表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天翔雲流  作者: NOISE
森に潜むおかしな面々
59/1794

精一杯の告白

 伝えたい、思い……。

 伝わらない、言葉……。

 人は、言葉をもって思いを伝える。

 けれど、言葉で伝わるモノは、全体の7%ほどだと言う……。

 思いの重さは……。

 本当に、伝えたい思いとは……。

 心を通わすには、何が必要なのだろうか。



「さて、シャル……。君を助けるには、テイムしなくてはならないらしい……」

「テイム……」

 いきなり、テイムなどと言われて、納得するはずが無い。

 シャルも例にもれず、訝しげな顔をしている。

 まあ、当たり前だよな……。

 俺だって、自らを縛る契約など、死んでもごめんだ……。

 思案に暮れるシャル。

 それを、じっと見守る事しか出来ない俺。

 もどかしい……。

 助ける手立ては、腕の中にある。

 けれど……。

「わ、私……。スターリーの街で、冒険者に為ろうとしたんです……」

 うつむき、それでも声を振り絞って話し始めたシャルを、じっと見守る。

「スターリーには、三つのギルドがあります。一つは、傭兵を主としたギルド。二つ目は、冒険稼業……。言うなれば護衛、モンスター討伐を主とした王道な処です。けど、その二つは、魔法の使えない妖精なんて相手にされませんでした……」

 震える声……。

 小刻みに震える肩は、相手にされなかった憤りから来るものなのか、それとも……。

「悔しかったんです。相手にもされない事が。魔法が使えない自分の無力さが……」

「自分の、無力さが……か」

 俺は、シャルを撫で、サクヤは強く抱きしめた……。

 シャルの、心を満たしたやるために……。

 何もしてやれない……。

 今の自分達も、無力で、ただただ悔しく思える。

 どれだけ強くても、好いた者の笑顔すら、与えてやる事が出来ない。

 そんな俺達を見て、シャルは力無く笑う。

「大丈夫です……。サクヤちゃん達の優しさ、しっかりと感じる事、出来ていますから……」

「……。俺達が、慰めてもらってちゃ、世話無いな……」

 俺は苦笑し、空を見上げる。

 こんな良い子……。悲しませんなよ。神様よぅ……。

 言いようのない怒りが、込み上げる。

 拳を握り、唇を噛みしめる。

 助ける手立てがある……。

 けど……。

 この子の心に、届くのだろうか?

 再び、視線をシャルの方へと向け、彼女の言葉に耳を傾ける。

 シャルは、震えた声で、弱弱しく言葉を紡ぐ。

「三つ目の冒険者に行きました……。そこはその……」

「うん……。ゆっくりで良いから……」

「はい……。そこは、前のギルマスが逝去されて、多くの冒険者たちが、先ほどのギルドに移ってしまったんです。冒険者は、たった三人……。私でも、入れると思ったんですが……」

「断られた……?」

 彼女の身の上を、自分の事の様に思い、胸が締め付けられる……。

 けれど、俺は、関わる事を選んだんだ……。

 最後まで、聞く義務がある。

 俺は、腕組みをし、一つため息をつく。

 しかし、そんな俺を見て、シャルは首を横に振った。

「いえ……。そこのギルマスは、私なんかを、快く、迎え入れてくれました……」

「じゃあ、何故?」

「三人の冒険者が……」

「異を唱えたと……」

 シャルは頷き、俺の怒りは、頂点に達した。

「俺が、その冒険者をぶっ飛ばしてやる!」

「待って下さい!その、まだ続きが……」

 シャルは、慌てて俺を制止し、話を続けようとする。

 まだ続きがあるのか……。

 それだけでも、胸糞が悪い。

 シャルみたいな良い子を、無下にしやがって……。

 しかし、冷静になれ……。

 魔法の使えないシャルを心配して、止めたのかもしれない……。

 そうか……。

 そうかもしれない!

 俺は、冷静さを取り戻し、シャルを見る。

 シャルの装備は、待ち針の様な剣のみ。

 どう考えても、冒険稼業には向いていない。

 何だ……。良い冒険者じゃないか。

 けれど、話を聞いて、再び怒りは頂点に達した。

 話の内容は、こうだ……。

 三つ目のギルドは、その規模に合い、雑用仕事が多かった。

 シャルとしても、モンスターを相手にするより、大変だけど、こなしていけると確信していたようだ。

 けれど、先ほどの冒険者……。

 俺に言わせれば、馬鹿三人が、茶々を入れて来た。

 ゴブリン一匹倒せないような奴が、同じ冒険者を名乗るのは、我慢ならないと。

 聞いてて、胸糞悪い……。

 一瞬でも、良い奴かもと思ったことが、ただただ、恥ずかしい……。

 しかも、そこで話は終わらない。ふざけた事に、その中の一人が、何を思ったか、自分の従魔になれと言って来たそうだ。

 それで、俺達の事も、多少なりとも、警戒したと言う事だ……。

「私は、無力なんかじゃないわ……。だから、だから私……」

「モンスターを狩ろうと、森の中を一人でいたと……」

 力無く頷くシャル……。

 どいつもこいつも、ふざけやがって……。

 しかし、困った……。

 形だけども、契約を結ばないと、対処のしようが無い……。

 俺は目を瞑り、思案に暮れる。

「あなたは……。ジャショウさんは、勇者の肩書が欲しくて、私をテイムしようとしているんですか?」

 シャルの言葉に、首を傾げる。

 急に、異な事を言う。

 シャルをテイムする事に、どんな意味があると言うんだ?

 俺が、訝し気な顔をしている事に、シャルは驚き、目を丸くする。

「あの……。もしかして、妖精と勇者の話を知らないのですか?」

「すまんが、この世界に来たのはつい最近だ。この世界の伝説はおろか、常識も乏しい」

 俺は、胸を張って言う。

 まあ、胸を張って言う様な事じゃ無いのだが……。

「転生者……」

 シャルは、口に手を当て、驚きを隠さない。

 まあ、転生者など、理解……。

 ん?

 この子、転生者を知っている?

「シャルは、転生者を知っているの?」

「え?は、はい……」

「まあ、眉唾物の様に聞こえるが、実は俺、その転生者らしい……」

「らしい……。ですか?」

「ああ。記憶が無いんだ……。気づいたら、この森に居たんだ」

 俺は、一人だった……。

 誰もいない森の中……。

 けれど……。

『ジャショウは、一人なんかじゃ無いんよ』

『そうよ!私の事を忘れて貰っちゃ困るわ!』

 そう、ナビ子とサクヤ……。

 二人がいる。

「サ、サクヤちゃん!?」

 急に、サクヤが声を上げた事に驚いたのであろう、いや。それ以上に、急に念話を使って話したから、驚いたのだろうか?

「ん?ああ。サクヤも念話が使えるんだ……」

『忘れてたんよ……』

 サクヤは照れ臭そうに笑い、シャルを抱きしめる。

『従魔なんかじゃ無いんよ。テイムは、家族の印。怖がらなくって良いんよ?』

 サクヤの言葉に、シャルは目を細め、サクヤを見詰める。

 そうだよな……。

 俺には、ナビ子が居て、サクヤが居るんだ。一人じゃない……。

「あのな……。俺は、テイムって言うのが嫌いだ。サクヤの事も、従魔なんて思ったことが無い……。サクヤは家族だ。サクヤの言った通り、テイムはそのための儀式だと思う事にしているんだ……」

 精一杯の、告白……。

 シャルに言っている……。いや、自分に言っているのかもしれない……。

 そんな俺の言葉に、シャルは再び見開き、食い入るように俺を見詰める。

 俺は、それに応える様に、優しく見詰めた。

「私も、サクヤちゃんや、あなたと家族になりたい……」

 彼女の、精一杯の告白……。

 俺は、優しく笑い。サクヤは、シャルを抱きしめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ