さあ、冒険者をしようか……。
戦場の心得。
多くの兵法書にて、それは語られている。
かの、孫子の兵法でも、度々語られ、論議されている。
国の情勢。兵の質。将に求められる気質。
語りだしたら切が無い……。
その中でも、武田信玄が掲げた、風林火山と言うモノがある。
これは本来、風林火山陰雷と続き、状況に応じて、その質を変える事を現している。
身を潜め、苛烈に戦い、情報を牛耳する。
戦場とは、生き物だ。
刻一刻と、その姿を変える。
兵は、冷静であれ!
兵は、勇猛であれ!
責める時は攻め、引く時は引く。
戦場を掌握せよ。
「本当に、森の奥に行くのですか?」
俺の肩で、不安そうに囁くシャル。
あの後、俺達は、より強者を求め、森の奥へと足を運ぶことにした。
まあ、目的はそれだけでは無いのだが……。
瘴気の巣の浄化……。
俺は、自分の可能性を広げたいと思っている。
ただ、その為だけに、シャルとサクヤを危険な目に合わせようなどとは思っていない。
二人の能力を考えても、ここでゴブリンを狩るより、よっぽど有意義だと思ったからだ。
問題は無い……。
シャルとサクヤの気配察知は、LV4に達しており、伸びしろも十分。
中堅冒険者の試練である集落殲滅も、完遂している。
まあ、ギルドに報告していないが……。
俺達は、冒険者であって、冒険者では無い。
融通は利かせられる。
目的は、名声では無く、修練だ。
より高みを目指し、その為には、強者が必要だ。勝てば官軍。どうとでもなる。
俺は、必要に気配を殺し、森の中を進軍する。肩には、二人を乗せて……。
気配を殺しているが、結局の処、立ち上る錬気は、相変わらず、消しきる事が出来ない。これは、俺にとっての課題の一つだ。色々試しているが、何とも上手い様にいかない……。
しかし、獣に察知されるこの気も、妖魔相手だと、察知されづらい様だ。
妖魔とは、鈍感なのだろうか……?
実の処を言うと、俺の気配察知には、何度となく妖魔の気配を察知している。しかし、今は、シャルとサクヤの修練を重点にしたいと思う。
二人が、察知した妖魔を叩く……。
なんとも、もどかしい……。
が、二人の成長を思えば、苦にならないものだ。
『ジャショウ!』
不意に、サクヤが念話で囁く。
左斜め前方。二体の気配……。
シャルも気付いたのか、体を強張らせる。
俺は、歩む速度を緩め、二人に合図をする。
『一体は、俺が殺る……』
『サクヤちゃん。バインドで、動きを封じます……』
『アタイが、仕留めるんよ』
作戦会議とも呼べないが、方針は決まった。後は、実行するまで……。
距離を詰める。
赤黒い肌……。
強靭な体躯……。
頭には、一本の角。
あれが、噂のオーガ……。
息を殺す。
三人の目を交差させ、合図する。
俺は、素早く走り出し、一体のオーガに向けて、掌底を放つ。
それと同時に、植物の蔦が、もう一方のオーガに絡みつく。次の瞬間、風の刃がその首を切り落とした。
あっけない幕引き……。
強靭なその体は、音も無く崩れ落ちた。
「これは確かに、集落を落とすより楽だな」
俺は、周りを警戒し、死体に近づく。
シャルとサクヤも、安堵しながらも、しっかりと警戒を解かず、死体に近づく。
俺の掌底は、オーガの心の臓を捉え、内側から破壊している。その証拠に、口からは、どす黒い血を噴き出していた。
二人の方は……。
首が両断され、言わずもがな。
俺達は、手際よくその角を取り、その場を後にする。
気分は高揚し、足取りも軽い。
二人の索敵が広がった……。
LVが上がった様だ。
蟻一匹見逃さないと言う様に、目を爛爛と光らせている。
日はまだ高い。
今日は、虐殺日和の様だ……。
さあ、冒険者をしようか……。




