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妖精霊使いはのんき者 ~召喚勇者の日常~  作者: テトジジ
第一章 ~妖精霊使いが行く~
9/13

8話 妖精霊使いになりました。

 今日もまた歩きながら魔術の練習と実践をしていく予定だ。

 数時間歩いたところで森に入ったら、熊が出てきた。

 前に倒したアサシンベアに似てるが、ちょっと違う気がする。

 もしかしたらウォーベアってやつかな?

 なんて思ってると、早速熊が襲ってきた。


 そこで、あることを試してみようと勇者装備をして、水魔術で目の前の熊と似た形を作り出して対抗した。


 熊は一瞬怯んだが、そのまま水の熊に突っ込んでいった。

 だが捕まえることは出来ずにそのまま水に取り込まれて、苦しいからか暴れまわる。


 おれはそのまま熊の体に水魔術で作った熊を纏わり付かせて窒息させた。


 うまく行ったことでニヤニヤしてると、ふと声が聞こえた気がした。


(…ろい……ね! …)


「ん? なんか聞こえたな?」


 周りを見ても何もなく、おれの水熊もウォーベアを取り込んだまま音を立ててない。


 はて? と思ってると、おれの水熊が勝手に動き出した。


「なっ!? なんだ!」


 おれの魔力から離れて独自に動き出した水熊に警戒心を高める。

 …が、なんか躍りを踊ってるような感じで、ジタバタ動いてるだけだ。

 なんなんだと思ってると、


「これ面白いね! 魔力の体だー!」


 そんな声が聞こえた。

 水熊をよく見てみると、うっすらと水に色が付いていて、ほんのり青くなってる。


「おまえはだれだ? 何がしたいんだ?」


 おれは直感で水熊に何かが入ったと感じ問いかけた。


「わたし? 私は水の精霊だよー!」


 キャッキャと水熊で遊んでいる精霊?に落ち着くように促した。

 すると動くのを止めてくれたので、中のウォーベアを出してくれと言ったら、ぽいっと出してくれた。


「ねぇねぇ、この体、貰っても良い?」


 精霊がそう聞いてくるから、あげると言うと、またもやキャッキャと変な踊りをしだした。


「その動きはなんなんだ?」

「これ? わかんない!」


 ほう、適当と言うことか? なら仕方ないなと、その場を去ろうとしたら、ガサゴソと草を踏み潰しながら後ろを着いてくる。


 少し歩いてもまだ着いてくるから、問いかけた。


「なあ? なんで着いてくるんだ?」

「え? んー、分かんない!」


 なんかすごい笑顔で言われた気分になる。

 熊の笑顔なんて分からないから仕方ないが。


「ところでなんで私の言葉分かるの?」

「ん? 聞こえるから分かるだろ?」


 何を当然なと言うがそうではないらしい。


「私は下級精霊だから、人間とかには意思を伝えられないんだよ? なんで分かるの?」


 ふーん、下級精霊というやつなのか。

 だが言葉が分かるから分かるんであって、なぜかは分からん。

 それを伝えると、なぜかまたキャッキャと嬉しそうな声を出す。


「ところでいつまでその熊を着てるんだ?」


 精霊に問いかけると、激しく暴れたあと、水の熊が事切れたように地面に落ち、ただの水溜まりになっていく。


 そこで精霊の声も聞こえなくなり、どこかに行ったのかなと思い歩き出す。


 珍しいものに出会えたなと思いながらしばらく歩くと、何やら髪を引っ張られる感じがした。

 後ろを振り向くが何もない。

 おかしいなと思いながらまた歩き出すと、またもや髪が引っ張られた。


「ん? なんなんださっきから?」


 やはり周りを見ても何もない、どう言うことだ?と思ってると、1つ思い付いた。


そこで、水魔術で5歳くらいの人間の形を作ってやる。

 すると…


「やっとこっちに気づいたー! ねぇ~なんで無視するの!」


 また、さっきの水熊のように人間の形の水が、おれの魔力を離れて勝手に動き出した。


「無視してたんじゃない、お前の声が聞こえなかったんだ」

「え~そうなの? じゃあしょうがないか~」


 腕を組んでそう言う水人間、もとい精霊。


「たぶんおれの魔力から作った体に乗り移らないと、声も聞こえなくなるんじゃないか?」

「あー! そうかも! じゃあこの体から出られないね!」


 またキャッキャと騒がしくなる精霊。

 やかましいなと思いながらも、何で着いてきたのか聞くと、人間と話したことないから話したいそうだ。


「私たちヒナ精霊って意思も曖昧だし、実態を持てないから、精霊同士でもあまり話せないんだよねー。あとはかなりの精霊使いの才能がある人とだけ。だから話せる人間がいたから嬉しくて!」


 ほーん、そうなのか。それは不便だけど、でも捕まったり悪用されなくて良いじゃないかと言うと、確かに!とまた騒ぎ出す。

 下級精霊とヒナ精霊は違うのかと聞いたら、ヒナはほぼ意思が無く、そこら辺を漂ってるだけらしい。

 それで下級精霊まで格が上がれば、自我が強くなり意思をハッキリ持てるそうだ。


 じゃあなんでこいつは喋れてるんだと思ってると、辺りが急にヒンヤリし出して何かが現れそうな気配がした。

 首筋がビンビンと警戒を知らせてきたので、瞬時に勇者装備をして、剣を構える。

 警戒してると、どんどんとプレッシャーが強くなってくる。


「や…やべぇ…何だこのプレッシャーは…」


 正直気を抜くと息も吸えないような感じで、かなりヤバい状況だ。

 すぐにここから逃げ出したいが、逃げられそうもなく、正直足が動かない。

 どんどん強まるプレッシャー、そこでふと目の前に何かが現れた。


「あら、ヒナ精霊が騒いでると思ったら面白いことをしてるわね?」


 スゥーっと現れた目の前の物体は、おれが作った水の人間のような形をしている。

 だがその内包魔力は、この世界が凝縮したかのような、近くにいるだけで死を覚悟する程の圧倒的な魔力量だ。

 なんなんだこいつは!?


「ふむふむ、なるほどね。貴方の魔力で作った水の形を依り代にしてるのね。そんなこと普通はできないはずなんだけど…」


 おれの作った水人間に入ってる精霊を見て、そう呟く。

 そこでヒナ精霊が嬉しそうに目の前の奴に抱きつく。


「ウンディーネ! あのねあのね!」


 そうヒナ精霊が抱きついた。

 なるほど、ウンディーネか。

 多分、水の精霊の上のやつだな。そう判断した。

 ここは警戒しながら次を待つか。


「あらあら、見事に体を使いこなしてるわね。良かったじゃない」

「うん! あのね! この体に入ってると人間とも話せるんだよ! さっきは熊でね!」


 などとヒナ精霊が矢継ぎ早に話しまくっている。

 そこで少し落ち着いたからか、目の前のウンディーネを観察する。


(こりゃあ、どえらい美人だな。人間には無理な造形してるわ…)


 顔は歴史的彫刻のように整いすぎていて、背は高く身体は峰不◯子を遥かに越えている。


 どないなっとんじゃこれは…


「あなたの魔力は凄いわね。ここまで色がない魔力は始めてみるわ」


 ん? 色? 魔力に色なんかあるのか? と思っていると。


「魔力は少なからずその者の特色を現すの。それはどんな生き物もよ。そこのヒナ精霊もね。でもあなたにはそれが全くないの…あなた何者なの?」


 魔力に特色ねぇ…まあこの世界の事なんか分からないから、精霊がいうならそうなんだろう。

 ところで、


「そんな自分は誰なんだ?」


 おれの事を言ってもいいが、その前に目の前の化け物を見極めてみる。


「あら、そうね。私は水の大精霊のウンディーネよ。水の精霊で私より上は水の精霊王様しかいないわね。それで貴方は?」


 おおう…水の精霊でナンバー2かよ…これより上がいるとかやべーな…


「おれは異世界人だ、それしか言えないな。名前はタツキだ」

「あら、異世界人なのね、通りで何か違う感じがしたのよね。てことは、この国が呼んだのね。なら少し前に大気の魔力が揺らいだあの時かしら?」


 詳しく聞いてみると、かなり広く大気が揺らぎ魔力が乱れた時があったようで、何か天変地異が起きるかと思ったのに何もなかったのよね。と言ってきた。

 多分それが召喚された時の乱れだろうと言うことだった。


「なるほどね…はぁ~、全くこの国はいつも碌でもない事を…そろそろ潰そうかしら?」


 なんておっそろしいことを平然と言うんだこいつは…まあこの魔力を見せられると簡単に出来そうだから、なお恐ろしい…


「まあ今のところ、私たち精霊には関係ないから良いわ。それよりはあなた、妖精霊使いなのね。ならこの子はあなたに預けるわね」

「はぇ?」


 なんかよく分からん事言われたぞ?


「妖精霊使い? なんだそれは?」

「あら、貴方のスキルよ。私も初めて見るわ。精霊だけじゃなく妖精にも貴方の魔力は通じるのね。ほんとに珍しいわ」


 うぇ? スキルなんてなかったぞ? いつの間にできたんだ?

 それに妖精もいるのか?


「ちゃんとスキルあるわよ。きっとこの子が貴方を認めたのが発現した原因ね。妖精もいるわよ。精霊と違ってすでに形を持ってるから、その魔力体を操れるかは分からないけどね」


 へぇ~、いつの間にかそこのヒナ精霊に認められてたのか。なんで? まあいいスキルを貰えたようなもんだから嬉しいけどさ。

 それに妖精は形があるってなんじゃろ?


「私たち上位の精霊は生まれた時から、世界の形を体現してるから、形を持ってるのが普通なんだけど、普通の精霊はヒナ精霊、いわゆる意思が殆ど無い魔力の塊ね。それらは成長するまではホントにただの魔力の塊って感じで形なんか無いの。ただ世界に漠然と存在してるだけ。だから誰も気に留めないの。同じ精霊の私もそうね」

「へぇ~そうなのか。なんで気に留めないんだ? それになんでそこのヒナ精霊は意思を持って話せるんだ?」

「そりゃ気に留めないわよ。なぜかって、ヒナ精霊は世界中に無数に存在してるんだから。気に留めてたら何もできないわ。それとその子が意思を持っているのは、貴方が魔力体を作ってあげたからね。それで自分の足りない魔力を補って、この世界に顕現したって感じかしらね」


 なるほどね。ほんとはそこら中に精霊になったばかりのやつは沢山いるのか。それが見えるかどうかだけで。

 そんでこの子はおれの魔力でこの世界に干渉する力を補ったと。


 まあおれもこのヒナ精霊も色々運が良かったんだろうな。

 それと妖精が形を持ってるからってのはなんだ?


「妖精は精霊と似てるけど、精霊は世界のなんらかの意思が働き、姿なき意思が宿った魔力の塊って感じね。たとえば長年大事にした物に意思が芽生えていくっていうのも精霊の一種ね。

 それに比べ妖精は最初から人間の形をしてるの。それは様々な要因があるけど、この世界では殆どが、何者かの意思が原因で生まれるわね。だから善意もあれば悪意もあるわ。ただ思いの力は悪意の方が強いから、イタズラ好きな妖精が多いわね」


 単純に自然発生や大切な思いで出来るのが精霊で、それは形がなく、妖精は人間の強い思いが具現化した物だから、人間の形があるって感じかな?

 なるほど、分かりやすい! さっすが大精霊!


「分かってくれた所で、この子の事お願いね?」

「はぇ?」

「はぇ、じゃないわよ。貴方がこの子の自我を芽生えさせたし、この子も貴方の事を気に入ったようだから、一緒に連れてってあげてね」


 そう言う大精霊は意識を持っていかれるくらいとても綺麗な笑顔でそう告げてくる。

 こいつ美人すぎだろ! 見惚れるってこう言うことなんだろうか…


「…はぁ~、分かったよ。この子が俺に着いてきたいなら良いよ。ただ世話の仕方なんて分からんぞ?」

「あら、ありがとね。断られるかと思ったのに意外ね。世話なんて無いわよ? 強いて言えば魔力をあげるか、魔力体を維持してあげればそれで良いわ」

「まぁおれも一人旅で話し相手がほしいしな。あとは魔力体を維持ね、了解。」

「それと付け加えるなら、この子は生まれたばかりで魔力なんて殆んど無いから、貴方の魔力体を維持できないし、魔法なんて使ったらきっと一瞬で消えるわね」

「うぇ!? 消えちゃうの?」

「まぁ厳密に言うと存在は消えないけど、また姿を顕現出来るようになるまで、気の遠くなるような時間が掛かるわね。それは貴方が魔力体を作っても無駄なほどね」


 お~う…消えるとなれば話が違ってくるぞ。安易に連れて行かない方がよくないか?


「貴方が連れて行かなくてもきっと着いていくわよ? それに魔法なんてこの子はほぼ使えないから大丈夫よ。ただ貴方がしっかり教えることも大事ね。ホントにこの子は生まれたばかりだから、子供の世話のようになるだろうけどね」


 そういって、ふふっと笑う彼女はとても惹き付けられる優しい顔をしていた。


 まあ見るからに子供っぽいもんな。世話しながらの旅か~、出来るかな? まあやるしかないんだけど。

 それになんで一度生まれたのにまた姿現すまで時間かかるんだ?


「今の世の中は魔導具が普及したから、精霊を扱う人が激減しちゃったのよね。人間もそうでしょうけど、精霊もその力を使われることによって成長するのよ。でもその成長を手伝ってくれる人間がほぼ居なくなってしまったから、中々精霊が育たないのね。だから自然に成長するのを待つんだけど、それこそ何百年とか掛かってようやく自我を持つ精霊もいるわね」


 さすがファンタジー。何百年とかもはや大樹とかの感覚だな。花咲くまで100年とか言う植物もあるしな。

 まあ育たない理由は分かったけど、なんで魔力使いすぎるとダメになるんだ?


「私みたいな姿を持つ精霊は、魔力を使い果たしても自然と回復するけど、この子は持ってる魔力が少ないから、それを使い果たすと中々回復しないのよ。それに意思もほぼないから、意識して魔力を回復するってことも出来ないわね。だから余計に時間が掛かるわ」


 なるほどね。意識すれば魔力を回復出来るけど、それが出来ないと回復もままならないってことか。

 こりゃ大変な子を預かっちまったな…


「ねぇねぇ! あなたの名前なんていうの!? わたしは~!?」


 ウンディーネと話していると、さっきから人間の体を模した水の魔力体を使って、そこらで宙を駆け回っていたヒナ精霊が戻ってきてそう言った。


「おれはタツキって言うんだ。お前の名前はないのか?」

「タツキね! タツキ~!」


 おれの名前を嬉しそうに叫びながら、また宙に浮きながらふわふわと飛び回っている。


「この子の名前はないわよ。貴方がこの子に名前を付けてあげればいいんじゃない?」

「名前無いのか? なんか真名を知られるとどうたらって無いのか?」

「それは悪魔の話ね。悪魔とかは生まれ持った名前があって、それを知られると魂を見られることになるから、存在事態に影響を及ぼすの。でも精霊はそんなもの最初から持ってないから、名前なんてのは人間と同じよ。ただの呼び名ね」


 なるほどね~。生まれ持った名前があるやつは影響がでかいのか。

 んじゃ仕方ない。この子に名前付けてやるか。

 もう保護者になるのは決まりだもんな。


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