ローゼスタが叫んだ。ひたすら罵倒してプライドをへし折れなんて聞いてない。さっきの戦いはなんだったのだ。


「ユニコーンが清らかな乙女を好むのってまさかああいう意味なの!? あいつがおかしいだけよね!?」

「いや……、ユニコーンの繁殖率が低いことを考えると……」


 ローゼスタの違ってくれという願いも虚しく、翡翠は言葉を濁したが根拠を出して肯定した。そんな、とローゼスタが悲痛な表情になる。

 衝撃の真実。ユニコーンに抱いていた幻想が木っ端微塵に砕け散る。研究者が発表できないはずだ、オスのユニコーンに幼女を近づけるなと警告を発するしかなかったのだろう。予想だが、おそらくメスは少年趣味ショタコンだ。保護者が殲滅を叫び出しかねない。マッジーでさえドン引きだろう。


「ローゼ! 大丈夫!?」


 ユニコーンの角を持ったリンダが走ってくる。さっきまでの令嬢らしからぬ言動が嘘のように可憐だった。


「ええ、大丈夫よ。助けてくれてありがとう、リンダ」

「良かった……。あんな変態ロリコンになにもされなくて本当に良かった……」


 リンダは美少女である。その手に戦利品を持っておらず、鼻血でドレスを染めていなければ可憐な美少女である。

 勝利の喜びに頬を染め、まっすぐに前を見るリンダはひたすら男前でしかなかった。

 本当にしょうがない、世話の焼ける親友だ。ローゼスタはリンダを抱きしめ、ありがとう、ともう一度礼を言った。




こんな作品ですが、応援よろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ゴース○スイーパーさんを思い出しましたが…違いますよね…声優さんがドラ○ンボールのブ○マと○ジータだったんで、さすがの演技力!!とか思った記憶があります。 [一言] ロゼたんが染まって…
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