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天翔雲流  作者: NOISE
プロローグ
6/1763

転生

 なんか俺、泣いてばかりだな……。

 一頻り泣き、思いのたけを吐き捨てると、エステカは、俺の頭をそっと撫で、優しく微笑んだ。

「うん。私達の世界は、ジャショウちゃんを受け入れるよ」

 そう言うと、エステカは俺の額に、額を当てる。

 暖かな、光が灯る。血が逆流して行くような感じがする。

「な、何を」

 慌てて、エステカの手を払い、後ろへ飛び退く。

「大丈夫よ。そこの鏡で、自分の姿を見てきて御覧なさい」

 エステカはそう言い、パチンと指を鳴らす。

 すると、部屋の中央に鏡が現れた。

 言われるまま、鏡に向かい、そして、鏡を見たとき、愕然とする。

「なっ!?」

 そこには、三十を、目前とした、俺の姿はなく、十代前半の若かりし姿が、映っていた。

 どういう事だ!?

 俺、泣きすぎて、ガキに成っちまったのか?

「今のあなたは、十二歳の時の、肉体よ。仕方が無かったの。あなたの肉体と精神は、成熟している。このままじゃ、私の世界には馴染めなかったの」

 俺は、自分の姿を変えられた事に、驚いたというより、この自称神様が、本当の神様であるのではと、驚いていた。

 今更かもしれんがな。

 だって、神様っぽく無いんだもん。

「エステカお前、本当に神様……?」

 俺の驚きに、エステカはジト目で返す。

「え、まだ、そこなの?私の事、まだ神様だって信じて無かったんだ!信じられない!こんな、超絶美少女が、神様じゃない訳が無いじゃない」

 エステカは、踏ん反り返りながら、そう言う。

 俺は、目を見開き、エステカに歩み寄る。

 もしかしたら……!

「か、神様なら、今みたいに、お館様達を生き返らせてくれよ!たのむ!!」

 必死に頭を下げる、そんな俺の姿を見て、エステカは、深いため息をつく。

「はぁ。あなたのお父様達は、向こうで、輪廻転生の準備に入っているわ。運命は、変えることができないの」

 俺は、肩を落とす。

 儚い、希望であった……。

 落胆する姿を見て、気の毒に思ったのか、エステカは口を開く。

「ほら、でも。慰めになるか解らないけど、あなたのお父様達は、その徳によって、あっちの天界でも優遇されているはずよ」

 エステカの手が、項垂れる俺の肩に乗る。

 そんなエステカの手を、力無く握り返し、俺は、乾いた笑いを上げる。

「そっか……。運命とは、ままならないものだな……」

「あなたは生きているから、こっちの世界で、転生するだけだけど、精一杯生きて。それがあなたの、お父様達の願いのはずよ」

 エステカは、その小さな手で、俺の頭を撫でる。神とはいえ、少女に諭され、複雑な思いがした。

「世界に馴染めないとは?歳を下げることに、どんな意味がある?」

 俺は、力ない声で聴く。

「こっちの世界は、まだ若くって、精神的に不安定なの。その為に、魔法とか精霊の力が、大きな現象として現れるの。世界の構造自体が未成熟なのよ」

 それにどんな意味がある。どんな世界であろうと、人間は人間じゃないのか?

 いや、俺は、人間じゃ無いのか……。

 ああ、訳が分らん!

 いぶかし気にしている俺を見透かしたように、エステカは、話を続ける。

「未成熟だから互いに補い、成長するの。だから、こちらの世界の生命は、マナと言われる自然エネルギーを多く取り込んで、成長するものなの。けれど、ジャショウちゃんは違う。あちらの世界で育ったから、人の個体エネルギーだけで成長してきてしまったの。物質的には一緒でも、生命エネルギーの有り方が違うのよ」

 何とも、要領の得ない回答だ。そもそも、エネルギーとは何だ。話について行けず困惑する。

「だから、こちらで生きるには、エネルギーの摂取が、上手く行かない可能性が……」

「ちょっとまて、“えねるぎぃ”とは、何の事だ?」

 所々、聞き慣れない言葉が有り、質問する。

 エステカは、少し困惑した顔をして、考え込む。

「エネルギーと言うのは、生きるための力の源の事。要するに、こちらの食べ物を食べても、生命の循環がうまく作用しないってことよ」

 なるほど、少しずつだが、話が見えてきて、頷いて見せる。

 要は、食っても、腹が満たされないって事か?

 まあ、ちょっと違うかもしれないが……。

 俺が、話を理解したことに気付き、エステカは、胸をなでおろす。

「そう、だから、こちらのマナが馴染むために、成熟していない状態に戻したってわけ」

 エステカは、その場でクルクルと回りながら、話を続ける。

「本当は、生まれ変わらすのが、手っ取り早いんだけどね。それが、本当の転生。でも、ジャショウちゃん体が有るから……。疑似転生と言う所ね♪」

 エステカは、肩をすくませて、おどけて見せ、優しく笑う。

「けど、ジャショウちゃん、若くしたって言うのに、本当に強いのね。個体エネルギーも大きいし、流し込んだマナが、圧倒されちゃってるの」

 エステカは、片手を頬に当て、少し困ったような顔をする。

「今のままじゃ、ジャショウちゃん魔法が効き辛い体質になっちゃう」

 エステカは、こちらに目を向け、思案する。

「状態異常や、攻撃魔法も、受けづらい代わりに、回復魔法が、効きづらいのは、少し問題ね」

「まあ、魔法なんてもの、今まで聞いたことなかったし、影響が薄いからって、問題無いんじゃないか?」

 俺は、興味無さそうに答える。

 何だよ?魔法って……。

「ん~。でも回復出来ないの、キツイよ?怪我したら、自然治癒に頼るしかないし」

「怪我したら、小便でも、ぶっかけとくさ」

 俺は、笑いながらエステカの頭を撫で、そう答える。

 民間療法その一!

 矢傷を負った際、傷むようなら、自らの小便を温め、傷口を洗う!

「駄目よ!そんな民間療法。傷口が化膿するわ!」

 俺の冗談を真に受けるエステカを見て、大声で笑う。

「何とかなるさ!」

「む~。そこまで言うんなら……」

 俺に撫でまわされ、くしゃくしゃになった前髪を整えながら、エステカは、納得する。

「あと一つ。これは良い事なのかな?ジャショウちゃんの、個体エネルギー強すぎて、身体能力がこっちに来ると、さらに高くなる可能性があるわ」

 元より、五歳の時に力を恐れた親に捨てられ、それから師匠のもとで、血の滲むような修行をして来たんだ。今更、強くなろうと、何と言うことも無い。

 それで、周りに恐れられた処で、何時もの事だ。何の問題も無い。

「構わないよ。元より鬼子と呼ばれ、恐れられていたからな」

 ため息交じりに、そう答える。

 最早、俺を理解してくれる者は、誰一人としていない……。

 お館様達の居ない今、俺は、ただ一人……。

「ふ~~ん。でも、あまりネガティブに考えないでよね。こっちの世界にだって、強い人達、沢山居るんだから♪」

 エステカは、得意そうに言う。

「大丈夫、ジャショウちゃんのこと、怖がったりしないと思うよ」

 エステカは、ウインクをして見せ、俺に駆け寄る。

「そう言えば、ジャショウちゃんって、半神半人だったんだよね?」

 そう言えば、南斗の爺さんが、そんな事を言っていたな。

 言われて、思い出す。

「まあ、俺は、人間であるつもりだがな」

 頬を掻き、明後日の方向を見る。

 神様なんて言われても、実感わかねえし。

「ん~ん。半分は、私と一緒!お揃いだね」

 エステカは、嬉しそうにそう言うと、俺に飛びつく。

「人として生きるのは、ジャショウちゃん難しいと思うけど、一緒にいっぱい冒険しようね!」

「一緒に……?」

 エステカの言葉を聞き返す。

「ん~。今は内緒!」

 エステカの満面の笑みにつられ、笑い返す。

 何か、良からぬ事を、企んでいるようにも思えるが……。

 神様の酔狂に付き合うも、一興か……。

「さて、最後の準備をしようか?」

 そう言うと、俺の側に近づき、額に唇を当てる。

「さあ、最後の仕上げね。肉体のあるまま魂の洗浄をするのは、あまりしたことが無いから、得意じゃないけど、大丈夫。苦しいことも、辛いことも、今一度、魂の引き出しに終っちゃおう♪」

 急に聞き捨てならないことを言うエステカの言葉に、絶句する。

記憶を終う?俺の、記憶を奪うのか?冗談じゃ無いぞ!

 俺は驚き、慌てて拒絶する。

「なっ!?やめてくれ!俺の、想いを無くさないでくれ!!」

 俺は、必死にエステカを振り払おうとする。

 しかし、思うように、体に力が入らない。

 くそ!?

 体の力が、抜けてゆく!?

「大丈夫。無くすんじゃなくて、終うんだよ。魂の奥底に。消えないよ、大切な思い、決して無くしたりなんかしない。それと、今のままじゃ、ちょっと不安だから、言語能力と、この世界の一般常識は、植えつけておいて上げる」

 温かな光に包まれ、だんだんと、全身の力が抜けていく。

「おやすみ、ジャショウ。あなたの行く先に、光が満ち溢れていますように……」

 薄れゆく、意識の中、彼女の祝福の声が聞こえた……。


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