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天翔雲流  作者: NOISE
森に潜むおかしな面々
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理想と現実

 人とは、ままならないものだ……。

 言葉交えど、心交えた事には成らない。

 どんなに思い、願っても、互いを知ることには成らない。

 時には立ち止まり。また、時には、行動する。

 互いを理解し、心通わせると言う事は、己を知り、相手を知ることから始まる……。

 だから、行動するのだ……。

 思い交わらずとも、ゆっくり、真っすぐと。



「何だったんだ?」

『ジャショウ。怖がらせちゃあかんよ』

『人魚は、警戒心の強い生き物だから……』

 サクヤは抗議し、俺の頭を叩いてくる。

 ナビ子もさっきから、口数が少ない。

 取り合えず、この場は、サクヤに任せているのであろう。

『す、すまん……。けど、何だったんだ?あの子は……』

『人魚のお姉ちゃんなあ。アタイが、お腹を空かせていると、魚を獲ってくれるんよ』

 ああ。だから獲るじゃなくて獲ってくれるなのか。

 俺は苦笑し、サクヤの頭を撫でる。

「あ、あの……」

 不意に後ろから声がし、慌てて、背を向けていた泉の方へと向き直る。

 そこには、先ほどの人魚が、泉の縁の腰を掛け、こちらを窺っていた。

 うん。確かに、下半身が魚だ。

 しかし、そんなに警戒しなくても、良いのに……。

 俺なんだかちょっと、傷ついてしまう。

「魚……」

 人魚の両手には、魚が握られている。俺達にくれるのか?

「君が、獲ってくれたの?」

「う、うん……」

 今、ここで認定する!

 この子は、良い子だ!

 少し内気な処は気になるが、食べ物をくれる奴に悪い奴はいない!

 俺は、がっしりと人魚の両手を握り、大きく頷く。

「今ここで、認定する!君は今日から、俺達の友達だ!」

 物に釣られたんじゃない……。断じて違うぞ!

 施しが無ければ、友達にならないと言う訳でも無い!

 これは、俺の名誉のためにも、ハッキリと断言する!

「あ、あ……。はい……」

 人魚の少女は、頬を赤らめて、俯いてしまう。

 この子、最初から美人だとは思っていたが、まじまじ見ても可愛らしい。

 軽くウエーブの掛かったブロンドの髪に、たれ目がちのおっとりとした目。まだ、あどけなさを残しながらも、憂いた様な何処か儚げな顔は、ドストライクと言った処か……。

 うん。美人だ!美人がおる。

『ジャショウちゃん。鼻の下、伸びてる……』

 ええい!ナビ子、五月蠅い!

 ちょっと美人とお近づきになれて、浮かれているだけじゃないか。

 俺だって男だ!それぐらい許せ。

 しかし、今の俺にとって、食欲に勝るものは無い。

 あれだ……。花より団子!

「えっと……。あのさあ。これじゃあ、足りないから、俺も泉から魚獲って良い?」

「えっ?そんな……。足りないなら、私が獲ってきますよ♪」

 おおう……。

 笑顔がまぶしすぎる。

 最近サクヤもナビ子も辛辣で、こういった好意的な態度……。惚れてしまうやろ……。

「いや……。お仲間の魚を獲ってくるのは、心苦しいだろう?」

 半分とは言え、同じ魚類を食べられるために獲ってくるのは心苦しいだろう。

 しかし、彼女は首を傾け、不思議そうな顔をしている。

 俺は、何か間違った事を言っているのか?

「……?何でですか?私も魚を食べますよ?」

 おっふ……。落ち着け。彼女の主食は、魚なのか?

 人類は、人類を食べたりしない。けれど、魚は……。

 ああ……。食べますね。うん、食べるな。

 小魚は、プランクトンや藻を食べるが、大型の魚は、小魚を食べるな。

 当たり前の事か……。

 それに、彼女の半分は人間だ。

 私、かわいそうで、お肉食べれない~。とか言う女は、ぶっ飛ばしたくなる。

 植物だって生きている。物の定義づけが、言葉を喋る喋らないとか、動く動かないで判断する奴は、ろくな奴がいない。

 食物連鎖の中で、生命とは生きているんだ。うん……。

 大切なのは、命を頂いていると言う事への感謝の気持ちだ。

 俺が、間違っていた。

『私、お魚さん、可哀そうで食べられない~』

 ナビ子、五月蠅い……!

「うん。ありがとう。そしたら、もう少し獲って来てもらえるかな?あ、あと、料理するけど、一緒に食べる?」

「本当ですか♪普段、生で食べているから、料理した物って、あまり口にしたことが無いんですよ」

 喜んでくれて何より。

 生で、頭から食べるとか、腸からかじっている処を思い浮かべると、何とも……。

 うん。ワイルド!

 そう、ちょっとワイルドなだけ。

「それじゃあ私、張り切って、獲ってきますねぇ~」

 目を輝かせて、泉に飛び込む人魚さん……。

 俺は、理想と現実の違いを目の当たりにしながら、乾いた笑いで見送った。


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