狂気の中で……!
戦いの始まりは一瞬……。
俺と奴の目が交差した時!
奴の体は、宙に舞っていた。
直進……。
立ち並ぶ木々は、まるでその意味をなさず、なぎ倒されて逝く。
刹那……。
奴の右手が、俺を薙ぎ払おうとする!
俺は瞬時に、シャルとサクヤを後ろに退かせ、その一撃を受け止める。
ミシッと、体が軋む音が聞こえる。
重い!
錬気で、瞬時に肉体強化を施す。
吹っ飛びかける……。
目と目が合う……。
次の瞬間、俺の右手が、相手を薙ぎ払う。
銀狼の首が揺れるが、その場から動かない。
面白い……!
どこまで、楽しませてくれる!?
銀狼の息遣いが聞こえる。
俺の右手が……。
奴の右手が離れる……!
一瞬の内に間合いを取る。
躍動する鼓動……。
「シャル!サクヤ!こいつは俺が殺る!」
叫び声と同時に、躍進する。
銀狼は、左右にフェイントを入れつつ、近づいて来る。
惑わされるな。奴は、その体躯で、俺に圧し掛かるつもりだ!
その牙をむき出しにし、その爪を研ぎ澄まし、俺を切り裂くつもりだ。
惑わされるな!
俺は、ただ、前に突き進めば良い。
奴の喉元に!
奴の脳天に!
その拳を叩きこめ!
俺の拳が効かない?
笑わせるな!
奴の牙が俺に届かない?
慢心するな!
命を燃やせ……。
魂をぶつけろ!
右か?左か?
迷うな!突き進め!
間合いが縮まる。
奴は、右でも左でも無い……。
渾身の一撃を、その牙に乗せて、覆いかぶさる。
ならば、こちらも、渾身の一撃を決めるまで!
拳に、錬気を這わせる。
青白い炎が、拳を覆う。
銀狼の牙が、俺の顔をかすめ、俺の拳が、奴の牙を捉える。
燃える。燃える!燃える!!
痛みに歪む、奴の顔!
それでも止まる事は無く、俺を喰らい尽くそうとする。
俺は両手で、その口を抑え込む。
ピロリ~ン!
筋力4300
反応4600
頑強4420
格闘LV10―11
剛気LV3―4
アドレナリンが分泌される。
全身が熱い!
汗が、全身から吹き出し、力が無尽蔵に湧いてくる。
熱い。熱い!熱い!!
猛狂う銀狼……。
銀狼の、右足が……。左足が、襲い掛かってくる。
痛い!苦しい!たまらない!
俺は、錬気を高め、銀狼の牙を掴んだ腕の力を、強く、強く!押し上げていく。
まだだ!もっと……。もっと強く!
錬気が有頂天に達する。
〈スキル鬼神発動〉
脳内にアナウンスが、鳴り響く。
次の瞬間、全身の力が一気に爆発し、赤黒い闘気が立ち昇る。
ブチッ……ブチブチ!
手だけじゃ足りない……。
全身を、銀狼の口の中に押し込み、スクワットをする要領で、押し上げていく。
ブチッ……ブチブチ!!
銀狼の、口が引き裂かれて逝く……。
「GAAAAA!!!」
最後の咆哮……。
どす黒い鮮血……。
血は噴水なり、辺りを染め上げる。
「はあ、はあ……」
動か無くなった骸を前に俺は、何も考えられなくなり、その場で仰向けになって天を仰ぎ見た……。
全身に負った傷は、闘いの狂気を物語り、未だ噴きあがる銀狼の鮮血は、俺の勝利を指示していた……。




