ガルガト呉服屋①
子羊の嘶き亭……。
実は、それ程、立地は悪く無い。
それどころか、城門からわずか100mと、他のギルドよりも、よっぽど良い。
そのギルドから、わずか500mの所に、商店街は在る。
エネス商店街……。
人々は、活気に満ち溢れ、往来を跋扈している。
跋扈するとは、あまり良い言い回しでは無いか……。
ごった返している……。
俺達は、商店街のアーチを潜り、おっさんの店に行く事にする。
地図によると、商店街の真ん中ほどの所にある様だが、ノーパンのサクヤを考えると、まず、服を買いたい。
人ごみの中、はぐれない様、シャルを抱き、サクヤの手を引く。
何事も無く、到着できた。
スリにも会っていない。
それどころか、周りの人は親切に、小さな子供が通ると、道を開けてくれた。
良い人ばかりだ。
店の名前は……。
ガルガト呉服店。
なかなか、いかつい名前だ。
俺達が店の中に入ると、ふくよかな女性が、手招きで呼んでいる。
「外は、人で苦しかろう。中にお入り」
笑顔の絶えない人だ。
ニコニコと、サクヤの頭を撫でてくれる。
「今日は、お使いかい?」
サクヤは、元気よく頷き、俺は、懐からおっさんから貰った手紙を取り出し、手渡した。
「おや?あの人からかい?」
「冒険者の、お仕事なんよ♪」
満面の笑みのサクヤ。
女の人は、チョコレートをサクヤに手渡し、三人で食べるように勧めた。
チョコレート……。
これも、俺は知ってる!
なんだ、役に立つじゃないか。異世界転生のススメ……。
甘くておいしい……。
三人、顔を見合わせて、にっこり笑う。
「おやおや、まあまあ……」
手紙を読み終えた女の人は、俺達の方に向き直る。
「キリカちゃんの処の、冒険者だったんかい?私は、ザグメ。よろしくねえ」
おっとりとした人だ。
あの豪快なおっさんの、奥さんらしい。
「久々に、キリカちゃんの手料理が食べられるって、あの人、はしゃいじゃって……」
手紙だけで、分かるんだ……。
良い夫婦らしい。
「何~!キリカちゃんの手料理!」
奥から、大きな声が……。
「あらあら、お義父さん。大きな声を出して」
のっそりと、筋骨隆々の爺さんが……。
デカい……。
熊みたいだ。
「この子達が驚くでしょう?」
「あ~?大丈夫じゃ!こやつら、そんなたまじゃあない!」
デカい声だ……。
「坊主達……。冒険者か?」
「ああ……」
「キリカちゃん処の?」
「ああ」
「がはは!そうか、そうか!ようやくまともな冒険者が入ったか!」
豪快に笑う。
おっさんに似ている……。
「儂は、ガルガトって言うもんじゃ!」
ああ、だから、ガルガト呉服屋……。
なんか、服屋って言うイメージがしないな……。
俺達は会釈をし、名前を名乗る。
シャルは、呆気に取られていたが、サクヤは、周りの服に興味津々の様だ。
「この服可愛いんよ♪」
「そうかそうか!全部、儂の自信作じゃ!」
儂のって……。
この爺さんの……。
あれなんか、フリフリが付いてる……。
「なんじゃ?何か言いたいのか?」
「いや。見かけによらず、手先が器用なんですね……」
「主らこそ、見かけによらない様だがのう」
目を細め、俺達を見る。
「あんたも昔、冒険者だったのか?」
「阿呆抜かせ!儂は、この道一筋じゃ!けどのう、沢山の冒険者を見て来た」
豪快に笑う。
ザグメさんも横で、コロコロと笑っている。
「それで、あの忌々しい冒険者どもはどうした?」
また、あの三人か……。
「ぶっ飛ばした」
「く、はははっ!そうか、そうか!ぶっ飛ばしたか!ようやった!」
俺の頭を撫でるな……。
しかしこの人の手……。
見かけによらず、繊細な手をしている。
ごつごつしているが、俺の頭を触る手は、繊細で、頭をなぞる様に優しく撫でる。
「ならば今日は、祝杯だ!」
「お義父さん。程々にね」
「がはは!」
笑顔の絶えない家らしい。
何か良いな……。こう言うの。
「それでね、お義父さん。毛皮の持ち込みだそうよ?」
「毛皮の?」
「そう。あの人のお墨付きの様よ」
「ほう……。見せてみろ」
俺は、頷き、毛皮を取り出す。
ガルガトの目が変わる。
職人の目だ……。
何か、ドキドキする……。
シャルとサクヤも、一緒の様だ。
さっきまではしゃいでいたサクヤも、身を乗り出して、見詰めている。
「小僧……。いや、ジャショウよ。どうやって倒した?」
鋭い眼光……。
一瞬ドキッとしてしまう。
「頸動脈に沿って、一閃……」
「これだけの大きさ……。さぞ硬かったはずだが?」
「錬気で……」
俺は、創気で、剣を作って見せる。
さらに目を細める、ガルガト。
「それが剣なら、業物じゃな……」
「お義父さん」
「質、大きさ、申し分が無い!しかも、しっかりとなめしてある。良い仕事じゃ……」
「ありがとうございます……」
「肉は、肉はどうした?」
「みんなで食べたんよ♪」
「三人でか?」
「人魚さん達と……」
「人魚?お主たちは、世界樹にまで行けるのか?」
「内緒にしてください……」
「ああ、かまわぬ。下らない連中に、おぬし達を売るつもりはない!」
ガルガトは、目を見開き、膝を叩く。
一瞬びくっとしたが、ガルガトが、満面の笑みを見せたので、俺達はつられて笑った。
この人も、良い人の様だ……。
「一つ百万エルで買おう!」
俺は、耳を疑う。
オーガの角でも十万エル……。
桁が違いすぎる……。
俺達が驚き、固まっていると、ガルガトは真顔になって、こちらを見据える。
「お前達は、物の価値が、まだ分からんと見える」
「物の価値?」
「良いか?これだけの大きさのビックボア、その毛皮は、鋼鉄にも匹敵する硬度を持つ!こいつで作った服は、鋼鉄の鎧にも匹敵すると言う事じゃ!」
ガルガトは、愛おしそうに毛皮を撫でる。
「しかも、これ程状態が良いとは……」
そうは言うが、魔法を使えば、傷無く倒せる事だって可能だと思うが……。
俺の疑問が分かったのか、ガルガトは、首を横に振る。
「だから、分かっておらんと言うのじゃ。魔法では、こうはいかん!致死系の魔法では、心肺を停止させてしまう。死んだと同時に、肉体が縮み、毛皮の価値が下がる。毒系は、毛皮の質を下げてしまうし。斬撃系は、主の様に、的確に急所を狙い、尚且つ、この毛皮を通すだけの威力が無くてならん!それに、どうやって解体する?どだい無理な話じゃ」
ガルガトは深いため息をつき、重い腰を上げようとする。
「お義父さん?」
「これだけの物を見て、疼かぬ職人などおらん!確か金庫に……」
「はいはい♪私が準備……」
「ちょっと待ってくれ!」
立ち上がろうとする二人を、俺は止める。
そんな大金、ありがたいが、今は必要ない。
有って、困るモノじゃ無いが……。
だったら……。
「お金をもらう前に、俺達に服を見繕ってくれないか?」
そう、服だ……。
どうやら、腕は確かな様だ。
冒険者の事も考えてある。
旅に最適な服が選べる。
それに、周りの服……。
先ほどから気になっていたが、魔力を感じる。
エンチャントと言うやつか……。
「ここにある服のいくつか、魔法が掛かっているよな?」
「見ただけで分かるか!儂は、符呪も得意でなあ」
「俺は、最近ここに来たばかりで、サクヤは、この前、獣人に成ったばかりなんだ」
「ふ~む。不相応な格好をしていると思ったが、訳有か?」
「あ、ああ。これしか、服は無い」
目と目が合う。
じ~いっと見られ……。
俺は、目を逸らさず、見返す。
「分かった……。しかし、お前さんに会う服で、冒険に適したものと言うと……。ザグメ!倉庫の服を持ってこい!」
「ええ。あれですね?」
「そう。あれじゃ!」
ザグメは、理解したとばかりに、相槌を打って、店の奥に行く。
「さて、嬢ちゃん達か……」
「アタイ、このひらひらしたの、着てみたいんよ♪」
「ええ。サクヤちゃんに似合いそう」
「シャル姉も、お揃いが良いんよ♪」
「まあ、動きやすい服と、気に入った服を買うと良い。女の子は、可愛くなくっちゃのう」
優しげな微笑み……。
この人もまた、好々爺の様だ。
まあ、この二人を見て、和まない奴は、そうそう居ないだろう。
そうこうする内に、ザグメが帰ってくる。
その手に持っているのは、俺より明らかに大きい服……。
黒を主体とした上下に、黒の外套。
何か、夏場にはキツそうだ……。
「これは、俺が趣味で作ったもんだ。テントに使う丈夫な生地で作ったんだが……。まあ、着てみればわかる」
「って、俺には大きいぞ?」
「良いから!」
俺は、ザグメに背中を押され、試着室へと入れられる。
デカいと言ってるのに……。
裾だって……。
って、ええ~~~!
腕を通した服は、吸い付く様に、俺の体にフィットする。
と言う事は、ズボンも……。
しっかりと、丈が調整された!?
俺は驚き、試着室から飛び出る。
「こ、これ……」
「もう一着のズボンも、履いておけ!」
驚く俺を他所に、ガルガトとザグメは、シャルとサクヤの服選びに勤しんでいた。




