頼むから、泣き止んでくれ~!!
「何じゃこれは!?お主ら一体……」
今俺達は、ギルドの作業場に居る。
目的は、魔獣・ギルバードの毛皮を、なめす為だ。
十mの体躯……。
作業場は、辺り一面埋め尽くされ、黒一色に覆われている。
そう言えば、この爺、ギルムと言うらしい。
そのギルムとキリカは、ギルバードの毛皮を見て、唖然としていた……。
まあ、そうなるな……。
しかし、なめすと言ってもどうしよう?
なめし台には乗らないし……。
燻すか……?
いや、それこそ、場所を使う。
なめし剤として、塩か油を使うとして、地道にやってくしか無いか。
腐敗は、すぐに起こらなくても、水分が飛んで、硬化が進んでしまう。
ベットで寝れると思ったが、今夜は徹夜か……。
俺は、ため息をつき、毛皮の方に向き直る。
そう言えば、ビックボアの毛皮も……。
「おい!」
耳元で、ギルムが叫ぶ。
俺は驚き、向き直る。
「何だよ?爺さん……。俺は見ての通り、忙しいんだが……」
「何を狩ったんだと聞いとるんじゃ!」
「何って……。ギルバード?」
俺の返答を聞き、ギルムはため息を零す。
「ギルバードって、今、巷で噂の、魔獣の事か?」
「ん!そうらいし……」
俺は、ギルムに背を向け、作業に取り掛かる。
一々、五月蠅い……。
サクヤとシャルも、見よう見まねで、なめしを手伝い始める。
寝てていいと言ったんだが……。
二人は、頑なに、手伝うと言って聞かない。
まあ、正直、嬉しいんだが……。
やっぱ、この二人、良い子やなあ。
それに比べて、
「主らは、どれほどの事をしたと思っておるんじゃ!」
こっちは、五月蠅い……。
手伝う気が無いなら、出て行ってもらいたい。
「どれほどの事って……。ああ、マルスが、他の人には言っちゃダメだって……」
「当たり前じゃ!」
「ん……。分かってるなら、内密にな」
「はぁ……。とんでもないルーキーが現れたもんじゃ……」
「あ、あの……。あの……」
「ん?」
今度は、キリカが何か言いたい様だ。
俺は、振り向き、首を傾げる。
「あ、あ……。御免なさい!」
「何故謝る?」
「え、えっと……。お仕事の邪魔をして……」
この子は、何でこうも、気が弱いんだ?
まるで、俺が虐めている様では無いか。
って、シャル睨むし……。
俺、怒って無いよ?
お願い、勘弁して……。
俺は、苦笑交じりに、手を止め、向き直る。
「えっと、どうしたのかな?」
「いえ……。えっと、カウンターに来ていただきたいなって……」
「ん?別に良いが?」
「御免なさい!御免なさい!!って、え?」
「別に良いと言っている……」
俺は、苦笑交じりに応える。
まあ、徹夜すれば終わるし、急ぐ事でも無い。
気伸びをして、立ち上がる。
「キリカちゃん!大丈夫だよ♪ジャショウは、美人に弱いのよ……。ね♪」
シャル……。目が笑って無い……。
「美人!?え、ええ!」
何に、そんなに驚く?
俺が、美人に弱いと言う事か?
それは、心外だ!
俺は、フェミニストなだけだ!
うん!そう!フェミニスト!
「わ、私が美人……?」
ああ、そっち。
「美人なんよ♪」
「美人ね♪」
「美人だな」
俺達は、一斉に答える。
そこん処は、自覚してもらいたい。
俺今、か~な~り、緊張しているぞ?
この子、無防備すぎる!
また、俺が、理不尽に怒られるじゃないか!
ホント、カンベンシテ……。
「で、何の用なんだ?」
「あっ!え、えっと……。ギルド登録を……」
俯く、キリカ。
そう言えば、まだしていなかった。
何しに来たって、あの馬鹿三人をしばくため……。では無く、冒険者になるためだ。
目的を見失う処だった。
「御免なさい!家みたいな弱小ギルド、入りたくないですよね?」
また、謝る……。
「俺達は此処で、冒険者になるために来たんだよ」
「ぇ……」
なぜ、不思議そうな顔をする?
「えっと、ここ冒険者ギルドだよね?」
「は、はい!」
「ん……」
沈黙……。
俺、なんか変な事言ったか?
って、今度は泣き出す!
シャルが見かねて、慰めに行った……。
サクヤも一緒に……。
えっ!?
何で俺、睨まれるの?
俺は、慌てて、首を横に振る。
「怒って無い!怒って無いから!!」
「えっぐ……。えっぐ。いえ、その……。嬉しくて……」
「うん!分かったから、泣き止んで!!」
「家、嫌なお客さんしか来なくって……」
ああ、あの三人ね……。
うん。分かったから、マジ泣き止んで!
「あの人達、お仕事してくれないし……」
本当、大変だったね。
だから、泣き止んで!
「冒険者の人達、みんな居なくなっちゃうし」
うん。辛かったね。
だから、泣き止んで!
俺は、キリカの泣き声に、引き攣った笑い顔で、たじろぐ。
マジ、本当……。
泣きたいのは、こっちの方だ~~~~。




