可愛い×可愛いは、ジャスティス!
傷つき、それでも前を行く者の強さ……。
それを黙って見守る者もまた、強き者なのかも知れない……。
愛する者が傷つけば、手を差し伸べたくなる。しかし、愛する者の成長を望むのであれば、その手を胸にしまい、目をそらさずに優しく見守ることが重要である。
何時か、その人が立ち止まり、心癒さんとする時に、優しく包み込んでやれば良いのだ。
湖の戻る頃には、夕刻に差し迫っていた。
サクヤは心配そうに顔を覗かせ、湖の周りを、行ったり来たりしていた。
『ジャショウ!』
俺に気付き、一心に駆け寄ってくる。
「ただいま」
俺は、片手を伸ばし、駆け寄るサクヤを、優しく抱きかかえた。
サクヤは、愛おしそうに抱擁してくれる。
壁も無い、屋根も無い、家と呼べるものは何も無いこの場所であるが、何だか帰って来たんだなと思えるこの場所が、愛おしく思える。
サクヤやサシャ、小人魚達の居るこの場所。今の俺にとって、故郷の様なものなのであろうか……。
自然と笑みが零れる。
「サクヤ。お土産」
俺はそう言うと、担いでいたビックボアを、地面へと下ろし、気伸びをした。
『ビックボアなんよ』
目を丸くし、恐る恐るビックボアを触るサクヤ。
うん。やっぱり、可愛い。
『ジャショウが倒したん?』
こちらを見上げるサクヤを、そっと撫で、肩に乗せる。
「こんにちは♪」
そう言えば、もう片方の肩にシャルが居たんだっけ。
サクヤもシャルの存在に気付き、俺の首に両手を回す。
『誰なん?』
「ああ、麗しの姫君こと、シャル。妖精らしいよ」
「こんにちは、サクヤちゃん♪私はシャルロット・シルフィール。シャルと呼んでくださいね」
満面の笑みを湛え、シャルは、右手を差し伸べる。
サクヤは、若干戸惑いながらも、その手を握り、笑みをつくる。
可愛い×可愛いは、ジャスティス!
やばい……。
鼻の奥に、つうっと来るものが……。
「ジャショウさんは、サクヤちゃんの言葉解るんですか?」
おっと……。いかん、いかん。
何だって?
ああ、そう言えば、サクヤの言葉……。
俺と、俺と……。
認めたくは無いが、リョウカしか解らんのだった……。
ホント……。認めたく無いんだがな。
ん……。
いや……。サクヤも、念話を持っているじゃないか?
「ジャショウさん?」
「ん?ああ。俺、念話持ってるし、テイマーだし、同じ加護持ちだしな」
「そうなんですか。サクヤちゃんて、ジャショウさんの従魔なんですか……」
「違うぞ?」
「え?」
「従魔じゃ無い。家族だ!」
「!」
シャルが、何か驚いている。
俺、なんか変な事言ったか?
「家族ですか……」
「なんだ?変か?」
俺は、少しムッとして、聞き返す。
いくら美人だからと言って、事によっては訴訟も辞さない!
サクヤと俺の絆は、誰にも否定させない。
「いえ……。可笑しくなんてありません。私はただ……」
「?」
うつむく、シャル……。
少し、ドスを効かせ過ぎたか……?
しかし、俺はリョウカの様な、女たらしでは無い。
男女平等!
美醜平等!
あかんものは、あかんと言える男だ!
でも、まあ。弁明の余地は与える。
シャルは、良い子だ!
合って間もないが、俺には分かる!
別に、美人だからじゃ無いぞ!
本当だ!
うつむくシャルを、優しく撫でてやる。
「別に、怒ってないよ……」
「はい……。ただ、そんな関係が、少し、羨ましく思いまして……」
しまった……。
何か、微妙な空気が……。
これでは、俺が、いじめている様に見えるじゃないか……。
俺は、少し気まずく思い、目を泳がせる。
いかん。いかんぞ!
「え、えっと……。家族が羨ましいの?」
シャルの表情が、陰っていく一方だ。
そんな俺に見かねてか、サクヤがシャルを抱きしめる。
驚いたシャルは、見開いた目で、サクヤを見詰め、目頭に涙を溜めた。
『ええんよ。苦しい時は泣いて……。シャルは、もう友達なんよ。アタイが、守ってあげるんよ♪』
おっふ……。
サクヤさん、男前……。
「サクヤちゃんはなんて……?」
震えた声で、シャルが聞く。
ああ。そうだよな……。
気丈に振舞っても、まだ十四・五の女の子だもんな……。
俺は、優しく髪をすく様に頭を撫で、優しく微笑みかける……。
「サクヤは、苦しいなら泣いて良いってさ。それと、友達なんだから、守ってやるってさ」
もう、変な緊張はしない。
そう、この子は、俺達の友達なんだ。
苦しい時は、助け合い。
楽しい時は、笑いあう。
それで、良いじゃないか……。
「友達だよ……」
シャルは、泣いた……。
大きな声で……。
一頻り泣いて、サクヤの胸に顔を埋めた。
こんな森の中。ただ一人で、彷徨っていたんだ……。
不安が無いはずが無いんだ。
サクヤだってそうだった。
一人傷つき、戦っていた……。
俺も……。
サクヤ達と出会って、当たり前の事の様に思っていた。
優しさも、温もりも……。
抱きしめあう二人を見ながら俺は、自分の得た幸福の大きさを、知る事が出来た様な気がした。




