9話 名付けと契約 ~そしてこれから~
もう一緒に来るんだろうからな。
よし、なら名前を付けてやるか。
「お~い! ヒナ精霊こい! 名前付けるぞ~」
「なまえ~! なまえなになに!?」
そこそこの勢いで俺に抱きついてくるヒナ精霊。
おお、水だからヒンヤリするけど、水が服に染みることはない。しっかりと魔力でコーティングされてんだな~。不思議だ。
「よしよし、お前の名前はミズミズだ。どうだ?」
「みずみず? なにそれ?」
「貴方…ネーミングセンス崩壊してるわね…」
うっせ! そんなこと分かってんだよ! 子供の名付けなんてしたこと無いから出来るかよ!
こちとらペットも飼ったこと無いんだからな! などと不貞腐れる。
「もっとないの? ほら、この子は水の精霊だから、水に関する名前は?」
「あれ? 今さらだけど水の精霊なの?」
「そうよ、この子は水の精霊。だから水の魔力体に入ることが出来たのよ」
「んじゃ何か? 火の魔力体を作ったら火の精霊が入れるとか?」
「その通りよ。だから着いてきて欲しい精霊がいたら、その属性の魔力を出して気に入ってくれたら、着いてきてくれるかもね」
なるほど、そう言うことね。ならおれは今は火の魔術が使えるから、火の精霊も着いてきてくれるかもな。ただ今はこの子の事で手一杯になりそうだから、おいおいだな。
「そんなことより名前を決めましょ」
「そうだな~。水に関することね~…」
おれが考えてると、もうヒナ精霊はいなくなってて、今度は地面にある草をじっと見つめている。
そうだよな、生まれたばかりだもんな。何にでも興味あるよな。
ん~名前名前…水に関する事で、成長して大きくなって欲しいから…
「ん~、水なら海のようにでっかくなって欲しいから、海、は安直だよな。ウミ、シー、sea、セア…… うん、これがいいかな」
「決まったようね。なら呼ぶわね。ほら、来なさい」
「はーい! なになに~?」
そういいながら小さな体でとことこと寄って来て、おれの顔を覗き込んで来る。
「名前決めたぞ。お前の名前はシーアだ!」
「わたしのなまえ? シーア? シーア!」
「そうだぞ、どうだ? 気に入ってくれたか?」
「シーア! わたしシーアっていうんだよ!」
シーアと名付けてシーアが両腕を突き上げて叫んだ途端、シーアの体が薄っすらと光に包まれた。その光と同じものがシーアからおれの体にも一本の光輝く糸が繋がれたように見えた。
「あら、珍しいわね。名付けだけで契約が成立するなんて」
「契約? なんだそれ?」
「精霊との契約よ。本来はお互いの気持ちを確かめあって、それからお互いの魔力を交換するんだけど…多分、今回はお互いが認めあってて、貴方の魔力体に入っているから、それを受け取ったようなものになったのかもね。でもこの子もそれくらい貴方に懐いてるってことね」
ウンディーネがそんなことを言ってるうちに、光に包まれていたシーアがこちらを見上げていると、光が収まっていた。
すると…
「おお? …なんか顔がさっきよりハッキリしてないか?」
「あら、これもまた珍しいわね。契約したことによってこの子の格が上がったのね。これでこのは貴方の魔力を使って魔法を使うことが出来るようになったわよ?」
「はぇ?」
なんか今までは顔が少しのっぺりしてたのに、今じゃ顔に笑顔が見てとれて、本物の人間の顔みたいに見える。
それにさっきは魔法を使ったら消えるとかいってたのに?
そう思ってるとシーアはシーアシーアと叫びながらまたそこら中を、今度はすごいスピードで飛び始めた。
「格が上がったし貴方と契約したから、貴方の魔力を渡すことが出来るようになったのよ。顔がハッキリしたのもそのせいね。
それに今までは存在が薄すぎて魔力を渡すと過剰になりすぎて消えてしまうような、か弱い存在だったけど、格の上がった今ならその心配もないわね」
んん? てことは、おれの魔力を渡して魔法を使って貰うことが出来ると。
それなら赤子のように扱わずに戦力としても期待していいのかな?
「いいと思うわよ。それに今は魔力体だからダメージも受けないし、魔力体がなくなっても繋がりはそのままだから、また水の魔力体を作ればすぐにその体に入って話すことも出来るわね」
なにその無敵さんは? ようは俺がやられず魔力もある限りなんでも出来ると? こりゃ楽しくなってきた。
「でもこの子はまだまだ幼いから制御もあまり出来ないし、気ままだから命令しても聞かない時もあるわよ」
「そんな上手いことは無いってことか」
そりゃそうだよな。子供と同じなんだから嫌な事言われたら聞くわけ無いよな。そこは気を付けよう。
あやうく兵器みたいに扱う所だった。
しっかりとこの子は人間の子供と変わらないんだと思うことにする。
「まあ人間の子供よりは強いからそこまで過保護にしないで、使える魔法を使わせた方がいいわよ。ただあまり過剰に戦闘ばかりさせてると、そう言う風に育ってしまうから気を付けてね。それに私たち精霊に被害が及ぶようだと貴方もこの子も処理するしかなくなるから、注意が必要ね」
そういって真剣な眼差しで見つめてくるその顔は、とても綺麗で、それでいて冷徹なものに見え思わず背筋が震える。
それに処理って…なんちゅう恐ろしいことを言うんだこいつは…
これは絶対に敵対しないようにしないと、命がヤバイというのがビンビン伝わってきた。
そうだよな、少し話したから警戒心が薄らいだけど、最初見たときは、まるで死が顕現したかのような気がしたからな。
本当に気を付けよう。
「まあ私達はほぼ傍観者だから、直接手を下すことは数百年に1、2回くらいよ。まあ大精霊が個人でなら数十年に1回とかかしらね」
「そんなにないのか。それでその時はどうなったんだ?」
「個人なら国が、大精霊より上でなら世界の半分は消えるわね」
「はっ?……」
おいおい、数百年に1度は世界の半分が消えてんのかよ?
どないなってんだそれは?
「仕方ないのよ。人間って欲望に際限がないから、この世界に影響を及ぼすことを数百年に1度はやるから」
「具体的にはどんな?」
「そうね、前は複数の精霊達を暴走させて国が4、5個ほど無くなったから、仕方なくその精霊達をを消滅させるために世界の半分が消えたわね。あとは魔導具を使って世界征服するために、世界中の魔力を集めたり吸収しようとしてたから、その時はその魔力を散らすために、世界の1/3は消えたわね」
…なんだか壮大すぎてよく分からんが、人類が数百年に1度は破滅に向かうと言うことなのね。ほんと人間ってのは欲深いな。
「今は前の時からどのくらい経った?」
「そうね~、前の時から200年は経ってるかしら?」
ならそろそろ起きてもおかしくないし、起きなくてもおかしくないと…
まあそんなこと考えてても仕方ないか。まずはシーアを大事に育てよう。
そう思ってるとビュンビュン飛び回ってたシーアが戻ってきた。
「タツキ! 魔力無くなってきた! ちょうだい!」
戻ってくるなり飛び回りすぎて魔力がなくなってきたと訴えてくる。
「はしゃぎ過ぎだな。所で魔力ってどう渡せばいいんだ?」
「ん~わかんない!」
「ふふっ、そうね、その魔力体に貴方の魔力を注いでもいいけど、もう魂で繋がってるからシーアに渡すように想いながら、魔力を練ってシーアに向ければ渡せると思うわよ」
「魔力を練って渡すように伝えると…」
少し魔力を練って見るが、どうも上手くいかない。
多分おれの魔力が少なすぎてダメなんだろうと思い、勇者装備を着てやってみる事にする。
「あら、貴方それ…」
ウンディーネが何か言ってくるが少し集中して、シーアに魔力が渡るように練ってみる。すると…
「お~! たくさん魔力きた!! ふぉおお~!」
少し魔力を上げすぎたのか、元々元気だったシーアが更に元気一杯になって、今度は見えないスピードで飛び始めた。
「ふう、無事渡せたみたいだな」
「貴方、その装備はどうしたの?」
「ん? これか? これはここの国の城から貰ってきた」
「へぇ~、今はこの国にあったのね。それを貰うとかよく許可出たわね?」
少し懐疑的な目で見つめてくるから、おれは自分の事を正直に話すことにした。きっと言ったとしても干渉はなさそうだしな。
「へぇ~そうなのね。その装備は今から500年は昔になるかしら。当時の魔王が暴れまわってて争いが酷かった時代に、その装備を来た勇者が魔王を討伐したのよ。その勇者も異世界人だっかしらね」
「おお? ならこの装備は異世界人の物なのか。青の勇者の装備って名前だけど」
「ええ、そうね。異世界から来て自分で作ったみたいね。確かに青の勇者って呼ばれてたわね。きっと装備の色でそう呼んだんじゃないかしら」
へぇ~、異世界人が自分で作ったのかこれ。確かにスゴい性能だしな。それにトロの装備みたいで青いから青の勇者か。安易すぎる。
「でもその装備を扱える人がそのあと誰もいなくて、歴史も古くなったから、あまり大事にされてなかったようね」
「なるほどね。そりゃ魔王を倒した勇者の装備でも、誰も使える人がいないんじゃそうなるか」
ところで、魔王は今の世にいるのか?
「いるわよ。そう呼ばれてるのは何人かいるわね」
「何人もいるのかよ…」
「でもその装備してれば、そこらの人間や魔物には負けないわよ。ドラゴンとも普通に渡り合えると思うわ」
おー! やっぱりドラゴンいるのか! いいね~。
「でも貴方自身は相当弱いわね。ただの一般人なのね」
「そりゃな。元の世界では普通に生活してただけだし」
「そんな一般人を勝手に召喚して放り出すなんて、やっぱりこの国滅ぼそうかしら?」
「ほんとにな。おれが消してやりたいくらいだ」
「あら、じゃあ貴方にこの国は任せるわ。その装備してたら出来るわよ。それと私が貴方はこの世界で自由にしていいと認めてあげるわ」
「いや、滅ぼさないから。何かしら仕返しはしたいけど。でも自由にしていいって認めるとは?」
「水の大精霊が認めたって言えば、精霊に関わりのある種族なんかにも協力して貰えるわよ。あとは精霊を好き勝手にしても、よほどの事がない限り大精霊は動かないわ」
ふーん、他の種族が協力してくれるのは別にいいとして、大精霊が動かないってのはいいな。これで少しくらい無茶しても大精霊に殺されないってことだ。それが一番嬉しい。
「まあでも装備なしじゃただの人だから、無理しないようにね」
「ああ、性格的にもそんなにやんちゃはしないよ」
「それがいいわね。それとその装備が主と認めたのだから、それは貴方のものよ。堂々としてていいわ。それにその装備を知ってる者ももうほぼ居ないしね」
装備に存在に色々と認めて貰えたからか、心が軽くなった。
やっぱり突然この世界に召喚されて追い出されてと、かなり精神的に負担があったんだな。
それらが一気に軽くなって自然と笑顔になった。
「タツキー! これから一緒だね!」
ビュンビュン飛び回っていたシーアがおれに抱きついてきた。
そこそこの衝撃が来たが勇者装備のおかげでなんとかなった。
はは、これから大変そうだ。
「シーア、これからよろしくな」
「うん! ずっと一緒ー!」
「ああ、そうだな」
笑顔一杯のシーアを見てると自然とこちらも笑顔になってしまう。
召喚されて大変な旅になりそうだったけど、シーアのおかげかこれからが楽しみになってきた。
この先どんな旅になるのか、どんな出来事が起こるのか、少し胸に期待を秘めながら、これからの未来を楽しもうと誓うのだった。
そして側にいる水の大精霊は、それを優しげに見つめているのだった。




