11話 シーアの成長?
シーアが死んだかもと思ってたら力が上がったらしい。
中位精霊と同じ力とはどういうことだ?
疑問に思ってるとウンディーネが丁寧に教えてくれた。
「貴方が新しい魔力体をあげたでしょ? それに注いだ魔力が大きすぎて、一気にシーアの能力も引き上げられたのよ。だから今は力に振り回されて世界中を飛び回っているわ。あらあら、もう世界を3週はしたかしらね」
そうニコニコと微笑みながら教えてくれるウンディーネ。
いや、世界を3週って…どんだけだよ。
「多分そろそろ落ち着くわ。あの子も考えて、周りに被害が出ないように遥か上空を飛んでいるのね。帰ってきたら褒めてあげてね」
褒めるったって…
まあ死んだかもと思ってたら生きてて、さらに力も上がったようだから良かったけどさ。
そう思ってるとおれとウンディーネの周りに竜巻のように風が舞い始め、それがどんどん強くなっていく。
「おいおい…なんだこれは?……ヤバくないか?」
「あの子が高速で私達の周りを飛び回っているから、渦になってるのね」
ほんの少しの間に竜巻が出来上がり俺たちを飲み込もうとしていると…
「はいはい、そろそろ落ち着いたかしら?」
パチンっと指を鳴らしたウンディーネ。
すると竜巻が一瞬にして消えて、俺たちの前に1人の子供が現れた。
「…シーアか?」
「うん! タツキからもらったからだ、すごいー!」
そう言っておれに抱き付くシーアの感触は、まさに人間そのもの。
すごい、どうやったんだ?
「タツキの肌とおなじにしたー!」
「あらあら、本当ね。それにスベスベで気持ちいいわ」
「きゃー!」
ウンディーネに頬を撫でられてるとくすぐったいのか、叫びながら喜んでいるシーア。
そんなシーアを見てると、死んだと思ってたから安心した。
「急に居なくなるから心配したんだぞ。無事でよかったよ」
「うん! 体に入ったら力がうぉお~ってなって、どっか~んってなってね! 気付いたらここにいたの!」
「よくわからんがそうなのか」
言ってることは曖昧だが、とりあえず力に振り回されて慣れるまで飛び回ってたと。
「シーア、体には異常はないか?」
「うん! この体楽しいー!」
「そうかそうか、なら良かったよ」
「ふふ、この子も貴方の魔力体との親和性が高いのね。すぐに慣れて使いこなしてるわね」
「親和性?」
聞くと、なんでもヒナ精霊の格が上がり体を得ると、使い方が分からないか、ぎこちなくて、力を辺りに撒き散らす者もいるようで、そうなると街1つくらいは消えてしまうこともあるらしい。
それでこのシーアの体は、暴走したらこの国くらいは滅ぶほどの物だとか。
俺そんなものシーアにあげちゃったのかよ…
考えなしにやってしまったから、危なかったな。
次の国に行ったら、少し勉強しよう。
じゃないとどこも住めなくなりそうだ。
「住めなくなったら私達の住んでる場所に案内するわよ? 精霊以外は居ないから、人間は貴方1人だけになるけどね」
「そんな場所があるのか」
「ええ、昔は精霊を捕まえようとしてたから、精霊が落ち着いて住めるように、違う空間に住み処を創ったのよ」
さすが精霊。住む場所を違う空間に作るとか半端ないな。
「それは何の精霊が作ったんだ?」
「時の精霊ね。あの子は空間を取り扱うのに慣れてるからね」
「へぇー、時の精霊なんてのもいるのか。さすがに時の精霊の体なんて作り方が分からないな…」
「まあね。あの子は誰かに使役されたり、力を貸すなんて今まで無かったからね。さすがの貴方も無理かもしれないわね」
「そっかー、残念。まあおれにはシーアがいるからいいけど」
そう言ってシーアを見ると、手のひらから水の生き物をポンポン出して遊んでいる。
それは蝶からトンボから、少し大きいのだと鳥も出している。
その数は数十を超して数百にも上ろうとしている。
「なんか偉いことになってんな」
「ふふ、力が上がったことで魔力制御の力も上がったのね。だから細かなことも出来るようになったのよ」
「だからってこれは…」
上を見上げればそこら中に水の生き物たちがいる。
それは本物のように細部まで作られていて、表情も分かるほどだ。
それに見たこともない大型の生き物も宙を舞い始めた。
「シーア、その大きな奴は見たことなかったろ?」
「とんでるときに見たー!」
ああ、世界を何周もしてたと言ったからな。その時に見たのか。
「あの子の肌は人間の肌と同じなの? 私にも貴方を触らせて貰っても良い?」
上ばかり見ているとウンディーネがそう言ってきた。
「ん? ああ、いいぞ」
自分の腕を触らせる。
「へぇー、ほんとにあの子と同じようなのね。あの子の再現性が凄いのね。私もこの肌にしようっと」
そう言ってウンディーネは肌の質感をおれの肌に似せていた。
そして肌の色もおれに似せてきた。
今までは何となく水っぽい色合いだったが、今じゃ人間そのものに見える。
「ふふ、人間に似せるなんてしたことなかったけど、たまにはしてみようかしら」
人間肌が気に入ったのか、さらさらと自分の肌を何度も撫でている。
ほんとに器用すぎるな精霊って…まあこれでシーアとどこにでも行けるからいいんだけどね。
あとは…
「シーア、魔法の威力を調整して、ヨワクスル訓練しないとな」
「よわくするー!」
ただでさえ強かったのに更に強くなったら危なすぎて何もさせられない。だから、ウンディーネがいるうちに、調整して貰おう。
「ウンディーネ、普通の人間の威力と上位の人間の威力を教えてくれないか?」
「ええ、いいわよ。水の魔法でいいかしら?」
「ああ、助かるよ」
ウンディーネにお願いして初級~上級の水魔法を何種類か試して見せて貰った。
「なんだ、おれのウォーターボールと威力は変わらないのか」
「ええ、人間は魔術の才能があるとわかると、学園に通うのが一般的だから、魔力が高いかどうかによって威力に変化はないみたいよ」
そういうウンディーネに疑問を投げてみた。
「おれのウォーターボールに魔力を多めにすれば威力が上がるけど、それはやらないのか?」
「威力を変える人は少ないわね。教えて貰った通りにやる人が多いから、みんな固定観念に囚われているのね。そこから上にいく人が威力を変えたりするわね。それはとても少ない人数よ」
そう教えてくれた。
なるほど、バカみたいにいつまでも基本を守ってるのか。
そういう意味では最初から独学でこの世界の概念に染まってないおれは、色々学ぶ前に魔術を使えるようになって良かったと思う。
「あ、そういえば貴方のお仲間達の様子を見に行ったわ。130人くらいあるわよね?」
「ああ、学年全員が召喚されたみたいだ」
「またすごい数を召喚したわね…どれだけの魔力を使ったのかしら? 数百人じゃきかなそうね」
「え? …人間を生け贄みたいにしたのか?」
数百という人数を聞いて、少し背筋が震えた。
それだけの犠牲者が…?
「あの国は治安が悪い場所があるから、多分犯罪者とかを贄にしてるかもね。それに数十年は召喚してないだろうから、その魔力をずっと蓄えてたのかもね。今回の大量召喚の為に」
「まじか…それだけ大量にとなると、何か目的が?」
「でしょうね。意味もなく大量に呼ぶわけがないわね」
「じゃあやっぱり戦力だよな? どこかと戦争でも?」
そうだとしたら、やはり城を追い出されて正解だったな。
「多分ね。でも全員で学園に通うらしいから、戦力になるには、だいぶ先だと思うわよ」
「へ? あいつら学園に通わされるのか」
せっかくファンタジー世界に来たのに、また学園に通うとか可哀想だな。好きに生きたいだろうに。
おれは召喚されたこの国には恨みはあるが、同級生には特に何も思ってない。
あるとすれば、頭をかち割られたあのデブに、顔面パンチをしたいくらいか。
まあそれ以外は好きでも嫌いでもないから、どうぞ異世界の学園ファンタジーを楽しんでくれとしか言えないな。
こっちは精霊と一緒にこの世界を満喫しよう。
どうせ元の世界には戻れないのがテンプレだしな。
と思いつつも聞いてみる。
「おれって元の世界に戻れるのかな?」
「さあ? 戻れるんじゃない?」
「はえ?」
なんと戻れるんじゃないかという、思ってたのと真逆の返答が来た。
「マジで?」
「ええ、多分、時の精霊なら時空を操作して戻してくれるわよ。ただ協力してくれないだろうけどね」
「え? それは違う世界に行ったやつがいると?」
「ええ、私も行ったわよ。ここより全然文明が栄えてる場所にね」
「ええ!? マジかよ!!」
まさかまさかの異世界転移を目の前の大精霊様はしていたとは…
よく戻ってこれたな?
「ええ、それは時の精霊と協力して戻れるように時空を繋いで貰ってたからね。でも多分貴方の魔力じゃ足りないわよ? 私でも100年は魔力を溜めてたからね」
「大精霊が100年……」
あれ? これ無理じゃね?
「でも私のは戻れるように、時空を繋ぎ止めてたから、それが凄い魔力を使うのよね。だから行くだけなら私の今の魔力でも行けると思うわ」
「ちなみに今の魔力量はいかほどで?」
「多分100万ほどかしら?」
「ひゃく……」
あれ? やっぱり無理じゃね?
「魔力を蓄えられる魔石や魔道具を使えば、多分貴方なら10年もすれば行けるんじゃない? それくらいその勇者の装備は凄いわよ。だって魔力量が1万近くある人なんて、数える程度しか居ないしね」
「数える程度はいるのか…」
やはりこの世界の人の中には化け物がいるんだな…
でも魔道具やら何やらを使えば10年で行けるのか。それが分かっただけでもよかった。
ただ問題は…
「でも時の精霊が力を貸してくれないと、きっとその1000倍は魔力が必要ね」
「せ…せんばいって……」
やはりそう甘くはないようだ…
これは時の精霊を味方につけないとダメだな。
でも戻れるのが分かった。それだけで心が信じられないほどにスッキリした。
「ありがとうウンディーネ。戻れるって分かっただけで良かったよ」
「そう、なら良かったわ。あの子が着いてくかもしれないから、その時が来たら考えてあげてね」
「あ~…そうなると20年か…」
「そうなったらあの子の魔力もあるから、そんなに掛からないわよ」
「あ、そっか、シーアにも手伝って貰えば良いもんな。なら来たいなら連れてこうかね」
「そうしてあげてね。ただ魔力が無くなると、精霊は死にはしないけど、この世界に戻ってきちゃうから、2度と会えないかもしれないから注意してね」
マジか…確かに地球に魔力なんてないだろうから、おれがあげるか、もしくは魔力わ蓄えられる物を持っていかないとな、それも大量に…
まあ当分先だ。それはあとになって考えよう。
「よし、ならシーア。今は魔法の威力を俺に合わせる練習をしよう」
「はーい! タツキといっしょー!」
今日は大人しくおれとウンディーネの会話を聞いていたシーアにそう伝える。
前までは5秒ウンディーネと話してると、違うところへ行ってたのに、今日は聞いていたから、少しは力が上がって精神が成長したかな?
とにかく、これからの未来に希望を抱きながら、今はシーアと出来ることをしよう。
ああ、これが楽しみだ。




