信念を持った者の横顔
言葉の重み……。
声に発した交わりには、大きな呪縛力がある。
些細な約束事であっても、相手や自分、果ては、周りを取り巻く環境にも、大きな影響を及ぼすことがある。
俺は、舐めていた……。
あれからどうしたって?
塩の実を取って帰って来た俺の前には、魚の山と、目をらんらんと輝かせた人魚の群れ……。
涙目で、俺の帰りを待っていたサシャとサクヤの姿……。
そして、まるで非難をするかのような、ナビ子のため息。
文句があるなら、聞こうじゃないか。
しかし、今はそれどころではない。
追い立てられる様に火を熾し、魚の内臓を抜き、血抜きをする。鱗をとって、塩をまぶして、削った木の棒に刺す。
慌てて直火で焼けば、外は焦げて、中は生に……。
焼ける臭いにつられて、フライングをかます人魚達……。
グルメな俺は、それを許さない。
それでも、焼き上がった魚を、一人また一人と、渡していく。
全員の手に渡ったころには、真上に上った日は傾き、2時と言った処か。
「これで終わりっと……」
「ジャショウさん、ありがとうございます」
未だオロオロとするサシャは、上目遣いでこちらを窺う。
小人魚達は、満足そうな笑みを湛え、お腹をさすっている。
「しっかし、これだけ居ると、普段の食事で、生態系が壊れるんじゃないか?」
俺は半ば呆れ、人魚達を見詰める。
今回焼いた魚だって、百匹を優に超えている。
毎回、こんな食事をしていたのでは、小さなこの湖では、魚が死滅してしまうんじゃないだろうか……?
「私達、半分は精霊ですから」
サシャは、苦笑を浮かべ、満面の笑みをたたえて談笑している妹達を見詰めた。
「本来、世界樹から流れる霊力で、飢えを満たす事が出来るんです」
「その割には、食に対する執着と言うか、好奇心が強い様な気が……」
困り顔のサシャを見詰め、苦笑する。
この人魚達、何と言うか、好奇心が強い。
サシャと違って、俺に対する警戒心も無ければ、躊躇いも無い。
もう少し、遠慮と言うものを知ってもらいたい……。
「それは、やはり半分人間である性と言いますか……」
そこまで言って、サシャは口をつぐんだ。
まあ、食とは、腹が満たされるだけじゃないしな。
たまには、口を使って、固形物に舌鼓したいのだろう。
「でもまあ、世界樹もいつまでも無いんだしさ……。それにばっか、あやかる訳にはいかないか」
「はい……。ですから、ここを湖として、精霊の拠所にするんです」
決意ある瞳で、サシャは大きく頷く。
ああ、先の事を考えて、湖と言っているのね。
俺はてっきり、頭のちょっと緩い姉ちゃんが、妄言を吐いていたのかと思っていた。
「ここが、精霊の拠所になれば、自然と霊力の溜まり場に成りますから」
「そっか……」
信念を持った者の横顔は、凛として美しい。何というか、ちょっとドキッとした。
うん。人魚であることを加味しても、幻想的で、美しいと思う。
少女達の笑い声の中、サシャは変わらず微笑みを絶やさず、湖を見詰めているのだった。




