旅立ち
「ジャショウさん。もう行かれるのですか?」
サシャが、寂しそうに笑う。
相変わらず、美人だ……。
こんな美人に、引き留められたら、男である以上、後ろ髪を引かれる様な思いに駆られる。
勿論、俺も正常な益荒男だ。
サシャの瞳に……。
唇に……。
艶やかな髪に、見とれてしまう。
「「ジャショウ!」」
シャルとサクヤが、俺の両耳で声を荒げる。
俺は、我に返り、両頬を叩く。
また二人の、ヤンデレモードは勘弁願いたい……。
二人はジト目で、俺を凝視している……。
こ、怖いって……。
「ま、まあ……。色々世話になったな、サシャ」
「はい……」
「お、俺は、ここを故郷の様に思ってる……」
「はい……」
「だから……。だから、何時か、また……」
「はい。待っています」
サシャが笑う。
俺もつられて笑い、拳を掲げ、誓いを立てる。
そう、また何時か、ここに帰ってくると。
「おうおう!糞ガキは来なくても良いが、獣人の童女よ。もう少しデカくなったら、戻って来るが良いぞ。それまで、矮小な男になどひっかるでないぞ?」
リョウカは、通常運転……。
てか……。サクヤを狙ってる!?
俺は警戒色を高め、リョウカを睨む。
こいつ、マジ、キモイ……。
当のサクヤとシャルは、小人魚達と別れを惜しんでいる様だ。
何時の間に出て来たんだ?小人魚……。
相変わらず、凄い人数だ……。
湖は広がったが、全員か顔を出しきれず、精霊化してる子もいる……。
不意に湖から、轟音が響く。
「お別れの、プレゼント~」
「お花は、あげれないけど~」
「物じゃ無いけど~」
「また、何時でも戻って来てね~」
口々に、別れを告げる小人魚。
湖の中央からは、水柱か立ち、鮮やかな虹がうかぶ。
精霊化した小人魚が、その虹の周りを飛ぶたびに、二重三重の小さな虹が、水面に照らし出される。
「シャル姉、サクヤ……。奇麗な土産を貰えたな……」
「うん♪アタイ、絶対忘れないんよ!」
「はい♪一生忘れません!」
俺は、シャルを肩に乗せ、サクヤの手を曳き、ゆっくりと歩きだす。
シャルもサクヤも、何時までも手を振っていた。
帰るべき場所……。
暖かな場所……。
帰りを待つ人……。
俺は、胸いっぱいに込み上げる思いに、心温まり、感謝しながら旅路についた。




