自分探しの旅で大迷走!
静寂の中、目を覚ます……。
辺り一面、むせかえる様な植物の香りに、鼻がむずき、くしゃみを一つ。
体を包み込むように、横たわる体に、蔦や草が纏わりつき、軽いデジャブを感じる。
前も何処かで、目覚めた様な気がする。
クッソ寒い……。
大地に地下で寝ていたせいか、腰のあたりが、妙に底冷えする。
それにしても、意識が朦朧として、周りが歪んで見える。
俺は、どの位寝ていたのか?
朦朧とした意識のせいで、太陽が、一つになったり二つになったりする。
兎に角起き上がろう……。
纏わりつく蔦を、力任せに払いのけ、ふらつく足取りで、その場に立ち上がる。
周りは鬱蒼とした木々に阻まれ、太陽の光があまり差し込まず、薄暗い。
ぼやけた意識を覚醒させようと、頭を二度三度、ぶっ叩く。
「痛い……強く叩きすぎたか……」
混濁しながら躊躇なく叩いた拳が思いのほか強く、痛む頭を摩り、辺りを見渡す。
「俺は……?」
両手を、握ったり広げたりして、感触を確かめる。
うん。体に異常はない。
しかし、若干、体が縮んだ様な気がするのは気のせいか?
そう言えば、辺りに自生する植物が、見慣れない物の様に思えるが……。
分かる草も、ちらほら有るが……。
あれなんて、スーパーマ〇オに出て来る、パッ〇ンフラワーみたいな?
何だ?この知識?
と言うか。俺って誰?
自分の事すら思い出せず、不安を覚え、意識を自分の内へと向け、自問自答する。
なんでこんな所で、眠っていたんだ?
やばい。俺って、迷子ってやつか?
しかも、人生の迷子……。
あれか、自分探しの旅とか言って、貴重な青春時代を、無駄にするタイプか……。
内心、パニックになりながらも、必死で自問自答する。
それでも、自分が誰だか解らず、困惑する。
「名前……。誰かからもらった、大切な名前」
誰に言う訳でも無く、必死に答えを探す。
やばい、やばい、やばい!
自分の名前すら、思い出せないって……。
そうだ!あれだ……。
自分の深層心理の世界に入って、なんか白い部屋みたいなところに入って、もう一人の自分と向き合う……。
もう、何でも良い。中二入った展開でも、俺は大いに渇望する。
不意に、記憶が、フラッシュバックする。
燃え盛る家々……。
覚束ない足取りで、過ぎ去る初老の男性。
来た、来た、来た!
米神に痛みが走り、その場にうずくまる。
「ジャ・ショ・ウ……」
言葉が、自然と零れ落ちる。
「俺の名前は、ジャショウ……」
霞がかった記憶が、少し晴れた様な気がした。
名前を思い出し、少し安堵する。
木々の間を、風が駆け抜ける。
空を見上げ、木々の合間に見え隠れする太陽を見つめ、深呼吸をする。
名前を思い出し、少し安堵して、余裕が生まれた。
うん。人生どんな時も、悠然と構えなくっちゃね。
周りの景色に、目を向ける余裕が出来た。
しかし、殆んどの植物が、見覚えの無いものだ。
OK、OK。きっと俺は、温室育ちだったんだ。
植物を知らないからと言って、慌てる事は無い。
きっとあれだ……。俺は、どっかの貴族様だったのだ。
……。
自分の、服装に目を向ける。
薄汚れた、ぼろきれの様な、服一枚……。
うん……。知ってた。
俺は、間違っても貴族なんてものじゃない。
これじゃあ、路地裏の、浮浪者と変わり映えしない……。
他の、持ち物は無しと……。
まあ、良い……。名前は、思い出したんだ。他の事も、すぐに思い出す。
その場で胡坐をかき、さっき見た記憶に出てきた、初老の男性に、意識を集中する事にした。
うろ覚えの、歌の歌詞を思いだそうとした時の、何とも言えないもどかしさが、頭を責め立てる。
喉元まで、出かかっているんだが……。
「……。駄目だ……。なんも、思い出せん」
結局、何も思い出せず、もどかしさを抱えたまま不貞腐れ、大の字になって仰向けに倒れこむ。
そもそも、ここには無い、植物の知識はある……。
と言う事は、少なからず、野山を駆け巡っていたと言う事だ。
服は粗末だが、生地はしっかりとしている。
貴族では無いが、浮浪者でもないはずだ。
さっき見た、記憶の断片に出てきた男の後姿を思い起こすと、胸が締め付けられる様に痛い。
他は……?
「彼を知らず、己を知らざれば、戦う毎に必ず殆うし……か」
何とも言えないイライラ感におそわれ、力任せに、拳を大地に叩き付ける。
ドゴッ!
叩き付けた拳は、大地にめり込み、クレーターが生まれる。周りにそびえ立つ木々は、クレーターに巻き込まれ、根本から、倒れこんでくる!
「うおっ!?」
慌て、大地を蹴って、倒壊する木々を避け、中腰で、今寝ていた場所を確認する。
そこには、10m四方のクレーターが出来ており、その上に倒れた木々が、根を見せ、無残に倒れていた。
「は?何だよこれ……」
テンパりながら、自分の拳に目をやる。
我ながら何かに当たるとは、ちょっと、大人げなかったと思うが、今はそれどころではない!
恐る恐る拳を握り、もう一度、大地を殴りつける。
ドゴッ!
拳は、大地にのめり込み、今度は、さっきより大きなクレーターを作り、体が大地に沈む。
倒れ込んできた木々を、今度は手刀で払いのけるが、木々はまるで、紙を切るかのように、真っ二つになって、その場に倒れこんだ。
「これが俺の力……?」
しばらくの間、両手を見詰め、思案する。
果たして、俺はこんな事が出来ただろうか……?
と言うか、こんな力で、頭を叩いたのか。
自分の頭が心配になる。
しかし、今はそんな事、些細な事だ。
思い出せない、過去を吟味するより、自分を知る努力をしなくては……。
うん。あれだ……。自分探しの旅、スタートだ。
改めて、正面に向き直る。
重心を屈め、一気に加速。
森の中を縫う様に、駆けあがる。
そのスピードは、風の如き速さで、気を抜くと、木に衝突しそうになる。
今度は、跳躍を試みる。走る足に力を籠め、眼前の木の枝に向けて、飛び上がる。
まるで、翼が生えたように体は軽く、宙を舞う。
狙った枝より高く飛び、一つ上の枝に着地。
そのまま猿の様に、枝から枝へと飛び移り、森の中を駆け抜ける。
一頻り走った後、大地へと着地する。
「はは……。何だよこれ?」
どうなってんだ?これ……。
うん。確か俺は、足は速かった。そんな気がする……。
けれど、これは異常だ……。
まあ、落ち着け俺……。
比較対象が無い。
もしかしたら、他の人間も、これぐらい出来るのでは……?
いや……。無いだろ普通……。
落ち着け俺……。現実逃避はやめろ。
先ずは、自分のスキルを見極めろ。
拳を握り、その場で演舞を繰り出す。
放たれる、拳や蹴りから、衝撃波が生まれ、木々をなぎ倒す。
まるで、体の奥底から、無尽蔵に力が湧くような感覚を覚え、恐怖すら覚える。
「何なんだよこれ?誰か教えてくれよ……」
困惑し、頭を抱える。
自分探しの旅は、大体迷走して、曖昧な結論な辿り着くもんだ。
そうだ!こんなもんさ。と思え。
……。
思えねえよ……。
てへ♪自分探しの旅に出たら、自分は、バケモノでした……。なんて。
木々が倒され、辺りが開けて、光が差し込む。
光は、頭を抱え、その場にうずくまる俺に、その誕生を祝福するかの様に、さんさんと降り注いだ。