美しき幻想郷……。
言葉……。
人が、分かり合う手段であり、時に、傷つけ殺す手段にもなる……。
ぬくもりを感じる瞬間……。
優しさを知る瞬間……。
今一度、考えて欲しい。
あなたの言葉が、温もりであるのか、はたまた刃であるのかを……。
戦場の様な慌ただしさが過ぎた、初夏の昼下がり。
サシャやサシャの妹達と談笑に浸る。
話の内容としては、他愛の無い物ばかりで、目下、黒曜ザルとなったサクヤが、いじり倒されているのが現状で……。
「サクヤ~。真っ黒で奇麗ね~」
「サクヤも、湖においでよ♪」
『アタイ、もう疲れたんよ……』
腕白盛りの小人魚達の体力は、無尽蔵なわけで……。
「はいはい、みんな。サクヤちゃんは、もう体力の限界よ。みんなも、お昼寝の時間でしょう?」
見かねたサシャが、救いの手を差し伸べる。
サシャの言い分に、一斉にブーイングが、上がる。が、今度はサシャも動じない。
先ほどまで、涙目だったのが嘘の様に、手を叩き、その場を仕切っていく。
「十五の時が過ぎたら、湖の開拓よ」
「え~。手で土を削るの、もう嫌~」
「手、痛いんだもん」
どうやら、素手で、湖を広げている様だ。
なんとも、気の遠くなる話だ。
「あ~。木は幸い多くあるから、何か土を掘る道具を作ろうか?」
今度は、余計な事言ってないよな……?
また、自然破壊に繋がらないと良いのだが。
俺は、若干挙動不審になりながら、おずおずと提案する。
サシャは一瞬目を見開き、こちらを窺う。
ああ……。大丈夫問題ない。そう、これは善意。善意だ!
一方的な善意は、他者を傷つける事がある。
うん。学習した……。はず。
しかし、まてよ……。この人数で、道具を手にして、開拓を行ったら……。
背筋に、嫌な汗が流れる。
「本当ですか!?」
目を輝かせる、サシャを前に、嘘ですとは言えない……。
「あ、ああ……。とは言っても、簡単なスコップとかだぞ……?」
『おお!ジャショウちゃん。異世界転生やってるねえ♪』
ナビ子の、感嘆の声が漏れる。けれど、嬉しくない……。嬉しくないぞ!
だって、よくよく考えたら、これだけの人手で、一帯を掘っていったら……。
なにそれ、怖い!
本当に湖になってしまうが、ここら辺に生息する木々はどうなる?
やっぱり、自然破壊になってしまうのではないだろうか……?
「け、けど……。ここいら水没したら、生息している木々が、根腐れを起こすんじゃないか?」
俺は、引き攣った笑みで、サシャに聞き返す。
「大丈夫です!ここ百年で、私達の計画に沿って植物は、水に強いものに変わっています。それに、周りをよく見て下さい、開けているでしょう?」
そう言えばここら一帯、開けている上に、植物の種類が、森の中とは違う様な……。
あれだ!
熱帯地方にある、マングローブに似ている植物……。
この子、ほんわかしている様で、結構計画的!?
「私達の計画は、千年の計画です!ここ百年で、他の精霊たちの協力もあって、森の生態系自体も、ある程度操作しているんです♪」
怖い……。怖すぎる!
この子、結構切れ者?
の、わりには、土を手で掘る処は、抜けている様な……。
どっちだ……?
天然?
「あっ!東側の木々は、伐っても大丈夫ですから♪」
「何故に……?」
「私たちの思想を無視して、勝手になった奴らだからです♪」
……。
この子、怖い……。
思想の共有。それに反するものに対する、徹底的な排除。どこの、独裁者だ!
「え~。そういう考え方って……」
「はい?何か言いましたか?」
目が笑っていない……。
精霊って、無邪気で、残酷だ……。
いや。人間の独裁的倫理観か……。
どっちにしても、少々、ひいてしまう。
「ここら辺は、みんなの努力の甲斐があって、精霊の力が強いんです。なので、それにあやかろうと、植物たちが競う様に、生息するんですけど……。それも、ここが湖になって、私達の力が高まらなければ、成り立たない事なんです」
生存競争……。
理想郷なんて、時に残酷で、割り切ったルールの中で成り立つものなんだな……。
まあ、仕方のない事なんだろう。
サシャには、真っすぐな信念がある。
精霊たちの楽園。
妹達を守る事。
世界樹の無くなった先の世界。
怠惰に、強者に寄り添うのではなく、自立した考え。
彼女なりに考え、先の世界を見据えている。
それに寄り添いたいのであれば、ルールを学び、殉ずる覚悟が無ければ……。
「分かった……。じゃあ、そこら辺の木を斬って、作るよ。スコップ……」
「はい♪お礼は、夕食の魚でいいですか?」
サシャの、笑顔がただただ眩しく、初夏の日差しが、そんな彼女の横顔を、美しく照らすのだった。




