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天翔雲流  作者: NOISE
スターリーの街角で
90/1838

ガルガト呉服屋①

 子羊の嘶き亭……。

 実は、それ程、立地は悪く無い。

 それどころか、城門からわずか100mと、他のギルドよりも、よっぽど良い。

 そのギルドから、わずか500mの所に、商店街は在る。

 エネス商店街……。

 人々は、活気に満ち溢れ、往来を跋扈している。

 跋扈するとは、あまり良い言い回しでは無いか……。

 ごった返している……。

 俺達は、商店街のアーチを潜り、おっさんの店に行く事にする。

 地図によると、商店街の真ん中ほどの所にある様だが、ノーパンのサクヤを考えると、まず、服を買いたい。

 人ごみの中、はぐれない様、シャルを抱き、サクヤの手を引く。

 何事も無く、到着できた。

 スリにも会っていない。

 それどころか、周りの人は親切に、小さな子供が通ると、道を開けてくれた。

 良い人ばかりだ。

 店の名前は……。

 ガルガト呉服店。

 なかなか、いかつい名前だ。

 俺達が店の中に入ると、ふくよかな女性が、手招きで呼んでいる。

「外は、人で苦しかろう。中にお入り」

 笑顔の絶えない人だ。

 ニコニコと、サクヤの頭を撫でてくれる。

「今日は、お使いかい?」

 サクヤは、元気よく頷き、俺は、懐からおっさんから貰った手紙を取り出し、手渡した。

「おや?あの人からかい?」

「冒険者の、お仕事なんよ♪」

 満面の笑みのサクヤ。

 女の人は、チョコレートをサクヤに手渡し、三人で食べるように勧めた。

 チョコレート……。

 これも、俺は知ってる!

 なんだ、役に立つじゃないか。異世界転生のススメ……。

 甘くておいしい……。

 三人、顔を見合わせて、にっこり笑う。

「おやおや、まあまあ……」

 手紙を読み終えた女の人は、俺達の方に向き直る。

「キリカちゃんの処の、冒険者だったんかい?私は、ザグメ。よろしくねえ」

 おっとりとした人だ。

 あの豪快なおっさんの、奥さんらしい。

「久々に、キリカちゃんの手料理が食べられるって、あの人、はしゃいじゃって……」

 手紙だけで、分かるんだ……。

 良い夫婦らしい。

「何~!キリカちゃんの手料理!」

 奥から、大きな声が……。

「あらあら、お義父さん。大きな声を出して」

 のっそりと、筋骨隆々の爺さんが……。

 デカい……。

 熊みたいだ。

「この子達が驚くでしょう?」

「あ~?大丈夫じゃ!こやつら、そんなたまじゃあない!」

 デカい声だ……。

「坊主達……。冒険者か?」

「ああ……」

「キリカちゃん処の?」

「ああ」

「がはは!そうか、そうか!ようやくまともな冒険者が入ったか!」

 豪快に笑う。

 おっさんに似ている……。

「儂は、ガルガトって言うもんじゃ!」

 ああ、だから、ガルガト呉服屋……。

 なんか、服屋って言うイメージがしないな……。

 俺達は会釈をし、名前を名乗る。

 シャルは、呆気に取られていたが、サクヤは、周りの服に興味津々の様だ。

「この服可愛いんよ♪」

「そうかそうか!全部、儂の自信作じゃ!」

 儂のって……。

 この爺さんの……。

 あれなんか、フリフリが付いてる……。

「なんじゃ?何か言いたいのか?」

「いや。見かけによらず、手先が器用なんですね……」

「主らこそ、見かけによらない様だがのう」

 目を細め、俺達を見る。

「あんたも昔、冒険者だったのか?」

「阿呆抜かせ!儂は、この道一筋じゃ!けどのう、沢山の冒険者を見て来た」

 豪快に笑う。

 ザグメさんも横で、コロコロと笑っている。

「それで、あの忌々しい冒険者どもはどうした?」

 また、あの三人か……。

「ぶっ飛ばした」

「く、はははっ!そうか、そうか!ぶっ飛ばしたか!ようやった!」

 俺の頭を撫でるな……。

 しかしこの人の手……。

 見かけによらず、繊細な手をしている。

 ごつごつしているが、俺の頭を触る手は、繊細で、頭をなぞる様に優しく撫でる。

「ならば今日は、祝杯だ!」

「お義父さん。程々にね」

「がはは!」

 笑顔の絶えない家らしい。

 何か良いな……。こう言うの。

「それでね、お義父さん。毛皮の持ち込みだそうよ?」

「毛皮の?」

「そう。あの人のお墨付きの様よ」

「ほう……。見せてみろ」

 俺は、頷き、毛皮を取り出す。

 ガルガトの目が変わる。

 職人の目だ……。

 何か、ドキドキする……。

 シャルとサクヤも、一緒の様だ。

 さっきまではしゃいでいたサクヤも、身を乗り出して、見詰めている。

「小僧……。いや、ジャショウよ。どうやって倒した?」

 鋭い眼光……。

 一瞬ドキッとしてしまう。

「頸動脈に沿って、一閃……」

「これだけの大きさ……。さぞ硬かったはずだが?」

「錬気で……」

 俺は、創気で、剣を作って見せる。

 さらに目を細める、ガルガト。

「それが剣なら、業物じゃな……」

「お義父さん」

「質、大きさ、申し分が無い!しかも、しっかりとなめしてある。良い仕事じゃ……」

「ありがとうございます……」

「肉は、肉はどうした?」

「みんなで食べたんよ♪」

「三人でか?」

「人魚さん達と……」

「人魚?お主たちは、世界樹にまで行けるのか?」

「内緒にしてください……」

「ああ、かまわぬ。下らない連中に、おぬし達を売るつもりはない!」

 ガルガトは、目を見開き、膝を叩く。

 一瞬びくっとしたが、ガルガトが、満面の笑みを見せたので、俺達はつられて笑った。

 この人も、良い人の様だ……。

「一つ百万エルで買おう!」

 俺は、耳を疑う。

 オーガの角でも十万エル……。

 桁が違いすぎる……。

 俺達が驚き、固まっていると、ガルガトは真顔になって、こちらを見据える。

「お前達は、物の価値が、まだ分からんと見える」

「物の価値?」

「良いか?これだけの大きさのビックボア、その毛皮は、鋼鉄にも匹敵する硬度を持つ!こいつで作った服は、鋼鉄の鎧にも匹敵すると言う事じゃ!」

 ガルガトは、愛おしそうに毛皮を撫でる。

「しかも、これ程状態が良いとは……」

 そうは言うが、魔法を使えば、傷無く倒せる事だって可能だと思うが……。

 俺の疑問が分かったのか、ガルガトは、首を横に振る。

「だから、分かっておらんと言うのじゃ。魔法では、こうはいかん!致死系の魔法では、心肺を停止させてしまう。死んだと同時に、肉体が縮み、毛皮の価値が下がる。毒系は、毛皮の質を下げてしまうし。斬撃系は、主の様に、的確に急所を狙い、尚且つ、この毛皮を通すだけの威力が無くてならん!それに、どうやって解体する?どだい無理な話じゃ」

 ガルガトは深いため息をつき、重い腰を上げようとする。

「お義父さん?」

「これだけの物を見て、疼かぬ職人などおらん!確か金庫に……」

「はいはい♪私が準備……」

「ちょっと待ってくれ!」

 立ち上がろうとする二人を、俺は止める。

 そんな大金、ありがたいが、今は必要ない。

 有って、困るモノじゃ無いが……。

 だったら……。

「お金をもらう前に、俺達に服を見繕ってくれないか?」

 そう、服だ……。

 どうやら、腕は確かな様だ。

 冒険者の事も考えてある。

 旅に最適な服が選べる。

 それに、周りの服……。

 先ほどから気になっていたが、魔力を感じる。

 エンチャントと言うやつか……。

「ここにある服のいくつか、魔法が掛かっているよな?」

「見ただけで分かるか!儂は、符呪も得意でなあ」

「俺は、最近ここに来たばかりで、サクヤは、この前、獣人に成ったばかりなんだ」

「ふ~む。不相応な格好をしていると思ったが、訳有か?」

「あ、ああ。これしか、服は無い」

 目と目が合う。

 じ~いっと見られ……。

 俺は、目を逸らさず、見返す。

「分かった……。しかし、お前さんに会う服で、冒険に適したものと言うと……。ザグメ!倉庫の服を持ってこい!」

「ええ。あれですね?」

「そう。あれじゃ!」

 ザグメは、理解したとばかりに、相槌を打って、店の奥に行く。

「さて、嬢ちゃん達か……」

「アタイ、このひらひらしたの、着てみたいんよ♪」

「ええ。サクヤちゃんに似合いそう」

「シャル姉も、お揃いが良いんよ♪」

「まあ、動きやすい服と、気に入った服を買うと良い。女の子は、可愛くなくっちゃのう」

 優しげな微笑み……。

 この人もまた、好々爺の様だ。

 まあ、この二人を見て、和まない奴は、そうそう居ないだろう。

 そうこうする内に、ザグメが帰ってくる。

 その手に持っているのは、俺より明らかに大きい服……。

 黒を主体とした上下に、黒の外套。

 何か、夏場にはキツそうだ……。

「これは、俺が趣味で作ったもんだ。テントに使う丈夫な生地で作ったんだが……。まあ、着てみればわかる」

「って、俺には大きいぞ?」

「良いから!」

 俺は、ザグメに背中を押され、試着室へと入れられる。

 デカいと言ってるのに……。

 裾だって……。

 って、ええ~~~!

 腕を通した服は、吸い付く様に、俺の体にフィットする。

 と言う事は、ズボンも……。

 しっかりと、丈が調整された!?

 俺は驚き、試着室から飛び出る。

「こ、これ……」

「もう一着のズボンも、履いておけ!」

 驚く俺を他所に、ガルガトとザグメは、シャルとサクヤの服選びに勤しんでいた。


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