進化
あれから俺達は、銀狼……。いや、黒き聖獣の毛皮を剥いだ。
死体は火葬し、丁重に埋葬した……。
奴もまた、俺にとって、掛替えの無い友の様に思えたからだ。
「ジャショウ。これだけ大きいと、毛皮だけでも、随分な重さになりますね」
『凄いんよ♪』
「ああ。油脂は、なるべく取ったが、ここじゃあ、なめす事が出来ないけどな……」
「じゃあ、いよいよ!」
そう、いよいよ街に出発だ!
俺は意気揚々と、毛皮を背負う。
『ちょっと、待ってえな……』
出発しようとした時、サクヤが呼び止めた。
何事かと、振り向くと、サクヤの体が……。
「サ、サクヤちゃん!?」
サクヤの体が、発光しておる!?
俺は驚き、サクヤに駆け寄る。
「だ、大丈夫か!?」
急ぎ抱き上げ、容態を確認する。
温かい!
内側から、気が漏れ出しているのか!?
気が、流出する病気?
『ジャショウ。くすぐったいんよ……』
「どこか、おかしなところは!?」
『内側から、力がみなぎる様な、変な気持ちなんよ……』
「これって……」
シャルが、何かを言いかけて、口をつぐむ。
「シャル!何か分かるのか!?」
「っあ!いえ……。とにかく、湖に戻りましょう!街はその後です!」
俺は大きく頷き、サクヤを抱きかかえる。
ふざけるな!
サクヤに何かあったら……。
俺は、俺は……!
「シャル姉!俺の肩に!」
俺は、湖の方に向けて、錬気をぶっ放す!
道が開けた!
ここからは、全速力!
錬気を開放!
サクヤとシャルを乗せ、一直線に湖に向けて走り出した。
「それで、全速力で、帰って来たとな?」
今現在、湖の戻り、事の繊細をリョウカに話したところだ。
腐っても神獣……。
サクヤの姿を見て、何か思う処があったのか、何故か俺に背を向けさせ、会話をしている。
「なあ、リョウカ……」
「こっちを向く出ない!この助平!」
助平……。
何故、そうなる?
俺は不承不承、湖の方を向く。
サシャがニコニコと笑いながら、俺の目を覆う。
何故に?
「これは、進化じゃ……」
「進化?」
「そうじゃ。内なる力が高まれば、器もそれに応じて進化する。自然の摂理じゃ」
「やはり、そうでしたか……」
シャルも、何か思う処があったのか、納得した様に頷いている様だ。
『体が、熱いんよ……』
「サクヤ!大丈夫か!?」
「だから、こっちを向く出ない!」
進化って言ったって、サクヤは、ほんの三日前に、黒曜ザルに進化したばかりなのに……。
「黒曜ザルの身で有りながら、ゴブリン討伐、オーガ討伐、トロル討伐、その上、主が倒したとは言え、魔獣の討伐に参加して、ただではおるまい」
「なあ!サクヤは!サクヤは!!」
「あんずるな!進化じゃ!進化!悪いようにはならん!」
最早、気が気では無い。
何と言うか、初めての出産に立ち会う夫の気持ち……。
ああ!もどかしい!!
しかし、何故、振り向かせてもらえない?
その間も、サシャの手が、俺の目を覆い、前すら見えない……。
「ジャショウ。大丈夫ですから」
シャルが、優しく諭す。
~~~~~。
「チビよ。その身に任せて、己の気を開放してみい……」
リョウカの声に同調する様に、後ろから光が溢れ出す。
後ろを向いているのに、目を隠されているのに、眩しい……。
大丈夫?ねえ、大丈夫!?
「ふう、どうじゃ?」
「ア、アタイ……」
サクヤの声……。
あ、あれ?
念話じゃない……。
俺は、痺れを切らして、振り向こうとする。
「わ~~~~。ダメ~~~~~!!」
俺の顔面に、シャルが飛び込んでくる。
「!?」
「ジャショウは、後ろを向いていて下さい!」
「おお!これはまた、可愛い童女に……」
リョウカの、いやらしい声がする……。
童女?
どういう事だ?
俺は、気が気では無く、おろおろするばかりだ。
「サシャさん。お洋服とかありますか?」
シャルの声……。
服?どゆこと?
「ごめんなさいねえ。胸に巻く、さらししか持って無いの~」
「それじゃあ……。ジャショウ。上着を脱いで下さい」
え、え?
何で?これってどんなプレイ?
「そっち向いても……」
「駄目です!」
俺は、急ぎ服を脱ぐ。
最早、今の事態がさっぱり呑み込めないまま、話は進んでゆく。
上着を取られ、上半身真っ裸の状態……。
「うん♪丁度良いわね」
「尻尾が、邪魔じゃろう……」
「何か、ゴワゴワするんよ……」
「洋服に穴をあけましょう」
「うむ。そこから、尻尾を通すのじゃな」
「なあ……。もう良いか?」
「良いですよ♪」
俺は、急ぎ、後ろを向く。
そこには……。
「ジャショウ……」
照れ臭そうに笑う少女の姿が……。
腰まで伸びた、黒い長髪……。
シャルに似た、切れ長で、それでいて、優し気な瞳……。
歳は、六・七歳と言った処であろうか、そのあどけなさは、庇護欲を駆り立てる。
少女は俺の服を、ワンピースの様に着こなし、恥ずかしそうに立っていた。
「えっ!?」
「ジャショウ……」
「サ、サクヤ……なのか?」
「そうなんよ♪」
はにかんで笑いながら、後ろから尻尾をのぞかせる。
「し、進化って……」
「本来、何十年に数匹、起こる現象じゃ。後天性の獣人じゃな」
「獣人?」
「そうじゃ。もう少し、年が経っていたなら、我も、まぐわいたい処じゃ!」
こいつ、ブレね~~~。
何?コイツ……。
俺とサクヤの、感動的な対面を……。
「サクヤちゃん。可愛いですよ♪」
「ん♪嬉しいんよ、シャル姉」
「何か、ちょっと、シャル姉に似て来たな」
「それは、そうじゃじゃろう。生物が親に似て生まれるのは、保護欲を引き立てる為じゃ」
「遺伝子じゃ無いのか?」
「何じゃそれは?主の言う事は、よう解らんが、後天性の獣人進化は、身近な人間に影響を受けるのじゃ」
「はあ……」
「もっとも、黒曜ザルの頃からの面影も、しっかり残っておるがな」
うん。分かる!
はにかんだ顔とか、すげ~、サクヤ!
俺が、鼻に下を伸ばしていると、サクヤが、おぼつかない足取りで、駆け寄ってくる。
バッフ!
俺は、サクヤを受け止め、優しく撫でた。
「これでアタイも、シャル姉やジャショウと、兄妹に見えるん?」
俺の胸に顔を埋め、頬ずりしてくる。
く~~~~~。
何!?これ!
くっそ、可愛いんですけど!
前のサクヤも、すげえ可愛かったが、この子もまた……。
俺は、嬉しさのあまり、抱きしめ返す。
「サクヤちゃんは、ず~と、私の妹ですよ♪」
シャルが、加わる。
しばらくの間、三人で抱き合い、喜びあう。
「ジャショウ。アタイ、強くなったんよ♪内側から、力が沸き上がってくるんよ♪」
「ああ」
「アタイ、シャル姉達と一緒なんよ♪」
「ええ」
「これからも、ず~と一緒なんよ♪」
サクヤの笑顔が零れる。
暖かな、暖かな笑顔が零れ、また世界が広がった。




