言葉の持つ重み……。
炎とは、命の根源であり、命を奪う手段でもある……。
遥か昔から、暖を取り、焼いた肉を食べ、熱をその身に纏う。
その身を包む温もりも、その身を焦がす炎も、皆一緒の物だ……。
ただ、使う者の心一つで、死生を分けるものとなる……。
腹が満たされると、心も裕福になる。
焚火を囲い、俺とサクヤと人魚は、食事を終えて談笑していた。
話す事と言ったら、他愛のない事ばかりだが、俺にとっては、この世界を知る情報源にもなる。
ナビ子の、今一信用為らない情報では、心もとないと思っていた処だ。
『ジャショウちゃん。なんか失礼なこと思った?』
おっふ……。こういった処だけ、ナビ子は鋭い。
しかし、今はスルー。
「処で、人魚さん。名前何て言うんだ?ちなみに、俺はジャショウ。この子は、サクヤって言うんだ」
今更だが、この人魚の名前、聞いていなかった。
随分な話だ。
食料を分けてもらって、食事も一緒に取ったっていうのに……。
仕方が無い。それだけ腹が減っていたのだ。
五百年眠っていて、起きてからは、果物三昧……。
育ち盛りの俺にとっては、酷な話である。
昔から言うであろう。衣食足りて礼節を知る。
今ようやく、人に成れたんだ。
うん。魚はうまかった♪
塩の実で味付けした魚は、淡水魚の淡白な味に塩気が効いて、五臓六腑にしみわたり、俺の心を潤した。
サクヤも人魚さんも同じなのであろう、お腹をさすり、満面の笑みである。
「私の名前ですか~?そう言えば、まだ名乗っていませんでしたよね。私、サシャって、言います~♪」
相変わらず、おっとりとした口調で、返答が返ってくる。
サシャか……。うん。良い名前だ。
「処で、サシャは、いつもこの泉で一人暮らしているんだ?」
動物達は、来るのであろう。現に、泉の周りには、動物達の足跡がある。
動物達と戯れる、サシャの姿を思い浮かべて、ほっこりとする。
しかし、それでも寂しいんじゃないか?
「ジャショウさん。さっきから泉、泉って言いますけど、ここは、湖(仮)です」
おっふ……。サクヤが、湖と呼んだ理由は、この子にあったのか……。
しかし、湖の後に、(仮)と、あった様な気がするんだが……。
「み、湖にしては、少々手狭な気がするのだが……」
「今は、そうかもしれません!けど、少しずつ大きくなっているんです」
少しずつ……?
何を根拠に言っているんだ?
流れ込む水は、一定。これ以上、大きくなる要素は無い。
「いや……。無理やん!何を根拠に言っているん?」
「無理じゃないです!今までも私達で、少しずつ削って広くしているのです!」
削ってって……。
なんと、気の遠くなる作業を……。
ん?
今、私達って……。
ふと、湖に目を向ける。
酷い、デジャビュが……。
ちゃぷん!
湖の水面に、気泡が浮かぶ。
湖一面の気泡。何?龍でも現れるの?
まるで、泡風呂の様な気泡……。
「な、何だ……?」
俺達は湖に目を見張り、構えをとる。冒険の早々に、ドラゴンって……。
萌える。いや、燃えるだ!。
いや……。そんな事を言っている場合ではない。ゴブリンの後は、色んなものをかっとばして、いきなりドラゴンと戦闘とは……。
一気に、気を開放する。
「来るか!」
俺の気を感じ取ったのか、一斉に気泡が静まっていく。
「ああ……。驚かせないでくださいよ!妹達が、怖がって潜っちゃたじゃないですか」
サシャが頬を膨らませ、抗議してくる。
驚いているのは、こっちなんだが……。
「す、すまん……」
「大丈夫ですよ~。みんな出ておいで~」
サシャの、間延びした呼び声が木霊する。
一瞬の静寂。
再び気泡が浮かび、湖一面に金色の髪の頭部が浮かび上がる。
一、二、三……。
こりゃもう、幾つあるか分かんねえ。
「お、おい。これって……」
「はい!私の妹達です」
妹達って……。
湖が、五〇m四方だとして……。
ああ!もう、分かんねえ!
「な、何人居るんだ、いったい……」
「?さあ?100を超えたあたりで、数えるの止めましたから♪」
「100って……」
「まだ、水中にもいますよ♪」
何それ怖い……。
「それじゃあ、他の生き物、生息するスペース無いんじゃ……」
「大丈夫ですよ。私達、人間と精霊のウンディーネのハーフですから。普段は、精霊の姿で、暮らしているんです♪」
「はあ……」
「本当は、食事も必要無いんです♪」
さいですか……。
もう、何を言われても、驚きはしない。けれど、しばらくは、藻づくは食えない……。
「姉様だけずるい!」
不意に、湖の方から声が上がる。
しばらくして、ブーイングの大合唱。
「お、おい……」
「みんな、落ち着いて~!」
サシャは、慌てて、妹達をなだめにかかる。
しかし、ブーイングは収まらず、より一層、大きな合唱へと変わる。
「私達も、塩魚食べたいよ」
「人間とお喋りしたい~」
「サクヤと遊ぶ~」
要望は、まちまちだ。
サシャは涙目になって、必死に妹達をなだめている。
なんだか、哀れに感じる……。
「あ~。魚だったら、みんな半切れずつなら、食わせてやるよ。だから獲っておいで」
俺は、良かれと思て言ってしまった……。
甘かった……。これより、魚の乱獲が始まる……。
小さな湖で始まった、生存競争……。
魚は飛び跳ね、人魚達は、湖に大きな渦を作る……。
痛い……。痛すぎる。
俺の一言が、自然破壊に繋がるとは……。
「ここら辺だけじゃダメ!隣の水源まで獲りに行こう」
「おお~!」
「ジャショウさん~」
「お、俺、塩の実獲ってくる」
俺は、涙目になるサシャを後目に、その場から逃げ出した。




