ナビ子
「ジャンジャジャ~ン。その質問、私がお答えしましょう!」
急に見知らぬ声が響き、慌て、その場で構えをとる。
「誰だ!」
周囲の気配を探る。
辺りは、静寂に包まれ、人の気配はおろか、動物一匹、居やしない。
そりゃそうだ。あれだけ暴れたんだ。飼いならされた動物だって、のうのうと、俺の周りに近寄るはずがない……。
居たら居たで、それは自殺願望者か、よっぽどの強者だろう……。
この声の主は、前者か後者か、気になる処だ……。
「大丈夫。大丈夫。そんなに警戒しないで。私よ。エステカ!」
「エステカ?」
声の主を、訝し気に思い、眉を顰め周囲を警戒する。
どうやら、どちらでも無いらしい……。
俺の事を知っている?
まるで旧知の友と、話すようだ。
「って……。ジャショウちゃん。記憶、終っちゃったんだっけ」
「……?」
「私は、エステカ。世界神で、今は、ジャショウちゃんの、ナビゲーターよ」
一瞬、黒いスカートが、たなびくのが見えたように思え、目を擦る。
目を擦り、再度、周りを警戒する。
「ふふ……。忘れていても、きっと、心が覚えているわ。怖がらないで。これから一緒に旅をするんだもの」
「一緒に……?」
「そう、一緒に。だから私の事は、ナビゲーターの、ナビ子ちゃんとでも呼んで♪」
「……。ナビ子……?」
何だか、こそばゆい……。
辺りには誰も居らず、まるで、独り言を言っている様で、恥ずかしい……。
「うん。今、私、ジャショウちゃんの頭の中に語り掛けているから、まるっきし、独り言だね」
「おい!」
「ごめん、ごめん♪念じて、心で話してくれれば、聞こえるから、そうすると良いよ」
『こうか?』
言われるまま、心で念じてみる。
しかし、この異常事態に、すんなり順応する自分が怖い。
頭の中に聞こえる声なんて、まるっきし、心の病気じゃん……。
いかんいかん。雑念を捨てろ。今は、藁にも縋る思いだ……。
辺りは、静けさに包まれ、遥か遠くで、鳥の囀る声が聞こえる。
ナビ子の返信が無い。
しまった。雑念が、交信の妨げになったか?
あれだ。電波なシチュエーションでも、今の俺にとっては、自分を知るきっかけになる。
このチャンスを無駄にしたくは無い。
自然と目に力が入る。
呼吸が止まり、顔は、ゆでだこの様に赤くなる。
『うん♪聞こえる、聞こえる』
『え?今の間なに?』
『いや~。ジャショウちゃんの顔面白かったから♪』
『いいから、そう言うの……』
俺は、自分の顔を摩り、ナビ子の反応に苦笑する。
う~ん。悪い奴では無い様だ……。
何にしても、聞きたい事は山ほどある。
『で、俺は何なんだ……?』
『ジャショウちゃんは、ジャショウちゃんよ』
「だから!」
ナビ子の答えに、少し苛立ち気味に、声に出して聞き返す。
所詮、俺の不安な心が生んだ幻聴か?
自分の名前は、既に解かる。聞きたい事は、そう言う事じゃない。俺が誰で、どこから来たのかなんだが……。
それに、この、人を食った様なもの言いは、どうにかならないのだろうか……?
『はい、はい。解っているわ♪順を追って、話しましょう』
エステカの人を食った様な態度に辟易とし、脱力感に襲われる。
しかし、所々で、少女の姿が、脳裏をよぎる……。
何なんだ、これは……?
『あ~。今、不貞腐れてるでしょう?そんな態度だと、教えないよ!』
まただ。今度は、頬を膨らませ、怒った姿の少女の顔が、見え隠れする。
愈々、頭がどうにかなってしまったのだろうか……。
しかし、頼れる事と言ったら、この幻聴しかない。今は耐える時だ、ジャショウ!
「可愛い、可愛いナビ子ちゃん。無知な俺にも解るよう、説明してもらえないでしょうかね?」
イラつく心を抑え、へりくだって、教えを請おうとする。
我ながら、情けない……。
苦笑し、返信を待つ。
『きゃ~。可愛いって言われた♪』
ナビ子からの、応答は早く、テンションが高い。
耳を塞ぐも、直接、脳に語り掛けてくるものだから、脳内にナビ子の声が木霊する。
正直、うるさい……。
『いいわ。教えてあげる』
『お、おう。頼む……』
『あなたは、ジャショウ。こことは、別の世界から来た、とても強い戦士よ』
あまりに、ざっくりとした回答に、困惑の色は増す。
しかし、どうやら、貴族でも無ければ、浮浪者でも無いらしい。
何にしても、一歩前進だ。
固唾をのんで、次の言葉を待つ。
まさかと思うが、まさかこれで終わりと言う事は無いだろうな……?
……。
『えっ?それだけ……?』
『えっ?他に何か聞きたいの?』
ナビ子が、首を傾げたように思え、頭を抱える。
いやいやいや……。
これだけってことは無いだろう……。
これじゃあ、俺の履歴書真っ白やん。
バイトすら、受からないぞ!
落ち着け俺。自分の対話能力に、自信を持て。俺ならやれる!がんばれがんばれ!もっと熱くなれよ!
よ、よし!いくぞ……。
『いや……。俺の生い立ちとか。強さの秘密とか……』
あかん……。軽くどもった。しかも、対話能力なんて、無かった……。
?マークを出して、首を傾げる少女の姿が、脳裏に浮かぶ。
ですよね~。
無理だ……。
俺は項垂れ、ため息をつく。
『ああ。生い立ちは、そのうち思い出すわよ。強さは……。ジャショウちゃん元から、強かったから……。ただ、この世界に来て、少しばかり、内なる力と、半神としての力が、開花したかな……?』
やっぱ、ダメだ……。
曖昧な回答が、帰って来た……。
さっきと変わらん……。
しかし、幾つか聞きなれない言葉も、出てきた……。
これは、一歩前進か?
『半神……?』
『そう、半神。ジャショウちゃん。元は、大地山霊の加護を受けた半神半人で、強い魂の持ち主よ』
『はあ……』
まったく、身に覚えがない。
結局、自分がどこから来て、どこへ向かおうとしていたのか解らない……。
チュートリアルが欲しい……。
半神とか言って、そんな中二設定どうでも良い……。
頭を掻きむしり、進まぬ話にうんざりとしながらも、天を仰ぎ見、ため息をついた。