勇者で無くとも……。
「はあ、はあ、はあ……」
『ジャショウ!』
「ジャショウ!」
俺は死力を振り絞り、戦い抜いた……。
全身は、銀狼の血を浴び、真っ赤に染め上がっている。
瘴気の巣……?
今は、何も考えらない……。
心配そうに、駆け寄るシャルとサクヤを横目に、ゆっくりと立ち上がろうとする。
足に力が入らない……。
全身が痛い……。
体中傷だらけだ……。
不安そうに、俺の体を触る二人。
俺は優しく撫で、深く息を吐く。
勝ったのか……?
未だ痙攣し、血を零す銀狼を前に、呆然とする。
『ジャショウ!立ち上がったらあかんよ!』
心配そうに俺の傷を、一個一個確認するサクヤ。
シャルは、慌て、呪文を唱える。
回復魔法か……?
俺の体が、黄金色の光に包まれる。
「どうして!?回復魔法が、うまく効かない」
今にも泣きだしそうなシャル。
俺は、そっと抱き寄せ、静かに笑う。
「俺、魔法効きづらい体質なんだ……」
「それじゃあ!」
「アタイも一緒に、かけるんよ!」
シャルにつられて、サクヤまで泣き顔に。
ああ、そんな顔が見たい訳では無い……。
勝ったんだ……。
俺は、首を横に振り、二人を撫でる。
「勝ったんだ……。笑顔で迎えてくれよ?」
二人は目を見開き、零れた涙を必死で拭う。
『ジャショウの、阿呆~~』
「こんなに傷ついて、何言ってるんですか!」
二人は、まるで駄々っ子の様に、俺の胸を叩く。
「傷なら、もう治るさ……」
二人を、あやす様に撫でながら、傷口を見せる。
ピロリ~ン
自然治癒LV6―8
至る所に負った傷は既に塞がり始め、跡すら見えなくなっている……。
二人はそれを凝視し、俺の肌を、優しく撫でる。
正直、くすぐったい。
しかし、何だ……。
くすぐったいが、心地よくも思える。
「帰ろうか……」
目を細め、空を見上げる。
夏の日差しが眩しい。
薄暗かったはずの森は、日差しが差し込み、眩しく思える。
俺と、銀狼が戦った所為か……。
辺りの木々はなぎ倒され、日差しを遮るものが無い。
『ジャショウは、無茶しちゃあかんよ!』
「引く事だって、立派な戦術です!」
ははは……。
あいつを見て、逃げるのか……。
俺には考えられなかった……。
美しき銀狼……。
孟き銀狼……。
俺は、あいつに魅入られ、魅入ってしまった……。
あの瞬間……。
あの刹那……。
俺は、生死の向こうを、見る事が出来た。
「勝つ算段は、有った……」
俺は項垂れ、呼吸を整える。
満身創痍……。
何を言っているんだって……?
けれど、あいつの先に、俺の限界は有った。
それでも、超える事の出来る壁……。
シャルとサクヤが居たおかげか……。
「二人のおかげで倒せた……よ」
『ジャショウ……』
「ジャショウ……」
「だから、帰ろう?」
二人は頷き、俺の手を取る。
ゆっくりと立ち上がり、銀狼を見る。
こいつは……。
白銀だったはずの毛並みは、何時しか、闇夜と見まごう漆黒へと変り果てていた。
『アタイと、一緒なんよ……』
サクヤがぽつりと呟く。
「この世界では、霊力の高い者は、漆黒に染まるんです……」
「漆黒に……?」
「ええ。霊力とは魂の力。だから、黒は、神聖な色。この子も元は、聖獣だったんでしょう……」
「ははは……。そんな奴倒して、お咎めがあったりしてな」
「大丈夫です……。禁忌では有りませんから。むしろ、強者を倒した証になります」
「ああ……。こいつは強者だ……」
「ジャショウは……。ジャショウは、本当に、勇者になるつもりは無いのですか?」
真剣な眼差しで、シャルが詰め寄る。
勇者……か。
面倒くさい……。
俺は、鼻で笑い、シャルの頭を撫でまわす。
「面倒くさい!冒険者やって、色んな所行って、美味い物食って、強い奴と戦う!シャル姉やサクヤと笑って、喜んで、そんで、何時か、ナビ子の所に一緒に行くんだ!」
ガキ臭い……。
つまんねえ、エゴ……。
そんでも、それが俺の願い。
シャルとサクヤとナビ子と……。
笑って、怒って、悲しんで、そんで喜んで……。
良いじゃん、それで。
「私も……。私もそうありたい……。けど、少し……。少しだけ、ジャショウに、勇者であってもらいたい気がします……」
『ジャショウは、アタイらの勇者なんよ♪』
「そりゃまた、面倒くさそうだ」
『真面目なんよ!ジャショウは、アタイを助けてくれた!』
「ええ。私の事も……。何の見返りも無いのに、助けてくれました!」
見返りか……。
「あったさ……。シャルもサクヤも、俺の家族になってくれた……。それだけで十分だ」
十分すぎるほど、見返りは貰った。
ナビ子と二人、この森を彷徨い、それでも十分幸せだったが、まだ足りないと、この子達は、俺に、幸福を与えてくれた。
俺は、二人を抱きしめ、幸福を感じる。
まだ、足りないと言うのか?
笑みが零れる……。
俺の腕の中、二人が精一杯、抱き返してくる。
良いじゃないか……。
だったら俺は、もっともっと、この子達に、幸福を返そう……。
ナビ子も入れて、四人で、何処までも、何処までも……。




