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未来の想い出  作者: すみ
1/3

出会って

初めて掲載させていただきます!

少しずつ投稿するので、軽く読んでいただけると幸いです。

 2018年、4月9日。この日から新学期が始まり、在校生達は期待や怠惰を胸に抱いていた。クラス分けを見て騒ぎ、担任が同じだと喚き、新学期のガイダンスが終わり、そして部活の時間がやってきた。

「じゃぁそろそろ1回通そうか」

「はい!」

 新部長となった先輩が張り切って仕切っている。そんな姿を冷静に見ながら、三橋叶笑も皆と同じように返事をした。

 彼らは吹奏楽部。オーケストラ並みの人数と楽器数で演奏する楽曲はとても迫力があり、たまに地域で演奏するために近隣住民からの評価も高い。

 叶笑は部内唯一の、ドラム・パーカス担当だった。四肢を楽譜に合わせて動かし、音楽の基礎となるリズムを刻む。身長は大体160cm、体は細く体重は60kgもなく、よって胸も控えめ。青みがかった黒ボブの髪は若干癖でうねり、ボリュームと方向性の不一致を生み出している。アクセサリは存在感のある黒の太縁メガネと、左耳の上に水草の形の髪留めだけで、華やかな女子高生という感じではなかった。

「おっけー、じゃあ今日はこれで締めます。明日からはいつも通りーー」

 演奏合わせが終わり部長が何か言っている。ほとんどの部員は楽器を片付けながらそれを聞いていた。

 喋り終えたのか、部長が「お疲れ様でしたー」と言うと、待ってましたというように「お疲れ様でしたー!」と声が重なる。すぐにそれ以上の騒音で皆がそれぞれに話し始めた。

「叶笑ー、おつー」

「お疲れ夏葉」

友人の谷屋夏葉に声をかけられ、ドラムを片付けながら叶笑は応じる。

夏葉は叶笑とは対象的に、バッチリメイクと明るい髪が綺麗に整い、身長も叶笑より少し高く165cmくらいで、ボンキュッボンな上に短いスカート。一言で言えばギャル風の華の女子高生だ。

「今日どっか寄ってかない?」

「うーん」

「あ、三橋さーん!」

 面倒くさがっていると知らない声に名を呼ばれ、叶笑は手を止めそちらを見た。手を振っていたのはクラスが同じになった女子だった。

「あぁ、えっと、桐野さんだっけ?」

「そう! 覚えててくれたんだねー、ありがとー」

 桐野円香はほんわか系なのかな、と叶笑は思う。髪の毛も癖がふわっとなっていて、肩の高さでたんぽぽがあしらわれたヘアゴムで結っている。身長は、こっちは叶笑より低く155cm程度。叶笑と同じくらい細身だ。

「ううんこっちこそ。どしたの?」

「いや、あの、用って程じゃないんだけど、うちトランペット担当なんだけどね、ドラム叩けるってすごいなぁって思ってたんだ」

 ニヤニヤしながら夏葉が叶笑を見る。

 うるさい夏葉。

 一瞬睨み返し、叶笑は円香に向け微笑み「ありがとう」と言った。

「でも私からしたら、管楽器扱う方が繊細でキツイかなぁ」

「えへへ、そうかなぁ」

 円香がわかりやすく照れる。素直だなぁとまた叶笑は羨んだ。

「あ! 違うよ! 三橋さんの話だよ!」

 我に返った円香が可笑しくて、叶笑はクスッと笑う。憎めないなぁ。

「叶笑でいいよ」

「ほんと!? じゃあうちのことも円香でいいよ」

 円香はえへへと笑ってみせ、また一瞬の間が開く。

 テンポ悪いなぁこの子。かわいいから許すけど。

「んでね! 叶笑ちゃんはドラムどのくらいやってたの?」

「えと……3年ちょっとかな。全然上手くなれなくて」

「え!? 十分上手じゃんかぁ!」

「ありがと、そんなことないよ。ついて行くのがやっと」

 そこに副部長の内田蒼介が、通りすがりに会話に入ってきた。

「三橋のドラムは安心出来るよ、音楽の基礎になるドラムや低音系がしっかりしてるとメロディを奏でやすくなるんだ」

 なかなかのイケボでセリフの終わりにきらーんとか効果音が入りそうな人種の蒼介は容姿も性格もよく、吹奏楽部イチのモテ男である。

「内田先輩! そうですよね!」

 円香の声に隠れて他の女子達からいいなぁと羨む声が聞こえた。蒼介は叶笑と円香に笑ってみせ、自分の作業に戻る。大概の女子は蒼介に褒められでもすれば赤面して嬉しがるものだが、叶笑は違った。

「ありがとうございます先輩」

「叶笑は他に彼氏候補いるもんねー」

 夏葉がニヤニヤしながら、よそ向きの表情の叶笑をからかう。

「うるさいなぁ。まだ候補でもないのに」

「え、てことは好きな人いるの!? 」

 円香の食いつく声が大きくて叶笑は少し焦った。幸い周りもガヤガヤしていて聞こえている人はいないだろう。

「まぁ、一応ね。いいよその話は」

「えー誰だれ?」

「言わなーい」

「笹内陽斗先輩」

「おおおぉぉいいぃぃ夏葉ぁぁ」

 耳まで真っ赤になる叶笑を見て夏葉は嬉しそうにニンマリする。対して円香はしばらくキョトンとしてから、何も言わず首を横に振った。

「サッカー部のね?」

「……う」

「へえええええ!! そうなんだ!!! うち応援する!!」

 叶笑のセリフに被せて、円香は目をキラキラさせながら食いつく。

「う……うん……ありがと……」

 どんな表情をしたらいいか分からずに、黒縁メガネの奥で目線を下の方に泳がす叶笑を、相変わらずの夏葉はニンマリと見ていた。



 関東と言えど、樫浜高等学校がある井波市樫浜町は田舎だ。至る所に豊かな緑が残り、町を斬るように大きな河川が流れる。

 たまにイノシシやクマが出て、軽く騒ぎになる。

 そんなこの町の唯一の高等学校が、旧ゴルフ場の広大な敷地に建つ樫浜高校なのだ。

 校内は広いが生徒数がえげつない。一学年につき約600人、全校生徒数は1900に近い。樫浜町は田舎のくせに若者が多いが、ここのみならず近隣の田舎町から学徒が集まるために、樫浜高校は所謂マンモス校となっていた。

 完全下校と同時に部活ガチ勢の生徒が固まってそれぞれ帰路につく。馬鹿みたいに騒ぎながら群れて歩くやつがいれば、堂々とイチャコラしながら歩くカップルもいる、いつもの下校風景だ。

 例の如く人の数はえげつなく多いが。

 その中に混じって、叶笑は夏葉と円香と並んで歩いていた。円香を迎えて帰るのが初めてなので話題が尽きない。

「趣味はトランペットとお絵描きかなぁ」

「へえぇ、絵も描いてるんだ! 今度見せてよ」

主に円香と夏葉の会話。たまに叶笑がセリフを吐くのが大抵のポジションになっていた。

「えぇぇはずかしいよぉ、上手くないし!」

「えーじゃぁ好きな人は?」

 夏葉の質問のストックと切り返し凄いなぁといつもの如く叶笑は思う。

 だからギャルなのか。何故か納得がいった。ギャルだからか?

「いないよー」

「絶対嘘だ」

「えーなんでよぉ! いないもん!」

「気になる人くらいいるでしょ?」

「えー……みんな同じように好きなところとか嫌いなところとかあってわかんないよぉ……」

「嘘だぁ」

「おい夏葉」

 叶笑が夏葉の肩に手をかける。

 無垢な心でこれ以上遊ぶな。と目で訴える。

「う……わかったよ」

 夏葉は何かを感じて身を引いた。

「じゃあ叶笑の恋バナを聞こうじゃあないか」

「え゛」

「大賛成! うちも聞きたい!」

「恋バナって、そんななんにも発展してないよ!」

「あらやだ叶笑さん、それって笹内先輩のことかしらん?」

 いたずらに煽る夏葉。

 返す言葉がない叶笑。

「……?」

 展開が読めない円香。

「あ、そゆこと!」

 純粋に答えを待つ円香の目が眩しくて直視できない。

 やめて……そんな目で私を見ないで……。

 別にやましいことをしている訳では無いというのにこの反応である。

「……や、……うん……」

 叶笑は目を逸らしながら曖昧に返事をした。そして逸らした目線の先に見つけた。

「あ」

「お? 旦那いた?」

 夏葉に細かい所を確実に拾われる。幼なじみ間違えたーとこれまで何度思ったことか。幼なじみというか腐れ縁だが。

 案の定図星である。

 すぐに目線は逸らしたが、叶笑達の左前方、対向車線側の歩道を部活の友人達と笑いながら歩く、笹内陽斗がそこにいた。

 身長は170cmちょっと。浮き出た筋肉が眩しいがガチガチではないいわゆる細マッチョで、明るく癖った短髪が幼さを残している。

「へえぇあんな感じなんだ、笹原先輩?」

「笹内ね、笹内」

 間髪入れずに夏葉が正す。

「見なくていいから……」

 頑なに真正面を見ながら耳まで真っ赤になった叶笑を見、夏葉はまたニンマリ笑う。

「ササウチアキト、樫高三年サッカー部所属。背が高くイケメン、よく笑いよく笑わせるムードメーカーでスポーツ万能! 女子からの人気も高いが彼女情報はまるで皆無!」

「夏!! やめれ!! もう!!」

「っと叶笑選手大声で注意を引く気かぁ!?」

「っるさいちょっと黙ってろデカブツ!」

「にひひひひぃ」

 2人のコントに円香は爆笑。つい僻んでしまう叶笑には眩しい。

 後で覚えてろよぉと夏葉を睨み、何となく陽斗の様子を伺うと、なんと目が合った。

 え、うそ!?

 驚いて目線を動かせない。

 陽斗はニッと笑って小さく手を振ってきた。

 叶笑の心臓が止まった。

「あこれ撃ち抜かれたな」

 夏葉の言葉も聞こえないほど、叶笑の脳ミソは溶けてしまっていた。



 えええええ待って。

 ええええええ。

 えええええええ!

 それからの帰路、夕食中、入浴中、就寝前、ずっと叶笑の頭の中で笹内先輩のあのシーンが回り続けていた。

 あれ私に向かってだよね?

夏葉の煽りが耳に入ることも、テレビの内容が頭に入ることもなく、夕飯何を食べたかすら抜けるほどに。

 近くの誰かに向かってだったの?

 母親に「どしたのよ?」と聞かれたが、あぁうんとしか言えなかった。

 笹内先輩に私って認識してもらえてるの? でも接点ないよ?

 自室に戻って、日課である小さなアクアリウムの手入れをしている時も。

 目合ったよね、合ったって事でいいんだよね?

 ああああああああああ。

 脱水を起こす勢いで頭から蒸気が上がり続ける叶笑。

 これで違ってたら泣けるわ……。

 はっと気づいて時計を見ると、針は1時を過ぎていた。

 寝なきゃ。明日も普通に学校だよ。初委員会あるんだから、ぼーっと出来ない。寝よう。

 叶笑は頭を切り替えて、布団に潜り込む。明かりをリモコンで消し、布団を頭の先まで被せて就寝した。

 定期的に蒸気が上がってきたのは言うまでもない。



 4月10日。

 火曜日に委員会の定期集会が執り行われる樫浜高校では、新学期始まって2日目の今日、顔合わせが行われる。

 生徒数がとんでもない故に、生徒運営の組織も動くのが大変になる。一学年にクラスが15、委員会の数だけでも12あり、ひとつの委員会に45人もの委員が所属する。教室ひとつでギリギリだ。

 昨日のクラス会で、叶笑は緑化委員会に入ることが決まっていた。今年度初の授業を終え放課後を迎えた生徒達は、それぞれに準備をし、指定の教室に向かう。

 叶笑と夏葉は御手洗にいた。

「叶笑今日ボロボロじゃん」

「あぁうん……寝れなくて……」

「そんなガチで撃ち抜かれたの?」

 刹那叶笑の顔が赤くなる。

「もー思い出させないでよ!!」

「はは、ごめんごめん。でも肌も髪も荒れてんねぇ」

 手を洗いながら夏葉が珍しく心配そうに言った。叶笑も鏡越しに自分を見、唸る。

「うー……。知恵熱出そう……」

 肌にハリがなく髪はいつも以上にクセってボサボサだ。

 円香みたいな柔らかい髪質ならはねててももっと可愛くなるのに。

 剛毛のクセっ毛はどう足掻いてもただのボサボサにしかならない。嫌だー。

「化粧してあげよっか?」

「いいよー苦手だし。余計おかしくなりそう」

 見ない見ないと言い聞かせながら御手洗を後にする叶笑。後ろで夏葉の笑い声がしていた。



 指定の教室に移った叶笑は、暇でついてきた夏葉に髪を梳かしてもらっていた。

「ほーら、梳かすだけでも少しはまとまった」

「んーそうかなぁ」

 手で自分の頭にポンポンと触れてみる。

「うーん……」

 自分では納得いかないものだ。

「気になったんだけどさぁ」

「ん?」

 唐突な夏葉の問いに、叶笑は顔を上げる。

「なんで学年ごとに席決まってんだろ」

「あぁ、なんでだろ」

 教室の机に、座る人の学年を指定する紙が置いてあった。叶笑は適当に「2年」と指定された席にいるが、深く理由を考えていなかった。

「いずれわかるんじゃない?」

「まぁそりゃそうだけどさ」

 夏葉が髪梳かしを再開し、叶笑も元の姿勢に戻る。

 教室には、徐々に緑化委員になったのであろう生徒が集まり始めていた。

 開始予定時刻まであと5分かぁ、と時計を見ていると、視界に肌荒れの元凶が映り込む。

「ぐぉふっ」

 教室に陽斗が入ってきたのだ。

 うそおおおおおおおおおお。

 瞬く間に赤くなり机につっ伏せる叶笑。メガネで鼻の頭が痛かったがそんなこと構わない。

 そのリアクションに驚いた夏葉は、その現状を把握してゆっくりとニヤついた。

「あらぁ」

「っ……!!」

 伏せた叶笑の耳元に夏葉が屈んで囁く。

「最近幸運ですねぇ」

「……一周回って不運だよ……!」

「ひひひひ」

 夏葉は元気に体を起こし、リュックを手に取り叶笑に告げた。

「じゃあたしはこれで! 頑張ってね叶笑!」

 わざとらしく大声で名前を呼ばれ、ボフッと蒸気が出る。夏葉はスタスタと行ってしまった。

 あの野郎覚えてろよ……!

 とは言っても会話をする訳ではないし、二人きりという訳でもない。委員会が始まる前に何事も無かったかのように顔を上げて普通に過ごせばいいだけの事。

 心の中でお経っぽいものを抑揚なく唱え、気持ちを落ち着かせる。

 しばらくして、生徒が集まりガヤガヤしてきた所に担当の先生が来、黙れや座れやと制し始めた。

 よしもう平気でしょ。

 計画通り何も無かったかのように顔を上げ、メガネを定位置に戻す。ふう、と何気なく周りを見渡す。正確には陽斗の居場所を探ろうとして首を回す。

 流石にそんな近くにはいないよね。

 だがしかし、陽斗は隣りの席に座っていた。

 目が点になり顔が赤くなるのを感じる。

 そんな叶笑に気がついて、陽斗は顔を叶笑に向け、笑った。

「こんちは」

「こ……こちゃ……」

 頭が真っ白になった叶笑は、機械のように顔を正面、先生の方向に戻す。

 先生、なんか、喋ってるなぁ……。

 放心状態且つ思考停止で何も頭に入ってこなかった。しばらくして、周りが机を動かし始める。

「え!?」

 叶笑も流石に取り残されていることに気づき、慌てて周りから情報を得ようとした。

「グループ毎に自己紹介だってよ」

「あ、ありがとうござい……」

 笹内先輩と会話してしまったああああああああぁぁぁ!

 半ば過呼吸のまま机を動かし、6人班の島を作る。動かし終えてちょこんと椅子に座ると目の前に向かい合って陽斗が座っていた。

 ふぁああああああああああああああ!

 もう頭の中がごっちゃごちゃである。

 ふと全体へ向けた指示の声が耳に入った。

「今班になってもらっている6人が、前期の間グループとして委員会活動に従事して頂く班になります。20分間時間をとるので、自己紹介等交流をしてください。尚その間はスマホ携帯等使用を許可頂けましたので。はい始め」

 女子生徒の声だ。叶笑の知らぬ間に委員長が決まっていたらしい。

 や、待って。

 笹内先輩と半年間同じ班になってるんですが!?

 こんな明らかに挙動不審のボサボサガサガサメガネと!

 体から炎が上がりそうだと叶笑は思った。

 恥ずかしい。直視できない。ちゃんと声が出ない。上手く笑えない。そもそもどうすればいいか何も分からない。

「じゃあまぁ一応俺3年なので、簡単に進行役を。いいかな?」

 陽斗が班内をまとめ始めた。陽斗からの問いに叶笑を含め全班員が「お願いします」と頷いた。

 その時、敏感にもカバンの中でスマホが震えたのを感じた。叶笑はすがりつくようにスマホを取り出し見る。夏葉からLINEが来ていた。

『隣になれて良かったねぇwww』

「っ!?」

 瞬時に振り向き後ろのドアを見ると、思った通り夏葉が隠れて覗いている。

 あの野郎……!!

 次のメッセージが来た。

『LINE聞いてきてね』

 ギャルが……!!

「じゃまず名前と学年、クラスと趣味かなんか好きなことを順にでいいかな」

 陽斗が指揮を執り始め、叶笑はスマホを閉じてカバンに突っ込んだ。図らずも夏葉からのLINEで多少落ち着きを取り戻したらしく、挙動不審から抜け出す叶笑。こうなったら情報収集だ。

 陽斗が続ける。

「まず俺から。笹内陽斗、三年二組です。趣味は……サッカーが好きで、遊ぶことが好きです。よろしくお願いします」

 薄らと班内で拍手が起きそれぞれが会釈した。

 遊ぶことか……体動かすの好きそうだもんな……。

「じゃあ次お願いできる?」

「え!?」

 陽斗が叶笑を次に指名した。思わず声が大きくなる。

「あ、はい、三橋です。二年三組です。趣味は……写真とドラムで、吹奏楽部です。よろしくお願いします」

 同じように薄い拍手が起きた。

 ふう、と息を吐いた叶笑だったが。

「三橋さんドラム叩けるんだ。カッコイイなぁ」

「いえいえいえそんな! 下手なので! 全然!」

 陽斗は普通に反応しただけなのだが、叶笑はキャパを超えかけてキョドる。

 はははと笑う陽斗。

「んな謙遜しなくても」

 叶笑はううぅと縮こまった。

「次行こうか」

 そこから順々にメンバー全員の自己紹介を終え、陽斗の指揮の元ちゃっかりとLINEを交換する叶笑。

 もらっちゃったあああ。

 叶笑はスマホを見て赤面し、夏葉は廊下で笑いを堪えてじたばたした。

 班の他のメンバーの事は叶笑が覚えてないので割愛させてもらおう。



 それから特に会話があるわけでもなく、無事、叶笑は無事と言えるか怪しいが、委員会の顔合わせは幕を閉じた。

「ーーお疲れ様でしたー、一年間よろしくお願いしまーす。解散」

 委員長の声で途端にザワつく教室。叶笑は急いで荷物をまとめ逃げようとする。

「三橋さん」

 いっぱいいっぱいで正直聞きたくなかった声が叶笑を呼ぶ。

「はい」

 裏返りそうな声をなんとか抑えて返事をし、叶笑はガチガチになりながら振り向いた。

「お疲れ様、これからよろしくね」

 陽斗の笑顔が眩しい。叶笑も笑顔を作ろうとしたが微妙にひきつってしまった。

「はい、こちらこそ、お願いします」

 叶笑は装うことが苦手である。

「ははは、笑えてないぞ」

「うぇ!?」

 思わず変な声が出た叶笑にまた陽斗の笑いが零れる。

「三橋さん面白いね、また話そ」

 陽斗の言葉に、叶笑は真っ赤になりながら、でも嬉しそうに応えた。

「はいもちろんです! よろしくお願いします!」



「おいおいおいおい、いい感じじゃねぇかぁ!」

「うるさいなぁ!」

 その帰り道、夏葉の第一声がこれである。

 まだ教室出てすぐだよ……!?

 委員会が終わり、今までの挙動不審はなんだったのかと思うほどのルンルン気分で教室を出た叶笑は、離れたところで悶絶している夏葉を見つけて合流したのだった。

「ってかなんであんなとこにいたのよ」

「だってぇ、近くにいたらキュン死確定だったからぁ?」

「……はぁ?」

「カナちゃんが可愛すぎて俺、死にそうだったよ……」

 額に手を当てハードボイルド風に言う夏葉。呆れて叶笑はため息をついた。

「顔赤いぞー」

 スルーされた腹いせに夏葉が突きを入れる。

「っるさいなぁ」

 自覚があるため顔を背ける叶笑。

「んでもLINE交換出来たんでしょ?良かったじゃんか」

「う、うん、まぁ」

「何その浮かない声」

「いや、LINE貰ったところでどうしたらいいか……」

「そりゃ話そうよ、そういうツールよ?」

「分かってるけど……!」

「案外向こうから連絡来たりしてねー」

「え! そしたらなんて返せばいいんだろう!?」

 叶笑の素直な慌てぶりに夏葉が赤くなる。

 この子可愛すぎかー!?

「んまぁ、いつも通りに返信すればいいよ。ポイントはトーク開いたまま待たないこと。合わせるのはいいけど嘘はつかないこと。変に期待しないこと」

 夏葉のアドバイスに、落ち着いた声で叶笑は返す。

「さすがギャルね」

「なんで!? 今のサポートよ!?」

「よく熟知されてることー」

「聞いといて何だそれ!?」

 叶笑は口を尖らせ、少しの間考えた。

 そして口を開く。

「ちょっと落ち着いた。……ありがと」

 あやっぱ可愛い……。

 叶笑は知る由もないが、夏葉もあまり自覚してないが、夏葉は叶笑が大好きなのだった。

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