白と黒
迫害される者の、苦しみ……。
奪われる者の、苦痛……。
勝者の陰には、敗者が存在する。
時に、理不尽な暴に、人はさらされ、倒れ、力尽きる者も現れる。
さりとて、それは、弱者のみが受ける苦痛ではない。
強者故に、恐れられ、疎まれ、迫害される。
時に弱者は、衆となり、強者に牙をむく。
組織と言う集団の中で起こりうる、最悪の一つであろう……。
「私、生まれた時から、高い魔力を持っていたんです。けど……」
「けど?」
俺は、中腰になって、シャルの視線に合わせる。
ゆっくりと頭を撫で、次の言葉を待つ。
サクヤも、不安を拭う様に、シャルの手を握り返している。
「魔力は有るんですが、魔法が使えないんです……」
「どうして?」
「……。それは……」
再び、俯き、黙り込む。
なかなか、要領が得ない。
それでも、今は待つ時だ。
普段、余計な事を言うリョウカも、黙って見守っている。
ナビ子も、未だ、言葉を発していない。
俺は今、この子に何をしてやれる?
答えは、待つ。
シンプルだが、大切な事だ。
今は、言及するのでも、慰めるのでも無い。
ただ、優しく見守ってやる事が重要なんだ。
静かに待つ。長い様で短い時間……。
「私の加護……。白の女神・シェスカ様と、黒の女神・アルシャ様。二柱なんです……」
彼女の、覚悟……。
しかし、俺には理解できない……。
何故、二柱の加護が、魔法を使えない原因なんだ?
俺は、困惑し、頭を捻る。
しかし、そんな俺の想いを知ってか知らずか、リョウカが、重い口を開く。
「なるほどのう……。光と闇。二柱が、同時に加護を与えたか……。異例中の異例の話じゃな」
リョウカが、まじめに話してる……。
いや。今は、良い……。
そんな事より、それがなんだと言うんだ?
俺の困惑は深まり、話についていけない。
『あ、あの二人~~~~~!』
急に、ナビ子が叫びだす。
急の事に、俺は驚き、空を見上げる。
『何だよ、急に……』
『どうしたも、こうしたも無いわよ!あの二人、禁忌を犯したのよ!』
『あの二人?』
『シェスカとアルシャ!本来、加護って言うのは、天使候補の印の様なものなの。見染められた者が、その加護の下、現世で修練を積むための物なの』
お、おう。
久しぶりに、ナビ子の激おこモードが出たよ……。
意味は、分からないが、なんか怖い……。
『加護は本来、一人に一つ!神は、互いの領域を犯さない。それが絶対のルール!その禁を犯せば、互いの加護が、相殺しあって、今回の様なケースが起こるの!』
『お、おう……。けど、俺も、加護を二つ持ってるぞ?』
『ジャショウちゃんは、私の加護持ちだからよ。私の加護は、絶対の加護。例え、他の加護が有ろうとも、ゆくゆくは、私の天使になると決まっているから、問題無いのよ』
『なんだよ……。神様同士、足引っ張りあうんじゃなくて、競えよ!普通……』
俺は呆れ、天を仰ぐ。
『今回は、異例中の異例!白の女神と、黒の女神……。その名の通り、相反する二人だから、強く影響が出てしまったのよ』
『白と黒?』
『そう、魔法の元素は4つ。白に属する水と風。黒に属する炎と土……。どちらか一つを行使しようとすると、相反する属性が、干渉してしまうのよ……』
『で、魔法が使えないと……』
『うん……。だから、本来在ってはいけない事なのよ。よっぽど思い入れが強かったのね……』
正直、腹立たしい……。
今の感情を表すと、激おこぷんぷん丸と言った処か……。
子供の、玩具の取り合いじゃ無いんだ。
好いている者ならば、引く事も知ってもらいたい。
やっぱ、この世界の神様、ろくでもねえ。
俺は両手を組み、嘆息と共に天を睨みながら、錬気を立ち上らせた。




