育ち盛りの俺にとって、死活問題なんだよ!
戻るべき所の有る者は、幸いだ。
どんな辛い時も、どんな苦しい時も、ほっと一息心休める宿り木は、心を癒し、明日への活力を与えてくれる。
喰いしばったその口からは血が流れ、見開いた目からは、涙が流れる。
けれど、その血を。その涙を拭えた時、人は一回りも、二回りも成長できるものだ……。
「お断りじゃ!」
現在、リョウカと問答を繰り返している。
何故かって?
ビックボアの運搬に、駄馬が必要だからだ。
「お前、今回役に立ってないやん!」
一人勇んで飛び出した割に、結局役に立たなかったリョウカ……。
せめて、荷物運びをするくらい良いだろうが……。
まったく。これだから、桜肉は……。
「主は、我の事を、聖獣と認識しておらんじゃろう!」
リョウカは、鼻息荒く、角を突き出してくる。
いい加減その角、引っこ抜いてやろうか?
戦闘では、役に立たない。
肉を吊るせと言えば、10mの高さまで吊し上げる……。
これで荷物も運べないのでは、ただの駄馬だろうが……。
俺は中場呆れ、リョウカを睨む。
「な、なんじゃその目は?」
「なに……。お前、糞の役にも立たないと思ってな……」
俺の言葉に、リョウカが嘶く。
「なんじゃとぉ!我は……」
「はい、はい……。聖獣、聖獣」
単純な奴だ……。
普段から、聖獣を誇示するだけあって、プライドは高いらしい。
これで、やる気になってくれれば……。
「なれば、そのビックボア。我のプラント・バインドをもってして、一括りにまとめてやろうぞ!」
やはり、扱いやすい。
俺は内心ほくそ笑み、ガッツポーズをする。
「ほう、それで……?」
決まっている。これをリョウカが一手に運ぶんだ……ろ。
「まとめたビックボアを、主がまとめて運ぶ算段だ!」
「おい!」
駄目だ……。
やっぱ、こいつ駄目だ……。
「ならばせめて、一体づつだなあ……」
「何を抜かしおる!我は、箸より重いものは、うら若き乙女以外、背負わぬと決めておるのじゃ!」
あ~。はい……。
こいつは、通常運転と……。
最早、こいつと議論する気にはなれない。
もう良い……。まとめて運ぶ……。
内臓を抜いたとは言え、一体、250kと言った処か……。
二体で、500k……。
……。
楽勝か……。
「あ、な……。なんと!それを、持ち上げるか!?」
リョウカが、珍しく感心している……。
何?持てないとでも?
残念!
俺の膂力と食欲を前に、不可能などない!
『ジャショウちゃんも、通常運転ね♪』
ナビ子が、笑う。
うるせえ……。
育ち盛りの俺にとって、死活問題なんだよ!
そんな俺達のやり取りを、優し気な目で見守るシャルに気が付く……。
……。
くそ~。なんか、すげぇ恥ずかしい……。
「ジャショウさんは、力持ちなんですね」
優しく笑いかける、シャル……。
勘弁してくれ……。
俺のライフが、マッハで減ってゆく……。
「あ、ああ。とにかく、戻ろうか……。また、敵が出たら厄介だしな」
赤らめた頬を隠す様に横を向き、ゆっくりと歩きだす。
「そ、そのなんだ……。シャルも逃げ回って疲れただろうからさ。俺の上に乗って良いよ」
今は、これが精一杯……。
最早、自分のボキャブラリーが貧困な事と、あがり症に嫌気がさして、首を項垂れる。
ラノベの主人公なら、こんな時、甘い一言でも、さらっと言ってのけるんだろうが……。
俺は、フラグを、立てる事が出来ない。
「ふふ……。ありがとうございます」
「あ、ああ……」
シャルは、相変わらず優しい……。
俺はいつもの癖で、シャルの頭をそっと撫でる。
はっ!?
いかん、いかん……。
この子は、サクヤじゃ無かったんだ。
俺は、慌てて、手を引っ込める。
「ふふふ。サクヤさんは、愛されているんですね」
「す、すまん……」
「どうして、謝るんですか?」
不思議そうな顔をするシャル。
気にしていないのなら、結構。
早く、サクヤの所に戻らなくては……。
色んな意味で、ヤバイ。
優しく微笑む、シャル……。
麗しの姫君の的が外れ、やさぐれるリョウウカ……。
うん。カオスだ……。
しかし、シャルは常に敬語だが、やっぱ俺を警戒しているのだろうか……?
そうだとしたら、少し寂しいな……。
まあ、良い。
早く帰って、サクヤに癒されよう。




