シナリオブレーカー
人は、過ちを繰り返す……。
されど、その経験の中で、成長するのが、人と言う生き物だ……。
傷つき、倒れ、さりとて、再び起き上がる。
失敗する事が、敗北では無い。
敗れる事が、終わりだと言う事ではない。
立ち止まり、空を見上げる。
呼吸を整え、後ろを振り返る。
生きて、前に進む事こそ、人の道なのであろう……。
ズズーン!!
何をしたかって……?
ただ、放気を放っただけなんよ……。
しかし、次の瞬間、辺り一面、焦土と化した。
大地はえぐれ、木々は錬気に飲まれ、跡すら残らなかった訳なんだが……。
「えっ!?」
俺は、ただただ、両手を見やり、呆然とするばかりだ。
『えっ!?じゃ無いわよ!馬鹿なの?何やってるの!!』
ナビ子が、血相を変えて、怒り出す。
普段、怒らない子が怒ると、迫力が違う。
「お、おう……。すまん」
『まったく、気を付けてよね?神域の錬気は、普通の錬気の、十倍以上の質量があるんだから』
うん、解った……。
これは、異常だ……。
何だか、全てを吹っ飛ばして、一気にレベルが上がった様な気にさえなる。
しかしこれは……。どうせなら、魔王との戦闘で、ピンチになって、覚醒するとかの方がかっこいいのでは……?
中二心をくすぐるシチュエーションを思い浮かべ、口角が緩む。
『ジャショウちゃん、ジャショウちゃん?』
薄ら笑みを浮かべ、にやつく俺に、ナビ子が怪訝そうに声をかける。
『ジャショウは、お年頃なんよ……』
サクヤは、やれやれと言った風に、首を横に振り、ため息をつく。
いいじゃん。俺だって、傾いた生き方に憧れても……。
て言うか、早い段階で、力が進化する方が問題じゃん……。
シナリオブレイカーじゃん。
『なあ、話が、ペラペラだぞ?もっと、順を追ってだなあ……』
『ジャショウちゃん。それ以上はいけない……。現実は、小説より奇なものよ』
力が無くて、苦労するなら分かる……。
しかし、力が有り過ぎて苦労するとか、話的につまんないだろう……。
ある年齢になって、母親に起こされ、王様に会って、ヒノキの棒と、100G を渡され、旅に出る。
最初は、青いプヨプヨしたモンスターを狩って、レベルを上げて、鋼の剣を買う。
いつしか、名前負けしていた、勇者と言う称号に負けない位強くなって……。
俺は、そんな冒険を夢見ているんだ。
人生、イージーモードとか、中二心はくすぐられるが、なんか違う……。
『あまい。あまいわ!たかだか、神域レベルに片足突っ込んだ程度で、人生イージーモードって……。甚だ可笑しくって、へそで茶が湧かせるわ!』
ナビ子の、どや顔が目に浮かぶ。
確かに、戦った敵と言ったら、ゴブリンぐらいだ。結論を出すのも、早計過ぎるか?
『さあ、勇者よ。この森を抜け、我が領域に辿り着くが良い!ふんす!』
なおも続く、ナビ子の大演説。
ちょっとした大魔王気分なんだろう。普段のおちゃらけた口調を忘れ、鼻息荒く、歌う様に演説を繰り広げる。
て言うか、この子、『ふんす!』とか、言ってるよ……。
『あ~。違う意味で、ナビ子の処へ逝きそうだよ……。腹減った……』
俺は、その場にへたり込む。
自分の異常さなど、最早、どうでも良い……。
『お腹減ってるんよね?獣はとれんけど、魚を獲ってくれる所なら、あるんよ』
『えっ!?』
不意に、サクヤが、俺の頭を撫で、子供をさとす様に言い出した。
けど、獲るじゃなく、獲ってくれる?
言葉の趣旨が理解できないが、今はそんなことどうでも良い。
魚でも十分だ!
久々に、果物以外が食える。俺は嬉々とした思いに駆られ、サクヤを抱きしめる。
「是非、連れて行ってくれ!」
感情が高ぶり、内包されていた錬気が、一気に解き放たれる。
遠くにいた鳥が、さらに遠くへ、羽ばたく音が、森に木霊した。




